カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

偉大なる日本の本格ミステリ   獄門島

2014-12-18 | 読書

獄門島/横溝正史著(角川文庫)

 日本を代表する本格ミステリとして有名すぎて読んでなかった。映画化されたものでさえ、観たのか見てなかったかあんまり記憶が無い。というか、子供のころの記憶にテレビのロードショーで流れていたのは知っているから、ちょっとくらいは見たが、失念したか、途中で見飽きたかしたのかもしれない。それというのも改めて読んでみて、ほとんどスジは知らないし、十分に楽しめたからである。多少時代がかった書き方も無いではないが、しかしながら70年近く前の作品とは思えないくらい現代的な文章スタイルだし、表現としても十分に今でも通用すると思われる。多少表現を変えてあるものがあるようだけれど、必要最小限にしているらしいので、文体そのものが激しく変化しているものではなかろう。
 戦後一年くらいして引き上げ者がまだいる中、瀬戸内の島で起こる連続殺人事件を名探偵の金田一が解くということなんだが、事件を未然に防ぐことはまったくできないばかりか、解くのはそれは大変に見事ながら、考えようによってはその場に居候して一部終止を記録するための存在のような気がしないではない。そうでなければこの物語は面白くもなんともないわけだが、そういうことを含めての完成された物語ということで納得しない限り、この作品の美しさは理解できないものだろう。構成やトリックはかなり大胆だけれど、それでもそういうものが見事に筋書どおりにおさまる快感のようなものがあり、しかしそれ自体が大変な悲劇へとのつながりもあり、余韻も見事な作品となっている。何度も映像化される作品ということでもやはり魅力的だと言え、日本的でさらにその日本を代表するお話だというのは、今後もそう簡単に揺らぐことは無いだろう。
 いろいろ面白いのだが、これだけ個性的な人間がたくさん出てきてもなお、それぞれがそれなりに重要な印象を持たせながら他を邪魔せずに存在できる構成力が、何より素晴らしいといえる。本当にこのような世界が存在するかのような錯覚さえ覚えるし、実際に狂気の世界でありながら、つじつまはちゃんとあっていて、物語としてもその筋に収斂される。そういうことの見事さに多くひとは心打たれただろうことであって、トリックが素晴らしいとかいうような一点でこの物語の価値があるわけではない。全体的に読ませて、途中で面白いことになりながら、謎解きの醍醐味を味わい、そうして人間の悲しい運命を呪うのである。戦後の日本と相まって、そのような人間模様の悲しさと哀愁が余韻として後を引くのも見事である。金田一探偵がこれで飯を食えるかどうかというのは、それこそ大きなミステリとして残るものの、作家の横溝が大作家として君臨し続けることが出来たことは間違いなくて、これらの一連の作品が支持される礎になったものだろう。古典して教養主義的に読まれる作品ではなかろうが、やはり今後も残るという点でも、偉大な作品だと言っておこう。
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