バッファロー・ボックス

「バッファロー・ボックス」(フランク・グルーバー 早川書房 1961)

訳は、中桐雅夫。

フランク・グルーバーの小説を、かってに右往左往小説と名づけている。
主人公が、いつでもせわしなく右に左に走っているからだ。
この小説もまた同様。

内容は、西部開拓史で有名な(といっても、この本を読むまで知らなかったけれど)、ダナー隊の悲劇に想を得たもの。
1846年、ダナーとリード両家を中核とするカリフォルニア移住者の一団は、冬の積雪に閉じこめられてしまった。
生き残った者が、仲間の肉を食べて飢えをしのぐという凄惨な事態が生じるのだが、このダナー隊の参加者のひとりがつくったのが、バッファロー・ボックス。
バッファローの浮き彫り細工がほどこされた箱だ。

で、この箱にかくされた、遺産やら宝やらをめぐり、生き残ったダナー隊の子孫たちが攻防を繰り広げる──というのが、おもなストーリー。

一族のひとりから依頼を受け、この攻防に巻きこまれるのが、本編の主人公である、ハリウッドの私立探偵、サイモン・ラッシュ。
グルーバー作品の主人公にふさわしく、ラッシュも不眠不休で東奔西走する。

あんまり走りまわるせいか、スピードがありすぎて、登場人物がだれがだれやらわからなくなる。
それでも、気持ちよく読み進めるこどができるけれど、本を閉じると、もうなにもおぼえていない。
まさに、読物のなかの読物といった感じの小説。
都築道夫さんが、「2流の大家」と呼んだ、グルーバーの面目躍如といったところ。

それから。
本筋からはなれた楽屋落ちがひとつあって、それがなんだか面白かった。
作中、手品の細工がほどこされた日本製の箱がでてくる。
どういう仕掛けなのかとたすねられたラッシュは、こんな風にこたえるのだ。

「もし教えたりしたら、タネを明かしたというかどで、フランク・グルーバーが184人の奇術師から責めたてられるよ」

マンガならともかく、こういう楽屋落ちを小説でやるのは、すこぶるむつかしい。
それが読めるものになっているのは、無内容といっていい内容と、スピード感のある話はこびのおかげだろう。

もうひとつ。
本書のなかに「手袋入れ」ということばがでてきた。
きっと、グローブ・ボックスのことにちがいないと、あとで気づいた。
古い翻訳ものを読むときは、固有名詞の訳しぶりをみるのが面白い。

とにかく、気楽に読める楽しい作品だった。


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