短編を読む その19

「不思議の国の悪意」
「不思議の国の悪意」(ルーファス・キング 東京創元社 1999)

幼いころ親友が誘拐されたという経験をもつ女性。結婚を目前に、婚約者が事故を起こしてしまう。が、その事故は昔の誘拐事件にかかわりをもつものだった。伏線がぎゅうぎゅう詰め。最後、いくつもの要素が見事に収斂する。

「ピアノ教師の上達ぶり」(S・N・ベアマン)
「ニューヨーカー短篇集 3」(早川書房 1976)

少年時代、突如ピアノを習いはじめたころのことをユーモラスに回想した作品。友人の献身により、部屋とピアノとピアノ教師をあてがわれたのだったが、才能の乏しさと経済的な理由から、ピアノ教師に長くピアノを弾いてもらうよう仕向けていく。

「古写本の呪い」
「タラント氏の事件簿」(デイリー・キング 東京創元社 2018)

見張っていたのに消えてしまった古文書の謎をタラント氏が解き明かす。タラント氏は変なところから登場する。

「〈第四の拷問〉」
(同上)

〈第四の拷問〉と名づけられた湖のボートから、乗っていたひとたちが身投げするように亡くなる事件が起こる。この怪事件をタラント氏が解決する。ミステリよりもモンスター小説というべきか。大変恐ろしい。

「釘と鎮魂歌」
(同上)

タラント氏が住んでいるアパートのペントハウスで密室事件が発生。犯人はまだ室内に潜んでいるのか。

「エミリーがいない」
「クライム・マシン」(ジャック・リッチー 晶文社 2005)

妻を殺したと思しき夫と、それを探りだそうとする妻の従姉妹。2人の攻防をえがいたサスペンス小説と思ったら…。状況だけなら、ジョン・コリアの「死者の悪口を言うな」に似ている。夫婦殺人はなんとヴァリエーションに富んでいることか。

「ルーレット必勝法」
(同上)

ルーレット必勝法を編みだしたという男に、カジノ経営者が悩まされる。カジノ経営者の視点から書いてあるところがミソ。

「カーデュラ救助に行く」
(同上)

路上で強盗にあっている女性を助けたものの、女性には去られ、警察には疑われてしまったカーデュラ。しかも翌日、まったく同じことがくり返される。吸血鬼探偵カーデュラ物の一編。

「フェスティヴァル」
「時は老いをいそぐ」(アントニオ・タブッキ 河出書房新社 2012)

警察国家で弁護士をしていた人物から、記録係として法廷を撮影しにきた映画監督のおかげで裁判が有利になったという話を聞く。

「墓堀り男をさらった鬼の話」
「ディケンズ短篇集」(ディケンズ 岩波書店 1986)

クリスマスの夜、ひねくれ根性の墓堀男が鬼にさらわれ、さまざまな映像をみせられ改心する。解説によれば、「ピクウィック・クラブ」中の一編で、「クリスマス・キャロル」の原型とのこと。


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短編を読む その18

「死体をかつぐ若者」(ウィリアム・アイリッシュ)
「アイリッシュ短編集 3」(東京創元社 1973)

継母を殺した父を救うため、死体を隠そうとする息子。大変な緊張感。

「木石雲」(カーソン・マッカラーズ)
「悲しき酒場の唄」(白水社 1990)

新聞配達の少年が酒場で、妻に逃げられた老人から、愛の哲学を聞かされる。いきなり女に恋をしてはいけない。木石雲を愛することからはじめなくてはいけない、などと老人は語る。

「淵の死体」(ルーファス・キング)
「不思議の国の悪意」(東京創元社 1999)

ギャングが死体を淵に沈めるのを目撃した老婦人。報復を恐れながらも裁判で証言し、ギャングは電気椅子送りになる。ところがある日、家に不審な侵入者があらわれる。どんでん返しが楽しい。

「思い出のために」(ルーファス・キング)
「不思議の国の悪意」(東京創元社 1999)

継母が砒素をつかい夫を殺害。遺灰を海に撒き、証拠はないと勝ち誇る。次に狙われるのは娘と思われたが――。おとぎ話のような設定の一編。

「子守女」(エミリー・ハーン)
「ニューヨーカー短編集 3」(早川書房 1986)

日本軍に占領された香港。〈わたし〉は陸軍捕虜収容所にいる夫に、娘の姿をみせるため、子守女と苦心をする。

「マイアミプレスの特ダネ」(ルーファス・キング)
「不思議の国の悪意」(東京創元社 1999)

勝気な女性が、特ダネを狙ったあげく誘拐されてしまうのだが、最後はすべてがうまくいく。スクリューボール・コメディ風サスペンス。

「いっぷう変わった人々」(レーナ・クルーン)
「木々は八月に何をするのか」(新評論 2003)

嬉しくなると宙に浮かんでしまう女の子。ちゃんとしてちょうだいと親にいわれても、なかなかちゃんとできない。女の子は影をもたない男の子や、鏡に姿がうつらない男の子と友だちになり、3人でクラブを結成する。ロダーリの作品にも似た、児童文学のような味わい。

「悲しき酒場の唄」(カーソン・マッカラーズ)
「悲しき酒場の唄」(白水社 1990)

独立独歩で、訴訟好きで、医者の真似事が好きな女性と、その女性と一緒に暮らすことになった女性のいとこ、そして女性の元夫との奇妙な関係をえがいた中編。西部劇のようだ。

「秘密のコーヒー 葦の物語」(レーナ・クルーン)
「木々は八月に何をするのか」(新評論 2003)

夏、いつもコーヒーを飲む桟橋の上で、少女が見知らぬ少年に出会うという幽霊譚。

「青白い月」(眉村卓)
「ロマンチックSF傑作選」(集英社 1977)

パラレルワールドに迷いこんだ〈ぼく〉は、殺人容疑をかけられ、見知らぬ女性と逃避行をしたあげく、心中をせまられる。編者は豊田有恒。これの一体どこがロマンチックなのか。


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