カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

人生楽しく生きたものの勝ちである   マリス博士の奇想天外な人生

2020-08-16 | 読書

マリス博士の奇想天外な人生/キャリー・マリス著(ハヤカワ文庫)

 今では連日PCR検査という言葉を聞かない日がないような状態になっているが、そのポリメラーゼ連鎖反応の方法を開発したことで、ノーベル賞をとった著者が書いた本である。ちょっと風変わりな人で、受賞時もサーフィンをやっていたことが話題になり、本の表紙もサーフボードをもって海を背景に写真におさまった姿である。マリファナやLSDもやっていたことを公言したり、4度の結婚や、科学的には旗色の悪いエイズ否認主義であるとか、地球温暖化にも異を唱えている。ある意味で正直で、しかし欲望に忠実な性格なようで、金儲けにも興味があるし、それなりにスケベで遊び好きなだけである。しかし科学者としても優秀なキャリアを積んで、成功を収めたということのようだ。もちろん事の成り行きは、面白おかしくこの本に書かれてあった。
 この発見後に世界は変わったというのは間違いなくて、現在のように新型コロナにおびえる国際社会は、この検査法が無ければ、おそらく誰も知らないままに単に病気でパニックになっただけのことになったかもしれない。一方で感染者(厳密には陽性反応者だけど)の数が検査をすれば把握できるので、別のパニックも生んでしまったわけだが、多くの研究者の研究に役立つだけでなく、政治利用されやすい科学的発明を成し遂げたわけだ。しかしながらこの本を読むまでは知らなかったのだが、PCRのやり方を発表した当時は、そんなに話題になることも無く、著名な科学雑誌にも取り上げられることすらなかった。同僚たちにも半ば無視されたような形で、本当にそんなに重要なのか、ほとんどの人は分からなかったのだ。著者はそのことに恨みは感じているようだが、まあ、気を取り直して後のノーベル賞受賞ですっかり人生を反転させて、また楽しい生活を送っておられるようである。基本的に自分で調べたことと、自由と、その信念のようなものを突きとおすような人のようで、ひとからの批判にはみじんも動じず、多少間違っているような危険のあるようなことでも、平気で批判をしたり擁護したりを繰り返している。文章を読む限りでは、それなりに筋は通っているが、やっぱり変人には違いない。しかしまあ、それもこれもノーベル賞をまだ若いうちに受賞できたおかげで注目を集められたので(それで少なからず経済的にも潤ったのだろう)、素直にそのことには感謝しておられるようだ。いろいろ難しい事情はあろうが、世の中の偉大な発見は、いち早く専門家をはじめ多くの人々に顕彰されるべきものなのかもしれない。まあ、晩節を汚さないなど気にしない人だからこそ、楽しい人生のようで、そういう生き方は、やはりもともと運命的に運を持っているということなのかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする