トレジャー オトナたちの贈り物

DVD「トレジャー オトナたちの贈り物」(ルーマニア 2016)

ルーマニア映画。
ストーリーはいたってシンプル。
おじさんたちが宝探しをする話。

主人公のコスティは妻と息子の3人暮らし。
ある日、同じアパートに住むネゴエスクという男が訪ねてくる。
800ユーロ貸してくれないか、とネゴエスク。
7万6000ユーロも借り入れて、利子だけで1万7000もかかる。
家は差し押さえられてしまった。
借りたのは2006年。
最後に借りた金を返したのは3年前。
元金は返したんだが、まだ利子が残っている。

ネゴエスクは出版社を経営していた。
ルーマニア人で年に1冊以上読書するのは2%だけだ、とコスティ。
出版していたのはパンフレットのたぐいだ、不況のあおりを受けたんだ、とネゴエスク。

ともかく、コスティはこの話を断る。
ところがネゴエスクは、一度は退散したものの、再び話をもちかけてくる。

曽祖父が、共産党台頭以前に宝を埋めたといういいつたえがある。
その宝をみつけたい。
金属探知機と業者を雇うカネをだしてくれたら、宝は折半する。
この宝の話は祖父から聞いたので、父母は知らないことだ。

なぜ、きみの祖父は宝を掘りださなかったのか、とコスティ。
1947年に強制退去させられた。
あの家にもどったのは革命後の1998年だった。
家にいなかったんだ。

コスティはこの話に乗る。
金属探知機をあつかう業者は800ユーロかかるという。
そんなおカネはコスティにはない。
コスティは妻に、きみのお父さんに無心してくれないかと頼む。

コスティは仕事を抜けだし、業者とかけあう。
金額は、金属探知機をつかう面積できまる。
ネゴエスクの曽祖父の家は800平方メートルあるので、金額も800ユーロ。
それに、もし古い硬貨をみつけたりしたら、警察に届けないといけない、と業者。
国家遺産とみなされれば国有財産になり、対価の30%をもらえる。
もし報告を怠れば、逮捕される。

業者と話をしたあと、業者に雇われているコルネルという男がコスティに声をかけてくる。
週末、400ユーロでどうだ。
週末なら黙って探知機をもちだせるから。

以上の結果をたずさえ、コスティはネゴエスクと話しあう。
硬貨がみつかっても警察には届けない、とネゴエスク。
ジプシーに売り、かれらが硬貨を溶かせば、ばれない。
コスティはその意見に反対し、ネゴエスクは折れる。

こうして週末、コスティと、ネゴエスクと、金属探知機をもったコルネルは、ネゴエスクの曽祖父の家にあつまり、庭で宝さがしをすることに――。

宝さがしものというと、すぐ思いつくような要素が、この作品にはまったくない。
ほかのだれかと、宝をみつける競争をするということがない。
謎を解くと、次の謎があらわれるということがない。
宝を得たあと、裏切りと逃走と奪還がえがかれるということがない。

銃撃戦もなければ、アクションシーンもない。
あるのはせいぜい、いいあらそうことくらい。

会話の場面では、向かい合った2人を横から撮る。
交互に2人の顔を映すなんてことは、あんまりしない。
だんだんカメラが2人に近づいていく、なんてこともしない。
ただただ、横から2人の会話を映す。

また驚いたことに、この作品には音楽もない。
音楽は、エンドロールで英語の歌が流れるだけ。
ルーマニア映画をみたのははじめてだけれど、まさかルーマニア映画がみんな、音楽がついていないわけではないだろう。
いくらなんでもストイックすぎやしないか。

これでは単調すぎてみてられないのではないかと思うけれど、そんなことはない。
たんたんとした語り口には、充実した退屈さとでも呼びたいものがある。
まあ、みていられないひとがいても、おかしいとは思わないけれど。

ジャケットによれば、本作は第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門ある才能賞を受賞したとのこと。
受賞したおかげで、日本で公開され、こうしてDVDになり、みることができたのだろう。

本作の副題は、「オトナたちの贈り物」。
話の最後に、この副題の意味がわかる仕掛けになっている。


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レイヤー・ケーキ

DVD「レイヤー・ケーキ」(イギリス 2004)

イギリスの犯罪映画。
主人公は麻薬のバイヤー。
不動産業という表の顔をもち、ちゃんと納税し、なるべく目立たず、カネが貯まったら早めに引退しようと考えている。
が、そんな人生設計のさまたげになる出来事が。

ひとつは、つきあいのあるギャングのボスから、ひと捜しを頼まれたこと。
ボスの友人の娘で、施設に入っていたが、そこを逃げだしたという。

もうひとつは、アムステルダムからもちこまれた麻薬の取引について。
セルビア人が工場で大規模に生産していた麻薬を、イギリス人のギャングが強奪し、国内に
もちこんできた。
主人公はビジネスライクに取引を進めたいのだが、ギャングは荒っぽく、話し合いは難航。
加えて、セルビア人には主人公も強奪仲間とみえたようで、殺し屋がさし向けられる――。

悪党たちのだし抜きあいといったたぐいの作品。
とても面白いけれど、登場人物が多く、ストーリーはややこしい。
紹介もこれで合っているかどうか。

最初のほうに、アイロンで拷問を受けた死体が登場する。
じつに衝撃的だけれど、この死体はだれだったっけと思う。
それに、捜していた麻薬中毒の娘はけっきょくどうなったんだっけ。
こういうとき、何度も手軽に見返すことができるDVDはありがたい。

シーンのつなぎ目は大変なめらか。
ときおりはさまれるユーモアも効いている。
殺し屋に狙われた主人公は、ある別の悪党に手助けをもとめる。
この悪党はなぜかフランス語を習っており、いつもヘッドフォンをしている。
主人公が声をかけると、来週テストなんだといって怒る。

登場人物をひとりひとり見分けるよりも、グループ分けしてみたほうが、この作品の場合いいのかもしれない。
主人公は、作中、グループのあいだを上下に移動する。
そうして観客に、社会のある断層を切りとってみせてくれる。
その点、この映画は悪漢小説の末裔といえる。


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