罪の声/土井裕泰監督
原作小説があるらしい。40年前に起きたグリコ森永事件を別の会社名にして真相を追う、という物語になっている。当時犯行に使われた犯人グループの脅迫などの音声テープと思われるものが、父の遺品の中から見つかる。どうもそれは自分の子供のころの声らしい。父に憧れて自分もテーラー店を営んでいるが、父がこの事件に関連しているとは、どうにも信じがたい。当時のことを知る人を訪ね歩いて、真相に迫ろうとする。一方で新聞の記者をやっている男の方は、特集記事として当時日本を震撼させたにもかかわらず未解決に終わっているこの事件を、時を越えて洗い出すことになっていた。同じく事件にかかわっていた当時の子供たちが気になり、テーラーの男に行きつくことになるのだったが……。
現実の事件のころ僕は高校生だったが、連日の報道に接して、非常に恐ろしいものを感じていたことは、記憶にある(同時に子供だったので、面白がってもいたが)。グリコ森永という著名な製菓会社の商品に、毒を混入したと犯人は会社を脅しているのである。最初はグリコの社長が誘拐され監禁されたのだが自力で逃げ出し、それにもかかわらずその後も脅迫の身代金の要求が続いていく。しかし当時の警察の対応のまずさもあり、何度も犯人を取り逃がしたうえに、ついに捕まえることすらできなかった。キツネ目の男の似顔絵は、犯人グループの一味とされたが、それが誰なのかはついに明かされることは無かった。
それがである。この物語はフィクションのはずだが、非常にリアリティをもって事件の真相に迫っていく。いや、これはあくまでフィクションのはずだ。しかし物語に引き込まれていくにつれ、本当にこの事件がこういう話だったというような錯覚に陥っていきながら、事の真相に驚かされていくのである。ちょっとテレビドラマ的な雰囲気もあるものの、それに最終的な犯人への説教は余分だったとは思うものの、なにかこのような物語の真相が明らかにされたことへの、カタルシスのようなものを感じさせられた。この物語は、現実ではない筈なのに……。
構成もよく、ちょっと尺は長くなってはいるが、ダレたところがある訳でもないので、最後まで楽しんで観ることができる。上質の社会派エンタティメントといったところか。配役もキマっているというか、何か本当にそれらしい雰囲気を持っている。日本映画というのは、日常知っている役者が出ているということも含めて、ある意味でそれくらいの分かりやすさが必要なのかもしれない。それらの記号が、観るものの想像力をさらにかきたてるわけだ。
実はそこまで期待していたわけではなかったが、かなり面白い作品だと思う。こういう題材をこういう風に料理できるなんて、原作者は天才なのではなかろうか。