おいしいものさがし

「おいしいものさがし」(ナタリー・バビット/作 越智道雄/訳 富山房 1971)
原題は、“The Search for Delicious”
原書の刊行は、1969年。

児童書。
3人称、ほぼ主人公のゲーレン視点。

まずプロローグ。
昔むかし、山には小人たちが、森には森の精が、湖には人魚が、空には風の精がいた。
ある日、鉱石を得ようと小人が穴を掘っていると、そこから泉がわきだした。
小人たちはその泉が気に入り、石を積み、小屋をつくった。
そして、小さな石で笛をつくり、その笛である曲を吹くと、小屋の扉が閉じたりひらいたりできるようにした。

何年かたつと、泉の水はどんどんたまり、湖となり、人魚がすむようになった。
そのなかに、アルディスという小さな可愛らしい人魚がいた。
ひとりの小人が、このアルディスに人形をつくってやった。
お礼にアルディスは、いまはもう湖に沈んでしまった泉の番をすることにした。
小人たちは、例の笛をアルディスに預けた。

あるとき、岸辺に男がひとりやってきて音楽をかなでた。
アルディスはその音色にすっかり聞きほれた。
すると、男はとがった岩にぶらさがっている笛をみつけ、それをもっていってしまった。
男は笛を吹いたので――その音は人間には聞こえないのだが――泉の小屋の扉は閉まり、そのためアルディスはなかにいた人形をとりだすことができなくなってしまった。

さて、本編。
王国の総理大臣、デグリーは辞典を作成中。
ところが、「おいしいもの」の項目で王から反対意見がだされた。
「おいしいもの、は魚のフライ」
という一文が、魚のフライが嫌いな王のお気に召さなかったのだ。

その場に居あわせた将軍は、「おいしいものは一杯のビール」といい、お妃は、「おいしいものはクリスマス・プティング」だという。
ちなみに王が好きなのはリンゴ。
みんなが好き勝手なことをいい、収拾がつかない。
宮殿は不穏な空気につつまれる。

解決策として、デグリ―はすべての国民から「おいしいもの」を聞きとることを王に進言。
もと捨て子で、デグリ―のもとで息子として育てられた12歳の少年ゲーレンが、この任務のために旅立つことに。

というわけで、マロウという名前の馬に乗り、ゲーレンは出発。
王国には4つの町があり、それを順番にまわっていくのだが――。

とまあ、こういったのんきな感じで物語ははじまるのだが、後半になるにつれ思いもかけない展開に。
この作品は、ジャンルとしては童話とファンタジーの中間に位置しているように思える。
王国に妖精、おいしいものさがしといった道具立ては童話的だけれど、その後の展開は社会性があり、童話からファンタジーに傾いている。

おいしいものさがしは、もちろんうまくいかない。
各自、勝手なことをいってあらそうありさま。

それに、悪者が登場する。
お妃の弟、ヘムロック。
ゲーレンの先回りをし、国民が食べてもいいものといけないものをさだめる法律を、王がつくろうとしていると触れまわる。
ゲーレンはそのための調査にきたのだといって、町のひとたちを脅かす。

そのため、ゲーレンがある農夫の一家においしいものをたずねたところ、その夫婦は断固として野菜とこたえる。
野菜が食べてはいけないものになったら、一家は食べていけない。
夫婦の子どもは、最初お菓子とこたえるけれど、父親にきびしく叱られ、野菜とこたえるようになる。

ヘムロックの策略は功を奏し、王国はかりかりした食べ物が好きなクリスプ党と、どろどろした食べ物が好きなスコッシュ党に分裂。
戦争をはじめる。

ところで、プロローグにあらわれた、かわいそうな人魚のアルディスは物語にどうかかわってくるのか。
ゲーレンは旅の途中、森の精や、旅まわりの詩人や、おばあさんが飼っているカラスや、山で出会った小人たちから、人魚のアルディスの物語を知るようになる。
また、ヘムロックがゲーレンの先まわりをし、アルディスについてあれこれさぐりを入れていたことがわかる。
というのも、ヘムロックは湖をせきとめ、川を干上がらせ、その混乱に乗じて王を殺害しようとたくらんでいたからだ。

一方、おいしいものさがし。
町にいくと、こいつが戦争を引き起こした張本人だと、ゲーレンは町のひとから食べ物を投げつけられる。
ゲーレンは意気消沈。
昔、妖精たちがすぐにあらそいをはじめる人間たちに愛想をつかして、自然のなかにかくれたように、ゲーレンももう人間からはなれて暮らそうと決意するのだが――。

おいしいものであらそうなんてばかげたことだ。
物語の冒頭で、そういうゲーレンに、デグリ―はこうこたえた。

《「もちろん、ばかげたことじゃ」そうり大臣はじれったそうにいった。「だがのう、大事件というものは、たいていはばかげたことからはじまるものなんじゃ」》

後半、物語はやけにきびしさを増していく。
でも、そこはまだ児童書の範疇におさまっていて、最後は大団円をむかえる。


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