カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

低予算はこうあるべきの傑作   恋の渦

2024-05-01 | 映画

恋の渦/大根仁監督

 9人の男女が、いわゆる合コンのような友達同士の飲み会を開く。主な目的は彼女のいない友人の男に、自分の彼女らの友人である女を紹介しようという設定だったようだ。しかしながら現れた女は、ちょっとケバめの彼らの言葉では「ブス」な女だった。その場は何とか盛り上げようとする者もいるが、なんとなくシラケた感じにもなる。女友達の紹介する「かわいい」は、やっぱりあてになるもんではないという話かと思っていると……。
 何かの企画で作られた作品なのか、無名の俳優たちが各人の部屋の中だけで、たった4日で撮られたとされる低予算映画である。しかし侮ってはならない出来栄えで、はっきり言って傑作の域に達している。俳優たちの演じる若者は、ちゃらちゃらしているだけでなく、若いだけで何のとりえもないようなバカばっかりである。しかしながら演技はしっかりしていて実にリアリティがあり、馬鹿な話なのに説得力がある。脚本の流れもよくダレるところもなく、エロもあるし、感動的でもある。いや、そんなに感動するはずのないダメ物語なのに、あまりの展開の巧みさとリアリティに、本当に感動してしまうのだ。思わず吹き出してしまう面白さもあるし、馬鹿な人間に腹が立ったりもする。しかしその情けなさが何とも言えない味わいを生んでいて、こんな底辺に生きる人間が、本当に今の日本にもいるんだろうな、と思わせられて感慨深い。彼らは単に面白おかしく生きているわけではなくて、情けなくても人を欺きながら、何とか自分だけは賢いふりしてバランスをとっているのである。しかし馬鹿である人間は、そこから脱することなんて到底できないのだ。
 実際この映画それなりにヒットしたというか、評判を生んだらしい。それは実にまっとうな観客の評価だろうと思われるし、こういう映画を作るという事が、本当に興行的にも大切なことだと気づかされる。映画を観る素人でさえ、いい映画は観ればわかるものなのである。
 確かにその後この俳優たちが活躍したとは、あんまり聞かない。しかしながら着実にこの映画の俳優たちは、その後の何らかの役は手にしたのではあるまいか。実に才能豊かで見事な演技で、情けなさも含めて、素晴らしいのである。そういうのも含めて、演出の勝利なのかもしれないが。
 エロもあるし、確かにほとんどチープなので、誰にも勧められるものではないかもしれないが、日本映画の傑作であることは間違いない。後世に残るかどうかまでは分からないが、残ってほしい映画という事は言えるだろう。
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