シーグと拳銃と黄金の謎

「シーグと拳銃と黄金の謎」(マーカス・セジウィック/著 小田原智美/訳 作品社 2012)

原題は、“Revolver”
原書の刊行は、2009年。

作者はイギリスのひと。
金原瑞人選、オールタイム・ベストYAの一冊。

時間と場所を変えた2つの物語が、ほぼ交互に語られていく構成。
ひとつは、1910年スウェーデン北部のギロンという街で起こった、一昼夜のできごと。
もうひとつは、1900年アラスカのノームという街で起こったできごと。
もちろん、2つの物語は密接に関係している。
ヤングアダルト小説らしく、一章ごとの長さが短く読みやすい。

3人称。
主人公はシーグという14歳の男の子。
家族とともに、森のなかの丸太小屋で暮らしている。

父親のエイナルは、ギロンにあるベイルマン社の鉱石分析所ではたらいている。
ギロンに越してきてから、シーグはベイルマン社がつくった学校に2年間通ったものの、いつまでも周りに溶けこめない。
14歳になると学校をやめ、その後はときおり父の手伝いをしたり、薪を割ったり、棚を直したり、小屋のこわれたところを修理したり、犬たちの世話をしたりしてすごしている。

シーグの家族はほかに、歳のはなれた姉のアンナと、エイナルの若い妻ナディア。
アンナとナディアはそう歳がちがわない。
アンナは陽気なたちで、いつも歌うか笑っている。
一方のナディアはとても敬虔。
2人はときどき険悪に。
シーグは、自分には母親が2人いるみたいだと思っている。

さて、物語は、小屋のなかでシーグが、死んだ父親をみつめるという緊迫した場面からスタート。
父のエイナルは、湖の氷の上に倒れていたのだ。
最初に父親をみつけたのはシーグ。

父親のそばには4頭の犬がそりとともに、だれかくるのを辛抱強く待っていた。
普段、エイナルは湖を突っ切ったりはしない。
安全に、湖を迂回していく。

おそらく、そりで氷上を走っていたエイナルは、氷が割れ、湖に落ちた。
なんとか、湖から這いだしたものの、凍死してしまった。
まわりにはマッチが散らばっており、それはエイナルが火をつけようとしたためだろう。
父親が落ちた穴は、寒気のためすでにふさがっている。

あとからきたアンナとナディアと協力し、3人はエイナルをそりに乗せ、丸太小屋にはこびこむ。
とにかく、だれか呼ばなくてはいけない。
シーグが残り、アンナとナディアがいくことに。
そして、ひとりシーグが死んだ父親と丸太小屋にいたところ、だれかがドアをノックする音が――。

一方、10年前。
1900年、アラスカのノームという街で、エイナルとその家族は困窮していた。
ゴールドラッシュに誘われ、ひと山当てにきたものの、妻のマリアは病気になってしまった。
アンナとシーグという2人の幼い子どもをかかえているのに、どうにもならない。

マリアもまたナディアに似て、敬虔な性格。
こんな地の果てに家族も連れてきたのはエイナルだけ。
街に白人の女はマリアしかいない。
エイナルは家族のそばをはなれるわけにはいかない。

やけになったエイナルは、強盗をしようと拳銃をもち酒場にいく。
が、そこで出会った男に仕事をあたえられる。
男はソールズベリーという名前の、政府の役人。
仕事は、鉱石分析官。
金の純度を調べ、重さをはかり、値をつける。

ソールズベリーがエイナルを選んだのは、エイナルには家族がいるから。
失うものが多い人間は信用できるという理屈。
勤めはじめて数か月たったある日、ソールズベリーはエイナルにこんなことをいう。

《「真実を知りたいか? ほんとうのことを知りたいか、エイナル? ここにいる鉱夫たちも、一獲千金を夢見てやってきたやつらも、一生金もちにはなれない。大半のやつらは、今後も夢はもうすぐかなうと思える程度の砂金を見つけつづけるだけで、夢が現実になることはぜったいにないさ。なかには大もうけするやつもいるだろうが、金もち気分を味わえるのはぜんぶ使いきっちまうまでのたった数日間のことだ。そして、じっさいに金もちになるのはわたしや君のような人間、つまり、町で事業にたずさわっている人間だけだ。……」》

その日の午後、ウルフという名前の、熊のような大男があらわれ、エイナルに金の分析をもとめてくる。
もうきょうは戸締りをしてしまったとエイナルが断ると、ウルフはごねる。
翌日、ウルフは再び金の分析に。
エイナルが分析してみると、結果はかんばしくなく、10パーセントの純度しかない。

その後、ウルフは腰を分析所に腰をすえ、エイナルの仕事ぶりをじっとみていく。
さらに何日間か、ウルフはエイナルの仕事ぶりを観察。
そして、ある日こう切りだす。

《「半分もらいたい。おまえの金を半分くれ。おまえはとてもかしこい男だ。だからわかるはずだ。おれに半分くれ」》

《「おれを見くびるな。まぬけな仕事仲間の目はごまかせても、おれはだませないぞ。おれはおまえのやり口を知ってるんだ。おまえの金を半分よこせ。そうすれば、だまっててやる。いいな? 相棒だよ。おれとおまえは相棒なのさ」》

再び、1910年、ギロン。
ドアをノックしてきたのは、もちろんウルフ。
エイナルが留守だと知ると、ウルフは一度去るのだが、再びあらわれ、小屋に入り、シーグを脅しはじめる。

《「おまえのおやじとおれは取引した。おれたちはいっしょに働いていたんだ。あのころ、ノームでな。おれたちは取引した。ある約束をしたんだ。やつはそれをわすれちまったらしい。わかれもいわずにあの町を出ていった。おれがここに来たのはその約束をやつに思い出させるためだ」》

《「おまえのおやじがおれからぬすんだ金はどこにある?」》

当時幼かったシーグは、ウルフのことをおぼえていない。
だいたい、父がした取引とはなにか。
父は本当に金を手に入れていたのか。
だとしたら、なぜこんな貧乏暮らしをしているのか。
また、父が湖を犬ぞりで渡ろうとしたこととウルフとは、なにか関係があるのだろうか。

ところで。
この本の原題は、「リヴォルバー」だ。
タイトルになっているだけあり、本書には拳銃が重要な小道具として登場する。
父のエイナルは、シーグの12歳の誕生日に、「世界でもっとも美しいもの」といって拳銃をみせる。
その拳銃――コルト・シングル・アクション・アーミー1873年型、通称ピースメーカー――が、内部でどんな化学反応を起こすのかこと細かに説明する。

一方、マリアやアンナは拳銃を毛嫌いしている。
マリアがもっとも大事にしているのは黒革の聖書だ。

父と母の教えにみちびかれ、シーグはウルフと対決する。
物語は数かずの伏線を回収しながら、ヤングアダルト作品らしい鮮やかな着地をみせる。



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