13刷を重ねるヒットノンフィクション。
「腐る経済」という表現は少々分かりにくいが
一般的に言われる経済活動におけるお金は腐ることなく
お金がお金を生み出す仕組みがまかり通り
「利潤追求」のみを目的とする非人間的な「仕事」が
徹底的に追求されている昨今の資本主義経済とは
真逆なベクトルで動く経済のことらしい。
ましてその手段はパン。
主人公は小麦であり、酵母であり、麹菌と
すべて腐るものだ。
体や土の声を聞きながら本物のパンを作るその「仕事」は
「腐らないパン」を作る現代の資本主義とは理念を異にする。
しかもそのパン屋は大消費地である都会ではなく
岡山県の山の中(最近鳥取に移ったらしい)。
現代の経済に長けた方が見れば「なんて無駄なことを」と
眉間に皺を寄せそうなことをこの夫婦は実現して見せた。
その考えを自ら分析する際にテキストにしたのがなんとマルクス。
これまた現代人たちにとっては過去の遺物のようなものだろう。
ただし彼が興味を持ったのは共産主義ではない。
経済学者マルクスによる資本主義の仕組みについて学び
そのひとつひとつに同意や異論を持ったことが
今の仕事上の理念の理論的裏づけになっているのだろう。
私たちはどうしてもイデオロギーで物事を見がちだけれど
その姿勢こそ学ばなくてはいけないものだと思う。
しかも彼は先に思った通り動き、
その後でその動きを理論付けした形。
「走りながら考えろ」とはこのことなんだなと納得。
ところで著者は本書の中で「小商い」という言葉を使っているが
ワタシも最近考えているのは
「地方に必要なのは小さい歯車をたくさん回す経済」ということ。
大きなお金を用意し、大きなモノ、コトを動かすのは
「腐らない経済」に基づく大都会の経済活動だが
地方のそれはそぐわない。
小さい投資や元手、少ない経費で食べるだけのお金を得る。
その小さな歯車がたくさん集まることによって
地方経済が活性化していくと思うのだ。
リノベーションまちづくりの考え方もそれに近い。
大量のお金を投資してでかいハコを作るのではなく
これまでのストックの有効利用になるからだ。
これは個人の生活にたとえてみればわかりやすい。
地方よりは都会の方が平均的に収入は多いのかもしれないが
一方で都会では生活そのものにお金がかかる。
差し引きすれば、おそらく可処分所得は地方の方が多い。
都会で10万円ぐらいするアパートやマンションが
例えば花巻あたりなら5万円ぐらいで借りられるしね。
もの作りとしてはこれ以上ないほど
素材から作り方まで徹底してしている彼らのマネは
誰もができることではないけれど
この考え方で仕事をし生活することは誰でもできる。
高度経済成長〜バブル経済で狂ってしまった
あるいは爛熟化して崩壊しつつある
グローバル経済のアンチテーゼとして
「小さな歯車経済」を生かしていくにはどういう方法があるか
これからも更に考えてみようか。
「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」渡邉 格:著 講談社