カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

自国の情けなさをよく知っている   トンネル 闇に鎖された男

2020-08-27 | 映画

トンネル 闇に鎖された男/キム・ソンフン監督

 主人公の男は、いい契約が取とれたし、なかなかの上機嫌である。そうして娘の誕生ケーキも買って、意気揚々と帰宅途中でトンネルを通過していたら、崩落が起こり車に閉じ込められてしまう。何とか携帯電話は使えるようでいわゆる119番に救助を要請するが、山自体が崩れているような惨状に、どのように救助してよいかさえ分からない状況になってしまっていた。もちろんマスコミをあげての大惨事という騒ぎになる。何とか車のバッテリーや携帯電話などの電力は何日か持つようではあるが、水はペットボトル二本分、食料は娘のためのケーキのみである。救助には少なくとも一週間といわれるのだったが……。
 すぐに思い出したのは、韓国映画ということもあって、あのセウォル号沈没事故のことだった。トンネル崩落事故の原因は、業者の手抜き工事にあったことが明らかになり、大騒ぎになるのだが、しかし別のトンネル工事は、同時に進めなければならないなどの議論なども展開される。国民は、そのような体質の組織に対して信用ができないのだが、しかし同時にそれぞれの当事者たちは、実にそれぞれに無責任なのだ。救助隊長は奮闘しているが、肝心なところで詰めが甘い。意思としての責任感の強さは良いが、大局と細かさにおいて、注意が足りないのである。個人もだが、大衆は感情に流されて右往左往し、肝心の被害者を懸命に助けようとしているはずなのに空回りばかりしてしまう。そうしてそのような失敗を、また面白おかしく自分の都合で大げさに報道できることしか考えていないマスコミがたかるのである(そこのあたりは日本も同じだが)。非常に不快で頭に来ることばかり起こるが、しかし内容はなかなか鋭い。自らの韓国人のことをよく分かっているし、そのために起こる様々な出来事を、悲惨ながら時にはコミカルに、時には風刺をきかせて描いている。セウォル号事件を経験している韓国人は、身に染みてこの映画を観たことだろう。
 ほとんど身動きが取れない中ではあるが、実はトンネル内に設置されている送風機のそばであったために、この中を通路にして同じく滑落によって閉じ込められている前の車まで移動できることが分かる。前の車にはまったく身動きが取れない若い女とパグ犬がいた。この女とのやり取りが、何とも言えない極限状態をうまく表現している。犬もいいのである。興味があってみる人のために言えないが、こういう状況での人の心理を上手く出せていたのではないか。まさに良心との格闘で、主人公のことが試されるやり取りである。
 時々あまりにも頭にきてテレビのモニターに対して突っ込みを入れたりしながら観たわけだが、正直な韓国の監督さんではないかとは思った。まあ、やっぱり親戚の国で、日本によく似てもいるわけだが……。まあ、面白いので観てみてください。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする