リバー、流れないでよ/山口淳太監督
京都貴船にある老舗旅館において、最初仲居さんたちが片付けたはずの料理が元に戻っているとか、交わした会話にデジャビュを感じられるようになる。間違いなく二分前に時間が繰り返し戻っていて、そういうことを繰り返す中で、自分たちの経験や感情はリセットされていないことに気づく。多くの人々はパニックに陥り、それをタイムループでのことでリセットされるからと説得して回ることから始めて、だんだんと原因究明に向かって、人々は頭を悩ますことになっていくのだったが……。
基本的に何故タイムループが起こるのか不明だったのだが、実は誰かの思いがこのような現象と関連があるのではないか、と考えが及ぶ。若い仲居さんは、若い料理人がフレンチの修行に行くことを知って、別れたくない思いから、川に時間が流れないように願ったのだ。二人は再びタイムループの中でお互いに話を交わすようになり。短い時間の逃避行を繰り返し、ちょっと親密さを取り戻していく。そうしてタイムループを終わらせる決心に至る訳だが、それだけでは時間が元通りになる、という事でもなかったのだ!
何しろ、二分間というかぎられた短い時間の繰り返しが、何十回となく繰り返される中での映画の構成になっていく。目まぐるしいが、記憶や経験はそれなりに蓄積される。ただし、ものの破損やけがは元に戻る。仲間内に理系で解説してくれる都合のいい料理人がいて(さすが京都である)、だいたいの状況とやるべきことの役割分担は見えてくる。皆はそれに向かって、本当にタイムループから脱することが、できるようになるのだろうか……。
よく出来た脚本と設定で、何度も繰り返される時間の中で、時には非常に危機的な状況に陥られることもある。血が流れるし。人も死ぬ。禍根を残すような議論に発展している人もいる。いったいこれは誰が悪いのか、という気分にもなる。しかしながら無情にも、タイムループは簡単に終わらないのだ。
そういう話であったのに、終わりになると親密さと優しさが取り戻される。それはもうほとんど奇跡と言っていいだろう。貴船だから起こりえる奇跡。確かにあの場所は、そういうところなんだよな、と京都の人なら納得していることなのだろう。