短編を読む その28

「ルークラフト氏の事件」(W・ベサントとJ・ライス)
「ディナーで殺人を 上」(東京創元社 1998)

これは中編。「笑いを売った少年」という児童書があるけれど、本作は「食欲を売った青年」といった風。ある老人に食欲を売る契約をした青年。すると自分では飲み食いをしていないのに、腹ははちきれんばかりになり、たいそう酔っ払う始末。味覚を失い、自分のからだを維持するためだけに細ぼそと食べ物をとり、あとは老人の暴飲暴食のために心身を痛めつけられる。ストーリーに意外性はないけれど、古風な文章が楽しい。この作品が読めただけでも、この本を読んでよかった。

「港の死」(E・D・ホック)
「こちら殺人課」(講談社 1981)

ひとりヨットに乗っていた医師が、何者かに拳銃で撃たれ殺害される。一週間後、こんどは漁船にひとりで乗っていた漁師が、同じ拳銃で殺害。レオポルド警部は、スキューバ・ダイビングに詳しい部下に調査を命じる。本書はレオポルド警部ものをあつめた作品集。それにしてもレオポルド警部はひどい目にあってばかりで気の毒だ。

「錆びた薔薇」(E・D・ホック)
同上

3年前に殺された作家の娘が、ある記者から、自分は作家を殺した犯人を知っているという手紙を受けとる。が、その記者は何者かに殺害されてしまう。犯人は作家の娘なのか。娘に好意をもつレオポルド警部は苦悩する。

「ヴェルマが消えた」(E・D・ホック)
同上

ヴェルマという少女が、観覧車に乗ったきり姿を消すという事件が発生。観覧車のかごが地上にもどってきたときには、ヴェルマはいなくなっていた。レオポルド警部は、ヴェルマのボーイフレンドや、ヴェルマの友人だったボーイフレンドの妹、また観覧車の係員に聞きこみを開始する。

「月曜日に来たふしぎな子」(ジェイムズ・リーブズ)
「月曜日に来たふしぎな子」(岩波書店 2003)

ある嵐の晩、パン屋一家のもとに女の子が転がりこんでくる。マンデーと名乗るその子は、親もなければ家もない。仕方なくパン屋一家が引きとるのだが、マンデーは学校へもいかず、面倒ばかり引き起こす。

「おばあさんと四つの音」(ジェイムズ・リーブズ)
同上

小さな家でひとり暮らしをしているおばあさん。ドアはキイキイと鳴り、床板はキュッキュッといい、窓はゴトゴトと音を立て、ネズミはトコトコと歩いていく。隣りの親切な大工さんが、これらの音が立たないように直してくれるというのだが、音がなくなることを思うとさみしい。すると、ある晩、音の妖精たちがおばあさんの前にあらわれる。

「水兵ランビローとブリタニア」(ジェイムズ・リーブズ)
同上

びんの中の船に乗っている、水兵の人形ランビロー。ある日、びんの船が女の子に買われ、ランビローはお屋敷にいくことに。じき、同じ店で売られていたスノードームに住むブリタニアもお屋敷にやってくる。たがいに惹かれあうものの、人形のことなので、2人はなかなか近づけない。

「エルフィンストーンの石工」(ジェイムズ・リーブズ)
同上

大工とおにろく風のお話。腕はいいものの、さぼりぐせのあるマーティン。あと6週間で、教会の塔の胸壁と、ガーゴイルを40体つくらなければならない。マーティンの趣味は密猟で、ある日ウサギとまちがえてエルフを捕まえる。エルフは、マーティンの仕事を手伝おうともちかけるが、代わりにマーティンは娘をやらなくてはいけない。ただ、おれの名前をいい当てたら、娘をよこさなくてもいいし、生きているおれを2度とみることはないだろう。

「フ―の花瓶」(ジェイムズ・リーブズ)
同上

昔、東方のチェン国にまだ音楽がなく、ただ花瓶の横腹を小さな槌でたたいてだす音だけだった頃。やきもの師のフーは、王女さまからごほうびがいただけるような花瓶をつくろうと努力するのだが、審査ではいつも笑いものになるばかり。3回応募しても駄目だったので、ついにフーは投獄されてしまう。

「雪女」(岡本綺堂)
「鷲」(光文社 1990)

奉天に近い、芹菜堡子(ぎんさいほし)という寒村で怪異に出会ったひとが、それを作者に語ったという体裁の短編。そのひとは吹雪の夜、この寒村の一軒に泊めてもらえることになったのだが、家の者はなにかにおびえている。というのも、昔、清の太祖が瀋陽(しんよう)――いまの奉天に都を建てた頃のこと。太祖の寵を得ていた姜氏という女性が妬まれ、太祖の近臣と不義をはたらいていると訴えられて、2人は渾河(こんが)に投げこまれてしまった。それ以来、大雪の降る夜には美女があらわれ、出会う者は命をなくすという。


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