タナカの読書メモです。
一冊たちブログ
短編をよむ その52
「雨のなかの猫」(ヘミングウェイ)
「ヘミングウェイ全短編1」(新潮社 1995)
イタリアのホテルに泊まっているアメリカ人夫婦。雨のなか、テーブルの下にうずくまっている猫をみつけた妻は、その猫を手に入れようと、ベッドで本を読んでいる夫を尻目に、階下に降りていく。
「二つの心臓の大きな川 第1部と第2部」
同上
ニックがひとり川で鱒釣りをする様子が克明に書かれる。それだけなのだが素晴らしい。ヘミングウェイの作品のなかで一番好きだ。
「異国にて」
同上
前線で負傷し、ミラノの病院にリハビリに通う〈ぼく〉。ほかに、いずれもミラノ出身の3人の若者が毎日病院に通っている。アメリカ人だから勲章をもらうことができたので、かれらのようなことはできなかったと〈ぼく〉思う。3人の若者以外には、手を負傷した少佐がいる。少佐は〈ぼく〉のイタリア語のまちがいを指摘し、男は結婚などしちゃいかんと力説する。
「殺し屋」
同上
食堂に2人の男が入ってくる。ハムエッグを食べた男たちは、コックのサムと、店にきていたニックを調理場に閉じこめ、ジョージにはそのままウェイターを続けさせる。2人は毎晩6時にここに食事にくるスウェーデン人を殺しにきたのだという。大変な緊迫感。ヘミングウェイの傑作のひとつだろう。読むとなぜかメルヴィルの「バートルビー」を思いだす。
「五万ドル」
同上
ウォルコットと対戦することになったボクサーのジャック。この試合で足を洗うつもりのジャックは、勝てっこないと、相手に5万ドルを賭ける。トレーニングを経て、対戦。ジャックは冷静に闘いつづける。
「今日は金曜日」
同上
3人のローマ軍の兵士が、酒場で話をするといいう、戯曲風の一編。きょうのあいつはなかなか立派だったじゃないか。十字架にかかったあいつは本当に立派だったぜ。
「身を横たえて」
同上
蚕室の床に横たわり、眠ろうとしている中尉の〈ぼく〉。眠れない時間、故郷の川や、家族や、自分に起きたすべてを思いだそうとしてすごす。なにも思いだせないときは、蚕が桑の葉を食べる音に耳を傾ける。〈ぼく〉には、シカゴで10年間暮らし、英語が話せるという理由で〈ぼく〉の従兵に配属させたジョンがいる。ジョンは、男はだれかと結婚すれば、心配事がなくなると信じている。
「サムと名声」(ジョンストン・マッカレー)
「地下鉄サム」(東京創元社 1959)
ニューヨークの地下鉄を仕事場にしている、スリの名人地下鉄サム・シリーズの1編。最近、高架線(エル)のエルマと名乗るスリが荒稼ぎをしていて、サムは面白くない。いつもサムを追いまわしている、警察のクラドック探偵には、仕事場を変えたのかと疑われる始末。クラドックを巻いたサムは、エルマにひと泡吹かせてやろうとする。
「サムと厄日」
同上
3月15日は厄日だから仕事はよしたほうがいい。クラドック探偵だけでなく、下宿のおやじ、退役強盗の「鼻のムーア」にまで同じことをいわれたサム。そんなことは気にせず、勇んで町にくりだしたところ、サムはトラックにひかれてしまう。
「サムと贋札」
同上
改心してカタギになろうと、タバコ屋に勤めはじめたサム。ところが、贋札をつかまされ、見本にだした葉巻はもち逃げされ、おのぼりさん相手にサイコロで遊ぶと、いかさまでやられる。一日はたらいただけで大損だと、地下鉄にもどったサムは、そこで自分を引っかけたおのぼりさんと再会する。
「ヘミングウェイ全短編1」(新潮社 1995)
イタリアのホテルに泊まっているアメリカ人夫婦。雨のなか、テーブルの下にうずくまっている猫をみつけた妻は、その猫を手に入れようと、ベッドで本を読んでいる夫を尻目に、階下に降りていく。
「二つの心臓の大きな川 第1部と第2部」
同上
ニックがひとり川で鱒釣りをする様子が克明に書かれる。それだけなのだが素晴らしい。ヘミングウェイの作品のなかで一番好きだ。
「異国にて」
同上
前線で負傷し、ミラノの病院にリハビリに通う〈ぼく〉。ほかに、いずれもミラノ出身の3人の若者が毎日病院に通っている。アメリカ人だから勲章をもらうことができたので、かれらのようなことはできなかったと〈ぼく〉思う。3人の若者以外には、手を負傷した少佐がいる。少佐は〈ぼく〉のイタリア語のまちがいを指摘し、男は結婚などしちゃいかんと力説する。
「殺し屋」
同上
食堂に2人の男が入ってくる。ハムエッグを食べた男たちは、コックのサムと、店にきていたニックを調理場に閉じこめ、ジョージにはそのままウェイターを続けさせる。2人は毎晩6時にここに食事にくるスウェーデン人を殺しにきたのだという。大変な緊迫感。ヘミングウェイの傑作のひとつだろう。読むとなぜかメルヴィルの「バートルビー」を思いだす。
「五万ドル」
同上
ウォルコットと対戦することになったボクサーのジャック。この試合で足を洗うつもりのジャックは、勝てっこないと、相手に5万ドルを賭ける。トレーニングを経て、対戦。ジャックは冷静に闘いつづける。
「今日は金曜日」
同上
3人のローマ軍の兵士が、酒場で話をするといいう、戯曲風の一編。きょうのあいつはなかなか立派だったじゃないか。十字架にかかったあいつは本当に立派だったぜ。
「身を横たえて」
同上
蚕室の床に横たわり、眠ろうとしている中尉の〈ぼく〉。眠れない時間、故郷の川や、家族や、自分に起きたすべてを思いだそうとしてすごす。なにも思いだせないときは、蚕が桑の葉を食べる音に耳を傾ける。〈ぼく〉には、シカゴで10年間暮らし、英語が話せるという理由で〈ぼく〉の従兵に配属させたジョンがいる。ジョンは、男はだれかと結婚すれば、心配事がなくなると信じている。
「サムと名声」(ジョンストン・マッカレー)
「地下鉄サム」(東京創元社 1959)
ニューヨークの地下鉄を仕事場にしている、スリの名人地下鉄サム・シリーズの1編。最近、高架線(エル)のエルマと名乗るスリが荒稼ぎをしていて、サムは面白くない。いつもサムを追いまわしている、警察のクラドック探偵には、仕事場を変えたのかと疑われる始末。クラドックを巻いたサムは、エルマにひと泡吹かせてやろうとする。
「サムと厄日」
同上
3月15日は厄日だから仕事はよしたほうがいい。クラドック探偵だけでなく、下宿のおやじ、退役強盗の「鼻のムーア」にまで同じことをいわれたサム。そんなことは気にせず、勇んで町にくりだしたところ、サムはトラックにひかれてしまう。
「サムと贋札」
同上
改心してカタギになろうと、タバコ屋に勤めはじめたサム。ところが、贋札をつかまされ、見本にだした葉巻はもち逃げされ、おのぼりさん相手にサイコロで遊ぶと、いかさまでやられる。一日はたらいただけで大損だと、地下鉄にもどったサムは、そこで自分を引っかけたおのぼりさんと再会する。
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短編をよむ その51
「おかしな人間の夢」(ドストエフスキイ)
「ドストエフスキイ後期短篇集」(福武書店 1987)
自分のことをおかしな人間と呼ぶ〈おれ〉が、なぜ伝道をするようになったかを告白する。〈おれ〉は子どものころから、おかしな人間の自覚があった。成長してからは、あらゆることに無関心になった。自殺を決意したその日、往来で小さな女の子に助けをもとめられた。どうせ自殺するのだからと無視したが、女の子のことが気がかりで自殺できない。そしてその晩、夢をみる。死んだ自分は、何者かに導かれ、宇宙を渡り、美しい人々が暮らす、楽園のような星にたどり着く。
「シャンピニオン・パイ」(F・W・クロフツ)
「クロフツ短篇集1」(東京創元社 1965)
前半は〈わたし〉の1人称。後半はフレンチ警部による事件の解明という構成の一編。母が亡くなり、継父のもとに残された〈わたし〉。家事を切り盛りして暮らしていると、ある日継父が新しい妻を連れてくる。妻は家庭の全権を握り、次第に横暴になり、〈わたし〉は召使いのように扱われる。妻が金のために継父と結婚したことを、偶然知った〈わたし〉は、継父を殺害し、その罪を妻に着せようと決意。シャンピニオンを、よく似た毒キノコとすり替える。
「無人塔」(F・W・クロフツ)
同上
経済上いきづまった株屋のロナルド・ストーンは、遺産を得るため、土建会社の社長をしている妻の父、ジャスティン・ヴェレカーを殺すことにした。ヴェレカーは健康を害しており、週に2度、医者が往診にきて、そのつど薬をとりにいくことになっている。ストーンは医者の部屋に忍びこみ、薬の中身を除草剤と入れ替える。真相を察知したフレンチ警部は、ストーンを罠にかけようとするが…。
「拳銃が怖い」(ダシール・ハメット)
「ミステリマガジン 2011年8月号」(早川書房)
オーウェン・サックは臆病者。30年前、ボルティモアの安酒場で、口論のすえ水夫に拳銃を向けられて引き下がったことを皮切りに、争いがあるたびに世界中を逃げてきた。もう若くないサックの望みは静かな暮らしだけだったが、密造酒の運搬をしているユースト兄弟の兄リップに密告の疑いをかけられる。この町から逃げだそうと駅に向かったサックだったが、そこで酔ったリップと鉢合わせする。
「深夜のエンジェル」(ダシール・ハメット)
同上
作家のカーター・ブリガムは、夜忍びこんできた泥棒を捕まえる。泥棒は若い娘。そのあとを追うように警官もやってくる。エンジェルと呼ばれる女泥棒にほだされたブリガムは、彼女の身の上話を作品につかえそうだとの下心もあり、エンジェルに助け舟をだす。アイリッシュの作品のようだ。
「医師とその妻」(ヘミングウェイ)
「ヘミングウェイ全短編1」(新潮社 1995)
蒸気船が製材所まで牽引してきた筏から、丸太が脱落した。その丸太を回収するため、ニックの父はインディアンを呼びよせる。かれらに丸太を切ってもらい、暖炉の薪をつくってもらうつもりだったが、インディアンのひとり、ディック・ボウルトンはニックの父を泥棒呼ばわりする。
「ある訣別」(ヘミングウェイ)
同上
マージョリーとボートで釣りにでかけたニック。夜、焚火をしながら、ニックはマージョリーに別れ話をする。
「三日吹く風」(ヘミングウェイ)
同上
「ある訣別」の続編。友人ビルの父のコテッジにやってきたニック。暖炉の前で酒を飲みながら、ビルと2人でたわいない話をする。マージョリーと別れて賢明だったというビルにニックは話す。「なんでああなったのか、自分でもわからない。でも、どうしようもなかったんだ。ちょうど三日吹きつづける嵐がきて、木の葉が全部吹き飛ばされてしまうみたいに」
「ファイター」(ヘミングウェイ)
同上
貨物列車にとび乗ったものの、制動手に殴られ、線路に転落したニック。歩いていくと、ブナの森で焚火をしている男に出会う。男はアド・フランシスという元ボクサーで、鼻は陥没し、目はナイフの切り口のように細く、唇は妙によじれている。自分は頭がおかしいのだとアドはいう。じき、アドの知りあいの黒人があらわれ、ニックはハムと卵とパンの食事をごちそうになる。が、ナイフを貸してくれというアドを黒人が制してから、アドの様子が一変する。からんでくる男や、男女のいさかいを書くと、ヘミングウェイはじつに上手い。
「兵士の故郷」(ヘミングウェイ)
同上
戦後だいぶたってからオクラホマ州の故郷の町にもどってきたクレブス。毎朝遅くまで寝て、起きると本を借りに町の図書館にいき、いちばん暑い時間はビリヤード場ですごし、夕方はクラリネットの練習をして、本を読んで寝る。女の子をながめるのは好きだが、手間をかける気にはなれない。そんなクレブスに、ある日母親が、お父さまが車をつかってほしいといっていると告げる。「もしあなたが素敵な女の子を誘ってドライヴにでもいってくれるなら、わたしたちもどんなに嬉しいでしょう」
「ドストエフスキイ後期短篇集」(福武書店 1987)
自分のことをおかしな人間と呼ぶ〈おれ〉が、なぜ伝道をするようになったかを告白する。〈おれ〉は子どものころから、おかしな人間の自覚があった。成長してからは、あらゆることに無関心になった。自殺を決意したその日、往来で小さな女の子に助けをもとめられた。どうせ自殺するのだからと無視したが、女の子のことが気がかりで自殺できない。そしてその晩、夢をみる。死んだ自分は、何者かに導かれ、宇宙を渡り、美しい人々が暮らす、楽園のような星にたどり着く。
「シャンピニオン・パイ」(F・W・クロフツ)
「クロフツ短篇集1」(東京創元社 1965)
前半は〈わたし〉の1人称。後半はフレンチ警部による事件の解明という構成の一編。母が亡くなり、継父のもとに残された〈わたし〉。家事を切り盛りして暮らしていると、ある日継父が新しい妻を連れてくる。妻は家庭の全権を握り、次第に横暴になり、〈わたし〉は召使いのように扱われる。妻が金のために継父と結婚したことを、偶然知った〈わたし〉は、継父を殺害し、その罪を妻に着せようと決意。シャンピニオンを、よく似た毒キノコとすり替える。
「無人塔」(F・W・クロフツ)
同上
経済上いきづまった株屋のロナルド・ストーンは、遺産を得るため、土建会社の社長をしている妻の父、ジャスティン・ヴェレカーを殺すことにした。ヴェレカーは健康を害しており、週に2度、医者が往診にきて、そのつど薬をとりにいくことになっている。ストーンは医者の部屋に忍びこみ、薬の中身を除草剤と入れ替える。真相を察知したフレンチ警部は、ストーンを罠にかけようとするが…。
「拳銃が怖い」(ダシール・ハメット)
「ミステリマガジン 2011年8月号」(早川書房)
オーウェン・サックは臆病者。30年前、ボルティモアの安酒場で、口論のすえ水夫に拳銃を向けられて引き下がったことを皮切りに、争いがあるたびに世界中を逃げてきた。もう若くないサックの望みは静かな暮らしだけだったが、密造酒の運搬をしているユースト兄弟の兄リップに密告の疑いをかけられる。この町から逃げだそうと駅に向かったサックだったが、そこで酔ったリップと鉢合わせする。
「深夜のエンジェル」(ダシール・ハメット)
同上
作家のカーター・ブリガムは、夜忍びこんできた泥棒を捕まえる。泥棒は若い娘。そのあとを追うように警官もやってくる。エンジェルと呼ばれる女泥棒にほだされたブリガムは、彼女の身の上話を作品につかえそうだとの下心もあり、エンジェルに助け舟をだす。アイリッシュの作品のようだ。
「医師とその妻」(ヘミングウェイ)
「ヘミングウェイ全短編1」(新潮社 1995)
蒸気船が製材所まで牽引してきた筏から、丸太が脱落した。その丸太を回収するため、ニックの父はインディアンを呼びよせる。かれらに丸太を切ってもらい、暖炉の薪をつくってもらうつもりだったが、インディアンのひとり、ディック・ボウルトンはニックの父を泥棒呼ばわりする。
「ある訣別」(ヘミングウェイ)
同上
マージョリーとボートで釣りにでかけたニック。夜、焚火をしながら、ニックはマージョリーに別れ話をする。
「三日吹く風」(ヘミングウェイ)
同上
「ある訣別」の続編。友人ビルの父のコテッジにやってきたニック。暖炉の前で酒を飲みながら、ビルと2人でたわいない話をする。マージョリーと別れて賢明だったというビルにニックは話す。「なんでああなったのか、自分でもわからない。でも、どうしようもなかったんだ。ちょうど三日吹きつづける嵐がきて、木の葉が全部吹き飛ばされてしまうみたいに」
「ファイター」(ヘミングウェイ)
同上
貨物列車にとび乗ったものの、制動手に殴られ、線路に転落したニック。歩いていくと、ブナの森で焚火をしている男に出会う。男はアド・フランシスという元ボクサーで、鼻は陥没し、目はナイフの切り口のように細く、唇は妙によじれている。自分は頭がおかしいのだとアドはいう。じき、アドの知りあいの黒人があらわれ、ニックはハムと卵とパンの食事をごちそうになる。が、ナイフを貸してくれというアドを黒人が制してから、アドの様子が一変する。からんでくる男や、男女のいさかいを書くと、ヘミングウェイはじつに上手い。
「兵士の故郷」(ヘミングウェイ)
同上
戦後だいぶたってからオクラホマ州の故郷の町にもどってきたクレブス。毎朝遅くまで寝て、起きると本を借りに町の図書館にいき、いちばん暑い時間はビリヤード場ですごし、夕方はクラリネットの練習をして、本を読んで寝る。女の子をながめるのは好きだが、手間をかける気にはなれない。そんなクレブスに、ある日母親が、お父さまが車をつかってほしいといっていると告げる。「もしあなたが素敵な女の子を誘ってドライヴにでもいってくれるなら、わたしたちもどんなに嬉しいでしょう」
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短編をよむ その51
「ティーン・スナイパー」(アダム・ジョンソン)
「トラウマ・プレート」(河出書房新社 2005)
警察でスナイパーの任務についている15歳の〈ぼく〉。最近、標的のことを考えすぎてしまうことに悩まされている。ROMSと呼ばれる爆発物探知処理ロボットに悩みを打ち明けると、人質解放交渉技術のあるロボットは〈ぼく〉を励ましてくれる。仕事を家にもち帰らないよう、同様とジムにいった〈ぼく〉は、そこで出会った同僚の娘に恋をする。なんとか想いを伝えようとするが妙なことばかり口走ってしまう。小道具のスコープがうまくつかわれている。
「死の衛星カッシーニ」
同上
去年母親を亡くし、いまはバスの運転手をしている、大学入試を前にした19歳の〈ぼく〉。バスの乗客は、土星探査機をつくったカッシーニの夫人を筆頭に、皆ガンにかかっている女性ばかり。カッシーニ夫人の指示でバスは酒場にいき、飲んだり踊ったりしたあと、駐車場にでて土星探査機が夜空を横切るのをながめる。
「トラウマ・プレート」
同上
防弾チョッキのレンタル店をいとなむ夫婦と、その娘の話が、それぞれの1人称で語られる。トラウマ・プレートとは、防弾チョッキの心臓の前にあるポケットに入れるチタン製の板のこと。レンタル店は行き詰まり、夫は一日中昔の映画のビデオをみながら、防弾リュックや、防弾ベビーカーを開発しようとしている。妻は、子ども用防弾製品をつくるという夫のアイデアに腹を立てている。17歳の娘はいつも防弾チョッキを着ていて、それを脱ぐことができない。学校では男の子たちにすれちがいざまトラウマ・プレートをこんと叩かれる。
「アカプルコの断崖の神さま」
同上
1985年、ハイスクールを卒業して2年、電子機器の会社で1日中ダイオードの検査をしている〈俺〉。父親はザイールで行方不明になり、そのことを伝えにきた父の親友は、母親と一緒にアカプルコに引っ越した。〈俺〉は同僚のジンボと一緒に、蛇やワニを買っているジンボの友人を訪ねる。翌日は3人で、フライアウェイという室内スカイダイビングを体験する。断崖からの落下というテーマを中心に、うまく作品をまとめている。
「カナダノート」
同上
1963年、カナダ情報局CIAのもと、ツンドラ研究所で殺人光線の研究に従事していた〈わたし〉。ある日、研究所を訪れた長官が、ロシアによる月への宇宙船打ち上げ計画の話をする。カナダにも極秘の打ち上げチームがあったが、燃料テスト中に消滅してしまった。かくして研究所スタッフは、氷河にあるステーションに引っ越し、ロケット開発にとり組むことに。月着陸カプセルを開発したものの、設計ミスのため小さくてだれも乗れない。宇宙飛行士に必要なのは、高レベルの放射線に耐えられ、孤独に強く、身長が150センチ以下の人物。その条件にぴったり該当するのは、研究所をベースキャンプにして、実験用のウサギを捕まえていた猟師のジャックだった。
「おとなしい女」(ドストエフスキイ)
「ドストエフスキイ後期短篇集」(福武書店 1987)
自殺した妻の遺体のそばで、夫が独白を続ける。妻は、質屋をしている夫の前に、客としてあらわれた。夫は41で、妻は16。妻の父は亡くなっており、妻は2人の叔母のもとで奴隷のような境遇におかれていた。また隣りに住む商人からは目をつけられていた。夫は妻と結婚。だが、妻が勝手に客の老夫人に金を貸したことから2人はけんか。妻は、夫の昔の連隊仲間と逢引きし、夫はその現場に踏みこむ。連隊にいたころ、夫は決闘を拒んで除隊したことがあり、妻はそれを嘲笑する。夜、妻は眠っている夫にピストルを向ける。が、夫はそれに気がついている。
「ボボーク」
同上
雑文家の〈わたし〉が、墓地で死者たちの話を聞く。死者たちは、将軍に七等官に、商人に、婦人に、新参者にといろいろ。だれそれが臭いといったり、生前の不正をあばいたり、身の上話をしたり、愚痴をこぼしたりと、実ににぎやか。だが、〈わたし〉がくしゃみをしたとたん、墓地はもとの沈黙にもどる。
「百姓マレイ」
同上
シベリアで牢獄生活を送る〈わたし〉。自分の過去を絶え間なく回想していうるうち、9つになったばかりのことをまざまざと思い出す。その夏、家の領地の小さな村ですごした〈わたし〉は、狼がくるという叫び声を聞き、空地を耕していた百姓に走り寄ってしがみついた。その百姓は〈わたし〉を落ち着かせ、〈わたし〉が去っていくときもずっと見守ってくれた。百姓マレイのことを思い出した〈わたし〉は、牢獄の他の囚人たちを、これまでとは違う目でみるようになる。
「百歳の老婆」
同上
〈わたし〉がある婦人から聞いた話。用事をすませようとでかける先ざきで、婦人はあるお婆さんに出会う。話をすると、ひと休みしながら、ご馳走に呼ばれにいくところだという。この104歳だという老婆に、5コペイカ玉を渡すと、老婆は快く受けとってくれる。この話を聞いた〈わたし〉は、さらにこんなことがあったのではないかと続きを想像する。
「現代小説から取った暴露小説のプラン」
同上
自分を天才だと思っている男。作品をあちこちの出版社に送りつけるが返事はない。男は腹を立て、匿名の手紙を送りつける。さらに局長の娘が自分ではなく、別の男と結婚するというので、その男に中傷の手紙を書く。行状はエスカレートし、上官の将軍を痛罵し、大臣にロシアの改造を提議する。が、自身の失言や、局内での噂から、自分のしたことはすっかり露見しているのではないかと思いこむ。いっそ閣下にすべてを告白しようと男は決意。身を投げだし、すべてを告白すれば、きっと閣下は許してくれるだけでなく、自分をとり立ててくれるだろう。
「トラウマ・プレート」(河出書房新社 2005)
警察でスナイパーの任務についている15歳の〈ぼく〉。最近、標的のことを考えすぎてしまうことに悩まされている。ROMSと呼ばれる爆発物探知処理ロボットに悩みを打ち明けると、人質解放交渉技術のあるロボットは〈ぼく〉を励ましてくれる。仕事を家にもち帰らないよう、同様とジムにいった〈ぼく〉は、そこで出会った同僚の娘に恋をする。なんとか想いを伝えようとするが妙なことばかり口走ってしまう。小道具のスコープがうまくつかわれている。
「死の衛星カッシーニ」
同上
去年母親を亡くし、いまはバスの運転手をしている、大学入試を前にした19歳の〈ぼく〉。バスの乗客は、土星探査機をつくったカッシーニの夫人を筆頭に、皆ガンにかかっている女性ばかり。カッシーニ夫人の指示でバスは酒場にいき、飲んだり踊ったりしたあと、駐車場にでて土星探査機が夜空を横切るのをながめる。
「トラウマ・プレート」
同上
防弾チョッキのレンタル店をいとなむ夫婦と、その娘の話が、それぞれの1人称で語られる。トラウマ・プレートとは、防弾チョッキの心臓の前にあるポケットに入れるチタン製の板のこと。レンタル店は行き詰まり、夫は一日中昔の映画のビデオをみながら、防弾リュックや、防弾ベビーカーを開発しようとしている。妻は、子ども用防弾製品をつくるという夫のアイデアに腹を立てている。17歳の娘はいつも防弾チョッキを着ていて、それを脱ぐことができない。学校では男の子たちにすれちがいざまトラウマ・プレートをこんと叩かれる。
「アカプルコの断崖の神さま」
同上
1985年、ハイスクールを卒業して2年、電子機器の会社で1日中ダイオードの検査をしている〈俺〉。父親はザイールで行方不明になり、そのことを伝えにきた父の親友は、母親と一緒にアカプルコに引っ越した。〈俺〉は同僚のジンボと一緒に、蛇やワニを買っているジンボの友人を訪ねる。翌日は3人で、フライアウェイという室内スカイダイビングを体験する。断崖からの落下というテーマを中心に、うまく作品をまとめている。
「カナダノート」
同上
1963年、カナダ情報局CIAのもと、ツンドラ研究所で殺人光線の研究に従事していた〈わたし〉。ある日、研究所を訪れた長官が、ロシアによる月への宇宙船打ち上げ計画の話をする。カナダにも極秘の打ち上げチームがあったが、燃料テスト中に消滅してしまった。かくして研究所スタッフは、氷河にあるステーションに引っ越し、ロケット開発にとり組むことに。月着陸カプセルを開発したものの、設計ミスのため小さくてだれも乗れない。宇宙飛行士に必要なのは、高レベルの放射線に耐えられ、孤独に強く、身長が150センチ以下の人物。その条件にぴったり該当するのは、研究所をベースキャンプにして、実験用のウサギを捕まえていた猟師のジャックだった。
「おとなしい女」(ドストエフスキイ)
「ドストエフスキイ後期短篇集」(福武書店 1987)
自殺した妻の遺体のそばで、夫が独白を続ける。妻は、質屋をしている夫の前に、客としてあらわれた。夫は41で、妻は16。妻の父は亡くなっており、妻は2人の叔母のもとで奴隷のような境遇におかれていた。また隣りに住む商人からは目をつけられていた。夫は妻と結婚。だが、妻が勝手に客の老夫人に金を貸したことから2人はけんか。妻は、夫の昔の連隊仲間と逢引きし、夫はその現場に踏みこむ。連隊にいたころ、夫は決闘を拒んで除隊したことがあり、妻はそれを嘲笑する。夜、妻は眠っている夫にピストルを向ける。が、夫はそれに気がついている。
「ボボーク」
同上
雑文家の〈わたし〉が、墓地で死者たちの話を聞く。死者たちは、将軍に七等官に、商人に、婦人に、新参者にといろいろ。だれそれが臭いといったり、生前の不正をあばいたり、身の上話をしたり、愚痴をこぼしたりと、実ににぎやか。だが、〈わたし〉がくしゃみをしたとたん、墓地はもとの沈黙にもどる。
「百姓マレイ」
同上
シベリアで牢獄生活を送る〈わたし〉。自分の過去を絶え間なく回想していうるうち、9つになったばかりのことをまざまざと思い出す。その夏、家の領地の小さな村ですごした〈わたし〉は、狼がくるという叫び声を聞き、空地を耕していた百姓に走り寄ってしがみついた。その百姓は〈わたし〉を落ち着かせ、〈わたし〉が去っていくときもずっと見守ってくれた。百姓マレイのことを思い出した〈わたし〉は、牢獄の他の囚人たちを、これまでとは違う目でみるようになる。
「百歳の老婆」
同上
〈わたし〉がある婦人から聞いた話。用事をすませようとでかける先ざきで、婦人はあるお婆さんに出会う。話をすると、ひと休みしながら、ご馳走に呼ばれにいくところだという。この104歳だという老婆に、5コペイカ玉を渡すと、老婆は快く受けとってくれる。この話を聞いた〈わたし〉は、さらにこんなことがあったのではないかと続きを想像する。
「現代小説から取った暴露小説のプラン」
同上
自分を天才だと思っている男。作品をあちこちの出版社に送りつけるが返事はない。男は腹を立て、匿名の手紙を送りつける。さらに局長の娘が自分ではなく、別の男と結婚するというので、その男に中傷の手紙を書く。行状はエスカレートし、上官の将軍を痛罵し、大臣にロシアの改造を提議する。が、自身の失言や、局内での噂から、自分のしたことはすっかり露見しているのではないかと思いこむ。いっそ閣下にすべてを告白しようと男は決意。身を投げだし、すべてを告白すれば、きっと閣下は許してくれるだけでなく、自分をとり立ててくれるだろう。
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短編をよむ その50
書きためた短編のメモが少したまったので放出します。
1000編までやろうと思っていたけれど、もう無理だなあ。
短篇集を買うくせだけが残ってしまった。
「名探偵エルナンド・コルテス」(シオドー・マシスン)
「名探偵群像」(東京創元社 1961)
歴史上の人物を名探偵に仕立てたシリーズの1編。とり上げられた人物は、アレクサンダー大王、ウマル・ハイヤーム、レオナルド・ダ・ヴィンチ、コルテス、セルバンデス、デフォー、クック、ダニエル・ブーン、スタンレーとリヴィングストン、ナイチンゲールといった面々。
1520年6月、モンテスマ皇帝を捕虜としたものの、メキシコの軍隊にかこまれたスペイン軍。コルテスは、メキシコの民衆を懐柔すべく、モンテスマに演説を頼む。だが、演説中の投石によりモンテスマは死亡。その石は、民衆のものではなく、モンテスマを護衛していた3人の士官の誰かが投げたものだった。スペイン軍はモンテスマの宝物を略奪して撤退。3人の士官のうち、下手人は誰なのか。
「名探偵ドン・ミゲール・デ・セルバンデス」
同上
古都バリャドリッドで、妻と娘、それに姉と暮らす58歳のドン・ミゲール。ミゲールの書いた「ドン・キホーテ」は、ベハル公の祖父が書いた騎士物語を風刺したものだとの噂が立ち、そのためベハル公はミゲールへの後援をとりやめるという。その噂を払拭するため、公のもとを訪ねようとした矢先、ミゲールは路上で若い男が倒れるのにでくわす。下宿にはこび医者を呼ぶが、男は死亡。治安官ディエゴ・デ・ビリャロエルはミゲールを犯人と決めつける。――もとになった事件は「物語スペインの歴史 人物篇」(岩根圀和 中央公論新社 2004)に書いてあった。
「名探偵ダニエル・デフォー」
同上
1719年、デフォーの義兄サミュエル・タフレイは、ロジャーズという男に会いにいくというデフォーの頼みを受け、ともにエディンバラに向かう。数かずの扇動的文書をあらわしたデフォーは、あちこちに敵をつくっており、2週間前には寝室に忍びこんできた賊に絞め殺されそうになったという。エディンバラの白鳥館でぶじ航海士のロジャーズと落ちあったデフォーだったが、襲われる不安をこぼすと、なら部屋を替わってやろうとロジャーズ。その晩、デフォーがロジャーズの部屋を訪れると、ロジャーズは扼殺されていた。このままでは殺人の疑いをかけられてしまう。今晩中に犯人をみつけだすと、デフォーは宣言する。
「名探偵フローレス・ナイチンゲール」
同上
1854年10月、英国兵を看護するため38人の看護婦を率いてクリミアに向かったフローレス・ナイチンゲール。鞄のなかには、いつのまにか×印をつけたクラウン銀貨が入れられていた。これは偶像破壊者と呼ばれる者の仕業らしい。偶像破壊者は、セント・ジェームズの祭壇から聖杯を盗みだすなど、冒涜的な盗みをおこない、サイン代わりに傷をつけたクラウン銀貨を置いていくのだという。パリでの夜、フローレンスたちが泊まった部屋の前に、背中をナイフで刺されて死んだ男がみつかる。ドアには、銀貨と同じ×印が。男は、大金持ちで婚約者を捨てたとの醜聞があるリーニダフという男。従軍記者としてフローレンスらと同様、クリミアに向かっているところだった。ここで足止めをくって前線の兵士たちを待たせるわけにはいかない。フローレンスは、リーニダフの死体を自身の部屋にもどし、予定通り翌朝出発。が、マルセーユでまたも偶像破壊者の襲撃を受ける。
「薪」(アナトール・フランス)
「書物愛 海外篇」(晶文社 2005)
これは中編。「シルヴェストル・ボナールの罪」(岩波書店 1978)の第1部を収録したもの。1861年の12月にはじまり、1869年の12月に終わる8年間の物語。主人公のボナールはひとり者の老学究。古本を売りにきた貧相な男には、商売女の妻がいて、同じ建物の屋根裏で暮らしている。そうテレーズ婆やから聞いたボナールは、同情し、屋根裏に薪をはこばせるよう婆やにいいつける。一方、古い目録のなかで、珍しい写本をみつけ、平静ではいられない。のちにフィレンツェの本屋の目録で、同じ本をみつけたボナールは、現在の所蔵者に会うためシチリアに赴く。
「シジスモンの遺産」(オクターヴ・ユザンヌ)
同上
愛書家コミックノベルというべき作品。愛書家シジスモンが亡くなった。20年に渡りシジスモンと本を巡ってあらそってきたギョマール氏は、代理人を介してシジスモンの蔵書の一括購入を申しでる。が、遺言により蔵書の売却は禁じられていた。落胆したギョマール氏だったが、シジスモンの遺産相続人が老嬢だと知り大喜び。蔵書を手に入れるには結婚すればいいと、さっそくエレオノール・シジスモン嬢を訪ねる。ところが、シジスモン嬢はギョマール氏の申し出をはねつける。もともと亡くなった従兄のシジスモンと結婚するはずだったのに、シジスモンの古本漁りのためにその機会を逃したと、シジスモン嬢は相続した古本を目の敵にしている。書斎の屋根を壊し、窓を割り、ネズミを放って古本を台なしにしてやるとのシジスモン嬢の話を聞き、ギョマール氏は悲鳴を上げる。
「クリストファスン」(ジョージ・ギッシング)
同上
〈私〉が20年前に出会った男を回想する。古本屋で古本を買うと、それは以前は私の本だったと、おずおずと声をかけてくる男がいる。それがクリストファスン。もとは裕福だったものの商売に失敗し、最初の妻は亡くなり、亡くなった娘の家庭教師と再婚した。商売に失敗してからは事務員などをしていたが、からだを壊してからは妻の収入に頼っている。そのわずかな妻の収入からも、クリストファスンは本を買わずにいられない。おかげで家中は本だらけで、やっと生活するだけの広さしかない。こんなクリストファスン夫妻に、夫人の裕福な親類からノーフォークの家を提供しようという申し出が舞いこむ。喜んだのもつかの間、夫妻の家を来訪した親類は、カビ臭い古本の山を自分の家に移すことを拒否し、おかげで夫人は寝こんでしまう。
「目に見えないコレクション」(シュテファン・ツヴァイク)
同上
副題は「ドイツ、インフレーション時代のエピソード」。列車で〈私〉が、古美術商から聞いた話。田舎町に住む、60年来のお得意を訪ねた古美術商。収集家はまだ生きていたが、目が見えなくなっていた。古美術商がきたことを喜んで、収集家は60年かけてつくったその古い版画のコレクションをぜひ見せたいという。だが、そのコレクションを見るまえに、収集家の娘から、古美術商は注意を受ける。名高い傑作。何度読んでも胸に迫る。
「書痴メンデル」(シュテファン・ツヴァイク)
同上
ウィーンにもどってきてカフェに入った〈私〉が20年前、このカフェにいた書痴メンデルのことを回顧する。そして、ただひとりメンデルのことをおぼえていたカフェの掃除婦から、ことの次第を聞く。メンデルは書籍仲買人をしており、一日中カフェの一席に座り本を読んでいた。万巻の書を把握し、司書よりも図書館に詳しく、出版社の在庫品も暗記していた。正規の本屋をやる許可書をもっていなかったが、頼まれればわずかな手数料でどんな本でもとりよせた。メンデルを目当てに客がくるため、カフェでは重んじられていた。ところが、戦争がはじまると、軍の検閲課でメンデルがだした敵国宛てのハガキが押収される。購読している本が届かないことを督促したハガキだったが、戦争が起きたことすら知らないメンデルは用心するということがない。ついにカフェに秘密警察がやってくる。
「牧師の汚名」(ジェイムズ・グールド・カズンズ)
同上
古書店に、インゴールズ大佐と名乗る白髪の紳士がやってくる。兄のインゴールズ牧師に請求書がきたが、なにかの間違いだとインゴールズ大佐。兄がそんな本を注文したはずもないし、受けとったはずもない。第一、読みたいと思ったはずもない。しかし古書店の店主ジョレス氏は反発する。こういうたぐいの本は秘密の場所に置かれています。支払わなければ法律に訴えます。請求書の内容がおおやけにされるのは迷惑でしょう。――どんでん返しが上手い。
1000編までやろうと思っていたけれど、もう無理だなあ。
短篇集を買うくせだけが残ってしまった。
「名探偵エルナンド・コルテス」(シオドー・マシスン)
「名探偵群像」(東京創元社 1961)
歴史上の人物を名探偵に仕立てたシリーズの1編。とり上げられた人物は、アレクサンダー大王、ウマル・ハイヤーム、レオナルド・ダ・ヴィンチ、コルテス、セルバンデス、デフォー、クック、ダニエル・ブーン、スタンレーとリヴィングストン、ナイチンゲールといった面々。
1520年6月、モンテスマ皇帝を捕虜としたものの、メキシコの軍隊にかこまれたスペイン軍。コルテスは、メキシコの民衆を懐柔すべく、モンテスマに演説を頼む。だが、演説中の投石によりモンテスマは死亡。その石は、民衆のものではなく、モンテスマを護衛していた3人の士官の誰かが投げたものだった。スペイン軍はモンテスマの宝物を略奪して撤退。3人の士官のうち、下手人は誰なのか。
「名探偵ドン・ミゲール・デ・セルバンデス」
同上
古都バリャドリッドで、妻と娘、それに姉と暮らす58歳のドン・ミゲール。ミゲールの書いた「ドン・キホーテ」は、ベハル公の祖父が書いた騎士物語を風刺したものだとの噂が立ち、そのためベハル公はミゲールへの後援をとりやめるという。その噂を払拭するため、公のもとを訪ねようとした矢先、ミゲールは路上で若い男が倒れるのにでくわす。下宿にはこび医者を呼ぶが、男は死亡。治安官ディエゴ・デ・ビリャロエルはミゲールを犯人と決めつける。――もとになった事件は「物語スペインの歴史 人物篇」(岩根圀和 中央公論新社 2004)に書いてあった。
「名探偵ダニエル・デフォー」
同上
1719年、デフォーの義兄サミュエル・タフレイは、ロジャーズという男に会いにいくというデフォーの頼みを受け、ともにエディンバラに向かう。数かずの扇動的文書をあらわしたデフォーは、あちこちに敵をつくっており、2週間前には寝室に忍びこんできた賊に絞め殺されそうになったという。エディンバラの白鳥館でぶじ航海士のロジャーズと落ちあったデフォーだったが、襲われる不安をこぼすと、なら部屋を替わってやろうとロジャーズ。その晩、デフォーがロジャーズの部屋を訪れると、ロジャーズは扼殺されていた。このままでは殺人の疑いをかけられてしまう。今晩中に犯人をみつけだすと、デフォーは宣言する。
「名探偵フローレス・ナイチンゲール」
同上
1854年10月、英国兵を看護するため38人の看護婦を率いてクリミアに向かったフローレス・ナイチンゲール。鞄のなかには、いつのまにか×印をつけたクラウン銀貨が入れられていた。これは偶像破壊者と呼ばれる者の仕業らしい。偶像破壊者は、セント・ジェームズの祭壇から聖杯を盗みだすなど、冒涜的な盗みをおこない、サイン代わりに傷をつけたクラウン銀貨を置いていくのだという。パリでの夜、フローレンスたちが泊まった部屋の前に、背中をナイフで刺されて死んだ男がみつかる。ドアには、銀貨と同じ×印が。男は、大金持ちで婚約者を捨てたとの醜聞があるリーニダフという男。従軍記者としてフローレンスらと同様、クリミアに向かっているところだった。ここで足止めをくって前線の兵士たちを待たせるわけにはいかない。フローレンスは、リーニダフの死体を自身の部屋にもどし、予定通り翌朝出発。が、マルセーユでまたも偶像破壊者の襲撃を受ける。
「薪」(アナトール・フランス)
「書物愛 海外篇」(晶文社 2005)
これは中編。「シルヴェストル・ボナールの罪」(岩波書店 1978)の第1部を収録したもの。1861年の12月にはじまり、1869年の12月に終わる8年間の物語。主人公のボナールはひとり者の老学究。古本を売りにきた貧相な男には、商売女の妻がいて、同じ建物の屋根裏で暮らしている。そうテレーズ婆やから聞いたボナールは、同情し、屋根裏に薪をはこばせるよう婆やにいいつける。一方、古い目録のなかで、珍しい写本をみつけ、平静ではいられない。のちにフィレンツェの本屋の目録で、同じ本をみつけたボナールは、現在の所蔵者に会うためシチリアに赴く。
「シジスモンの遺産」(オクターヴ・ユザンヌ)
同上
愛書家コミックノベルというべき作品。愛書家シジスモンが亡くなった。20年に渡りシジスモンと本を巡ってあらそってきたギョマール氏は、代理人を介してシジスモンの蔵書の一括購入を申しでる。が、遺言により蔵書の売却は禁じられていた。落胆したギョマール氏だったが、シジスモンの遺産相続人が老嬢だと知り大喜び。蔵書を手に入れるには結婚すればいいと、さっそくエレオノール・シジスモン嬢を訪ねる。ところが、シジスモン嬢はギョマール氏の申し出をはねつける。もともと亡くなった従兄のシジスモンと結婚するはずだったのに、シジスモンの古本漁りのためにその機会を逃したと、シジスモン嬢は相続した古本を目の敵にしている。書斎の屋根を壊し、窓を割り、ネズミを放って古本を台なしにしてやるとのシジスモン嬢の話を聞き、ギョマール氏は悲鳴を上げる。
「クリストファスン」(ジョージ・ギッシング)
同上
〈私〉が20年前に出会った男を回想する。古本屋で古本を買うと、それは以前は私の本だったと、おずおずと声をかけてくる男がいる。それがクリストファスン。もとは裕福だったものの商売に失敗し、最初の妻は亡くなり、亡くなった娘の家庭教師と再婚した。商売に失敗してからは事務員などをしていたが、からだを壊してからは妻の収入に頼っている。そのわずかな妻の収入からも、クリストファスンは本を買わずにいられない。おかげで家中は本だらけで、やっと生活するだけの広さしかない。こんなクリストファスン夫妻に、夫人の裕福な親類からノーフォークの家を提供しようという申し出が舞いこむ。喜んだのもつかの間、夫妻の家を来訪した親類は、カビ臭い古本の山を自分の家に移すことを拒否し、おかげで夫人は寝こんでしまう。
「目に見えないコレクション」(シュテファン・ツヴァイク)
同上
副題は「ドイツ、インフレーション時代のエピソード」。列車で〈私〉が、古美術商から聞いた話。田舎町に住む、60年来のお得意を訪ねた古美術商。収集家はまだ生きていたが、目が見えなくなっていた。古美術商がきたことを喜んで、収集家は60年かけてつくったその古い版画のコレクションをぜひ見せたいという。だが、そのコレクションを見るまえに、収集家の娘から、古美術商は注意を受ける。名高い傑作。何度読んでも胸に迫る。
「書痴メンデル」(シュテファン・ツヴァイク)
同上
ウィーンにもどってきてカフェに入った〈私〉が20年前、このカフェにいた書痴メンデルのことを回顧する。そして、ただひとりメンデルのことをおぼえていたカフェの掃除婦から、ことの次第を聞く。メンデルは書籍仲買人をしており、一日中カフェの一席に座り本を読んでいた。万巻の書を把握し、司書よりも図書館に詳しく、出版社の在庫品も暗記していた。正規の本屋をやる許可書をもっていなかったが、頼まれればわずかな手数料でどんな本でもとりよせた。メンデルを目当てに客がくるため、カフェでは重んじられていた。ところが、戦争がはじまると、軍の検閲課でメンデルがだした敵国宛てのハガキが押収される。購読している本が届かないことを督促したハガキだったが、戦争が起きたことすら知らないメンデルは用心するということがない。ついにカフェに秘密警察がやってくる。
「牧師の汚名」(ジェイムズ・グールド・カズンズ)
同上
古書店に、インゴールズ大佐と名乗る白髪の紳士がやってくる。兄のインゴールズ牧師に請求書がきたが、なにかの間違いだとインゴールズ大佐。兄がそんな本を注文したはずもないし、受けとったはずもない。第一、読みたいと思ったはずもない。しかし古書店の店主ジョレス氏は反発する。こういうたぐいの本は秘密の場所に置かれています。支払わなければ法律に訴えます。請求書の内容がおおやけにされるのは迷惑でしょう。――どんでん返しが上手い。
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お楽しみはこれからだ PART6
「お楽しみはこれからだ PART6」(和田誠 国書刊行会 2022)
あとがきに、PART1から21年目、連載をはじめたときから数えると33年目になると書いてある。
これは間違いじゃないだろうか。
PART1の刊行は、1975年。
本書(PART6)の刊行は、1996年。
これは21年目で正しい。
でも、PART5の栞に記載された解題によれば、連載がはじまったのは、「キネマ旬報」1973年10月上旬号から。
なので、連載開始からでは23年目というのが正しいのではないかと思う。
愛蔵版ということで、こんなところも直さなかったのかもしれない。
これだけ長期に渡ると、フォーマットがきっちり決まっているこの連載にも、わずかながら変化がみられる。
イラストは、ディフォルメがきつかった部分がとれ、丸くなったような印象を受ける。
文章は、冒頭にセリフを置かなくなり、映画を紹介したあとセリフを置くことが多くなったように思う。
この巻で目にとまったのは、「必殺の一弾」についての紹介。
《50年代の風変わりな西部劇として「必殺の一弾」が忘れられない。》
と、この映画について、和田さんはこんな風に紹介する。
《この映画のフォード(主人公役のグレン・フォード)は雑貨屋の主人である。彼は早撃ちなのだが、ガンプレイが巧みというだけで、人を撃ったことはない。腕前を隠して暮らしているが、どうしても人に見せたくなる。早撃ちデモンストレーション病なのだ。やってみると確かに名人級で、町の人は舌を巻く。ところが噂を聞きつけて本物の早撃ち自慢のガンマンがやってくる。こいつは早撃ちがいると聞くと腕比べをしないとおさまらないビョーキである。自分と対決しろ、さもなければ町を焼くと言い出すのだ。》
この映画を知っているひとは、《早撃ちデモンストレーション病》という表現に、みんな笑うのではないか。
そしてこのあと、
《フォードはこの男と対決する破目になる。》
【お楽しみはこれからだ 映画リスト】
6巻
愛の泉
悪魔のはらわた
アスファルト・ジャングル
雨を降らす男
愛しのロクサーヌ
エルマー・ガントリー
黄金の腕
黄金の馬車
オール・ザ・キングスメン
オデッサ・ファイル
大人は判ってくれない
踊らん哉
泳ぐひと
女はそれを我慢できない
影の軍隊
飾窓の女
華氏451
カラー・パープル
奇蹟の鐘
気まぐれ天使
脅迫者
ギルダ
ギルバード・グレイプ
草の上の昼食
クリフハンガー
クレムリンレター
黒いチューリップ
群衆
刑事マディガン
原子怪獣現る
拳銃往来
拳銃街道
拳銃無宿
現金に体を張れ
現金に手を出すな
荒野の決闘
ゴシック
コルシカの兄弟
ザ・シークレット・サービス
殺人者
ザッツ・エンタテインメントPART3
ザ・ドライバー
シシリアン
死の接吻
シャイアン
十二人の怒れる男
ショーシャンクの空に
真紅の盗賊
シンドラーのリスト
スパルタカス
スピード
聖処女
西部魂
戦雲
聖(セント)メリイの鐘
底抜け大学教授
ソロモンとシバの女王
ダイ・ハード
太陽の帝国
大陸横断超特急
断崖
地下室のメロディー
縮みゆく人間
地平線から来た男
凸凹フランケンシュタインの巻
逃亡者
トゥームストーン
透明人間
トゥルー・ロマンス
都会の叫び
突撃
トニー・ローム殺しの追跡
ドライビング・ミス・デイジー
ドラキュラ都へ行く
鳥
渚にて
南部の人
日曜日が待ち遠しい!
白熱
裸の拍車
裸のランナー
二十日鼠と人間
花咲ける騎士道
薔薇の名前
パルプ・フィクション
パルムの僧院
ピアニストを撃て
必殺の一弾
拾った女
フォー・ザ・ボーイズ
フォレスト・ガンプ
ブライド
フランケンシュタインンの花嫁
フレンチ・カンカン
ペリカン文書
ベン・ハー
放射能X
暴力脱獄
誇り高き男
マーヴェリック
真昼の決闘
ミシシッピ・バーニング
未知との遭遇
緑色の髪の少年
ミニヴァー夫人
ムーンフリート
目撃者
夕陽に立つ保安官
ライジング・サン
リオ・ブラボー
リスボン急行
ルーキー
レザボア・ドッグス
レッズ
レナードの朝
恋愛手帖
ワイアット・アープ
ワイルドバンチ
我が道を往く
あとがきに、PART1から21年目、連載をはじめたときから数えると33年目になると書いてある。
これは間違いじゃないだろうか。
PART1の刊行は、1975年。
本書(PART6)の刊行は、1996年。
これは21年目で正しい。
でも、PART5の栞に記載された解題によれば、連載がはじまったのは、「キネマ旬報」1973年10月上旬号から。
なので、連載開始からでは23年目というのが正しいのではないかと思う。
愛蔵版ということで、こんなところも直さなかったのかもしれない。
これだけ長期に渡ると、フォーマットがきっちり決まっているこの連載にも、わずかながら変化がみられる。
イラストは、ディフォルメがきつかった部分がとれ、丸くなったような印象を受ける。
文章は、冒頭にセリフを置かなくなり、映画を紹介したあとセリフを置くことが多くなったように思う。
この巻で目にとまったのは、「必殺の一弾」についての紹介。
《50年代の風変わりな西部劇として「必殺の一弾」が忘れられない。》
と、この映画について、和田さんはこんな風に紹介する。
《この映画のフォード(主人公役のグレン・フォード)は雑貨屋の主人である。彼は早撃ちなのだが、ガンプレイが巧みというだけで、人を撃ったことはない。腕前を隠して暮らしているが、どうしても人に見せたくなる。早撃ちデモンストレーション病なのだ。やってみると確かに名人級で、町の人は舌を巻く。ところが噂を聞きつけて本物の早撃ち自慢のガンマンがやってくる。こいつは早撃ちがいると聞くと腕比べをしないとおさまらないビョーキである。自分と対決しろ、さもなければ町を焼くと言い出すのだ。》
この映画を知っているひとは、《早撃ちデモンストレーション病》という表現に、みんな笑うのではないか。
そしてこのあと、
《フォードはこの男と対決する破目になる。》
【お楽しみはこれからだ 映画リスト】
6巻
愛の泉
悪魔のはらわた
アスファルト・ジャングル
雨を降らす男
愛しのロクサーヌ
エルマー・ガントリー
黄金の腕
黄金の馬車
オール・ザ・キングスメン
オデッサ・ファイル
大人は判ってくれない
踊らん哉
泳ぐひと
女はそれを我慢できない
影の軍隊
飾窓の女
華氏451
カラー・パープル
奇蹟の鐘
気まぐれ天使
脅迫者
ギルダ
ギルバード・グレイプ
草の上の昼食
クリフハンガー
クレムリンレター
黒いチューリップ
群衆
刑事マディガン
原子怪獣現る
拳銃往来
拳銃街道
拳銃無宿
現金に体を張れ
現金に手を出すな
荒野の決闘
ゴシック
コルシカの兄弟
ザ・シークレット・サービス
殺人者
ザッツ・エンタテインメントPART3
ザ・ドライバー
シシリアン
死の接吻
シャイアン
十二人の怒れる男
ショーシャンクの空に
真紅の盗賊
シンドラーのリスト
スパルタカス
スピード
聖処女
西部魂
戦雲
聖(セント)メリイの鐘
底抜け大学教授
ソロモンとシバの女王
ダイ・ハード
太陽の帝国
大陸横断超特急
断崖
地下室のメロディー
縮みゆく人間
地平線から来た男
凸凹フランケンシュタインの巻
逃亡者
トゥームストーン
透明人間
トゥルー・ロマンス
都会の叫び
突撃
トニー・ローム殺しの追跡
ドライビング・ミス・デイジー
ドラキュラ都へ行く
鳥
渚にて
南部の人
日曜日が待ち遠しい!
白熱
裸の拍車
裸のランナー
二十日鼠と人間
花咲ける騎士道
薔薇の名前
パルプ・フィクション
パルムの僧院
ピアニストを撃て
必殺の一弾
拾った女
フォー・ザ・ボーイズ
フォレスト・ガンプ
ブライド
フランケンシュタインンの花嫁
フレンチ・カンカン
ペリカン文書
ベン・ハー
放射能X
暴力脱獄
誇り高き男
マーヴェリック
真昼の決闘
ミシシッピ・バーニング
未知との遭遇
緑色の髪の少年
ミニヴァー夫人
ムーンフリート
目撃者
夕陽に立つ保安官
ライジング・サン
リオ・ブラボー
リスボン急行
ルーキー
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レナードの朝
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久生十蘭の「ハムレット」と、ヘンリイ/アンリ/エンリコ/ハインリッヒについて
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
しばらく続けていた「短編をよむ」は、ストックがなくなったので、いったん中止します。
45回までやって、1回に10作品をとり上げていたから、450作品について書いたことになる。
なんだか1000作品ぐらい、いけそうな気がしてきた。
この企画をはじめたのは、手元の読んでいない小説を片づけるのに、短篇集のほうが早く読み進められるのではないかと思ったから。
目論見どおり、どんどん読むことができたけれど、面白そうな短篇集があるとどんどん買うようにもなってしまい、けっきょくはじめる前と手元の本の量はそう変わらないというていたらく。
ともあれ、ストックが溜まったらまた再開しようと思います。
今回は別の話。
久生十蘭の「ハムレット」と、ヘンリイ/アンリ/エンリコ/ハインリッヒの呼称について――。
些末なことを書く。
最初に気づいたのは、都築道夫の「なめくじに聞いてみろ」(扶桑社 2000)のあとがき。
作者の都築道夫さんは、末尾に《Apr.1968》と記されたあとがきのなかで、
――「なめくじに聞いてみろ」はイアン・フレミングの007シリーズを模倣したのだ
と書いている。
さらに、この作品はあの作品の模倣だといった話が続く。
・ギャビン・ライアルの「もっとも危険なゲーム」は、リチャード・コネルの短編(題も同じ)“Most Dangerous Game”を下敷きにしている
(だから、コネル作品を知っている者にはクライマックスが見えすいていて、消化不良としかいえないと都築さん)。
・久生十蘭の「ハムレット」は、ピランデルロの戯曲「ヘンリイ四世」を下敷きにしている。
・また久生十蘭の「無月物語」は、スタンダールの「チェンチ一族」だったか、とにかく「イタリア年代記」中の一編を下敷きにしている。
などなど。
このあと、《この百二十七年間、世界中の推理小説は、エドガー・アラン・ポオがえがいた円のなかを、走りまわっていたにすぎないのだ》という風に文章は続き、イアン・フレミングのどんな部分を「なめくじに聞いてみろ」に取り入れたのかという点に話は及ぶ。
「なめくじに聞いてみろ」を原作とした、映画「殺人狂時代」にも触れており、なんとまあ啓蒙的なあとがきだろうと感心してしまう。
それはともかく。
ここには、《久生十蘭の「ハムレット」は、ピランデルロの戯曲「ヘンリイ四世」が下敷き》と書いてあったのだった。
それなのに、久生十蘭の「真説・鉄仮面」(講談社 1997)の巻末に書かれた「人と作品」(横井司)には、こうある。
《久生十蘭の改作癖はよく知られており、ピランデルロの戯曲「アンリ四世」をもとに「ハムレット」が、スタンダールの「カストロの尼」をもとに「うすゆき抄」が、同じくスタンダールの「チェンチ一族」をもとに「無月物語」が書かれたと指摘されている。》
「ハムレット」のもとになったというピランデルロの戯曲は、「アンリ四世」だと書いてある。
一体、十蘭が下敷きにした戯曲は「ヘンリイ四世」なのか「アンリ四世」なのか。
仕方がないので調べてみることにした。
「湖畔・ハムレット」(講談社 2005)に収められた、「十蘭伝説」(江口雄輔)という文章では――。
《「ハムレット」の原形作である「刺客」のなかで、ピランデルロの「エンリコ四世」について言及している》
もうひとつ名前が増えてしまった。
戯曲は、「ヘンリイ四世」・「アンリ四世」・「エンリコ四世」のどれが正しいのだろう。
こういうことを調べるときは、新しく出版された本がいい。
そのほうが解説も更新されているだろう。
そう思い、「黒い手帳」(光文社 2022)を手にとってみた。
この本は、「ハムレット」とその原型作の「刺客」、それに「湖畔」とその原型作の「湖畔(文藝版)」が収録され、さらに都築道夫さんと、日下三蔵さんの2つの解説がついているという、大変お得な一冊だ。
さてそこで、都築道夫さんの「久生十蘭――『刺客』を通じての詩論」という解説を読んでみる。
日下三蔵さんの編者解説によれば、この解説は「推理界」(昭和44年1月号)に掲載されたものだとのこと。
「刺客」は雑誌「モダン日本」1938(昭和13)年5~6月号に掲載されたきりになっていた。
それが1969(昭和44)年1月、浪速書房のミステリ専門誌「推理界」の名作紹介コーナー「推理文学館」に掲載された。
そのさいに校訂を担当し、詳細な解説を付したのが都築道夫さんだったという。
(なおこの文章は、都築道夫さんのミステリ評論集「死体を無事に消すまで」にも収められているそう)
「久生十蘭――『刺客』を通じての詩論」のなかで、十蘭がピランデルロの戯曲を下敷きにしたことは、こんな風に書かれていた。
《……この物語(「ハムレット」)は『刺客』のなかで言及して、ちらっと楽屋をのぞかしているように、ピランデルロの『エンリコ四世』(戯曲で、最近では『ヘンリー四世』と訳されている)をスプリングボードにして、シェイクスピアの『ハムレット』を推理小説というプールに飛びこませたものだ。》
この一文を読んだときは膝からくずれ落ちそうになった。
なんと、「エンリコ四世」と「ヘンリイ四世」は同じ作品だったのか。
とすると「アンリ四世」もそうなのか。
ここまでのことを時系列でならべてみよう。
1 1938「刺客」、「エンリコ四世」
2 1968「なめくじに聞いてみろ」のあとがき、「ヘンリイ四世」
3 1969「久生十蘭――『刺客』を通じての詩論」、「エンリコ四世/ヘンリー四世」
4 1997「真説・鉄仮面」の「人と作品」、「アンリ四世」
5 2005「湖畔・ハムレット」の「十蘭伝説」、「エンリコ四世」
たまたま、2・4・5の順番で読んだものだから、一体どの作品なのだろうと怪しんだのだった。
最初に3を読んでいたら、なんとも思わなかっただろう。
ものを知らないというのは手間のかかるものだ。
とはいえ、皆さん、「エンリコ四世」と「ヘンリイ四世」と「アンリ四世」は、じつは同じ戯曲なのだと、書いてくれてもよかったじゃないかと思う。
ついでながら、「エンリコ四世」の戯曲にも目を通してみた。
「ピランデルロ名作集」(白水社 1958)の「ヘンリイ四世」(内田直也訳)
「ピランデッロ戯曲集2」(新水社 2000)の「エンリーコ四世」(白澤定雄訳)
「ピランデッロ戯曲集2」(水声社 2022)の「エンリーコ四世」(斎藤泰弘訳)
それから、手ごろな解説として、「人は役者,世界は舞台」(山崎正和 集英社 1979)のなかの、「ヘンリイ四世」についての記述。
さて、戯曲「エンリーコ四世」のストーリーは以下のようなものだ。
仮装パレード中、皇帝エンリーコ四世に扮装していた主人公が落馬して失神。
その後、自分のことを皇帝と思いこんで生き続ける。
周りも主人公に合わせ、20年もの月日が経つのだが、いつしか主人公は正気にもどったまま仮装を続けていたことが判明。
一同は困惑する。
ちなみに久生十蘭の「ハムレット」は、上演中の事故により、自分をハムレットと思いこんでいる男の話だ。
「エンリーコ四世」同様、じつは正気にもどっている。
さらに事故には作為があったのだと、推理小説的趣向がほどこされている。
戯曲を読んで驚いたのは、皇帝エンリーコ四世は、世界史で習った「カノッサの屈辱」(1077)に登場する人物だったことだ。
教皇の破門を許してもらおうと、冬のさなかカノッサ城の城門に3日間立った人物。
このひとの名前は、神聖ローマ皇帝ハインリッヒ四世だろうと思ったら、2022年版の「ピランデッロ戯曲集2」の注に、こんなことが書いてあった。
《アンリ(フランス語)=エンリーコ(イタリア語)=ハインリッヒ(ドイツ語)》
みんな同じ人物の名前なのだった。
さらに英語ではヘンリーなのだろう。
西洋人の名前はなんとややこしいものか。
戯曲の冒頭は、エンリーコ四世の宮廷に新しい部下(ドイツ人騎士の恰好をした枢密顧問官)が登場するところからはじまる。
もちろんこれは、自分のことをエンリーコ四世と思っている主人公の妄想にあわせた演技。
この新しい部下は、エンリーコ四世をフランスのエンリーコ(アンリ)四世と勘違いしていたため、同僚にからかわれる。
フランス王アンリ四世は、ナントの勅令を発して新旧の宗教対立を収拾した、16世紀ごろの人物。
つまり、ここではエンリーコ四世の同名を利用し、勘違いした新人をからかうことで、劇のややこしい状況をたくみに説明している。
劇の導入に、同名がひと役買っている。
だから、アンリは全部エンリーコに訳してしまえなどというわけにはいかないのだった。
最後に。
「ピランデッロ戯曲集2」(新水社 2000)の「あとがき」に日本でのピランデルロ作品の上演が紹介されており、そこにこんな記述をみつけた。
《…「エンリーコ四世」を「ヘンリー四世」の題名で劇団雲が昭和42年6月に上演している。》
昭和42年は、1967年。
また「ヘンリイ四世」をタイトルとした白水社版の「ピランデルロ名作集」の刊行は1958年。
都築道夫さんが、1969年に「久生十蘭――『刺客』を通じての詩論」のなかで書いた、《最近では『ヘンリー四世』と訳されている》の、《最近》とは、このあたりのことを指しているのではないかと思う。
本年もよろしくお願いいたします。
しばらく続けていた「短編をよむ」は、ストックがなくなったので、いったん中止します。
45回までやって、1回に10作品をとり上げていたから、450作品について書いたことになる。
なんだか1000作品ぐらい、いけそうな気がしてきた。
この企画をはじめたのは、手元の読んでいない小説を片づけるのに、短篇集のほうが早く読み進められるのではないかと思ったから。
目論見どおり、どんどん読むことができたけれど、面白そうな短篇集があるとどんどん買うようにもなってしまい、けっきょくはじめる前と手元の本の量はそう変わらないというていたらく。
ともあれ、ストックが溜まったらまた再開しようと思います。
今回は別の話。
久生十蘭の「ハムレット」と、ヘンリイ/アンリ/エンリコ/ハインリッヒの呼称について――。
些末なことを書く。
最初に気づいたのは、都築道夫の「なめくじに聞いてみろ」(扶桑社 2000)のあとがき。
作者の都築道夫さんは、末尾に《Apr.1968》と記されたあとがきのなかで、
――「なめくじに聞いてみろ」はイアン・フレミングの007シリーズを模倣したのだ
と書いている。
さらに、この作品はあの作品の模倣だといった話が続く。
・ギャビン・ライアルの「もっとも危険なゲーム」は、リチャード・コネルの短編(題も同じ)“Most Dangerous Game”を下敷きにしている
(だから、コネル作品を知っている者にはクライマックスが見えすいていて、消化不良としかいえないと都築さん)。
・久生十蘭の「ハムレット」は、ピランデルロの戯曲「ヘンリイ四世」を下敷きにしている。
・また久生十蘭の「無月物語」は、スタンダールの「チェンチ一族」だったか、とにかく「イタリア年代記」中の一編を下敷きにしている。
などなど。
このあと、《この百二十七年間、世界中の推理小説は、エドガー・アラン・ポオがえがいた円のなかを、走りまわっていたにすぎないのだ》という風に文章は続き、イアン・フレミングのどんな部分を「なめくじに聞いてみろ」に取り入れたのかという点に話は及ぶ。
「なめくじに聞いてみろ」を原作とした、映画「殺人狂時代」にも触れており、なんとまあ啓蒙的なあとがきだろうと感心してしまう。
それはともかく。
ここには、《久生十蘭の「ハムレット」は、ピランデルロの戯曲「ヘンリイ四世」が下敷き》と書いてあったのだった。
それなのに、久生十蘭の「真説・鉄仮面」(講談社 1997)の巻末に書かれた「人と作品」(横井司)には、こうある。
《久生十蘭の改作癖はよく知られており、ピランデルロの戯曲「アンリ四世」をもとに「ハムレット」が、スタンダールの「カストロの尼」をもとに「うすゆき抄」が、同じくスタンダールの「チェンチ一族」をもとに「無月物語」が書かれたと指摘されている。》
「ハムレット」のもとになったというピランデルロの戯曲は、「アンリ四世」だと書いてある。
一体、十蘭が下敷きにした戯曲は「ヘンリイ四世」なのか「アンリ四世」なのか。
仕方がないので調べてみることにした。
「湖畔・ハムレット」(講談社 2005)に収められた、「十蘭伝説」(江口雄輔)という文章では――。
《「ハムレット」の原形作である「刺客」のなかで、ピランデルロの「エンリコ四世」について言及している》
もうひとつ名前が増えてしまった。
戯曲は、「ヘンリイ四世」・「アンリ四世」・「エンリコ四世」のどれが正しいのだろう。
こういうことを調べるときは、新しく出版された本がいい。
そのほうが解説も更新されているだろう。
そう思い、「黒い手帳」(光文社 2022)を手にとってみた。
この本は、「ハムレット」とその原型作の「刺客」、それに「湖畔」とその原型作の「湖畔(文藝版)」が収録され、さらに都築道夫さんと、日下三蔵さんの2つの解説がついているという、大変お得な一冊だ。
さてそこで、都築道夫さんの「久生十蘭――『刺客』を通じての詩論」という解説を読んでみる。
日下三蔵さんの編者解説によれば、この解説は「推理界」(昭和44年1月号)に掲載されたものだとのこと。
「刺客」は雑誌「モダン日本」1938(昭和13)年5~6月号に掲載されたきりになっていた。
それが1969(昭和44)年1月、浪速書房のミステリ専門誌「推理界」の名作紹介コーナー「推理文学館」に掲載された。
そのさいに校訂を担当し、詳細な解説を付したのが都築道夫さんだったという。
(なおこの文章は、都築道夫さんのミステリ評論集「死体を無事に消すまで」にも収められているそう)
「久生十蘭――『刺客』を通じての詩論」のなかで、十蘭がピランデルロの戯曲を下敷きにしたことは、こんな風に書かれていた。
《……この物語(「ハムレット」)は『刺客』のなかで言及して、ちらっと楽屋をのぞかしているように、ピランデルロの『エンリコ四世』(戯曲で、最近では『ヘンリー四世』と訳されている)をスプリングボードにして、シェイクスピアの『ハムレット』を推理小説というプールに飛びこませたものだ。》
この一文を読んだときは膝からくずれ落ちそうになった。
なんと、「エンリコ四世」と「ヘンリイ四世」は同じ作品だったのか。
とすると「アンリ四世」もそうなのか。
ここまでのことを時系列でならべてみよう。
1 1938「刺客」、「エンリコ四世」
2 1968「なめくじに聞いてみろ」のあとがき、「ヘンリイ四世」
3 1969「久生十蘭――『刺客』を通じての詩論」、「エンリコ四世/ヘンリー四世」
4 1997「真説・鉄仮面」の「人と作品」、「アンリ四世」
5 2005「湖畔・ハムレット」の「十蘭伝説」、「エンリコ四世」
たまたま、2・4・5の順番で読んだものだから、一体どの作品なのだろうと怪しんだのだった。
最初に3を読んでいたら、なんとも思わなかっただろう。
ものを知らないというのは手間のかかるものだ。
とはいえ、皆さん、「エンリコ四世」と「ヘンリイ四世」と「アンリ四世」は、じつは同じ戯曲なのだと、書いてくれてもよかったじゃないかと思う。
ついでながら、「エンリコ四世」の戯曲にも目を通してみた。
「ピランデルロ名作集」(白水社 1958)の「ヘンリイ四世」(内田直也訳)
「ピランデッロ戯曲集2」(新水社 2000)の「エンリーコ四世」(白澤定雄訳)
「ピランデッロ戯曲集2」(水声社 2022)の「エンリーコ四世」(斎藤泰弘訳)
それから、手ごろな解説として、「人は役者,世界は舞台」(山崎正和 集英社 1979)のなかの、「ヘンリイ四世」についての記述。
さて、戯曲「エンリーコ四世」のストーリーは以下のようなものだ。
仮装パレード中、皇帝エンリーコ四世に扮装していた主人公が落馬して失神。
その後、自分のことを皇帝と思いこんで生き続ける。
周りも主人公に合わせ、20年もの月日が経つのだが、いつしか主人公は正気にもどったまま仮装を続けていたことが判明。
一同は困惑する。
ちなみに久生十蘭の「ハムレット」は、上演中の事故により、自分をハムレットと思いこんでいる男の話だ。
「エンリーコ四世」同様、じつは正気にもどっている。
さらに事故には作為があったのだと、推理小説的趣向がほどこされている。
戯曲を読んで驚いたのは、皇帝エンリーコ四世は、世界史で習った「カノッサの屈辱」(1077)に登場する人物だったことだ。
教皇の破門を許してもらおうと、冬のさなかカノッサ城の城門に3日間立った人物。
このひとの名前は、神聖ローマ皇帝ハインリッヒ四世だろうと思ったら、2022年版の「ピランデッロ戯曲集2」の注に、こんなことが書いてあった。
《アンリ(フランス語)=エンリーコ(イタリア語)=ハインリッヒ(ドイツ語)》
みんな同じ人物の名前なのだった。
さらに英語ではヘンリーなのだろう。
西洋人の名前はなんとややこしいものか。
戯曲の冒頭は、エンリーコ四世の宮廷に新しい部下(ドイツ人騎士の恰好をした枢密顧問官)が登場するところからはじまる。
もちろんこれは、自分のことをエンリーコ四世と思っている主人公の妄想にあわせた演技。
この新しい部下は、エンリーコ四世をフランスのエンリーコ(アンリ)四世と勘違いしていたため、同僚にからかわれる。
フランス王アンリ四世は、ナントの勅令を発して新旧の宗教対立を収拾した、16世紀ごろの人物。
つまり、ここではエンリーコ四世の同名を利用し、勘違いした新人をからかうことで、劇のややこしい状況をたくみに説明している。
劇の導入に、同名がひと役買っている。
だから、アンリは全部エンリーコに訳してしまえなどというわけにはいかないのだった。
最後に。
「ピランデッロ戯曲集2」(新水社 2000)の「あとがき」に日本でのピランデルロ作品の上演が紹介されており、そこにこんな記述をみつけた。
《…「エンリーコ四世」を「ヘンリー四世」の題名で劇団雲が昭和42年6月に上演している。》
昭和42年は、1967年。
また「ヘンリイ四世」をタイトルとした白水社版の「ピランデルロ名作集」の刊行は1958年。
都築道夫さんが、1969年に「久生十蘭――『刺客』を通じての詩論」のなかで書いた、《最近では『ヘンリー四世』と訳されている》の、《最近》とは、このあたりのことを指しているのではないかと思う。
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短編をよむ その45
「真空呼吸者」(アーサー・C・クラーク)
「ミニミニSF傑作選」(講談社 1983)
〈真空呼吸者クラブ〉の創立メンバーのひとりが語る物語。時速30マイルで回転している宇宙ステーションの居住区画で事故が発生。衝撃のあと、4人が眠る円筒状のキャビンが、宇宙空間に放りだされてしまった。照明回路は途絶し、回線は不通。酸素が残っているあいだに助けはきてくれるのか。
「血」(フレドリック・ブラウン)
同上
吸血鬼族の最後の生き残りであるヴロンとドリーナは、タイムマシンで未来へ逃亡。途中、何度かタイムマシンを停めてみるが、いつの時代も吸血鬼は恐れられている。しかし、燃料がなくなってたどり着いた未来では、新たに進化した生物が暮らしており、吸血鬼のことはすっかり忘れ去られていた――。オチは素晴らしくくだらない。
「首相による、ある個人的な出来事に関する弁明」(ロバート・ハリス)
「天使たちが聞いている12の物語」(ソニー・マガジンズ 2001)
議会で首相が弁明するという形式の物語。ガソリンスタンドでトイレに入った首相は、便器の後ろの窓からつい外にでてしまう。ふらふらと歩きまわり、電話ボックスから報道官に電話すると、その場をうごかないようにと指示を受ける。が、護衛官に捕まるのはばつが悪い。ATMにカードを入れると、暗証番号を思い出せず、カードは没収されてしまう。困っていたところ、腕時計と交換に、ある少女の車に便乗することに成功。《彼女が口にした、この車には機械的な欠陥があるので、ボンネットをあけてイグニッションのケーブルをつなぐという、正統ではない手順を踏んでエンジンをかけなくてはならないとの説明を額面通り受け取りました。》――などという首相の弁明が大変可笑しい。同じく聴衆に語りかける愉快な小説として、船橋聖一の「華燭」を思いだした。
「それはおれだけさ」(ゼイディー・スミス)
同上
映画監督としてデビューしようとしていたころの姉のケリーについて、弟の〈ぼく〉が語る。〈ぼく〉は14歳。ケリーは映画業界の男との情事に走り、つきあっていた男に捨てられ、家に帰ってきた。ケリーも〈ぼく〉も太っており、〈ぼく〉がエクササイズをすると、ケリーが盛大に馬鹿にする。落第点をとった〈ぼく〉は、再履修のために新しい学校に入り、そこでコールという、身長が2メートルもある黒人と友だちになる。コールはいいやつで、〈ぼく〉は家に訪ねてきたコールを、ケリーに会わせたいと思う。
「乳首のイエス様」(ニック・ホーンビィ)
同上
クラブで用心棒をしていた〈おれ〉は、危ない目にあったことから、用心棒を辞め、美術館の警備の仕事につく。担当になった絵は、キリストをえがいた大きな絵。悪趣味な手法でえがかれていたため、論議を呼ぶ性質のものだった。訪ねてきた作者の女性を気に入った〈おれ〉は、ずっとながめていたこともあり、この絵を守らなければいけないと思う。
「逆風をついて」(ジョン・オファレル)
同上
学校を卒業した者は、ほとんど地元の保険会社に就職するのに、パントマイムを演じるマイム・アーティストとなった〈わたし〉。パリで学び、演劇祭に出演し、各地に巡業する。当初こそ友人たちから羨望を受けたものの、マイムひと筋の〈わたし〉は時代からとり残される。結婚し、子どもが生まれるが、仕事はどんどん少なくなる。馬鹿にしていたスタンダップ・コメディアンは有名人になるが、〈わたし〉への助成金は打ち切られる。
「エラリー船長」(ジョゼフ・ミッチェル)
「港の底」(柏書房 2017)
これはノンフィクション。ニューヨークの腕のいい漁師、エラリー船長。47歳で独身、リューマチもち。結婚は大きな船を買ってからするつもりだったが、船を買って支払いをはじめたら大恐慌になり、景気がよくなったらリューマチになってしまった。船ではトランペットの練習をする。また母のために買った画材をつかって油絵を描く。油絵は売れたこともある。獲ったロブスターのうち、最上のものは自分と乗組員で食べてしまい、残りのものを出荷する。独立独歩のエラリー船長の人柄がほうふつとする一編。この本におさめられた作品はみんな素晴らしい。
「きみなんだ!」(シオドア・スタージョン)
「時間のかかる彫刻」(東京創元社 2004)
ヒッチハイクをしていた彼女と出会った彼は、彼女にすっかり夢中になる。彼女のもとに引っ越し、昼型の彼女のために仕事を調節し、ビリヤード屋にいくのをやめる。彼女のほうは、彼をナイトリーと呼び、メダルを贈り、新しい服をつくり、彼の自動車雑誌を捨てる。彼は、彼女の知り合いに会ったあと、砂漠を横切ったような感じをおぼえる。じきに彼は、夜になるとガレージに置いておいた自動車雑誌を読みふけるようになる。
「ジョーイの面倒をみて」(シオドア・スタージョン)
同上
バーで、だれかれかまわずけんかを売っているチビ助のジョニー。トラブルに巻きこまれると〈おれ〉が思っていると、案の定、大男が殴りかかってくる。が、2人のあいだに割って入って、ジョニーを助けたのはドワイトという男。ドワイトはずっとジョニーの面倒をみているという。何の得にもならないのに、真心から他人の面倒をみる人間なんているのだろうか。気になって、〈おれ〉は2人についていく。
「フレミス伯父さん」(シオドア・スタージョン)
同上
モノをちゃんとうごくようにすることに、天賦の才をもつフレミス伯父さん。修理をするのではなく、微妙な一点をガツンとやると、モノは再びうごきだす。あちこちから金を借りたために町を去り、都会でまた金を借りて首がまわらなくなった〈ぼく〉は、同じく町を去ったフレミス伯父さんと再会。青い仕事着姿で、掃除でもはじめそうな伯父さんはいまなにをしているのか。
ことしの更新はこれで最後。
皆様、よいお年を。
「ミニミニSF傑作選」(講談社 1983)
〈真空呼吸者クラブ〉の創立メンバーのひとりが語る物語。時速30マイルで回転している宇宙ステーションの居住区画で事故が発生。衝撃のあと、4人が眠る円筒状のキャビンが、宇宙空間に放りだされてしまった。照明回路は途絶し、回線は不通。酸素が残っているあいだに助けはきてくれるのか。
「血」(フレドリック・ブラウン)
同上
吸血鬼族の最後の生き残りであるヴロンとドリーナは、タイムマシンで未来へ逃亡。途中、何度かタイムマシンを停めてみるが、いつの時代も吸血鬼は恐れられている。しかし、燃料がなくなってたどり着いた未来では、新たに進化した生物が暮らしており、吸血鬼のことはすっかり忘れ去られていた――。オチは素晴らしくくだらない。
「首相による、ある個人的な出来事に関する弁明」(ロバート・ハリス)
「天使たちが聞いている12の物語」(ソニー・マガジンズ 2001)
議会で首相が弁明するという形式の物語。ガソリンスタンドでトイレに入った首相は、便器の後ろの窓からつい外にでてしまう。ふらふらと歩きまわり、電話ボックスから報道官に電話すると、その場をうごかないようにと指示を受ける。が、護衛官に捕まるのはばつが悪い。ATMにカードを入れると、暗証番号を思い出せず、カードは没収されてしまう。困っていたところ、腕時計と交換に、ある少女の車に便乗することに成功。《彼女が口にした、この車には機械的な欠陥があるので、ボンネットをあけてイグニッションのケーブルをつなぐという、正統ではない手順を踏んでエンジンをかけなくてはならないとの説明を額面通り受け取りました。》――などという首相の弁明が大変可笑しい。同じく聴衆に語りかける愉快な小説として、船橋聖一の「華燭」を思いだした。
「それはおれだけさ」(ゼイディー・スミス)
同上
映画監督としてデビューしようとしていたころの姉のケリーについて、弟の〈ぼく〉が語る。〈ぼく〉は14歳。ケリーは映画業界の男との情事に走り、つきあっていた男に捨てられ、家に帰ってきた。ケリーも〈ぼく〉も太っており、〈ぼく〉がエクササイズをすると、ケリーが盛大に馬鹿にする。落第点をとった〈ぼく〉は、再履修のために新しい学校に入り、そこでコールという、身長が2メートルもある黒人と友だちになる。コールはいいやつで、〈ぼく〉は家に訪ねてきたコールを、ケリーに会わせたいと思う。
「乳首のイエス様」(ニック・ホーンビィ)
同上
クラブで用心棒をしていた〈おれ〉は、危ない目にあったことから、用心棒を辞め、美術館の警備の仕事につく。担当になった絵は、キリストをえがいた大きな絵。悪趣味な手法でえがかれていたため、論議を呼ぶ性質のものだった。訪ねてきた作者の女性を気に入った〈おれ〉は、ずっとながめていたこともあり、この絵を守らなければいけないと思う。
「逆風をついて」(ジョン・オファレル)
同上
学校を卒業した者は、ほとんど地元の保険会社に就職するのに、パントマイムを演じるマイム・アーティストとなった〈わたし〉。パリで学び、演劇祭に出演し、各地に巡業する。当初こそ友人たちから羨望を受けたものの、マイムひと筋の〈わたし〉は時代からとり残される。結婚し、子どもが生まれるが、仕事はどんどん少なくなる。馬鹿にしていたスタンダップ・コメディアンは有名人になるが、〈わたし〉への助成金は打ち切られる。
「エラリー船長」(ジョゼフ・ミッチェル)
「港の底」(柏書房 2017)
これはノンフィクション。ニューヨークの腕のいい漁師、エラリー船長。47歳で独身、リューマチもち。結婚は大きな船を買ってからするつもりだったが、船を買って支払いをはじめたら大恐慌になり、景気がよくなったらリューマチになってしまった。船ではトランペットの練習をする。また母のために買った画材をつかって油絵を描く。油絵は売れたこともある。獲ったロブスターのうち、最上のものは自分と乗組員で食べてしまい、残りのものを出荷する。独立独歩のエラリー船長の人柄がほうふつとする一編。この本におさめられた作品はみんな素晴らしい。
「きみなんだ!」(シオドア・スタージョン)
「時間のかかる彫刻」(東京創元社 2004)
ヒッチハイクをしていた彼女と出会った彼は、彼女にすっかり夢中になる。彼女のもとに引っ越し、昼型の彼女のために仕事を調節し、ビリヤード屋にいくのをやめる。彼女のほうは、彼をナイトリーと呼び、メダルを贈り、新しい服をつくり、彼の自動車雑誌を捨てる。彼は、彼女の知り合いに会ったあと、砂漠を横切ったような感じをおぼえる。じきに彼は、夜になるとガレージに置いておいた自動車雑誌を読みふけるようになる。
「ジョーイの面倒をみて」(シオドア・スタージョン)
同上
バーで、だれかれかまわずけんかを売っているチビ助のジョニー。トラブルに巻きこまれると〈おれ〉が思っていると、案の定、大男が殴りかかってくる。が、2人のあいだに割って入って、ジョニーを助けたのはドワイトという男。ドワイトはずっとジョニーの面倒をみているという。何の得にもならないのに、真心から他人の面倒をみる人間なんているのだろうか。気になって、〈おれ〉は2人についていく。
「フレミス伯父さん」(シオドア・スタージョン)
同上
モノをちゃんとうごくようにすることに、天賦の才をもつフレミス伯父さん。修理をするのではなく、微妙な一点をガツンとやると、モノは再びうごきだす。あちこちから金を借りたために町を去り、都会でまた金を借りて首がまわらなくなった〈ぼく〉は、同じく町を去ったフレミス伯父さんと再会。青い仕事着姿で、掃除でもはじめそうな伯父さんはいまなにをしているのか。
ことしの更新はこれで最後。
皆様、よいお年を。
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短編をよむ その44
「マドモアゼル・キキ」(ジョン・コリア)
「炎のなかの絵」(早川書房 1984)
キキは、マルセイユの漁港に住む中年のメスの野良猫。ミストラルを予見するため、漁夫から一目おかれている。漁夫たちから食べきれないほど魚をもらうキキは、自分が食べたあと、気に入ったオス猫だけに魚をやる。ところがある日、マルセイユに引っ越してきた夫人の飼い猫パピヨンがあらわれる。パピヨンは野良猫たちの仁義を知らず、去勢されているのでキキの魅力もつたわらない。おかげで、すっかり恥をかかされたキキは、パピヨンに復讐をたくらむ。
「クリスマスに帰る」(ジョン・コリア)
同上
夫婦殺人もの。クリスマスまでの3か月間、アメリカで講義をすることになった博士。てきぱきと旅行の手配をした段取り上手な夫人を博士は殺害。ブドウ酒の貯蔵庫をつくるといって掘っておいた地下室に夫人を埋め、アメリカに出発する。これでシカゴで待つマリオンと一緒になれると、博士は考えるのだが。
「カード占い」(ジョン・コリア)
同上
ヴァスカル法というトランプ占いで、将来金持ちになる男と結婚しようと考えたマイラ。ヴァスカル法を学び、占いの店をはじめて何年かたったころ、ついに金持ちになるはずの男があらわれる。この男と近い関係にあるだれかが死んで、すごい財産が転がりこむというのが占いの結果。だが、男はみるからに結婚したくなるような男ではない。さらに占いを続けると、男は財産を受け継いでから数か月後、激しいショックを受けて死亡するというお告げを得る。これならと、マイラは男と結婚するのだが――。もちろん、最後に皮肉な結末が待っている。
「雨の土曜日」(ジョン・コリア)
同上
娘のミリセントが、馬小屋で牧師補のウィザーズを殴り殺してしまった。牧師に昇格することが決まったウィザーズが、エラと結婚すると告げたため、ミリセントはかっとなってしまたのだ。幸いウィザーズの姿はだれにもみられていない。では、森で発見されたことにしよう。そうすると、だれに殺されたことにすればいいか。父親のブリンシー氏が頭を悩ませていると、スモーレット大尉が訪ねてくる。エラに想いをよせていた大尉は何も知らず、今回のウィザーズとエラの件でいい笑い者にされそうだとブリンシー氏に告げる。
「保険のかけ過ぎ」(ジョン・コリア)
同上
夫婦殺人もの。大変愛しあっているアーウィンとアリスの若夫婦。片方が亡くなったことを考えると、到底たえられない。しかし、このことは勇敢に考えてみなければいけない。お互いに保険に入ろう。万一、最悪なことが起こっても、邪魔されず泣けるように。というわけで、2人は収入の10分の9を保険に投資。おかげで食べ物もろくに食べられない。すっかり衰弱した2人の頭に、不穏な考えが浮かぶ。
「白鷲――幻想的な物語」(ニコライ・レスコフ)
「19世紀ロシア奇譚集」(光文社 2024)
県知事が職権を濫用していると、小役人がはるばるペテルブルグまで訴えにきた。バーニン伯爵は、直属の配下である〈私〉――貧相な年配者――に調査を命じる。任務を成し遂げれば、白鷲勲章が授けられるという。地方におもむいた〈私〉には、県庁からきたひとりの役人が付く。が、病を得たため後任と交代。後任はイワン・ペトローヴィチという、白鷲とも呼ばれる大変な美男子。町の人気者で、あさっての夜会では活人画の中心人物になるという。ところが当日、イワン・ペトローヴィチは突然亡くなってしまう。それから〈私〉には、イワン・ペトローヴィチの姿がみえ、声が聞こえるようになる。あなたが邪眼でみたせいで自分は死んだのだと、イワン・ペトローヴィチは〈私〉に訴える。
「乗り合わせた男」(アレクサンドル・アンフィテアトロフ)
同上
列車内で灰色のコートを着た小男に、5等官かと訊かれた〈私〉。〈私〉は万年9等官。すると、5等官だという小男は、モスクワから217キロの、その手前の駅で下車するようにと〈私〉に告げる。この列車はその地点で事故にあうから。小男自身は217キロ地点に用事がある。というのも、自分は列車事故で粉みじんになった死人なのだと小男。あの世では、文書をもって本人証明の可能な霊魂、もしくは頭および肉体の3分の2を登録審査に届けなければ、天国や地獄にいかれない。そこで、登録審査に必要のない、肉体の3分の1を亡くなった者から借りてくる必要がある。借りるには、同じ官位で、同じ状況で落命した者でないといけない。それからというもの鉄道沿いを探索しているのだと、小男はいう。
「クララ・ミーリチ――死後」(アレクサンドル・アンフィテアトロフ)
同上
これは中編。叔母と2人で暮らし、本を読んだり写真に凝ったりしてすごしている繊細な青年ヤーコフ・アラートフ。友人のクプフェルに誘われたマチネの舞台で、クララという女性を目にする。クララは、歌っているときも朗読しているときも、アラートフから目をはなさない。その日の夕方、使いの者が手紙を届けにきて、2人は翌日、トヴェルスコイ大通りで会うことに。その後、不幸な知らせが舞いこみ、アラートフはクララの故郷であるカザンにおもむく。後半は、ゴーティエの「スピリット」などを思い起こさせる。それにしてもトゥルゲーネフの筆力は大変なものだ。
「電話」(ヘンリー・スレッサー)
「ミニミニSF傑作選」(講談社 1983)
電話の会話だけでつくられたショートショート。前途を失った興行師のマニー。事務所で睡眠薬を瓶ごと飲み、電話で妻のフィリスに事情を話す。だが電話を聞いているのはフィリスではなかった。
「悪魔飼育法」(アントニイ・バウチャー)
同上
3つの願いごとをかなえる悪魔、という話のバリエーション。大学時代、不器量で才能にとぼしかったエイルサは、15年後のいまでは、美女で、多彩な才能をもった大金持ちになっていた。エイルサの召使いに影がないことから、悪魔だと察したマーチンは、なぜこれほどエイルサに奉仕しているのか尋ねる。
「炎のなかの絵」(早川書房 1984)
キキは、マルセイユの漁港に住む中年のメスの野良猫。ミストラルを予見するため、漁夫から一目おかれている。漁夫たちから食べきれないほど魚をもらうキキは、自分が食べたあと、気に入ったオス猫だけに魚をやる。ところがある日、マルセイユに引っ越してきた夫人の飼い猫パピヨンがあらわれる。パピヨンは野良猫たちの仁義を知らず、去勢されているのでキキの魅力もつたわらない。おかげで、すっかり恥をかかされたキキは、パピヨンに復讐をたくらむ。
「クリスマスに帰る」(ジョン・コリア)
同上
夫婦殺人もの。クリスマスまでの3か月間、アメリカで講義をすることになった博士。てきぱきと旅行の手配をした段取り上手な夫人を博士は殺害。ブドウ酒の貯蔵庫をつくるといって掘っておいた地下室に夫人を埋め、アメリカに出発する。これでシカゴで待つマリオンと一緒になれると、博士は考えるのだが。
「カード占い」(ジョン・コリア)
同上
ヴァスカル法というトランプ占いで、将来金持ちになる男と結婚しようと考えたマイラ。ヴァスカル法を学び、占いの店をはじめて何年かたったころ、ついに金持ちになるはずの男があらわれる。この男と近い関係にあるだれかが死んで、すごい財産が転がりこむというのが占いの結果。だが、男はみるからに結婚したくなるような男ではない。さらに占いを続けると、男は財産を受け継いでから数か月後、激しいショックを受けて死亡するというお告げを得る。これならと、マイラは男と結婚するのだが――。もちろん、最後に皮肉な結末が待っている。
「雨の土曜日」(ジョン・コリア)
同上
娘のミリセントが、馬小屋で牧師補のウィザーズを殴り殺してしまった。牧師に昇格することが決まったウィザーズが、エラと結婚すると告げたため、ミリセントはかっとなってしまたのだ。幸いウィザーズの姿はだれにもみられていない。では、森で発見されたことにしよう。そうすると、だれに殺されたことにすればいいか。父親のブリンシー氏が頭を悩ませていると、スモーレット大尉が訪ねてくる。エラに想いをよせていた大尉は何も知らず、今回のウィザーズとエラの件でいい笑い者にされそうだとブリンシー氏に告げる。
「保険のかけ過ぎ」(ジョン・コリア)
同上
夫婦殺人もの。大変愛しあっているアーウィンとアリスの若夫婦。片方が亡くなったことを考えると、到底たえられない。しかし、このことは勇敢に考えてみなければいけない。お互いに保険に入ろう。万一、最悪なことが起こっても、邪魔されず泣けるように。というわけで、2人は収入の10分の9を保険に投資。おかげで食べ物もろくに食べられない。すっかり衰弱した2人の頭に、不穏な考えが浮かぶ。
「白鷲――幻想的な物語」(ニコライ・レスコフ)
「19世紀ロシア奇譚集」(光文社 2024)
県知事が職権を濫用していると、小役人がはるばるペテルブルグまで訴えにきた。バーニン伯爵は、直属の配下である〈私〉――貧相な年配者――に調査を命じる。任務を成し遂げれば、白鷲勲章が授けられるという。地方におもむいた〈私〉には、県庁からきたひとりの役人が付く。が、病を得たため後任と交代。後任はイワン・ペトローヴィチという、白鷲とも呼ばれる大変な美男子。町の人気者で、あさっての夜会では活人画の中心人物になるという。ところが当日、イワン・ペトローヴィチは突然亡くなってしまう。それから〈私〉には、イワン・ペトローヴィチの姿がみえ、声が聞こえるようになる。あなたが邪眼でみたせいで自分は死んだのだと、イワン・ペトローヴィチは〈私〉に訴える。
「乗り合わせた男」(アレクサンドル・アンフィテアトロフ)
同上
列車内で灰色のコートを着た小男に、5等官かと訊かれた〈私〉。〈私〉は万年9等官。すると、5等官だという小男は、モスクワから217キロの、その手前の駅で下車するようにと〈私〉に告げる。この列車はその地点で事故にあうから。小男自身は217キロ地点に用事がある。というのも、自分は列車事故で粉みじんになった死人なのだと小男。あの世では、文書をもって本人証明の可能な霊魂、もしくは頭および肉体の3分の2を登録審査に届けなければ、天国や地獄にいかれない。そこで、登録審査に必要のない、肉体の3分の1を亡くなった者から借りてくる必要がある。借りるには、同じ官位で、同じ状況で落命した者でないといけない。それからというもの鉄道沿いを探索しているのだと、小男はいう。
「クララ・ミーリチ――死後」(アレクサンドル・アンフィテアトロフ)
同上
これは中編。叔母と2人で暮らし、本を読んだり写真に凝ったりしてすごしている繊細な青年ヤーコフ・アラートフ。友人のクプフェルに誘われたマチネの舞台で、クララという女性を目にする。クララは、歌っているときも朗読しているときも、アラートフから目をはなさない。その日の夕方、使いの者が手紙を届けにきて、2人は翌日、トヴェルスコイ大通りで会うことに。その後、不幸な知らせが舞いこみ、アラートフはクララの故郷であるカザンにおもむく。後半は、ゴーティエの「スピリット」などを思い起こさせる。それにしてもトゥルゲーネフの筆力は大変なものだ。
「電話」(ヘンリー・スレッサー)
「ミニミニSF傑作選」(講談社 1983)
電話の会話だけでつくられたショートショート。前途を失った興行師のマニー。事務所で睡眠薬を瓶ごと飲み、電話で妻のフィリスに事情を話す。だが電話を聞いているのはフィリスではなかった。
「悪魔飼育法」(アントニイ・バウチャー)
同上
3つの願いごとをかなえる悪魔、という話のバリエーション。大学時代、不器量で才能にとぼしかったエイルサは、15年後のいまでは、美女で、多彩な才能をもった大金持ちになっていた。エイルサの召使いに影がないことから、悪魔だと察したマーチンは、なぜこれほどエイルサに奉仕しているのか尋ねる。
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短篇をよむ その43
「女だけの地獄 」(ジョン・コリア)
「ザ・ベスト・オブ・ジョン・コリア」(筑摩書房 1989)
あんまり不器量なので、女の子にふられてばかりのジョージ青年。当然のことながら、女性一般に対して辛辣な意見をもっている。そのジョージの資質をみこんで悪魔が声をかける。地獄は手狭になってきたので、新しく支所を開設することになった。あとはただ、鉄のように性格の強い総監督がひとりいればいい。建設中の地獄を悪魔に案内してもらったジョージは、ベストを尽くすことを約束。ところが、それから2年ほどたったある日、手ちがいでロージーという完全無欠の美少女が地獄に送られてくる。とりあえず拘禁の手続きをしたものの、ジョージはロージーのことが忘れられない。
「瓶の中のパーティ」
同上
トラの皮を敷いた上で美女とたわむれるような豪奢な暮らしを夢見ていたフランクは、35歳を迎えてその夢をあきらめ、なにかコレクションでもはじめようと骨董屋を訪れる。店には、帆船や花束が入った瓶があり、店主にいわせると魔物(ジン)が入った瓶もあるという。店主も以前、宮殿やらトラの皮やらをジンにだしてもらったが、最終的には命じてこの店をつくらせたのだとのこと。フランクは5ドルで瓶を買い、開けてみるとジンが登場。命じたことはなんでもしてくれるので、フランクは大喜び。もう瓶にはもどりたくない、代わりに執事にしてほしいというジンの願いを聞き入れる。こうしてフランクは、しばらく楽しい思いをするのだが。
「小さな博物館」
同上
最近、夫婦でサマセット州の村に引っ越してきたエリク・ギャスケルという青年。妻は、このあたりの土地が気に入ったと、毎日車ででかけている。散歩中、博物館をつくるのが趣味だという老人に出会ったエリクは、そのコレクションをみせてもらう。このガラクタのようにしかみえない品じなは、村の歴史であり、記録なのだと老人。この電報は、どこそこの家の息子が戦死した知らせ。このベルトは、アイルランド人の人足がジプシーと喧嘩したときに落としていったもの。老人とエリクの会話は、しだいにハンサムなフェルトン大尉に移っていく。女好きのフェルトン大尉は、石切り場を逢引きの場所にしているらしい。つい一時間前、車で通るのをみかけました。――なんてことない話を、ジョン・コリアはいつも磨きに磨き上げる。
「緑の木かげ、みどりの想い」
同上
これは植物怪談。珍種のランを手に入れた、ランの収集家ミスタ・マナリングの身辺に奇妙なことが起こる。まず従姉妹(カズン)ジェインの飼いネコがみえなくなる。するとランに、握りこぶしほどの花芽ができる。次にカズン・ジェインの姿がみえなくなる。すると人間の首くらいの大きさの花芽ができる。そしてついに、ミスタ・マナリングがランの蔓ひげにからみとられる。しかし話はここで終わらない。ハチがやってきたり、ハツカネズミがやってきたり、やくざな甥がきたりと、ランと化したミスタ・マナリングの受難は続く。
「ある主題の変奏曲」
同上
動物園でゴリラに声をかけられた若い作家。ゴリラも作家だというので、同業のよしみで願いをかなえ、服と帽子とステッキを用意し、脱走したゴリラに部屋を提供してやる。ところが、このゴリラは性格が悪い。乱暴者で、権威に弱く、なんでもかんでも逆恨みする。一度など、作家の奥さんに手をだそうとして、奥さんに怒られる始末。ともかくゴリラは、激しい内容の長編を一冊書き上げる。作家も風刺小説を書き上げる。ちょうどそのころ、作家の家に食事にきたベストセラー作家が、最近の読書界の内幕を教えてくれる。大批評家が、体躯壮大なる女性ともうすぐ結婚する。肉欲の衝動なんて話には、もう目を向けなくなるだろう。どこまでも社会風刺でいきたまえ。この話を聞いてすっかり落胆したゴリラは、自分の作品と作家の作品をすりかえようとたくらむ。
「アロンゾとロザアナの恋」(マーク・トゥエイン)
「イヴの日記」(岩波書店 1988)
メイン州イーストポートに住む青年アロンゾは、電話でロザアナの歌声を聴きすっかり夢中になる。遠くサンフランシスコに住むロザンナもアロンゾに夢中になるのだが、ロザアナに恋する物真似芸人バーレイ氏が2人の仲を裂こうと画策。盗聴防止装置を売りこむふりをしてアロンゾに近づき、アロンゾの声色を真似てロザアナとの関係を破綻させる。失意のロザアナは家出し、アロンゾは彼女を探す放浪の旅にでる。解説によれば、1877年の作品。だれがどこにいるのか、いまひとつわかりにくいけれど、当時の新しい技術である電話をつかった長距離恋愛喜劇。
「山彦」
同上
両親が亡くなり叔父さんに引きとられた〈私〉。蒐集狂の叔父さんは、牝牛の鈴をあつめ、煉瓦片をあつめ、また石器や碑銘や鯨の剥製などをあつめるが、どの分野にも名品があり、しかもそれが手に入らないため、完全なコレクションにはいたらない。つぎに、叔父さんがはじめたのは山彦のコレクション。素敵な山彦を響かせる丘や山を手に入れたものの、ここにもライバルがあらわれる。2つの丘のひとつを叔父さんが手に入れると、もうひとつの丘をライバルが入手。自分が2つの丘を所有できなければと、ライバルは自分のほうの丘を切りくずそうとし、叔父さんはそれを阻止すべく裁判を起こす。
「キャリフォーニヤ人の話」
同上
砂金の試掘をしながら荒野を旅をする〈私〉は、そこで45歳ばかりの男に出会う。まわりの荒廃した家とはちがい、男の家は心地よくととのえられている。これはみんな妻のやったことだと男。妻はお客様に泊まってもらうのが好きで、いまはでかけているが、土曜日にはもどる予定だという。そこで〈私〉は男の家に、しばらく泊めてもらうことにする。
「奇妙な経験」
同上
南北戦争時、コネティカット州のニューロンドンにあるトラムブル要塞の司令官をしていた少佐の〈私〉。ある日、補充兵志望の14、5歳の少年がやってくる。ルイジアナで育った少年は、父が南北の分離に反対していたことから暴徒に屋敷を焼かれ、父は殺され、叔父のもとに身を寄せたものの、その叔父にも去られてしまったという。身の上話を聞いた〈私〉は憐れんで、少年を鼓手として隊に入れる。だが、少年は隊に問題を巻き起こす。まず、少年は祈ったり、歌をうたったりする。その歌があまりに神々しいので隊員の心はかき乱されてしまう。それに少年は要塞のあちこちに入りこみ、しきりになにか書いている。ひょっとすると南軍のスパイなのではないか。少年を見張るよう、〈私〉は部下に命じる。
「ある湖の出来事」(ジョン・コリア)
「炎のなかの絵」(早川書房 1984)
多額の遺産がまいこんだビーズリイ氏。半分を夫人に渡し、辺境へ冒険旅行にでかけようとしたものの、夫人はそれを承諾しない。旅行に同行し、ビーズリイ氏の喜びをへらそうと、たえず不平をいいつのる。あるとき、ホテルで出会ったポルトガル人から、アマゾンの上流の湖に恐竜のような生物がいるという話を聞いたビーズリイ氏は、さっそくその湖に向かう。そんな生物なんているものかと、夫人は文句をいいつづけるのだが。
「ザ・ベスト・オブ・ジョン・コリア」(筑摩書房 1989)
あんまり不器量なので、女の子にふられてばかりのジョージ青年。当然のことながら、女性一般に対して辛辣な意見をもっている。そのジョージの資質をみこんで悪魔が声をかける。地獄は手狭になってきたので、新しく支所を開設することになった。あとはただ、鉄のように性格の強い総監督がひとりいればいい。建設中の地獄を悪魔に案内してもらったジョージは、ベストを尽くすことを約束。ところが、それから2年ほどたったある日、手ちがいでロージーという完全無欠の美少女が地獄に送られてくる。とりあえず拘禁の手続きをしたものの、ジョージはロージーのことが忘れられない。
「瓶の中のパーティ」
同上
トラの皮を敷いた上で美女とたわむれるような豪奢な暮らしを夢見ていたフランクは、35歳を迎えてその夢をあきらめ、なにかコレクションでもはじめようと骨董屋を訪れる。店には、帆船や花束が入った瓶があり、店主にいわせると魔物(ジン)が入った瓶もあるという。店主も以前、宮殿やらトラの皮やらをジンにだしてもらったが、最終的には命じてこの店をつくらせたのだとのこと。フランクは5ドルで瓶を買い、開けてみるとジンが登場。命じたことはなんでもしてくれるので、フランクは大喜び。もう瓶にはもどりたくない、代わりに執事にしてほしいというジンの願いを聞き入れる。こうしてフランクは、しばらく楽しい思いをするのだが。
「小さな博物館」
同上
最近、夫婦でサマセット州の村に引っ越してきたエリク・ギャスケルという青年。妻は、このあたりの土地が気に入ったと、毎日車ででかけている。散歩中、博物館をつくるのが趣味だという老人に出会ったエリクは、そのコレクションをみせてもらう。このガラクタのようにしかみえない品じなは、村の歴史であり、記録なのだと老人。この電報は、どこそこの家の息子が戦死した知らせ。このベルトは、アイルランド人の人足がジプシーと喧嘩したときに落としていったもの。老人とエリクの会話は、しだいにハンサムなフェルトン大尉に移っていく。女好きのフェルトン大尉は、石切り場を逢引きの場所にしているらしい。つい一時間前、車で通るのをみかけました。――なんてことない話を、ジョン・コリアはいつも磨きに磨き上げる。
「緑の木かげ、みどりの想い」
同上
これは植物怪談。珍種のランを手に入れた、ランの収集家ミスタ・マナリングの身辺に奇妙なことが起こる。まず従姉妹(カズン)ジェインの飼いネコがみえなくなる。するとランに、握りこぶしほどの花芽ができる。次にカズン・ジェインの姿がみえなくなる。すると人間の首くらいの大きさの花芽ができる。そしてついに、ミスタ・マナリングがランの蔓ひげにからみとられる。しかし話はここで終わらない。ハチがやってきたり、ハツカネズミがやってきたり、やくざな甥がきたりと、ランと化したミスタ・マナリングの受難は続く。
「ある主題の変奏曲」
同上
動物園でゴリラに声をかけられた若い作家。ゴリラも作家だというので、同業のよしみで願いをかなえ、服と帽子とステッキを用意し、脱走したゴリラに部屋を提供してやる。ところが、このゴリラは性格が悪い。乱暴者で、権威に弱く、なんでもかんでも逆恨みする。一度など、作家の奥さんに手をだそうとして、奥さんに怒られる始末。ともかくゴリラは、激しい内容の長編を一冊書き上げる。作家も風刺小説を書き上げる。ちょうどそのころ、作家の家に食事にきたベストセラー作家が、最近の読書界の内幕を教えてくれる。大批評家が、体躯壮大なる女性ともうすぐ結婚する。肉欲の衝動なんて話には、もう目を向けなくなるだろう。どこまでも社会風刺でいきたまえ。この話を聞いてすっかり落胆したゴリラは、自分の作品と作家の作品をすりかえようとたくらむ。
「アロンゾとロザアナの恋」(マーク・トゥエイン)
「イヴの日記」(岩波書店 1988)
メイン州イーストポートに住む青年アロンゾは、電話でロザアナの歌声を聴きすっかり夢中になる。遠くサンフランシスコに住むロザンナもアロンゾに夢中になるのだが、ロザアナに恋する物真似芸人バーレイ氏が2人の仲を裂こうと画策。盗聴防止装置を売りこむふりをしてアロンゾに近づき、アロンゾの声色を真似てロザアナとの関係を破綻させる。失意のロザアナは家出し、アロンゾは彼女を探す放浪の旅にでる。解説によれば、1877年の作品。だれがどこにいるのか、いまひとつわかりにくいけれど、当時の新しい技術である電話をつかった長距離恋愛喜劇。
「山彦」
同上
両親が亡くなり叔父さんに引きとられた〈私〉。蒐集狂の叔父さんは、牝牛の鈴をあつめ、煉瓦片をあつめ、また石器や碑銘や鯨の剥製などをあつめるが、どの分野にも名品があり、しかもそれが手に入らないため、完全なコレクションにはいたらない。つぎに、叔父さんがはじめたのは山彦のコレクション。素敵な山彦を響かせる丘や山を手に入れたものの、ここにもライバルがあらわれる。2つの丘のひとつを叔父さんが手に入れると、もうひとつの丘をライバルが入手。自分が2つの丘を所有できなければと、ライバルは自分のほうの丘を切りくずそうとし、叔父さんはそれを阻止すべく裁判を起こす。
「キャリフォーニヤ人の話」
同上
砂金の試掘をしながら荒野を旅をする〈私〉は、そこで45歳ばかりの男に出会う。まわりの荒廃した家とはちがい、男の家は心地よくととのえられている。これはみんな妻のやったことだと男。妻はお客様に泊まってもらうのが好きで、いまはでかけているが、土曜日にはもどる予定だという。そこで〈私〉は男の家に、しばらく泊めてもらうことにする。
「奇妙な経験」
同上
南北戦争時、コネティカット州のニューロンドンにあるトラムブル要塞の司令官をしていた少佐の〈私〉。ある日、補充兵志望の14、5歳の少年がやってくる。ルイジアナで育った少年は、父が南北の分離に反対していたことから暴徒に屋敷を焼かれ、父は殺され、叔父のもとに身を寄せたものの、その叔父にも去られてしまったという。身の上話を聞いた〈私〉は憐れんで、少年を鼓手として隊に入れる。だが、少年は隊に問題を巻き起こす。まず、少年は祈ったり、歌をうたったりする。その歌があまりに神々しいので隊員の心はかき乱されてしまう。それに少年は要塞のあちこちに入りこみ、しきりになにか書いている。ひょっとすると南軍のスパイなのではないか。少年を見張るよう、〈私〉は部下に命じる。
「ある湖の出来事」(ジョン・コリア)
「炎のなかの絵」(早川書房 1984)
多額の遺産がまいこんだビーズリイ氏。半分を夫人に渡し、辺境へ冒険旅行にでかけようとしたものの、夫人はそれを承諾しない。旅行に同行し、ビーズリイ氏の喜びをへらそうと、たえず不平をいいつのる。あるとき、ホテルで出会ったポルトガル人から、アマゾンの上流の湖に恐竜のような生物がいるという話を聞いたビーズリイ氏は、さっそくその湖に向かう。そんな生物なんているものかと、夫人は文句をいいつづけるのだが。
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短編を読む その42
「音と影」(デヴィッド・アップダイク)
「カプチーノを二つ」(集英社 1991)
回想小説。6歳になった〈ぼく〉にビリーという2歳年上の友人ができる。ビリーは高圧的で、〈ぼく〉を侮辱し、引きまわし、他の友だちから遠ざける。ビリーが貧しかったためか、〈ぼく〉の気持ちを知らず、母はビリーを誘ったりする。放課後、ビリーに会うのを避けるため、〈ぼく〉は学校を休むようになる。幼いころの人間関係は自分では自由にならない。そのことを上手に表現している。
「時間のクッション」
同上
隣町のバプティスト教会で、きついキューバ訛りのディカルロ先生から、週一回ギターのレッスンをうけていた〈ぼく〉。いつも練習をしないでレッスンにいくので、後ろめたく、恥ばかりかく。学校生活も面白くなく、待ち望んでいる雪嵐もこない。そんなとき、両親がカリブ海にいっているあいだ、一週間、祖父母が泊まりにくること。元教師でほめ上手な祖父は、すぐに近所のひとたちに馴染み、なぜだかわからないが、〈ぼく〉はその週、生まれてはじめてギターの練習をする。
「夏」
同上
自身の家庭が紛糾していたホーマーは、夏のあいだサイム家のひとたちと過ごすことになる。ホーマーはフレッドの姉のサンドラに恋をする。テニスコートで恰好をつけてもサンドラは関心をもたない。フレッドと一緒に湖の対岸ではたらくサンドラをボートで迎えにいく。その帰り、ボートの揺れにまかせ、わざとサンドラにからだをあずけたりする。ホーマーが待ち続けているチャンスはやってこない。しかし、ささいなことが起き、ホーマーは報われたと感じる。
「時代のおわり」
同上
父は〈ぼく〉が17歳のときに家をでた。姉のレアと、その夫のファーンズワースは日曜日ごとに訪ねてくるようになった。ファーンズワースは酒でからだを害していたが、酒はその不幸な魂の奥深くに効いているよう。子犬のころから飼っているマックスは家族の中心。母は求婚者にこと欠かない。父が家を去って1年後、レアはファーンズワースと別れる。まだ愛しているけれど救うことはもうできない。母のもとには家族を捨ててウォルターズさんがやってくる。ほとぼりが冷めるまで、しばらく町にアパートを借りると母はいう。感謝祭には、散りぢりになった家族が一堂にあつまる。
「社会科」
同上
クリスマス休暇を迎えた高校の教師ヘンリーはくたびれ切っている。家に帰り、ありあわせの夕食をとり、新聞を読み終えると、もうすることがない。バーにいき、知らない女性と話すのは苦手だったが、声をかける。彼女は銀行ではたらき、離婚して、娘が2人いる。バーをでて、ヘンリーは彼女の家についていく。
「名優ギャヴィン・オリアリ 」(ジョン・コリア)
「ザ・ベスト・オブ・ジョン・コリア」(筑摩書房 1989)
《若くて大胆で行動的な上に並はずれてハンサムなノミがいた。》というう一文からはじまる、ノミの冒険譚。子守娘のロージーの胸で暮らしていたノミのギャビンは、ある日映画館で、女優ミス・ブリンダ・ブライスに見惚れている青年詩人の血を吸って、すっかり酩酊。ピョンピョンとび跳ね、一路ハリウッドをめざす。ハリウッドでは、ちょうどブリンダ・ブライスの相手役のノミを募集しており、他のノミを押しのけて、スクリーンにデビュー。その後、ブリンダの相手役、2枚目のカルーのもとですごすことになるのだが、カルーの容貌はたちまち色あせ、人気は凋落。プロデューサーに転身したカルーは、ギャビンを使って挽回をこころみる。江戸の黄表紙でも読んでいるようだ。
「ある恋の物語」
同上
勤務先の商店に飾られているマネキン人形のイーヴァに恋をしたアルバート。同僚がイーヴァを手荒く扱うのが許せない。恋の悩みを雑誌に投稿したところ、同僚の知るところになり、アルバートはクビを覚悟する。イーヴァに服を着せ、紙で包み、配達のふりをして外に連れだす。一度は下宿にいくが、人目があり、いられそうもない。顧客名簿でみつけた裕福そうなお邸を訪ねると、そこはピンクニーという画家が住んでおり、親切にしてくれる。アルバートはもと運転手がいた部屋をあてがわれ、そこでイーヴァとともに幸せに暮らすのだが。
「ステッキの行方」
同上
花嫁に完全無欠の乙女を希望しているアンリ・モラー。女道楽の代わりに上等のステッキを買いこみ、貯金はまだまだ不足しているけれど、花嫁の物色にとりかかる。ある日の夕方、バスで一緒になった娘にひと目ぼれ。勇気をだして声をかけ、会う約束をし、会うと結婚を申しこむ。もちろん、すぐに返事をもらえるわけもないが、日曜日ごとに会う約束をとりつける。ところが、その日の夕方、再びバスであったマリーは、アンリに気づかないふりをする。マリーのそばには80歳ほどの、やせこけたじいさんがいて、竹を切ってつくったみじめなステッキを手にしている。マリーの父親だろうかと思っていたら、そうではない。アンリは仰天する。
「霧の季節」
同上
秋のすえ、快楽をもとめる〈ぼく〉は、ホテルのバーで、みずみずしい顔をした娘に声をかける。はねつけられながらも粘り、手相をみて結婚する運命だと口説き、ついにキス。食堂で食事をとって、バーにもどり、再びキスをしようとすると、娘に顔を殴られる。なんと、前にいた女給はベラといい、いまいる女給はネリーという、瓜二つの双子だった。どちらかひとりを選べない〈ぼく〉は、自分にもフレッドという双子がいることにして、双子と結婚。幸福な結婚生活を送るのだが、しかしどちらの夫婦がより幸福なのか。ウェストレイクの「二役は大変」を思い出す。
「魔女のくれた金」
同上
スペインのとある村に画家がやってくる。6か月間小屋を借りたいというのだが、村人のフォアラルはうなずかない。ならいくらだせばゆずるのか。4万フランだとフォアラルがいうと、3万5000までだすと画家。画家が頭金に1000フラン紙幣を5枚だしたので、フォアラルは有頂天。村の仲間たちが証人となり、取引は成立。一度去った画家は、村にもどり小切手で残金を支払う。ところがフォアラルは小切手というものを知らない。銀行にいけば支払ってくれると画家にいわれ、やむなく銀行にいき、なんとか払ってもらえたが、手数料を引いて2万9890フランだという。110フランごまかすなんて画家は嘘つきだ、3万フランの券を束でもってるくせにと、フォアラルは立腹する。
「カプチーノを二つ」(集英社 1991)
回想小説。6歳になった〈ぼく〉にビリーという2歳年上の友人ができる。ビリーは高圧的で、〈ぼく〉を侮辱し、引きまわし、他の友だちから遠ざける。ビリーが貧しかったためか、〈ぼく〉の気持ちを知らず、母はビリーを誘ったりする。放課後、ビリーに会うのを避けるため、〈ぼく〉は学校を休むようになる。幼いころの人間関係は自分では自由にならない。そのことを上手に表現している。
「時間のクッション」
同上
隣町のバプティスト教会で、きついキューバ訛りのディカルロ先生から、週一回ギターのレッスンをうけていた〈ぼく〉。いつも練習をしないでレッスンにいくので、後ろめたく、恥ばかりかく。学校生活も面白くなく、待ち望んでいる雪嵐もこない。そんなとき、両親がカリブ海にいっているあいだ、一週間、祖父母が泊まりにくること。元教師でほめ上手な祖父は、すぐに近所のひとたちに馴染み、なぜだかわからないが、〈ぼく〉はその週、生まれてはじめてギターの練習をする。
「夏」
同上
自身の家庭が紛糾していたホーマーは、夏のあいだサイム家のひとたちと過ごすことになる。ホーマーはフレッドの姉のサンドラに恋をする。テニスコートで恰好をつけてもサンドラは関心をもたない。フレッドと一緒に湖の対岸ではたらくサンドラをボートで迎えにいく。その帰り、ボートの揺れにまかせ、わざとサンドラにからだをあずけたりする。ホーマーが待ち続けているチャンスはやってこない。しかし、ささいなことが起き、ホーマーは報われたと感じる。
「時代のおわり」
同上
父は〈ぼく〉が17歳のときに家をでた。姉のレアと、その夫のファーンズワースは日曜日ごとに訪ねてくるようになった。ファーンズワースは酒でからだを害していたが、酒はその不幸な魂の奥深くに効いているよう。子犬のころから飼っているマックスは家族の中心。母は求婚者にこと欠かない。父が家を去って1年後、レアはファーンズワースと別れる。まだ愛しているけれど救うことはもうできない。母のもとには家族を捨ててウォルターズさんがやってくる。ほとぼりが冷めるまで、しばらく町にアパートを借りると母はいう。感謝祭には、散りぢりになった家族が一堂にあつまる。
「社会科」
同上
クリスマス休暇を迎えた高校の教師ヘンリーはくたびれ切っている。家に帰り、ありあわせの夕食をとり、新聞を読み終えると、もうすることがない。バーにいき、知らない女性と話すのは苦手だったが、声をかける。彼女は銀行ではたらき、離婚して、娘が2人いる。バーをでて、ヘンリーは彼女の家についていく。
「名優ギャヴィン・オリアリ 」(ジョン・コリア)
「ザ・ベスト・オブ・ジョン・コリア」(筑摩書房 1989)
《若くて大胆で行動的な上に並はずれてハンサムなノミがいた。》というう一文からはじまる、ノミの冒険譚。子守娘のロージーの胸で暮らしていたノミのギャビンは、ある日映画館で、女優ミス・ブリンダ・ブライスに見惚れている青年詩人の血を吸って、すっかり酩酊。ピョンピョンとび跳ね、一路ハリウッドをめざす。ハリウッドでは、ちょうどブリンダ・ブライスの相手役のノミを募集しており、他のノミを押しのけて、スクリーンにデビュー。その後、ブリンダの相手役、2枚目のカルーのもとですごすことになるのだが、カルーの容貌はたちまち色あせ、人気は凋落。プロデューサーに転身したカルーは、ギャビンを使って挽回をこころみる。江戸の黄表紙でも読んでいるようだ。
「ある恋の物語」
同上
勤務先の商店に飾られているマネキン人形のイーヴァに恋をしたアルバート。同僚がイーヴァを手荒く扱うのが許せない。恋の悩みを雑誌に投稿したところ、同僚の知るところになり、アルバートはクビを覚悟する。イーヴァに服を着せ、紙で包み、配達のふりをして外に連れだす。一度は下宿にいくが、人目があり、いられそうもない。顧客名簿でみつけた裕福そうなお邸を訪ねると、そこはピンクニーという画家が住んでおり、親切にしてくれる。アルバートはもと運転手がいた部屋をあてがわれ、そこでイーヴァとともに幸せに暮らすのだが。
「ステッキの行方」
同上
花嫁に完全無欠の乙女を希望しているアンリ・モラー。女道楽の代わりに上等のステッキを買いこみ、貯金はまだまだ不足しているけれど、花嫁の物色にとりかかる。ある日の夕方、バスで一緒になった娘にひと目ぼれ。勇気をだして声をかけ、会う約束をし、会うと結婚を申しこむ。もちろん、すぐに返事をもらえるわけもないが、日曜日ごとに会う約束をとりつける。ところが、その日の夕方、再びバスであったマリーは、アンリに気づかないふりをする。マリーのそばには80歳ほどの、やせこけたじいさんがいて、竹を切ってつくったみじめなステッキを手にしている。マリーの父親だろうかと思っていたら、そうではない。アンリは仰天する。
「霧の季節」
同上
秋のすえ、快楽をもとめる〈ぼく〉は、ホテルのバーで、みずみずしい顔をした娘に声をかける。はねつけられながらも粘り、手相をみて結婚する運命だと口説き、ついにキス。食堂で食事をとって、バーにもどり、再びキスをしようとすると、娘に顔を殴られる。なんと、前にいた女給はベラといい、いまいる女給はネリーという、瓜二つの双子だった。どちらかひとりを選べない〈ぼく〉は、自分にもフレッドという双子がいることにして、双子と結婚。幸福な結婚生活を送るのだが、しかしどちらの夫婦がより幸福なのか。ウェストレイクの「二役は大変」を思い出す。
「魔女のくれた金」
同上
スペインのとある村に画家がやってくる。6か月間小屋を借りたいというのだが、村人のフォアラルはうなずかない。ならいくらだせばゆずるのか。4万フランだとフォアラルがいうと、3万5000までだすと画家。画家が頭金に1000フラン紙幣を5枚だしたので、フォアラルは有頂天。村の仲間たちが証人となり、取引は成立。一度去った画家は、村にもどり小切手で残金を支払う。ところがフォアラルは小切手というものを知らない。銀行にいけば支払ってくれると画家にいわれ、やむなく銀行にいき、なんとか払ってもらえたが、手数料を引いて2万9890フランだという。110フランごまかすなんて画家は嘘つきだ、3万フランの券を束でもってるくせにと、フォアラルは立腹する。
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