星に叫ぶ岩ナルガン

「星に叫ぶ岩ナルガン」(パトリシア・ライトソン/作 猪熊葉子/訳 評論社 1982)

原題は、“The Nargun and the Stars”
原書の刊行は、1973年。

訳者あとがきによれば、作者のパトリシア・ライトソンは、1921年生まれ。
オーストラリアのひと。
内容については、巻末の出版広告に掲載されている。この本の紹介を引こう。

《太古の岩ナルガンが深い眠りからさめ、再び大地を移動し始めた! オーストラリア原住民アボリジニーの伝説を基に描かれたファンタジーの世界。》

見返しには、作品舞台の地図がついており、物語の理解を助けてくれる。

第1章のタイトルは、「ナルガン動く」
これはプロローグに当たる章。
ナルガンといううごく岩が、ウォンガディラという山深い土地にやってきたこと。
このあたりの沼や木にすむ古い生きものたちは、それを黙認していること。
そして、この土地で生まれ育った、チャーリー・ウォータースと、その妹イディの、歳をとった兄妹がここで暮らしているということ。

2章目から物語はスタート。
主人公の名前は、サイモン・ブレント。
年齢は書いていないが、10歳くらいに思える。

交通事故で両親を亡くしたサイモンは、ウォータース兄妹の家にもらわれることに。
2人は、サイモンのお母さんのまたいとこに当たる。
それまで、サイモンはウォンガディラなんて地名を聞いたことがなかった。

イディがサイモンを迎えにきて、2人は汽車に。
駅ではチャーリーが迎えにきてくれ、1時間以上もドライブして、やっとウォンガディラの家に到着。
チャーリーとイディは、ここで牧羊を営んでいる。

サイモンは、あたりを探検。
山の上に沼があり、そこに昔からすんでいるポトクーロックという生きものと出会う。
ポトクーロックはいたずら好きな、河童みたいな生きもの。
また林には、大勢の、ツーロングと呼ばれる小人のような生きものがすんでいる。

ところで。
最近、山にはブルドーザーや地ならし機械――これは原文のママ。ローラー車みたいなものだろうか――が入りこみ、大きな音を立てて、木々をなぎ倒している。
古い生きものたちは、これが気に入らない。
ある嵐の晩、ツーロングとポトクーロックは、地ならし機械を沼に沈めてしまう。

翌日は大騒ぎ。
警察がきたり、近所のひとたちが駆りだされて捜索がはじまったり。
もちろん、地ならし機械はみつからない。
それどころか、ブルドーザーまで行方不明に。
地ならし機械が沼に沈んでいることは、ポトクーロックに教わってサイモンは知っていた。
けれど、ブルドーザーの行方はわからない。

ひとりでブルドーザーをさがしていると、サイモンは不思議なことに気づく。
前に、大きな岩に生えた苔に自分の名前を書いておいた。
その大きな岩が、なぜか峡谷の上にきている。
これもツーロングのしわざだろうかと考えていると、ぺちゃんこに押しつぶされた羊をみつける。
サイモンがポトクーロックにこの岩のことを訊くと、この古い生きものはいう。

《「あれはここのものじゃない。あれはナルガンなんだ」》

サイモンは、チャーリーにこのことを相談。
この土地で生まれ育ったチャーリーは、ポトクーロックやツーロングのことをよく知っていた。
あとでわかるけれど、もちろんイディも。

サイモンとチャーリーは、ナルガンを調べにいく。
ナルガンは、一見ただの大きな岩にしかみえない。
が、サイモンが木の棒を投げつけると、はね返ってくる。
サイモンはあやうく、はね返ってきた木の棒にぶつかりそうになる。

チャーリーがロープと馬のサプライズをつかって、ナルガンをうごかそうとすると、ナルガンは抵抗する。
また、そのとき生じたナルガンのかけらは、坂を上っていった。

その晩、ナルガンはサイモンたちが眠っているウォンガディラの家に忍びよってくる――。

評論社の児童書は、一体これは子ども向きの本だろうかと思うものが多い。
本書も、そんな作品のひとつ。
ナルガンがウォンガディラの家をのぞきにくる場面など、ほとんどホラーめいている。

このあと、サイモンとチャーリーは、ポトクーロックやツーロングたちと会見。
これら土地の精と話すには、面倒な手続きがいるのだが、サイモンがそれをやりおおせて三者協議となる。
ポトクーロックやツーロングも、ナルガンのことを好ましく思っていない。
できれば追い払いたいと思っているが、やりかたがわからない。

ナルガンのことを知っているのは、洞穴にすむナイオルだと、ツーロングはいう。
ナイオルに会うためには、サイモンがひとりでナイオルたちを訪ねなければいけない――。

ポトクーロックやツーロングやナイオルといった土地の精たちは、人語を解するものの、人間をそれほど気にとめていない。
かれらははるか昔から、この土地に暮らしている。

またナルガンは、土地の精たちよりも、さらに昔から存在している。
そして、ここが大事なところだが、ナルガンは別に敵ではない。
人間と、土地の精と、ナルガンのもつ時間はそれぞれちがっている。
今回の出来事は、それぞれ別の時間をもつ者たちが出くわしたために生じたにすぎない。
人間と土地の精にとっては、ナルガンを追い払えればそれでいいのだ。

この作品は、3人称多視点。
視点はときおりナルガンにも移る。
視点の移行はたいへんスムーズ。

この作品は、アボリジニの伝説をもとに書かれたと紹介文にはある。
もとの伝説はどんなものなのだろう。

児童書には、子どもが都会をはなれ、親戚の家にやってくるといったパターンの話がたくさんある。
でも、親戚の家で、同年代の子どもにまったく会わないという作品も、ずいぶんめずらしい。
人間関係の話ではなく、自然と人間の話であることが、このことからもよくわかるものだ。


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