カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

ほんとにこんな人いたんだね   キーパー ある兵士の奇跡

2021-09-12 | 映画

キーパー ある兵士の奇跡/マルクス・H・ローゼンミュラー監督

 第二次大戦末期、イギリス軍の捕虜となったドイツ軍兵士バートは、収容所内でサッカーをしているところ地元のサッカーチームの監督に気に留められ、助っ人キーパーとなる。能力は高く活躍はするが、敵国の選手であることから、当初からチームメイトや地元の人間から快く思われていないところはあった。終戦後、監督宅の裏方仕事などを手伝うかたわら、サッカーでは相変わらず活躍している。そういう中、今度は名門マンチェスターシティの監督の目に留まり、スカウトされる。能力は高く評価されるものの、英国のユダヤ人団体や、クラブチームのサポーターからも激しい非難を浴びながら試合に臨まざるを得ない。また、バートはナチスの勲章まで授与されている兵士でもあったし、戦争中のある体験から、心にトラウマも抱えていたのであった。
 捕虜時代のクラブチームの監督の娘とも仲が良くなっており、結婚をして長男をもうけている。そうしたこともあってか、ドイツには帰国しなかったのかもしれない。これは一種の伝記映画で、実際にこのような選手が英国スターとして存在していたらしい。凄まじい圧力を受けながら、圧倒的な守護神としてのプレーを見せることで、大衆の信頼を得ていく。英国人の多くも、戦争の憎しみを抱えながら、戦争責任を個人への嫌悪へ向ける精神を問われているということかもしれない。
 この映画で語られているエピソードと、実際の史実との絡みについての事実関係は知らないが、映画としての脚本の運びは、見事としか言いようがない。様々な困難が降りかかる中にあって、実直にサッカーの試合に臨んでいくしか方法がない。そういうものをはねのけて活躍する中で、さらに精神的に耐えられないダメージを受ける事故まで起こってしまう。こんなことが実際に英国であったことだなんて、にわかには信じがたい。あまりにも映画的な物語であるように思えるからかもしれない(後でググったら、それなりに時系列は調整してあるようだ)。
 サッカー選手の伝記ものでありながら、戦争というものを多面的に考えさせられる映画になっている。単純な反戦映画ではなく、人間の感情を整理させる映画ともいえるかもしれない。実際に終戦後、数百万人のドイツ人が(報復等で)殺されたわけで、敗者というのは簡単には戦勝国からの攻撃を免れ得ない存在だった。しかしバートは帰国を拒み英国に残留した。そういう存在だったからこそ、英国人の後の世の戦争への大衆感情を、大きく変え得た人物だったのかもしれない。
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