カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

過去を隠さず生きていく   パラレル・マザーズ

2024-05-21 | 映画

パラレル・マザーズ/ペドロ・アルモドバル監督

 写真家のジャニスは人物写真の名手のようで、その時代の話題の人を写真で表現するのに長けていた。そうして被写体の一人の男と肉体関係を持ち妊娠してしまうが、妻子ある男なのでシングルマザーで育てる決心をしている。もう一人の十代で妊娠しているアナは、家庭に問題があるようで、いわゆる望まれた妊娠ではない様子だ。夫となる男はよく分からないありさまだ。病院で意気投合して友達になるが、いったんライフスタイルの違いで離ればなれになる。
 ジャニスの娘セシリアに会いに来た元恋人は、自分の娘とは思えない、という。確かに褐色の肌で、親戚にも似たような人物が思い当たらない。ジャニスとしてはその時期に付き合っていた人は一人であったため、まるで浮気の嫌疑をかけられたような不機嫌に陥るが、やはり似ていないのは気にかかるところである。それでDNA鑑定を受けてみると、果たして娘と自分は親子である確率は極めて低いことを知る。ひどくショックを受けて携帯の番号を変え、知人との連絡を絶つのだが、引っ越しまではしていなかった。すると、アナが住んでいるアパートの前の喫茶店で働いているところに出くわす(要するに会いに来たが、不在だったので、ついでに前の店で働きだしたということだ)。話を聞くとアナの娘は病気で他界してしまったという。それはつまり自分の本当の娘である可能性の高い赤ちゃんであって、ジャニスは更に混乱し、自分の娘がアナの娘である可能性に、言及することができなくなってしまうのだった。さらにそのままジャニスの家でベビーシッターとして働くことになったアナには、同性愛の気があって、二人はそのような関係にも導かれていくようになってしまうのだったが。
 まあまあ、どうなってしまうのか、ということなのだが、つまるところ、この映画はそういう流れの中にあって、実は映画が始まる当初にあったスペイン内戦に関する、人々のつながりと記憶の物語なのである。それはずっと示唆され続けていたものであるが、赤ん坊の入れ替え問題を通して、スペインの負の歴史をたどる旅に、皆が巻き込まれることになる。そのような精神の再生において、あってはならない子供の入れ替え問題を象徴的に扱いながら、人間が過去を隠し通していても、平穏には生きられないのだということを言いたいのではなかろうか。こういう結末でいいのかどうかまでは僕にはよく分からないのだが、なんとなく皆は傷を抱えながらも、未来というものを見据えられるようになる。たぶん、そのような希望のある映画なのだと思うのだった。
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