俗にいうハルキストとは別に
「ノルウェイの森スト」というカテゴリーがあるとすれば、
間違いなく自分はそれに違いない。
何度も読み返し、出てくる場所を探し、
時には1シーンずつ自分の過去に重ね合わせながら、
これまで丁寧に読み解いてきたバイブルのような存在。
だからこそこの映画は見ることを躊躇した。
恐らくユン監督でなければ見なかったに違いない。
案の定、最初のシーンから違和感だらけ。
キャストも納得いかず、
学芸会の芝居のような台詞回しに、
途中で映画館を出ようとすら思った。
ところが、ワタナベが阿美寮を初めて訪れたあたりから
だんだん映像に引き込まれていることを自覚してきた。
1シーン、1シーンが絵画のような、
ユン監督ならではの美しい映像。
言葉での説明ではなくBGMに語らせる手法。
学芸会のような、と最初は思ったほど淡々とした台詞まわしが
ストーリーに薄いベールをふうわりとかけるように
現実感を取り除いていく。
ああこれは「ムラカミハルキさんのノルウェイの森」ではなく
「トラン・アン・ユン監督のノルウェイの森」だと途中で理解し、
それからはすんなり映画の中へ入っていけた。
確かに、
本を読んでいることを前提に作られていることは感じる。
ワタナベとキズキの関係や直子の存在、
東京でのワタナベと直子との危うくも微笑ましいエピソードは
その後の直子の20歳の悲しい誕生日に繋がるものだが、
その部分は描き方が大変薄く、読者の想像が必要とされる。
最後近くでレイコさんが取った行動は
ワタナベと直子のためだけではなく、
レイコさん自身の過去があって初めて理解できるところだが、
彼女の過去は映画では完全にカットされている。
果たして本を読んでいない人が映画だけ見たら
どうな映画に見えるのだろうかと思う部分もあるが、
それでも違和感があったキャストを
それぞれだんだんピントが合うように
それなりに見せるユン監督、松山ケンイチ、菊地凛子の
各々持つ力に改めて感服した。
見る人により賛否両論あろうかと思うが、
自分としてはこれもアリじゃないかと思った。