トランプの米朝会談中止表明に、北朝鮮が慌てた。これを見た反トランプ派は、トランプ流の駆け引きが「たまたま」当たった、怪我の功名だと苦笑いをしている。
トランプを支持するわけではない。しかし、未だにトランプを頭ごなしに否定するだけの人々は、冷静に反省すべきだろう。
トランプを生んだものは、皮肉にも、トランプを毛嫌いする、「理想主義の夢」だからだ。
トランプ誕生は、直接にはアメリカ白人の逆差別感だが、世界的にも、性善説の理想主義が行き過ぎたことにある。中国や北朝鮮のような、古代ゾンビ国家は、この世界のお花畑を徹底的に利用し、エイリアンのように、理想の皮を食い破ろうとしている。
北朝鮮が慌てたのは、これまで通用した、お花畑での子供だましが、突然、効果を失ったからだ。
曲がりなりにも長い平和の中で、理想主義とポピュリズムに埋没した、世界の政治家は、汚い北朝鮮や臭い中国にはフタをして、事なかれの儀式外交に浮かれていた。
ソ連崩壊で生まれたクリミアのような、いわば家庭の事情に、もっともらしい抗議はしても、長い植民地支配の結果生まれた、南シナ海のような根深い問題や、大戦争を覚悟しなければならない北朝鮮問題は、見てみないふりをし、あふれ出る膿に膏薬を貼り重ねるだけだった。
理想の教会、夢の聖歌
世界が、理想と形式に覆われてしまったのは、産業革命パラダイムの必然だ。
大量生産を担う手段として生まれた教育システムが、合理的改善は全て正しい進歩とする教条主義を生み出した。
世界を動かすのは、この教育のエリートであり、知識と論理さえ正しければ、必ず善である。そんな錯覚が、「認識のバブル」を生んでいる。
産革パラダイムは、定期的に経済バブルと恐慌を繰り返す。人間の欲望が、現実を無視した生産過剰を引き起こすからだが、同様に、自由や平和の願望もバブルを生む。
願望だけで求める善は、現実を無視して大きく膨らみ、ある時一気に崩壊する。経済バブルと認識バブルが崩壊する時、それが大戦争を招く。
現代もまた、国際組織による、人権や経済、平和に関する、現実無視の主張が膨らみ、世界の人々も、それを信じて疑わない。
禁煙、捕鯨、機会均等、核廃絶宣言・・・揚げれば切りがないのだが、世界を覆うこれらの大合唱は、現実無視の「理想バブル」だ。
トランプの出現は、この理想の教会に火を付けた。
世界が理想の聖歌に酔っている時、教会の外で古代ゾンビと無信心者が争い、その争いで教会に火がついた。教会の信者は静寂を乱す無信心者に怒り、迫るゾンビよりも、教会に来ない無信心者を攻撃している。
理想教会の信者が育てた魔物は、もはや教会の屋根を壊すほどになっているにもかかわらず、異次元の魔物より、無信心者を敵視し、争う魔物を味方と思おうとしている。
喧噪を巻き起こすトランプに怒る、理想教会の信者は、一度、外に出てみる時だ。異端のならず者トランプが、荒野で闘っている魔物を直視すれば、目が覚めるだろう。
しかし、このまま魔物の餌食になったとしても、自分を疑うことのない信者達は何も感じないだろう。実際、北朝鮮の人々も中国の人々も、自分たちが不幸だとは思っていない。
ある時は理想の歌に酔い、ある時は悪魔の弟子になる。それが人の歴史だ。
一度は捨てたはずの、恐ろしい奴隷支配に再び人類が生きることになったとしても、それは、少しも不思議なことではない。