短編を読む その33

「ヌラルカマル」(ルゴーネス)
「アラバスターの壺/女王の瞳」(光文社 2020)

ブエノスアイレスに金細工を売りにきたアルベルティ氏から〈わたし〉が聞いた話。3千年ごとの生まれ変わりがいいつたえられているベドウィン族出身のアルベルティ氏は、アラビア語で月光を意味するヌラルカマルに恋をし、彼女への贈り物を得るため、占星術師の助けをかりて、失われたシバの国の都におもむく。

「ロセンド・フアレスの物語」(ボルヘス)
「ブロディーの報告書」(岩波書店 2012)

〈わたし〉がロセンド・フアレスから聞いた話。決闘で相手を殺したフアレスは、警察に捕まるが、その後釈放。党の用心棒になり、選挙のときにはなくてはならぬ人物にのし上る。ところが年上の友人が、女をとられたために喧嘩をしたあげく殺されたことから様子が変わる。酒場にやってきた、みかけない連中のひとりから決闘を申し込まれたフアレスは、この威勢のいい間抜けな男が、鏡に映った自分のような気がして恥ずかしくなる。

「めぐり会い」(ボルヘス)
同上

幼いころ、決闘を目撃した〈わたし〉の回想。決闘した2人がつかったナイフには、以前、別の持ち主がいた。そして、その2人も憎みあっていた。闘ったのは人間ではなくナイフだったのではないか。

「フアン・ムラーニャ」(ボルヘス)
同上

〈わたし〉が無法者のフアン・ムラーニャの甥から聞いた話。ムラーニャが死んでから、ムラーニャの連れ合いだった伯母は少しおかしくなった。家賃の不払いのために追い立てをくらいそうになっても、そんな真似はファンが許しはしないというばかり。ある日、家賃を待ってらうよう、おふくろとぼくとが頼みにいくと、家主はめった突きで殺されていた。

「争い」(ボルヘス)
同上

クララとマルタという2人の女性画家の物語。2人は対抗し、またある意味2人のために描き続けた。クララが亡くなると、マルタはクララの肖像画を公開したのち筆を折る。

「マルコ福音書」(ボルヘス)
同上

いとこに避暑にくるよう誘われた、お人好しの医学生エスピノサ。いとこが所用ででかけたあと、雨が降り続いて、川が氾濫。農場を監督する一家が屋敷にきて一緒に暮らすことに。屋敷のなかで英語版の聖書をみつけたエスピノサは、食後、一家にマルコ福音書を読んでやる。すると福音書に感化された一家は、エスピノサに対し思いがけない行動にでる。

「巻尺殺人事件」(アガサ・クリスティ)
「愛の探偵たち」(早川書房 1980)

ミス・マープル物の短編。仕立て女のミス・ポリットが訪ねたところ、スペンロー夫人が死体で発見される。容疑者はその夫で、ちっとも動じていないというのがその理由。また、夫人は昔メイドをしており、その屋敷では盗難事件があったという。タイトルが結末を明かしてしまっている。

「非の打ちどころがないメイド」(アガサ・クリスティ)
同上

メイドのエドナから、スキナー姉妹のもとでメイドをしている従姉妹のグラディスがクビになったという相談を受けたミス・マープル。姉妹は〈オールド・ホール〉という大きな建物の、4つのフラットのうちひとつを借りて住んでいる。姉妹のうち妹のほうは、気の病で寝てばかりいるという。グラディスをクビにした姉妹は、メアリーという非の打ちどころのないメイドを雇い入れたのだが、じきメアリーは姿を消し、そればかりか〈オールド・ホール〉の住人たちの宝飾品や現金、高価な衣類などが一緒に消え失せてしまった。姉妹からメイドの自慢話を聞かされていたセント・メアリー・ミードの村人たちは、意地の悪い喜びで沸きたつのだが。

「春爛漫のママ」(ジェイムズ・ヤッフェ)
「ビッグ・アップル・ミステリー」(新潮社 1985)

「ママは何でも知っている」シリーズの1編。警官をしている息子の〈私〉とその妻は、未亡人のママに殺人課のミルナー警部を引きあわせる。ママの手料理を味わいながら、〈わたし〉とミルナー刑事は目下担当している、おばが結婚詐欺師に殺されたと訴える甥夫婦の事件を話し、ママがその謎を解く。

「よきサマリアびと」(アイザック・アシモフ)
同上

「黒後家蜘蛛の会」シリーズの1編。女人禁制の黒後家蜘蛛の会に、女性のゲストがあらわれた。女性は中学校の元教員で、担当はアメリカ史。西海岸からニューヨークにやってきて、マンハッタンを見物していたところ、夜強盗にあい。そのとき助けてくれた青年に借りたお金を返したいという。だが、肝心の名前も住所も思いだせない。会のメンバーは会則を曲げ、彼女が思いだす手助けをする。


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短編を読む その32

「おしまい」(フレドリック・ブラウン)
「未来世界から来た男」(東京創元社 1992)

わずか8行の超短編。反重力ならぬ、反時間装置というべき機械を発明した教授。機械のボタンを押すと、時間が逆にうごいていく。

「ダン・オダズムを殺した男」(ダシール・ハメット)
「ハメット短編全集 2」(東京創元社 1992)

ダン・オダズムを殺した男が留置所から逃亡。馬を盗み、ひとを避けて荒野をゆき、男の子とその母親が暮らす一軒家に侵入。男は母親から食べ物をもらい、傷の手当をしてもらうのだが。西部小説風の作品。男が留置所から逃げ出す手口は、ウッディ・アレンの映画「泥棒野郎」でもつかわれていたように思う。またラストは、マイクル・ギルバートの「どこかで聞いた名前」と同じだ。

「やとわれ探偵」(ダシール・ハメット)
同上

コンチネンタル・オプ物の一編。ホテルの衣装戸棚から3つの死体が転がりでてくる。手がかりはほとんどない。オプは事件当時ホテルにいた宿泊客を調査する。

「一時間」(ダシール・ハメット)
同上

盗まれた車が、ひとをひき殺すのにつかわれた。依頼を受けたオプは、殺された男が経営する印刷所を訪ねる。職員と話しているうちに、雲ゆきが怪しくなり、オプは格闘をするはめに。タイトルは、依頼を受けてから解決までの時間のこと。

「世界一強い男」(マルセロ・ビルマヘール)
「見知らぬ友」(福音館書店 2021)

アルゼンチンの作家による児童書の短篇集のうちの1編。いつも丸刈りにしていた小学生の〈ぼく〉。丸刈りならもうつきあわないと、〈ぼく〉はタマラにいわれてしまう。そんな〈ぼく〉に、床屋のおやじは、サムソンとデリラの話をする。本書には人情ショートショートとでもいうべき作品が収録されており、児童書だけれど大人が読んでも面白い。

「立ち入り禁止」(マルセロ・ビルマヘール)
同上

フォークランド紛争のとき、〈ぼく〉の友人ラファエルの兄であるルカスは兵隊にとられた。駐車場の夜景をしていた友人の父親は、昼間眠れなくなりクビに。両親は部屋に引きこもり、その部屋は立ち入り禁止になってしまう。

「地球のかたわれ」(マルセロ・ビルマヘール)
同上

書きものが好きな12歳の〈ぼく〉。書いたものは教室の床板の下に隠しておいた。が、それを学友のサルガドにみつけられ、サルガドは自分が書いたといって皆の賞賛を得る。さらに書きものを女の子に贈り、2人はつきあいはじめてしまう。

「アラバスターの壺」(ルゴーネス)
「アラバスターの壺/女王の瞳」(光文社 2020)

エジプトの古代魔術にかんする対話集会を予定しているスコットランド人技師から、話を聞くことになった〈わたし〉。ツタンカーメン王の地下墳墓発掘に参加した技師は、石棺が安置された部屋の入口に置かれたアラバスターの壺に気づく。この小さな壺には、死の芳香が封じこめられていた。

「女王の瞳」(ルゴーネス)
同上

「アラバスターの壺」の続編。アラバスターの小壺に封じこめられた、死の芳香と同じ香りを放つエジプト人女性シャイト。彼女に魅入られたスコットランド技師は亡くなってしまう。その葬儀に出席した〈わたし〉は、シャイトの後見人と名乗る男から、彼女についての神秘的な話を聞く。

「円の発見」(ルゴーネス)
同上

いつもチョークをもち歩き、描いた円のなかに身を置かなければ落ち着かない、精神を病んだ幾何学者。精神病院にやってきた新任の医者により、病院のあちこちに描いた円が消されたところ、幾何学者はこと切れてしまう。しかし、病院ではどこからか幾何学者の声が聞こえてくる。


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