ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち/マテイ・ミナーチュ監督
ドキュメンタリー映画。ナチス・ドイツの迫害迫るチェコスロバキアで、子供の里親先という事でユダヤ人の子供をどんどん英国へ出国させた人がいた。この手の美談はいくつかあるようだが、実際に時代背景を考えると、本当に危険を伴う困難なことだったようだ。また、当のニコラスという青年は、事業が成功してヨーロッパに遊びに来ていたものだったが、友人が慈善活動をするのに忙しいということで、スキーを取りやめて手伝ったことがきっかけになって、このようなナチスの惨劇を知り、ユダヤの子供だけでも救えないかと急に思い立って行動を起こしたものらしい。様々な国に受け入れの打診をするが、ナチスを警戒してほぼ受け入れは皆無。それでものめり込むように救出に翻弄して子供たちのリストを作り、他国の里親先を探すのである。唯一ニコラスの母国である英国が理解を示し、しかしたくさんの補償金やナチスの国外への多額の通行料などを支払いながら数百人ずつ列車に乗せることに成功する。
ユダヤ人の親についても、実際はどんなところに連れて行かれるのかさえよく分からないまま、せめて子供たちの命だけでも何とかしたいという一心で、いわば勇気をふるって子供たちを手放していく。途中列車では検閲もあり、子供たちだけでその恐怖に耐えながら出国し船を乗り継ぎ英国へ行く。港についても里親が迎えに来なかったりする。
結局数度にわたる渡航を成功させたのち、数千の計画を残しながら大戦がはじまってしまいこの計画もすべてながれてしまった。ニコラスはその後も忙しかったことと、残りの計画は流れてしまったことで、その子供たちのファイルは屋根裏部屋にしまいこんで、誰にも明らかにしてこなかった。多くのユダヤの子供たちが戦争前に英国に逃れてきたことは知られたことではあったようだが、それをいったい誰が中心となってやっていたかは、長い間謎になっていたようだ。
ところがニコラスの妻が50年後にこの屋根裏の資料を発見。この子供たちは今どうしているのかを探すことになり、これにテレビ局などが絡んで、このような大きな話になって行ったというドキュメンタリーであるようだ。
669人の子どものうち200何人かは身元が判明。そうしてニコラスとの再会を果たす。皆それぞれに子供や家族を持ち、5.000人を超えるニコラスファミリーに成長していたということになる。
普通のドキュメンタリーなら、ここでお話は終わりだが、ニコラスに助けられて者や、その家族(子や孫たち)は、すこしでもニコラスのように人を助けることが自分たちにも出来ないかと考えて、さまざまな活動をしていることが分かる。ニコラスにできたことの少しであってもやってみようという気持ちになっているのだ。その活動は様々で、そうしてとても広い広がりを持っている。ニコラスの精神は、このような家族を増やしていったという事だったのである。
何度も泣けて困った。困難な状況にあっても恋愛の女の子のことが気になったり、美人のスパイに誘惑されたり、また逆に男の子たちの気を引くために女の子たちも作戦を練ったり、困難で緊迫した中にあっても、子供たちはいわば純粋に物事を考えて行動していたのである。669人という人数は少なくないかもしれないが、数千という計画は同時進行していて、そうしてまだまだ増えていきそうだった。しかし結局どうにもならなくなってしまう。助け出された子供たちは終戦後に、結局は家族とは会えることは無かったようだ(殺されたから)。また、それぞれ事情があって世界中に散らばり、今はどうなっているか追跡不可能な人々もたくさんいるようだ。
自分に何ができるか、そうして不可能だと思われても、何かやれることは無いのか。純粋さで突っ走ってしまったが、結果的にその思いは、とても強い新しい社会を作り得るのである。こんな感動作ってちょっとないよな、という作品であった。