審判の日

「審判の日」(ジャック・ヒギンズ/著 黒原敏行/訳 角川書店 2004)
原題は、“Day of Reckoning”
原書の刊行は、2000年。

ショーン・ディロン・シリーズ第8作。
元妻を殺害されたアメリカ大統領直属捜査機関〈ペイスメント〉の責任者、ブレイク・ジョンスンが、ディロンたちとともに復讐を遂げる――というのが、今回のストーリー。

まず、プロローグ。
ブレイク・ジョンスンがどこかの城に捕らわれ、古井戸のようなところで水責めにあっている。
ヒギンズは、シチュエーションをつかいまわすのが好きだが、この水責めの場面もさまざまな作品で何度もつかわれている。

ジョンスンを捕まえたのはジャック・フォックスという男。
フォックスは、ジョンスンを助けにくるはずのディロンを返り討ちにしようとしている。
なぜこんなことになっているのか。
以下、カットバックでその仔細が語られる。

本編冒頭。
ジャック・フォックスは、大伯父のドン・マルコ・ソラッツォより注意を受ける。
フォックスは湾岸戦争で勲章をもらった英雄であり、投資家。
が、母親はシチリア・マフィア(またしても!)のドンであるマルコ・ソラッツォの姪。
フォックスには、マフィアの幹部という裏の顔がある。

ドン・マルコによる注意は以下。
まず、キャサリン・ジョンスンというジャーナリストの取材を受けたこと。
この女はなにかをさぐっている。

次に、クラブに卸す安いウィスキーをつくる工場を経営し、フォックスが私腹をこやしていること。
また、IRAへの武器供与をしていること。
それから、ロンドンのカジノ〈トロカデロ〉の経営はともかく、ロンドンの犯罪者連中と組んで武装強盗を指揮していること。
すべて、ドン・マルコに隠れてやっていることだ。
フォックスは恐縮する。

ドン・マルコにいわれたとおり、フォックスは部下をつかいキャサリン宅を捜索。
キャサリンはやはりフォックスとマフィアのつながりを追っていたことがわかる。
部下のファルコーネに指示し、キャサリンを薬物で殺害。
埠頭から海に投げ入れる。

たまたま散歩をしていた、ニューヨーク市警ハリー・パーカー警部が知らせを聞き、その遺体を回収。
パーカー警部は前作、「ホワイト・コネクション」に登場した人物だ。
キャサリン殺害の知らせは、パーカー警部からジョンスンのもとへ。

キャサリンが残したビデオテープから、元妻を殺害したのはフォックスだと、ジョンスンは確信。
キャサリンは、フォックスの会計士だったゴフという男から、フォックスについての詳しい情報を得ていた。
ドン・マルコが指摘したこと以外に、フォックスはファミリーの金をつかいこみ、マネー・ゲームに手をだし、アジア経済危機のあおりで大損をしていた。
また、イギリスのコーンウォール州に城を所有していて、そこをアジトとして使用していた。
もちろん、その後ゴフは消されている。
(お城がでてくるのも、またしても!だ)

証拠がとぼしいため、フォックスを法的に訴追することはできない。
ジョンスンは、ディロンやファーガスン准将のバックアップのもと、また大統領のお目こぼしのもと、フォックスへの復讐をもくろむ――。

こう書いてくるとジョンスンが主人公のようだが、そうではない。
ジョンスンには動機があるだけで、主人公はあくまでディロン。
途中、ジョンスンは負傷してしまい、その後はディロンが復讐計画を引き継ぐ。

本作のストーリーは、冒頭のドン・マルコとフォックスの会話にほとんど尽きている。
ジョンスンとディロンたちは、フォックスの悪事をひとつひとつ順番につぶしていくのだ。

まず、ブルックリンにあるウィスキー工場を破壊。
次に、イカサマ疑惑を捏造してロンドンのカジノを営業停止に追いこむ。
さらに、ベイルートでIRAとの武器取引に介入。
アイルランドでは、IRAの武器隠匿場所を破壊。
それから、ロンドンで銀行強盗を邪魔し、コーンウォールの城でフォックスと対決する。

フォックスのもとには、コンピュータによる情報収集の逸材がいる。
マサチューセッツ工科大学で情報伝達科学を教えていた女性、モード・ジャクスン。
現在70歳で、カモにされやすいくせに賭け事が好きで、いつも金に困っている。
モード・ジャクスンの絶技のおかげで、フォックスはジョンスンやディロンについての機密情報を得る。

ディロンたちにも同様の人物が。
「ホワイトハウス・コネクション」でレディ・ヘレン・ラングにコンピュータの不正な活用法を教えた、元陸軍工兵隊のローパー。
IRAによる自動車爆弾のため、車イス生活を余儀なくされている人物。
ローパーは、カジノでイカサマを捏造するさい、またその後の情報収集でも大活躍する。

ベイルートでの作戦には、ギデオン・コーエン中佐、アニヤ・シャミル大尉、モシェ・レヴィ大尉のモサドの面々が協力する。
皆、「闇の天使」に登場。
「闇の天使」でのベイルートのエピソードは、全体のストーリーからみて不要と思われるようなものだったけれど、こうしてみると作品世界を広げる役は充分に果たしたようだ。

フォックスと取引するIRA側の人物は、ブレンダン・マーフィ。
和平プロセス反対している跳ね上がり。

IRAにかんする情報は、例によってリーアム・デヴリンから仕入れる。
ハンナ・バーンスタイン警部がアイルランドに飛び、デヴリンと対面。
デヴリンは、元IRAでいまはスリラー作家をしているマイケル・リアリーをバーンスタイン警部に紹介。
マイケル・リアリーは「大統領の娘」に登場している。

リアリーは、マーフィの仲間のひとりであるショーン・リーガンが、ヒースロー空港で逮捕されたという情報をバーンスタイン警部につたえる。
なぜ警部がこの情報を知らないのか。
秘密情報部が特別の令状で逮捕したため。
ファーガスン准将たちと秘密情報部はたいそう仲が悪いのだ。

話を聞いたファーガスン准将は、秘密情報部の副長官サイモン・カーターに圧力をかけ、リーガンの身柄を確保。
脅かして、武器の隠匿場所を訊きだす。

フォックスはロンドンのギャング、ジェイゴ兄弟と組んで銀行強盗を計画。
それを邪魔するためにディロンたちは、「悪魔と手を組め」に登場した昔気質のギャング、ハリー・ソルターの手をかりる。
ハリーの甥ビリーは、銀行強盗の邪魔ばかりでなく、マーフィによる武器隠匿地の破壊や、拉致されたブレイク・ジョンスンの救出など、ディロンとともに死地におもむき大活躍をみせる。

このビリーは、なぜか哲学書を読むのが好き。
ヒギンズ作品に何度も引用される、オリヴァー・ウェンデル・ホームズの一節を読み、打たれたりする。

「審判の日」は、全体としては単調かつ低調。
まあ、8作も書いていたら低調になるのも仕方がない。

でも、こうして過去のシリーズに登場した人物が次つぎとあらわれる。
この人物はどの作品にでていたっけなどと考えるのが、なかなか楽しい。
これは、シリーズものの功徳といえるだろうか。



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )