古事記、目弱王(マヨワノミコ)の段。
安康天皇は、神殿の奥、神託を受ける神聖なる場所で昼寝をする。しかも、その場で、皇后の長田大郎女(ナガタノオホイラツメ)と俗世のことについて言葉をかわしたのである。神の罰が予測される。
天皇は言う。
「私には心配事がある。お前の連れ子の目弱王が、自分の父が、私に殺されたことを知ったら、何とするであろうか」と。
なんと、目弱王は、神殿の下で遊んでいて、その天皇の言葉を聞いてしまうのである。目弱王の反応は速かった。スキを伺い天皇の首を斬ったのである。
そして、目弱王は、家臣である都夫良意富美(ツブラオホミ)の屋敷に逃げ込むのである。
天皇が、目弱王に殺されたことを知った天皇の弟である大長谷王子(オホハツセノミコ)は、行動を起こす。兄の黒日子王(クロヒコノミコ)、白日子王(シロヒコノミコ)に、「このまま放置は出来ない事態である」と相談する。しかし、この二人の兄の反応は緩慢であった。この事態にあって「怠慢きわまりなここと」と、大長谷王子は、二人の兄を殺してしまう。白日子王は、土に埋められ、両の目玉が飛び出したとある。身体にかなりの重力をかけられたのであろう。
この殺戮、皇位継承という角度からみると、大長谷王子が競争者を減らしたともとれる。 次に、大長谷王子は、目弱王のこもる都夫良意富美の屋敷を攻める。激しい弓矢の攻防があった。この戦のなかで、大長谷王子と都夫良意富美が言葉をかわす機会があった。
大長谷王子は問う。
「この屋敷には、私が言い交わしたそなたの娘がいるのでないか」と。
都夫良意富美は応える。
「あなたから妻問いのあった娘を、あなたのそばに仕えることにいたしましょう。何の異存もありません。倉も添えて献上いたしましょう。ただ、臣下である私のもとに来られた皇子である目弱王を見捨てることは出来ません。臣下が目上を頼ることは、ままありますが、その逆のことは聞いたことがありません。命をかけて、目弱王を守ります」と。
戦の形勢は大長谷王子が優勢となってきた。都夫良意富美側は、矢尽きた。
目弱王は、かくなる上は、自分を殺してくれと言う。都夫良意富美は、目弱王を刺し、その刀でみずからの首を斬って死んだ。
のち、大長谷王子は天皇となる。雄略天皇である。