2022年 ことしの一冊たち 下半期

7月

DVD「ブランカニエベス」(2012 スペイン・フランス)
「探偵ダゴベルトの功績と冒険」(バルドゥイン・グロラー 東京創元社 2013)

「ブランカニエベス」の映像はとても美しかった。
「探偵ダゴベルト」は、奥方ヴィオレットとのやりとりが楽しい。
それから、「ダゴベルト休暇中の仕事」では、村で卓上時計を生産する計画が書かれている。これはドイツ風の生産方法のように思える。

8月

「探偵ダゴベルトの功績と冒険」(承前)
「爆弾魔」(R・L・スティーヴンスン&ファニー・スティーヴンスン 国書刊行会 2021)

「爆弾魔」の翻訳出版はじつに嬉しかった。ただこれまで出版されなかった理由もわかったような気がした。本筋と関係ないストーリーが長く続くのが少々しんどい。煙草屋になったフロリゼル王子は相変わらず立派だった。喜ばしいことだ。

9月

爆弾魔(承前)
爆弾魔(結び)

「爆弾魔」の構成は手がこんでいるため、紹介も長くなってしまった。紹介しすぎたかもしれないと恐れる。本文は古風な文章で書かれていて、それを読むのが楽しい。

10月

DVD「アルビノ・アリゲーター」(アメリカ 1997)
DVD「紳士同盟」(1960 イギリス)

「アルビノ・アリゲーター」はひとつの酒場を舞台にした映画だった。舞台がかぎられた映画をみるのは好きだ。どういう工夫をしているのか、くらべる楽しみがある。
「紳士同盟」は強盗映画。この記事を書いたあと、リメイクされた「オーシャンズ11」は、最後盗んだお金をどうしてたっけと気になってきた。以前みたことがあるのだけれど、軽業をする中国人がいたことしかおぼえていない。中古DVDを200円で買ってきてみてみると、どうともなっていなかった。改めてみた「オーシャンズ11」はシーンのつなぎがたいそうなめらかで、サイレント映画にしてもいいくらいだと思った。

11月

DVD「ライフポッド」(1993 アメリカ)
DVD「コーヒーをめぐる冒険」(ドイツ 2012)

「ライフポッド」は、ヒッチコックの「救命艇」をSF仕立てでリメイクしたもの。これもほぼひとつの場所を舞台にした映画だ。サイボーグQ3が、哀感があり良かった。
「コーヒーをめぐる冒険」は、青年のツイていない1日をモノクロで撮った青春映画。青春映画とモノクロは相性がいいのだろうか。

12月

DVD「幽霊紐育を歩く」(1941 アメリカ)

この記事を書いているとき、「天国からきたチャンピオン」について、和田誠さんはどの本で触れていたっけと思い、手元にある和田さんの本をひっくり返すはめになった。映画についての和田さんの本はどれも面白いので、手にとるたびに一冊全部読み返すことになる。
山田宏一さんとの対談集、「たかが映画じゃないか」(文芸春秋 1985)の冒頭で、和田さんはこんなことを話していた。

《…「リオ・ブラボー」と「7人の愚連隊」の二本立てがあったね。あの二本立ては最高に楽しかった。…俺、あんとき、映画館の前でとびはねてたんだから。》

大好きな映画の2本立てをみる嬉しさが、こちらにもつたわってくるようだ。
ことしは「お楽しみはこれからだ」(国書刊行会)の愛蔵版も出版されて、これも嬉しいことだった。

では皆さま、よいお年を.


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2022年 ことしの一冊たち 上半期

1月

DVD「殺人者はライフルを持っている」(アメリカ 1967)

ボグダノヴィッチ監督はことし亡くなられた。ご冥福を。

2月

「殺人保険」(ジェームズ・ケイン 新潮社 1962)
DVD「ウィスキーと2人の花嫁」(イギリス 2016)

「殺人保険」を映画化した「深夜の告白」は、最後、2人の男たちのタバコのやりとりが印象的。
「ウィスキーと2人の花嫁」は島の景色が美しかった。

3月

「悪魔の麦」(ロス・トーマス 立風書房 1980)
DVD「テイラー・オブ・パナマ」(2001 アメリカ)

ロス・トーマスの作品は、読むのは楽しいけれど、ストーリーを要約するのは大変。
「テイラー・オブ・パナマ」で、オズナードに弱みを握られ情報を提供する仕立て屋ハリーの役は、ジェフリー・ラッシュが演じている。ジェフリー・ラッシュは、「鑑定士と顔のない依頼人」(2013 イタリア)では主役を演じているのだけれど、「テイラー・オブ・パナマ」の印象が強く、いつか騙されるんじゃないかと終始疑いながらみてしまった。

4月

「七つの伝説」(ケラー 岩波書店 1950)
「七つの伝説」(承前)

ケラーの作品はほかに、「グライフェン湖の代官」(岩波書店 1954)を読んだ。代官が、昔、縁のあった女性を思いだしていくという短編連作。最後は全員が一堂に会する。

5月

DVD「タイムライン」(2003 アメリカ)
「かくして殺人へ」(カーター・ディクスン 東京創元社 2017)

「タイムライン」は傑作というわけではないけれど、話はこびがスムーズなのに感心した。
「かくして殺人へ」の時期の英国映画界を舞台にした映画が、「人生はシネマティック!」(2016 イギリス)。読みながら、この映画のことを思いだした。

6月

DVD「ハロルドが笑うその日まで」(2014 ノルウェー)
「ジャンピング・ジェニイ」(アントニイ・バークリー 国書刊行会 2001)

うがった見方をすれば、北欧映画はストーリーを盛り上げないところが面白い。
バークリーは「試行錯誤」もそうだけれど、探偵小説を茶化しながらも、ちゃんと探偵小説になっているところがすごい。

それから、4月にはジャック・ヒギンズが亡くなった。
ヒギンズの冒険小説にはずいぶん楽しませてもらった。
自分用にヒギンズ作品リストをつくったし、ヒギンズ作品の全体的な感想は、ヒギンズまとめに記した。
大変お世話になりましたと、感謝をこめて書いておく。


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2021年 ことしの一冊たち

明けましておめでとうございます。
まず去年のまとめです。

1月

なし。

2月

「魔法使いの弟子」(ロード・ダンセイニ/著)
「悪党どものお楽しみ」(パーシヴァル・ワイルド/著)

「魔法使いの弟子」で、主人公ラモンの妹ミランドラは兄に、「錬金術はいらないから惚れ薬つくって」といってくる。もう師匠に自分の影まで渡しちゃったよと思いながらも、ラモンは妹にいわれた通りにする。後半は利発なミランドラの活躍が楽しい。あのラストの爽快感はじつに不思議な感じがする。似たような読後感をもつ作品として、「小人たちの黄金」を思い出す。
パーシヴァル・ワイルドは、通信教育で探偵術を学ぶ迷探偵をえがいたユーモア・ミステリ、「探偵術教えます」もとても面白かった。


3月

DVD「ハリーとトント」(アメリカ 1974)
DVD「気ままな情事」(イタリア・フランス 1964)

コロナ禍で外出が制限されてから、映画のDVDをずいぶんみるようになった。そこで映画のDVDのメモもとることにした。本と同じく、みているジャンルはめちゃくちゃだ。


4月

DVD「ハーヴェイ」(アメリカ 1950)
DVD「セクレタリー 秘書」(アメリカ 2002)

「セクレタリー 秘書」の主人公リーは、いつもお風呂に入っていたり、プールに浮かんでいたりする。リーの不安定さをあらわす描写なのだろう。


5月

「蔵書一代」(紀田順一郎/著)
DVD「運動靴と赤い金魚」(1997 イラン)

紀田順一郎さんの3万冊の蔵書には遠く及ばないけれども、我が家にも雑本がたまっているので、「蔵書一代」は切実な気持ちで読んだ。
「運動靴と赤い金魚」は、たまたま中古で売っていたのをみかけて、またみたくなり買ってきた。前にみた印象と変わらず、素晴らしい映画だった。


6月

DVD「レイヤー・ケーキ」(イギリス 2004)
DVD「トレジャー オトナたちの贈り物」(ルーマニア 2016)

「レイヤー・ケーキ」は、特典として別エンディングが収録されていた。本編でつかわれたエンディングが妥当だと思う。また原作も出版されているけれど、こちらは未読。
「トレジャー オトナたちの贈り物」は、はじめてみたルーマニア映画。いろんな国の映画をみるのは楽しい。


7月

「プラヴィエクとそのほかの時代」(オルガ・トカルチュク/著)
「探偵物語」(別役実)

「プラヴィエクとそのほかの時代」「千日の瑠璃」とくらべてみたけれど、ガルシア=マルケスの「百年の孤独」などともくらべられるかもしれない。ある土地について書かれた小説ということで。
ナンセンスで、ばかばかしい小説が好きなので、「探偵物語」は面白かった。チェスタトンは最近「知りすぎた男」(東京創元社 2020)を読んだ。上流階級の子弟であるホーン・フィッシャーが探偵役の短篇連作集。犯人の社会的地位が高く、国にとって重要人物と思われる場合、その犯罪に目をつむる。そんなホーンのことを忖度探偵と呼びたくなる。
チェスタトンの文章は視覚的にもかかわらず、位置関係が呑みこみにくい。収録作「少年の心」は別訳(論創社 2008)も参照しながら読んだけれど、うまく理解できずに残念だった。


8月

DVD「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」(イギリス 2014)
DVD「人生はシネマティック!」(イギリス 2016)

「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」は可愛らしい、少人数ミュージカル映画。
ストーリーが急転直下すぎる気がするけれど、「人生はシネマティック!」は登場人物を丁寧に扱っていてよかった。映画はこのくらい面白ければ充分だ。


9月

DVD「アノマリサ」(2015 アメリカ)
「この湖にボート禁止」(トリーズ 学習研究社 1976)

ロナルド・ダールの短篇集、「来訪者」(早川書房 1989)に収録された「やりのこした仕事」は、「アノマリサ」の性別を変えた別バージョンのようにみえる。主人公の女性アナは交通事故で夫を亡くし、悲嘆にくれたものの仕事につき、出張先のホテルでハイスクール時代のボーイフレンドに電話をかけ、再会する。それにしてもダールの筆致は意地が悪い。マイケルには同情しないけれど、アナには同情をおぼえる。
「この湖にボート禁止」は、児童文学ということばを聞いて思い浮かべるイメージに、ぴったり合ったような作品だった。


10月

「スピリット」(ティオフィル・ゴーティエ 沖積舎 1986)
「死霊の恋・ポンペイ夜話」(ゴーチエ 岩波書店 1982)

中国伝奇小説のフランス版という風に読んだ。艶冶なところが楽しい。

11月

DVD「素敵なサプライズ」(2015 オランダ)
DVD「ボンボン」(2004 アルゼンチン)

オランダ映画はほかに、「ネコのミヌース」(2001)をみた。同名の児童文学を映画化したもので、なぜか人間になってしまった元猫の女性が青年記者の手助けをする。猫が吹き替えでしゃべるのだけれど、口元がうごいていて、ちゃんとしゃべっているようにみえるのがすごい(もちろん特撮なのだろうけれど)。猫たちも名演技をみせている。でも子猫たちはそんなことにはおかまいなしに、画面の奥でじゃれあっている。
アルゼンチン映画はほかに、スペインとの合作の「ゲット・アライブ」(2017)をみた。美人局をしている青年がギャングの殺人を目撃し、加えてある書類を手に入れてしまったことからギャングに追われ、ユダヤ教徒に化けてかれらの集会に身を隠すというコミカルな犯罪映画。後半ちょっと雑だった。


12月

DVD「乱闘街」(1947 イギリス)
2019年 ことしの一冊たち

「ヒッチコックに進路を取れ」はとても面白い。ヒッチコック作品をみるたびに、この本と、ヒッチコックの「映画術」(晶文社 1990)とを読み返している。


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2019年 ことしの一冊たち

1月

「装飾庭園殺人事件」(ジェフ・ニコルスン/著)
「試行錯誤」(アントニイ・バークリー/著)

「試行錯誤」は素晴らしい。いま手に入らないようなので再版されるといい。最近、同著者の「ジャンピング・ジェニイ」を読んで、これもとても面白かった。いずれメモをとりたい。


2月

「トーニオ・クレーガー」(トーマス・マン/著)
「コディン」(パナイト・イストラティ/著)

芸術家を主人公にした小説はいろいろある。アンソロジーをつくるとしたらどんな作品がいいだろうかと、ときどき考える。


3月

コディン(承前)
「モリーのアルバム」(ロイス=ローリー/作)

知らない国の小説を読むのは楽しい。「コディン」の作者はルーマニアのひと。ルーマニアの小説ははじめて読んだ。
「モリーのアルバム」は傑作。新訳がでるといいのに。


4月

「死のかげの谷間」(ロバート・C・オブライエン/著)
「さらば、シェヘラザード」(ドナルド・E・ウェストレイク/著)

「死のかげの谷間」は緊張感に満ちたきびしい作品。先日DVDをみかけて、映画化されていたのかとびっくりした。どんな映画になっているのだろう。
ウェストレイクはユーモア犯罪小説の名手だけれど、「さらば、シェヘラザード」はそうではない。無理にジャンル分けするとすれば、ただのユーモア小説だろうか。どんどん窮地におちいっていく主人公が可笑しくも気の毒。


5月

「リリー・モラハンのうそ」(パトリシア・ライリー・ギフ/作)
「ひみつの白い石」(グンネル・リンデ/作)

2冊とも児童書。海外の児童書はストーリーの骨格がしっかりしていて、結末もたいてい明るく、読んでいて楽しい。おそらく、もっともはずれの少ない分野ではないかと思う。


6月

「見習い職人フラピッチの旅」(イワナ・ブルリッチ=マジュラニッチ/作)

これも児童書。傑作中の傑作。


7月

「灼熱」(シャーンドル・マーライ/著)
「マラマッド短篇集」「喋る馬」「レンブラントの帽子」(バーナード・マラマッド/著)

「灼熱」の凝縮力はものすごい。
なぜかマラマッドブームがきて3冊読んだ。「天使レヴィン」をもう一度読み返したくなる。

8月

「ミサゴのくる谷」(ジル・ルイス/作)
「オンブレ」(エルモア・レナード/著)

「ミサゴのくる谷」には、格差と自然環境とインターネットがストーリーにうまく用いられている。
エルモア・レナードが売れないなんて知らなかった。いわれてみれば最近古本屋でもみかけない。読んでいないレナード作品をみかけたら、必ず買っておこう。
いま思ったが、児童書とレナードを一緒に読むひとはあまりいないかもしれない。


9月

「星に叫ぶ岩ナルガン」(パトリシア・ライトソン/作)
「シスターズ・ブラザーズ」(パトリック・デウィット/著)

だれが読むのかわからないという児童書はけっこうある。「星に叫ぶ岩ナルガン」もそのひとつ。そして、だれが読むのかわからないような本は、つい読んでみたくなってしまう。


10月

「シーグと拳銃と黄金の謎」(マーカス・セジウィック/著)
「おいしいものさがし」(ナタリー・バビット/作)

「シスターズ・ブラザーズ」「シーグと拳銃と黄金の謎」は、いわばゴールドラッシュ小説といえるだろう。「ぼくのすてきな冒険旅行」もゴールドラッシュ小説として忘れられない。


11月

「こわがりやのおばけ」(ディーター=グリム/作)

2019年にメモをとった本は以上。
2020年は仔細あって更新をしなかった。
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2018年 ことしの一冊たち

1月

ヒギンズまとめ
「開高健」(小玉武/著 筑摩書房 2017)
「しばられ同心御免帖」(杉澤和哉/著 徳間書店 2016)

ことしの5月には、小玉武さんが編集した「開高健ベスト・エッセイ」(筑摩書房 2018)が出版された。開高健が書いたエセーを選んで1冊にまとめた本。これ以外はありえないという作品の選択がなされていて感服した。

2月

「ちょっとちがった夏休み」(ペネロープ・ファーマー/作 八木田宜子/訳 岩波書店 1980)
「輝く断片」(シオドア・スタージョン/著 大森望/編 河出書房新社 2005)

「珈琲が呼ぶ」(片岡義男/著 光文社 2018)
「驚愕の理由」(ウルス・フォン・シュルーダー/著 中村昭彦/訳 毎日新聞出版 1998)
「なつかしく謎めいて」(アーシュラ・K.ル=グウィン/著 谷垣暁美/訳 河出書房新社 2005)

「驚愕の理由」の帯の惹句は宮部みゆきさんが書いていた。
《世界のあちこちでチカリと光る、みじん切りの”人生の真実”》
「みじん切り」が赤字で書かれている。こういうスケッチ風の短篇は読んでいて楽しいのだけれど、メモをとるときには困る。焦点がいまひとつ定かではないので要約しずらいのだ。

3月

「カニグズバーグ選集 1」(カニグズバーグ/著 松永ふみ子/訳 岩波書店 2001)
「アンチクリストの誕生」(レオ・ペルッツ/著 垂野創一郎/訳 筑摩書房 2017)

レオ・ペルッツの作品では、ことしの12月に「どこに転がっていくの、林檎ちゃん」(垂野創一郎/訳 筑摩書房 2018)が出版された。これから読むのが楽しみ。それにしても、ヘンテコなタイトルだ。

「ものぐさドラゴン」(ケネス・グレーアム/作 亀山竜樹/訳 西川おさむ/絵 金の星社 1979)
「あわれなエディの大災難」(フィリップ・アーダー/作 デイヴィッド・ロバーツ/絵 こだまともこ/訳 あすなろ書房 2003)

4月

「ドイツ短篇名作集」(井上正蔵/編 白水社 学生社 1961)

「うし」を読んだときは驚いたなあ。

5月

「暗いブティック通り」(パトリック・モディアノ/著 平岡篤頼/訳 講談社 1979)
「いやなことは後まわし」(根岸純/訳 パロル舎 1997)

「のりものづくし」(池澤夏樹/著 中央公論新社 2018)

6月

「死にいたる火星人の扉」(フレドリック・ブラウン/著 鷺村達也/訳 東京創元社 1960)

7月

「闇の中で」(シェイマス・ディーン/著 横山貞子/訳 晶文社 1999)

素晴らしい作品。

8月はなし

9月

「アデスタを吹く冷たい風」(トマス・フラナガン/著 宇野利泰/訳 早川書房 2015)

よーく噛んでいるとじわじわ味わいがましてくるといった作品。

10月

「おとうさんとぼく」(e.o.プラウエン/作 岩波書店 2018)

まさか「お父さんとぼく」が再版されるとは思わなかった。9月には岩波少年文庫から「魔女のむすこたち」(カレル・ポラーチェク/作 小野田澄子/訳 岩波書店 2018)が出版され、これにも驚いた。「魔女のむすこたち」の作者は強制収容所で亡くなっている。


11月

「大好き!ヒゲ父さん いたずらっ子に乾杯!」
「ごめんね!ヒゲ父さん わんぱく小僧、どこ行った?」
「最高だね!ヒゲ父さん いつも一緒に歩いていこう」
(e.o.プラウエン/作 青萠堂 2005)

「お父さんとぼく」をネット書店で検索していたとき、この作品の存在を知った。ネットというのは便利なものだ。

12月

「ニール・サイモン戯曲集 1」(酒井洋子/訳 鈴木周二/訳 早川書房 1984)
「ニール・サイモン戯曲集 2」(早川書房 1984)

「ニール・サイモン戯曲集」は、現在6巻まで出版されているよう。このあと、ついでに手元にある読んでいない戯曲も読んでみようと思いたち、「ムサシ」(井上ひさし/著 集英社 2009)を読んでみた。あんまり展開が唐突だったので驚いた。舞台をみていた観客はついていけたんだろうか。

以上。
ことしは4月頃からむやみに忙しくなってしまい、ろくに更新ができなかった。
それでも本は読んでいて、なかにはとても素晴らしい作品もあったので、いずれ時間をみつけてはメモをとっていきたい。

メモをとらなかった本で一冊だけとりあげるなら、「泰平ヨンの航星日記 」(スタニスワフ・レム/著 深見弾/訳 早川書房 1980)。
レムの小説はなんだか面倒くさそうだと食わず嫌いをしていたのだけれど、読んでみたら「ほら吹き男爵」のSF版といった趣きで、たいそうバカバカしく、面白かった。
宇宙空間で時間の流れがおかしくなり、未来の自分が次つぎにあらわれるというアイデアは――、そして、あらわれる自分がどんどん機嫌が悪くなっていくというアイデアは――、たしか「ドラえもん」にもあったように思う。
もっと早く読んでおけばよかったと後悔した。

では、皆様よいお年を。


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2017年 ことしの一冊たち

2017年もジャック・ヒギンズばかり読んでいた。
最終的に、ヒギンズ作品リストをまとめ、またヒギンズ作品についての全体的な感想は、ヒギンズまとめに書いた。

ヒギンズ以外にとった本のメモは以下。

4月

「漫画 吾輩は猫である」(近藤浩一路/著)

5月

「伝記物語」(ホーソン/著)
「こわれがめ」(クライスト/作)
「紫苑物語」(石川淳/著)
「昔には帰れない」(R・A・ラファティ/著)

「アウラ・純な魂」(フエンテス/著)
「宇宙探偵マグナス・リドルフ」(ジャック・ヴァンス/著)
「薪小屋の秘密」(アントニイ・ギルバート/著)

6月

「危険がいっぱい」(デイ・キーン/著)
「永久戦争」(P・K・ディック/著)



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2016年 ことしの一冊たち

ことしはジャック・ヒギンズの作品ばかり読んでいた。
年内のうちに、手元にある本はみんなメモがとれるだろうと思っていたのだけれど、そうはいかなかった。
ヒギンズ作品についてのメモは今後も続け、終わったら作品ぜんたいについてまとめるつもり。

ヒギンズ作品以外となると、ことしメモをとった本は少ない。
こんな感じになる。

1月

「チューリップ」(ダシール・ハメット/著 小鷹信光/編訳解説 草思社 2015)
「怪物ガーゴンと、ぼく」(ロイド・アリグザンダー/著 宮下嶺夫/訳 評論社 2004)

ハメットの最後の作品を刊行して亡くなられるとは。
小鷹信光さんは格好いい。

「怪物ガーゴンと、ぼく」の訳者あとがきに、作者によるこんな発言も記されている。
この作品を出版社に送るためにメーリング・サービスにもっていったところ、翌日、発送をした旨を告げる電話がかかってきた。その女性はこう続けた。「あなたはいつも、すてきな若いヒロインをお書きになります。一度、すてきな年配のヒロインを書いていただけないでしょうか」。きのうの原稿がまさにそれなんですよと作者はこたえたという。ほんとうに、その通りだ。


2月

「美しい鹿の死」(オタ・パヴェル/著 千野栄一/訳 紀伊国屋書店 2000)
「レクイエム」(アントニオ・タブッキ/著 鈴木昭裕/訳 白水社 1998)

「美しい鹿の死」はほんとうに素晴らしい。古本屋で手にとるまで、こんな作品があるとは知らなかった。少しは世に知られた作品なんだろうか。「レクイエム」を読んだあと、「イザベルに」(和田忠彦/訳 河出書房新社 2015)も読んでみた。でも、もう内容を忘れてしまった。


3月

「昭和な町角」(火浦功/著 毎日新聞出版 2016)
「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」(アンドリュー・カウフマン/著 田内志文/訳 東京創元社 2013)

まさか、火浦功の新刊が出版されるとは思わなかった。同時期に、火浦功の師匠にあたる小池一夫の、「夢源氏剣祭文」(小池一夫/著 毎日新聞出版 2016)も出版され、書店に2冊並べて置かれていたのを思いだす。また、「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」の作者による新刊がことし出版された。「奇妙という名の五人兄妹」(アンドリュー・カウフマン/著 田内志文/訳 東京創元社 2016)。内容紹介を読むと面白そうだけれど、やはりこしらえすぎの感じがするだろうか。


4月からジャック・ヒギンズ作品についての読書メモがはじまる。
それ以外の作品のメモは以下。


6月

「砂浜に坐り込んだ船」(池澤夏樹/著 新潮社 2015)
ことし大ヒットした映画、「君の名は。」をみていたら、この本に収められた「大聖堂」という作品を思いだした。ファンタジーにする必要はないと思った、その理解は浅かったか。それはともかく、ことしは面白い映画をたくさんみた。「キャロル」「オデッセイ」「シン・ゴジラ」「この世界の片隅で」も、池澤さんが絵本をだした「レッドタートル」も、みんな面白かった。「この世界の片隅で」はあんまり面白かったので、絵コンテを買って読んだ。「「この世界の片隅に」劇場アニメ絵コンテ集 」(こうの史代/原作 「この世界の片隅に」製作委員会/著 片渕須直/絵コンテ 浦谷千恵/絵コンテ 双葉社 2016)。絵コンテには「右手さん」というキャラクターがいてびっくりした。「右手さん」にはセリフまで用意されていた。


10月

「ルーフォック・オルメスの冒険」(カミ/著 高野優/訳 東京創元社 2016)
この本が出版されたのが、ことし一番嬉しかった。

以上。

いちいちメモをとるにはいたらないけれど、ほかにも読んだ本はある。
最近では、「万年筆インク紙」(片岡義男/著 晶文社 2016)を読んだ。
著者の片岡さんが、小説の創作メモを書くためにふさわしい万年筆とインクと紙をさがしもとめるエセー。
この本、一体だれが読むのだろうと首をかしげる。
なにしろ目次すらない。
ただただ、万年筆をつかって字を書くという行為が、一冊丸まるつかって、主観的に考察されているだけだ。

でも、個人的には面白かった。
うんちくを語るのではなく、自分が欲しい万年筆とインクと紙についてだけ語っている。
その一貫しているところが好ましい。
それから、その考察や、細かい観察ぶりや、手に入れるまでの過程や、執心ぶりが可笑しい。
読んでいると、次第にユーモラスな気分になってくる。
何箇所か声をあげて笑ってしまった。
本書の終わり近くに、小説というものについて、片岡さんの考えを記した部分がある。
そこを引用してみよう。

《頭に浮かぶことをノートブックに書いては検討して考えをまとめていく、という一般的な理解があるかもしれないが、小説の場合は考えなどまとめてもどうにもならない。そこからはなにも生まれない。思いがけないものどうしが結びつき、そこから新たな展開が生まれてくるとは、たとえば人であれば少なくともふたり以上の人が、そしてものごとならふたつ以上の異なったものが、対話の関係を結ばなくてはいけない。その対話のなかから、途中の出来事として、あるいは結論として、それまではどこにもなかった新たな展開が生まれてくることによって、人々の関係とそれが置かれている状況とが、その新たな展開のなかを動いていく、ということだ。ひとりでやろうとしてはいけない。しかし、対話と称して、自分のことを言い続けるだけの人は現実のなかにはいくらでもいるけれど、小説のなかにそのような人の居場所はない。》

こういう文章に面白味を感じることができれば、この本の良い読者になれるだろう。
しかし、書くという行為の考察だけで、一冊つくってしまうのだから、その筆力には感服する。

もう一冊。
「驚異の螺子頭と興味深き物事の数々」(マイク・ミニョーラ/著 秋友克也/訳  ヴィレッジブックス 2014)。
マイク・ミニョーラは好きな作家で、出版された本はみんな読みたい。
でも、この本が出版されていたのは、古本屋でみかけるまでうかつにも気づかなかった。
表題作と、短編が5つ収録されている。

螺子頭(スクリュー・オン・ヘッド)は、なぜかリンカーン大統領の命令にしたがい、ゾンビイ皇帝によって盗まれたカラキスタン断章を回収しにむかう。
その名の通り、螺子頭は、首の部分がネジになっていて、さまざまな体に装着できる。
といっても、その特徴が物語に反映されることはない。
回収に向かった先は、中東を思わせる砂漠にある寺院の遺跡。
その後のストーリーはヘルボーイ風。
ほとんど、ヘルボーイのパロディのようだ。

ほかの短編もそうだけれど、みんなごく短い物語ばかりなのが物足りない。
とはいえ、ミニョーラの素晴らしい絵と、ひとを食ったようなストーリーが堪能できた。

来年も、面白い本に出会えるますように。
では、皆様よいお年を――。

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2015年 ことしの一冊たち

1月

「泣き虫弱虫諸葛孔明」「ジャック・リッチーのあの手この手」
「泣き虫弱虫諸葛孔明 第4部」(酒見賢一/著 文芸春秋 2014)
「ジャック・リッチーのあの手この手」(ジャック・リッチー/著 小鷹信光/編・訳 早川書房 2013)

「エッフェル塔の潜水夫」(カミ/著  吉村正一郎/訳 講談社 1976)
岩波新書の「エッフェル塔ものがたり」(倉田保雄/著 岩波書店 1983)を読んでいたら、この「エッフェル塔の潜水夫」が紹介されていて驚いた。


2月

「ウィンダミア公爵夫人の扇」「愛の勝利・贋の侍女」「過去ある女」
「ワイルド全集 2巻」(西村考次/訳 青土社 1981)
「愛の勝利・贋の侍女」(マリヴォー/作 佐藤実枝/訳 井村順一/訳 岩波書店 2009)
「過去ある女」(レイモンド・チャンドラー/著 小鷹信光/訳 小学館 2014)
文学作品と映像作品をならべて鑑賞するのは楽しい。とくに戯曲は、映像に接していたほうがイメージをつかみやすい。そこで、シェイクスピアの、映像化された作品をみてから戯曲を読むということをして、ことしは楽しんだ。「夏の夜の夢」は、トルンカの人形アニメが一番出来映えがよい気がするのだけれど、どんなものだろう。また、ケネス・ブラナー監督の「恋の骨折り損」をみていたら、登場人物が突然、踊りだすのでびっくりした。ミュージカルだとは知らずにみていたのだった。さらにまた、12月に読んだエドマンド・クリスピンの「愛は血を流して横たわる」は、シェイクスピアの未発見戯曲をめぐる物語だった。

「賢人ナータン」(レッシング/著 篠田英雄/訳 1978)
ことしはフランスでテロが起きた。今後、どこかで宗教上のあらそいが起こるたびに、「賢人ナータン」のことを思いだすだろう。


3月

「わが夢の女」(M・ボンテンペルリ/著 岩崎純孝/〔ほか〕訳 筑摩書房 1988)
わが夢の女(承前)
どれか1作選べといわれたら、「細心奇譚」だろうか。奇妙でばかばかしい傑作。


4月

「消せない炎」(ジャック・ヒギンズ/作 ジャスティン・リチャーズ/作 田口俊樹/訳 理論社 2008)
ジャック・ヒギンズが児童書を書いているのでびっくりした。でも、内容はいつもとたいして変わらない。「手元にあるヒギンズ作品をぜんぶ読む」計画は、ことし中には終わらなかった。来年にもちこし。

「米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす」(マシュー・アムスター=バートン/著 関根光宏/訳  エクスナレッジ 2014)
ことしは、外国人による日本見聞記ブームがきた。というよりも、もともと好きでよく読んでいた。この本は、幸福感があるのが素晴らしい。


5月

「英国一家、日本を食べる」(マイケル・ブース/著 寺西のぶ子/訳 亜紀書房 2013)
よく取材し、かつ取材したことを簡潔に、ユーモラスに記す。評判になっただけあって、とても面白かった。唯一の欠点は、読んでいるとお腹がすいてくるということだろうか。

「英国一家、ますます日本を食べる」(マイケル・ブース/著 寺西のぶ子/訳 亜紀書房 2014)
この後、同著者による、「英国一家、フランスを食べる」(マイケル・ブース/著 櫻井祐子/訳  飛鳥新社 2015)が出版されたが、まだ読んでいない。「日本を食べる」はよく売れたようだけれど、「フランスを食べる」のほうはどうだったのだろう。「日本を食べる」の100分の1くらいは売れたのだろうか。


6月

「トーキョー・シスターズ」(ラファエル・ショエル/著 ジュリー・ロヴェロ・カレズ/著 松本百合子/訳  小学館 2011)
フランス女子によるニッポン女子見聞記。日本人が読んで「ほんとかなあ」と思うような記述にぶつかるのも、外国人による日本見聞記を読んでいて面白いところだ。ことし、「北欧女子オーサが見つけた日本の不思議」(オーサ・イェークストロム/著 KADOKAWA 2015)というコミックエッセイが出版されたので読んでみた。作者はスウェーデン女子。内容も面白かったけれど、それ以上に、作者が日本マンガの文法を完全につかいこなしていることに、とても驚いた。

「ニッポン縦断歩き旅」「四国八十八か所ガイジン夏遍路」
「ニッポン縦断歩き旅」(クレイグ・マクラクラン/著 橋本恵/訳 小学館 1998)
「四国八十八か所 ガイジン夏遍路」(クレイグ・マクラクラン/著 橋本恵/訳 小学館 2000)


7月

「ニッポン百名山よじ登り」「西国三十三か所ガイジン巡礼珍道中」
「ニッポン百名山よじ登り」>(クレイグ・マクラクラン/著 橋本恵/訳 小学館 1999)
「西国三十三か所ガイジン巡礼珍道中」>(クレイグ・マクラクラン/著 橋本恵/訳 小学館 2003)
クレイグ・マクラクランさんの本、4冊。どれもみんな面白かったけれど、なかでも「西国三十三か所ガイジン巡礼珍道中」がよかった。相棒の「芭蕉」とのかけあいが楽しい。それにしても、外国人は日本のことをたくさん教えてくれる。

「Japanレポート3.11」(ユディット・ブランドナー/著 ブランドル・紀子/訳 未知谷 2012)
本書は、東日本大震災の被災地を題材としたルポルタージュ。いままで紹介してきた日本見聞記とは、いささか内容が異なる。ことし出版された続編、「フクシマ2013 Japanレポート3.11」も読んだ。前編で登場したときは元気だったひとが消沈しているのは、痛ましいかぎりだ。

外国人による日本見聞記としては、ほかに「みどりの国滞在日記 」(エリック・ファーユ/著 三野博司/訳 水声社 2014)を読んだ。著者はフランス人。さっぱりとした、涼しげな文章で書かれている。この本もルポルタージュ的だ。

外国人が書いたエセーでは、「負け組ジョシュアのガチンコ5番勝負!」(ジョシュア・デイビス/著 酒井泰介/訳 早川書房 2006)が面白かった。安月給のデータ入力係として、くすぶった暮らしをしていた著者は一念発起、腕相撲、闘牛士、相撲、背面走行(後ろ向きにはしること)、サウナ耐久コンテストという、ちょっとばかり奇妙な競技に挑戦する。あちこちに、思いがけなく日本人の姿があらわれるのが、日本人としては面白い。相撲の章では、武蔵丸が登場する。最後のサウナ耐久コンテストは、家族で挑戦。切実かつユーモラスな、心温まるエセーだった。


8月

「長すぎる夏休み」(ポリー・ホーヴァート/著 目黒条/訳 早川書房 2006)
わざわざ、ものごとを劇的にしないように書かれた児童書。洗練されているといえるかもしれない。

「かかし」(ロバート・ウェストール/作 金原瑞人/訳  徳間書店 2003)
この本には驚いた。児童書の範疇を超えた児童書というのがときどきあるけれど、これはそんな一冊だった。

9月

「木の中の魔法使い」(ロイド・アリグザンダー/著 神宮輝夫/訳  評論社 1977)
ロイド・アリグザンダーの作品は、もっと面白いはずだと思いたい。いずれ、ほかの作品も読んでみよう。

「悪魔の舗道」(ユベール・モンテイエ 早川書房 1969)
前半はすごく面白かったんだけどなあ。


10月

「かかしのトーマス」(オトフリート・プロイスラー/作 ヘルベルト・ホルツィング/絵 吉田孝夫/訳 さ・え・ら書房 2012)
プロイスラーも、もっと読んでみなくては。

「幽霊たち」(ポール・オースター/著 柴田元幸/訳  新潮社 1995)
ここから、ポール・オースターがブームとなるが、すぐしぼむ。でも、「幽霊たち」はとてもよかった。


11月

「闇の中の男」(ポール・オースター/著 柴田元幸/訳 新潮社 2014)
納得がいかないなあ。

「ミスター・ヴァーティゴ」(ポール・オースター/〔著〕 柴田元幸/訳  新潮社 2001)
巧みな語り口で、最後までファンタジーを維持する、その剛腕に感服。空を飛ぶ少年の話としては、ロアルド・ダールの「ヘンリー・シュガーのわくわくする話」におさめられた「白鳥」を思い出す。また、アメリカの黒人民話をあつめた「人間だって空を飛べる」(ヴァージニア・ハミルトン/語り・編 ディロン夫妻/絵 ディロン夫妻/絵 金関寿夫/訳  福音館書店 1989)の表題作を思い出す。みな、虐げられた者が空を飛ぶ話だ。


12月

「愛は血を流して横たわる」(エドマンド・クリスピン/著 滝口達也/訳 東京創元社 2010)
ことしはエドマンド・クリスピンの本をもう1冊読んだ。「列車に御用心」(エドマンド・クリスピン/著 冨田ひろみ/訳 論創社 2013)。この本は短編集。面白かったけれど、「苦悩するハンブルビー」という話がよくわからなかった。

以上。
あと、ことしの最後にうれしい出版物が2冊あったので書いておきたい。

1冊は、「チューリップ」(ダシール・ハメット/著 小鷹信光/編訳解説 草思社 2015)。
本書は、ハメットが書いた中短編をあつめたもの。
まさか、「チューリップ」が本になるとは。
雑誌に訳出されたとき読んだけれど、この分量では本にならないだろうと思っていたから、この刊行はうれしくてならない。
とはいうものの、一体だれがこの本を読むのだろうという気もする。
熱心なハメットの読者以外、手にとるひとはいないのではないか。
にもかかわらず刊行してくれたとしたら、ありがたいことだ。

もう1冊は、「12人の蒐集家/ティーショップ」(ゾラン・ジヴコヴィッチ/著 山田順子/訳 東京創元社 2015)。
ゾラン・ジヴコヴィッチはセルビアのひと。
以前、「ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語」(ゾラン・ジフコヴィッチ/著 山田 順子/訳 黒田藩プレス 2010)を、kazuouさんのサイトで教えてもらい、読んでみたところ、その豊かな奇想に満ちた作品に感激した。
今回の本は、本邦初訳である連作集「12人の蒐集家」に、「…不思議な物語」所収の「ティーショップ」を再録したもの。
ゾラン・ジヴコヴィッチの本がまた読めるなんて思ってもみなかった。
本当にうれしい。

来年も、面白い本に出会えることを祈りつつ。
では、皆様よいお年を――。


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2014年 ことしの一冊たち

1月

三国末史物語、ブラックサッド、ヘルボーイ
「三国末史物語」(内田重久 中央公論事業出版 1979)。
「ブラックサッド 赤い魂」(フアン・ディアス・カナレス/作 フアンホ・ガルニド/画 大西愛子/訳 Euromanga 2013)
「ヘルボーイ:疾風怒濤」(マイク・ミニョーラ/著 ダンカン・フィグレド/著 今井亮一/訳 石川裕人/訳 ヴィレッジブックス 2013)。
孔明死後の三国志を書いた小説としては、宮城谷昌光さんの「三国志」があった。読もうと思いながら、一年が終わってしまった。
「ブラックサッド」は、最初の巻がEuromangaから再版された。早川書店版を買った者にとっては、悩ましいかぎりだ。外国の漫画でことし目を引いたのは、「リトル・ニモ1905-1914」(ウィンザー・マッケイ/著 小野耕世/訳 小学館集英社プロダクション 2014)。値が張るので見送ったのだけれど、買っておけばよかったか。

「かぐや姫の物語」(高畑勲(ほか)/著 スタジオジブリ 2013)
ことし話題をさらった映画といえば、なんといっても「アナと雪の女王」だろう。「かぐや姫の物語」よりずっと面白かったというひとが周りにいて、大いに驚いた。


2月

巨匠とマルガリータ
巨匠とマルガリータ(承前)
「巨匠とマルガリータ 上下」(ミハイル・ブルガーコフ/著 法木綾子/訳 群像社 2000)
原作を読んだあと映像をみたり、映像をみたあと原作を読んだりということをよくする。そうすることで、原作の構成をよく知ることができる。特に、本書は話になじむまで時間がかかる。原作と映像、両方に接せられたのは運がよかった。「黄金の仔牛」もそうだったけれど、映像が原作どおりのストーリーなのには感心した。「巨匠とマルガリータ」は、その内容と、作品がたどった運命が一体となっている。こんな本はそうないのではないか。

3月

「ヴェネツィアの薔薇」(ミッシェル・ロヴリック/著 ミンマ・バーリア/著 富士川義之/訳 集英社 2002)
この記事は入力したあと間違えて消してしまい書き直した。書き直しには思ったほど時間はかからなかった。一度書くと、案外内容をおぼえているものだ。

「ラ・ロシュフーコー公爵伝説」(堀田善衛/著 集英社 1998)


4月

ラ・ロシュフーコー公爵伝説(承前)
「近代の呪い」(渡辺京二/著 平凡社 2013)では、カトリック同盟のことを「リーグ」と呼んでいた。最初、なんのことやらわからなかった。本書は、発表時、多少評判になったのだろうか。あまりなじみのない時代を舞台にしているし、語り口は独特だし、評するには始末に困る小説だと思う。こんなに面白いのに。

ムーミンについて その1
「ムーミン谷の仲間たち」


5月

ムーミンについて その2
「たのしいムーミン一家」
「ムーミン谷の彗星」
「ムーミンの夏まつり」
「ムーミン谷の冬」
「ムーミンパパの思い出」
「ムーミンパパ海へいく」

ムーミンについて その3
「ムーミン谷の11月」
「小さなトロールと大きな洪水」


6月

ムーミンについて その4
「ムーミン・コミックス」など
ことし、はじめてムーミンを読み、その不思議な面白さに驚いた。たまたま、ことしが作者トーベ・ヤンソンさんの生誕100周年だったので、関連本がたくさん出版され、展覧会も開かれた。展覧会はみにいったけれど、関連本はあんまり出版されすぎて、ほとんど目を通していない。来年、生誕101周年に、なにか本はでるのだろうか。ムーミンの小説とコミックスについては、けっこう書いたけれど、絵本についてはふれるのを忘れていた。「ムーミン谷へのふしぎな旅」(渡部翠/訳 講談社 1991)が、ヤンソンさんの水彩画が楽しめ、いつものことながら天変地異が起こり、かつ大勢のキャラクターがでてきて楽しいと、ここに書いておこう。ヤンソンさんの、大人向けの小説はまだ読んだことがない。いつか読むのが楽しみだ。

「マクナイーマ」(マリオ・ヂ・アンドラーヂ/著 松籟社 2013)
もうずいぶん前のような気がするけれど、ことしはワールドカップ・ブラジル大会が開催されたのだった。それで、ブラジル産の小説を読んでみようと思い、この本を手にとってみた。内容は、じつにいいかげんな主人公、マクナイーマの一代記。因果関係があるんだかないんだかわからない話が、とにかく語り続けられる。最近、「ブッシュ・オブ・ゴースツ」(エイモス・チュツオーラ/著 橋本福夫/訳 筑摩書房 1990)を読んでいたら、似たような語り口で書かれていた。思えば、以前読んだ「小人たちの黄金」も、似たような語り口だった。場面場面がくっきり分かれておらず、ずるずると語られていく。
ブラジルの作家はだれも知らないと思っていたけれど、「ブラジルを知るための56章」(アンジェロ・イシ/著 明石書店 2010)を読んでいたら、パウロ・コエーリョの名が挙がっていて、おおそうかと思った。読んだことはないけれど、名前だけは知っている。以前、アメリカのTVドラマ「フレンズ」をみていたら、登場人物がコエーリョの「アルケミスト」を手にしていた。それがあの長いシリーズの、シーズンいくつの第何話だったのかはおぼえていないけれど。アンジェロ・イシさんは、パウロ・コエーリョについてこう書いている。

《決して優れているとはいえない彼の「アルケミスト」やピエドラ川のほとりで私は泣いた」だけを読んでブラジル文学の水準を見くびられないためにも、ブラジルの名著がより積極的に日本語訳されることを私は望んでいる》

この正直なものいいには、思わず笑ってしまった。文芸批評は、文学書の棚にはないのかもしれない。


7月

「ブラス・クーバスの死後の回想」(マシャード・ジ・アシス/著 光文社 2012)
ブラジル小説第2弾。まるでヴォネガットの小説みたいだと思った。その後、「天使と悪魔の物語」(風間賢二/編 筑摩書房 1995)という本をみていたら、マシャード・ジ・アシスの「悪魔の教会」という短編が収録されているのをみつけた。作品の冒頭に、簡単な作者紹介がついていたので引用してみよう。

《マシャード・デ・アシス(1839-1908) ブラジルの作家。ブラジルの近代小説の創始者。代表作に幽霊が語り手である「卑劣な勝者の墓碑銘」、その続編で、いかれた哲学者とその飼い犬が主人公の「キンカス・ボルバ」などの長編があるが、いずれも未訳。短編集も「精神科医、その他の物語」や、「悪魔の教会」があり、ロレンス・スターンやフロベールにも比較される奇想と精緻な文体をもったユーモラスな作風は、ボルヘスやコルタサル、あるいは、ジョン・バースなどに多大な影響を与えた。尚、本編は英語からの意訳である。》

この、「卑劣な勝者の墓碑銘」と紹介されている作品は、本書「ブラス・クーバスの死後の回想」のことだろう。「悪魔の教会」は、寓話的な、いかにもこの作者らしいと思わせるような一篇だった。マシャード・ジ・アシスの作品はほかに「ドン・カズムッホ」(マシャード・ジ・アシス/著 武田千香/訳 光文社 2014)が出版されている。買ったものの、まだ読んでいない。リオ・オリンピックがはじまるまでとっておこうか。

「迷宮の将軍」「ラッフルズ・ホームズの冒険」「キマイラ」
「迷宮の将軍」(G・ガルシア=マルケス/著 木村栄一/訳 新潮社 1991)
「ラッフルズ・ホームズの冒険」(J・K・バングズ/著 平山雄一/訳 論創社 2013)
「キマイラ」(ジョン・バース/著 国重純二/訳 新潮社 1980)
ことしはガルシア=マルケスが亡くなった。また秋に、「宰相の二番目の娘」(ロバート・F・ヤング/著 山田順子/訳 東京創元社 2014)という小説が出版され、この本も「キマイラ」に所収の、「ドニヤーザード姫物語」同様、シェヘラザードの妹に焦点を当てた物語のようだ。買ったものの、まだ読んでいない。


8月

「マルテの手記」(リルケ/著 松永美穂/訳 光文社 2014)
リルケのことを、「気病みの詩人」をいったのはだれだったか。

「霧の中の悪魔」(リアン=ガーフィールド/著 飯島淳秀(よしひで)/訳 講談社 1971)
この頃から児童文学ブームに突入。「限定相続」をあつかったところや、ひとをやけに不安にさせるサスペンスなど、イギリスの児童文学らしい作品だった。


9月

「ぼくのすてきな冒険旅行」(シド・フライシュマン/著 久保田輝男/訳 学習研究社 1970)
ほんとうにシド・フライシュマンは上手い。それから当時、学研で「少年少女学研文庫」のラインナップをつくったひとの、その識見の高さには脱帽する。

「火のくつと風のサンダル」(ウルズラ・ウェルフェル/作 関楠生/訳 童話館出版 1997
気持ちのいい一冊。


10月

翻訳味くらべ「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(まとめ)に追加
ことし、「郵便配達は二度ベルを鳴らす」の新訳が、光文社と新潮社から出版された。そこで、以前「郵便配達」の訳文をくらべた記事に、新たに新訳の訳文を追加した。10月に記事を更新したときは、光文社の池田訳だけだったが、今回、新潮社田口訳もつけ加えた。しかしまあ、「郵便配達」ばかりが訳される。ケインの他の作品も翻訳されないだろうか。

「オタバリの少年探偵たち」(セシル・デイ・ルイス/作 瀬田貞二/訳 岩波書店 1957)
瀬田貞二訳は、古びてはいるけれど、まだ読むにたえる。さすがというべきだろう。


11月

「はるかなるアフガニスタン」(アンドリュー・クレメンツ/著 田中奈津子/訳 講談社 2012)
シド・フライシュマンも上手いが、アンドリュー・クレメンツもとんでもなく上手い。社会性があり、子どもたちが英雄的な行動をとらず、かつ面白い。途方もない完成度だ。

「木曜日はあそびの日」(ピエール・グリパリ/作 金川光夫/訳 岩波書店 1980)
短編集をとり上げるとき、収録作をすべて紹介するかどうか、いつも悩む。収録作すべての要約をつくっていたら時間がかかって仕方がない。しかし、今回はすべての作品を紹介してしまった。それだけ、作品に魅力があったということか。


12月

「月明のひとみ」(ジョセフィン・プール/著 美山二郎/訳 大日本図書 1976)
えたいの知れない作品だったなあ。


以上。
こうしてみると、ことしは児童文学ばかり読んでいたようだ。
児童文学の古典は、読んで落胆するということがまずない。
まだまだ読んでいない本がたくさんあるから、折をみて読んでいきたい。

ことしのはじめに書いた月に2回の更新は、なんとか守れた。
来年もこのペースでいきたいものだ。

読んだものの、とり上げなかった本もたくさんある。
その筆頭として、「翻訳問答」(片岡義男・鴻巣友季子/著 左右社 2014)を挙げておこう。
この本は対談集。
「高慢と偏見」「ロング・グッドバイ」「バナナフィッシュにうってつけの日」「赤毛のアン」「冷血」「嵐が丘」「アッシャー家の崩壊」
以上の作品の冒頭を、片岡さんと鴻巣さんがそれぞれ訳し、比較し、一語一句についてあれこれ語りあうというもの。

おふたりの翻訳は、タイトルからして思いがけないものになっている。
「高慢と偏見」は、「思い上がって決めつけて」(片岡訳)と、「結婚狂想曲」(鴻巣訳)。
訳文マニアのひとは、必見の一冊だ。

ことしの更新はこれが最後。
では、皆様よいお年を――。




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2013年 ことしの一冊たち

例年通り、今年の記事をまとめたい。
今年は更新がいよいよ少なくなってしまった。

1月

「戯曲アルセーヌ・ルパン」(モーリス・ルブラン フランシス・ド・クロワッセ/著 小高美保/訳 論創社 2006)
とても楽しい読み物だった。

「気晴らしの発見」(山村修 大和書房 2000)
痛ましい話だ。

「バッファロー・ボックス」(フランク・グルーバー 早川書房 1961)
ときどきフランク・グルーバーを読みたくなる。

「法螺吹き友の会」(G・K・チェスタトン/著 井伊順彦/訳 論創社 2012)
チェスタトンの小説は不思議なサスペンス性がある。「木曜日だった男」(南条竹則/訳 光文社 2008)なんて、読みはじめたらやめられない。ところが、読み終わると、なんともはぐらかされた感じが残る。でも、読むと面白いのだから困ったものだ。


2月

「アルカード城の殺人」(ドナルド・ウェストレイク/著 アビー・ウェストレイク/著 矢口誠/訳 扶桑社 2012)
とても他愛ない本。そこがいい。

「小人たちの黄金」(ジェイムズ・スティーヴンズ/著 横山貞子/訳 晶文社 1983)
現実と非現実がごちゃ混ぜになる作品がとても好きだ。この本を読めたのはほんとうに運がよかった。

「逃げるが勝ち」(ロレンス・ダレル/著 山崎勉/訳 中村邦生/訳 晶文社 1980)
これまた他愛ない本。

私が選ぶ国書刊行会の3冊
なぜ出版社はこういう企画が好きなのだろう?


3月

岩波書店創業100年記念「読者が選ぶこの一冊」

「迷宮の暗殺者」(デイヴィッド・アンブローズ/著 鎌田三平/訳 ソニー・マガジンズ 2004)
あんまりへんてこな小説なのでメモをとった。でも、ひとには薦められない。

「ムチャチョ」(エマニュエル・ルパージュ/著 大西愛子/訳 Euromanga 2012)
傑作。


4月

「族長の秋」「エレンディラ」「トレース・シリーズ」
「族長の秋」(ガルシア=マルケス/著 鼓直/訳 集英社 1994)
「エレンディラ」(G.ガルシア=マルケス/著 鼓直/訳 木村栄一/訳 筑摩書房 1988)
「二日酔いのバラード」(ウォーレン・マーフィー/著 田村義進/訳 早川書房 1985)
ガルシア=マルケスは素晴らしい。トレース・シリーズみたいな軽い小説は、世の中にたくさんあると思っていたら、じつは案外少ないのだと最近よく思うようになった。


5月

ナボコフの文学講義、ナンジャモンジャの木、小説家のマルタン
「ナボコフの文学講義 上下」(V・ナボコフ/著 野島秀勝/訳 河出書房新社 2013)
このあと、「ナボコフのロシア文学講義 上下」(小笠原豊樹/訳 河出書房新社)がでて、これも読んだ。ナボコフ先生はトルストイが好きで、ドストエフスキーが嫌いだとわかり、なんだか愉快だった。

昔々の昔から
昔々の昔から(承前)
「昔々の昔から」(イヴァーナ・ブルリッチ=マジュラニッチ/著 栗原成郎/訳 ヴラディミル・キーリン/挿画 松籟社 2010)
ことし最も印象に残った本はこれ。この小説が読めて大変幸せだ。


6月

「虚しき楽園」「豹の呼ぶ声」「アメリカを買って」「シュロック・ホームズの迷推理」
「虚しき楽園 上下」(カール・ハイアセン/著 酒井昭伸/訳 扶桑社 1998)
「豹の呼ぶ声」(マイクル・Z・リューイン/著 石田善彦/訳 早川書房 1998)
「アメリカを買って」(クロード・クロッツ/著 三輪秀彦/訳 早川書房 1983)
「シュロック・ホームズの迷推理」(ロバート・L.フィッシュ/著 深町真理子/ほか訳 光文社 2000)
「A型の女」はまだ読んでいない。ハイアセンも読んでいないものがまだ手元にある。


7月

DVD「黄金の仔牛」とDVD「天才執事ジーヴス」
「黄金の仔牛」を貸した知人は面白かったといってくれた。で、ネットで検索したらこのブログがでてきたといわれ、これには恐縮した。


8月

絵コンテ「風立ちぬ」と「「腰ぬけ愛国談義」
映画「風立ちぬ」は面白かった。なぜ面白いのか、正体がよくつかめないけれど面白かった。


9月

徒然草の現代語訳いろいろ
「徒然草」(兼好/著 島内裕子/校訂・訳 筑摩書房 2010)
「絵本徒然草 上 」(吉田兼好/原著 橋本治/文 田中靖夫/絵 河出書房新社 2005)
「徒然草」(角川書店/編 武田友宏/訳・註 角川書店 2002)
「徒然草」の現代語訳をくらべてみた。外国語の翻訳よりも訳文に幅がある。この記事を書いたあと、「方丈記 徒然草」(完訳日本の古典第37巻 小学館 1986)を読んだ。永積安明さんによる序段の訳文はこうだ。

《なすこともない所在なさ、ものさびしさにまかせて、終日、硯にむかって、心に浮かんでは消えてゆく、つまらないことを、とりとめとなく書きつけていると、我ながら何ともあやしく、もの狂おしい気持ちがすることではある。》

これくらいの訳文が、個人的には最も落ち着く。

「シンデレラの銃弾」と「金時計の秘密」
「シンデレラの銃弾」(ジョン・D・マクドナルド/著 篠原勝/訳 河出書房新社 1992)
「金時計の秘密」(ジョン・D・マクドナルド/著 本間有/訳  扶桑社 2003)
ジョン・D・マクドナルドの小説を2冊。「金時計の秘密」は変な小説だったなあ。


10月

「謀殺海域」「ジキル博士とハイド氏」
「謀殺海域」(ジャック・ヒギンズ/著 小関哲哉/訳 二見書房 1987)
「ジキル博士とハイド氏」(R.L.スティーヴンソン/著 大仏次郎/訳 恒文社 1997)
作家が化けるということはどういうことなのか。その以前以後ではなにがちがうのか。それについて書かれたエセーでもあれば読んでみたい。


12月

武雄市図書館についての新聞記事のメモ
なぜこんなに記事になるのだろう。そして、記事になったことでどんな影響があらわれるのだろう。出版不況に対するリアクションとして、小型書店はどんどんつぶれ、大型書店はいよいよ大きくなるという傾向があるように思う。その大型化する書店のことを、個人的に「書店のテーマパーク化」と呼んでいるのだけれど、書店からみた場合、武雄市図書館は、書店のテーマパーク化の一環のように思える。

「どこからでも十マイル・マンクスフッド邸」(P・H・ニュービー、L・P・ハートレイ 南雲堂 1955)
面白かった。


以上。
11月は更新そのものがなかったというていたらく。
短いメモと長いメモをうまく書き分けられれば、もうちょっと更新ができるだろうか。

ずっとやってる絵本紹介ブログ「一冊たち絵本」は、紹介冊数が1000冊を超え、ついに終了。
いま、コールデコット賞のリストだけつくっている。
それが終わったら、PDFにして手元に置いておき、ブログは消してしまうつもりだ。
でも、ブログを一度にPDF化する方法はあるんだろうか?
1000冊はちょっとやりすぎたなあ。

さて、ことしの更新はこれが最後。
では、皆様、よいお年を――。


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