風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「されど われらが日々ー」

2007-11-08 | 風屋日記
先日話題にした「真夜中の5分前」に触発されて
高校時代以来何度も読み返しているこの本をまた読んでみた。
いい。すごくいい。
若い頃読んだ時にも自分のバイブルのように感じていたが、
この歳になると若い頃には気づかなかった、感じなかったことを
改めて色々感じて新鮮だった。
特にストーリーを追ってきた結果の最後の1行に涙が出そうだった。
これはかつて読んだ頃はなかったこと。
以前にも増して生涯の愛読書となりそう。
テーマはやっぱり「真夜中の5分前」とそうは違わない。
違うのは舞台となる時代、そしてそれに伴う価値観の違いだけ。
「されど・・・」の舞台となる時代は
昭和27年~昭和33年頃、朝鮮戦争から60年安保前夜にかけてだ。

それにしてもこの2つの作品を続けて読み、
かつての日本人の倫理観の強さ、真面目さをつくづく感じた。
「誰が見てなくたってお天道さんが見てるんだよ」
「他人様に迷惑をかけちゃいけないよ」
こんな倫理観はどうして今消えてしまったのだろうか。
私も小さい頃こんなことを言われて育った世代なので、
消えてしまった過程を体験しているはずなのだが・・・。
少なくともこれだけははっきり言える。
一部で言われているような「民主主義教育の定着」や
「伝統的ニッポン文化の消滅」や「道徳教育の不足」が
これら倫理観や真面目さの消滅原因ではない。

60年安保の頃と前後して、
当時の池田首相が「所得倍増計画」を発表している。
高度経済成長時代の始まりだ。
大量消費が美徳とされ、マスの時代が始まる。
交通戦争、受験戦争、出世競争、モーレツ社員・・・。
他人を蹴落としてでも経済発展の恩恵を先に受けるべく
日本人達は血眼になって勉強し、受験し、仕事をした。
企業は毎年2桁の右肩上がりで売上を伸ばし、
さらに自社利益を積み重ねるために公害を垂れ流し続けた。
そしてオイルショック、ドルショック、円高不況。
自分が生き残るべく、ここでも苛烈な競争が繰り広げられている。
で、バブル経済。
それまでの経済至上主義の中でも、
まるで地球温暖化の中の氷山のように徐々に崩れつつあった
日本人の倫理は、バブル期に完全に崩壊した。
原因は・・・金だ。
価値のモノサシがすっかり変わってしまったのだ。

お天道さんなんぞ見てるわけがないので、
コッソリそこいらにゴミを捨てたり、軽く詐欺を働いたり。
他人なんぞ知ったこっちゃないので、
電車の中でもしたい放題、立場が弱い人を騙し放題。
果てには陰湿なイジメや暴力、そしてモンスター親の出現。
すべて、金を持つものが勝ち組、持たないものが負け組という
経済至上主義がもたらした、倫理や価値の破壊だと思う。

映画「ALWAYS 三丁目の夕日」を見てもわかるが
似たテーマを扱っているだけに、
「されど・・・」と「真夜中・・・」を読み比べるだけで
50年前と現代との違いがはっきりとわかるよ。
愕然とするほどに。
でもそういう意味では、私がこの本に惹かれるのは
もしかしたらある種のノスタルジーもあるのかな。

「されど われらが日々ー」柴田 翔 文春文庫 369円
(かなり以前に買った本なので、今も同じ値段かは不明)
コメント (6)
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