ニール・サイモン戯曲集 1

「ニール・サイモン戯曲集 1」(酒井洋子/訳 鈴木周二/訳 早川書房 1984)


ニール・サイモンが亡くなったという。
そういえば、うちにあったハヤカワ文庫版の「おかしな二人」(早川書房 2006)をまだ読んでいなかったなあと思いだし、引っ張りだして読んでみる。
大変面白い。

結婚に破れた2人の男が、共同生活をはじめるが、性格の不一致から別れるにいたるというストーリー。
元気がよくてずぼらなオスカーと、大人しくて神経質なフィリックスの組みあわせが秀逸。

「おかしな二人」が面白かったので、そういえばうちには分厚い「ニール・サイモン戯曲集」の1、2巻もあったなと思いだす。
この機会を逃したらもう読むことはないかもしれないと、これまた引っ張りだして、ことしの暑い夏のあいだ毎晩少しずつ読んでいった。
おかげでとても楽しい思いをした。

「ニール・サイモン戯曲集 1」

序文
「カム・ブロー・ユア・ホーン」
「はだしで散歩」
「おかしな二人」
「プラザ・スイート」

それから、訳者解説というべき、「ニール・サイモンとその作品(1)」
この解説が、よく要領を得ており素晴らしい。

「カム・ブロー・ユア・ホーン」
“Come Blow Your Horn”
酒井洋子訳。
1961年作。

すべてアランのアパートが舞台の3幕物。
21歳になるバディは、過保護な両親からの独立をこころみる。
ひとり暮らしを謳歌している、33歳の兄アランのアパートにころがりこみ、アランから指導を受けるのだが――。

という、バディの独立を中心のストーリーとしたお話。
兄の教育が実り、バディはあっといまに遊び人に。
いっぽうアランのほうは、本命の彼女であるコニーとすったもんだ。
2人の立場が入れ替わるところがおかしい。
全体に元気がよく、最後はハッピーエンド。
楽しいお芝居になっている。

訳者解説によれば、このお芝居のタイトルはマザーグースからとっているとのこと。
谷川俊太郎訳で確認してみると、こんな詩だった。

“Little boy blue,
 Come blow your horn,
The sheep‘s in the meadow,
 The cow‘s in the corn;“

《なきむしくん
  らっぱを ふけよ
 ひつじは まきば
  めうしは はたけに でてったよ》

「はだしで散歩」
“Barefoot in the Park”
鈴木周二訳。
1963年作。


新米弁護士のポールと、その妻コリーの新婚夫婦の話。
3幕物。
場所は、すべて新居であるニューヨークのアパート。

結婚して6日目の2人は大変幸せ。
だが、あすはじめて法廷に立つというポールは、コリーをかまっているひまがない。
それに、新居にはまだ家具もないし、天窓には穴が開いている。
そこに、コリーの母親が訪問。
上の階には、ヴェラスコという58歳になる妙な男が住んでいて、コニーの母親となにやら急速に親しくなっていく。

新婚家庭に暗雲がたちこめるのだけれど、最後はまあなんとかなる。

これはごく個人的な感想だけれど、ジャック・ヒギンズの小説をまとめて読んでいたときさんざんみかけた、オリヴァー・ウエンデル・ホームズの名前が、この戯曲にもでてきたのでびっくりした。
有名なひとだったのか。

「おかしな二人」
“The Odd Couple”
酒井洋子訳。
1965年作。

「おかしな二人」については、冒頭で書いたので省略。

「プラザ・スイート」
“Plaza Suite”
酒井洋子訳。
1968年作。

舞台は、プラザ・ホテルのスイート719号室。
その部屋を利用するひとたちをえがいたオムニバス。

第一幕目は、「ママロネックの客」
48歳になるカレン・ナッシュがスイート719号室に到着。
24年前、新婚の夜をここですごしたカレンは、結婚記念日を夫のサムとすごしにきた。
サムは、50歳になる若づくりの仕事中毒。

カレンはロマンチックにすごしたがるが、サムはそうはいかない。
いつも仕事のことを気にかけ、カレンといいあらそう。
コメディのつねとして、最後はめでたくまとまるのかと思いきや、そうはならない。
苦みのあるひと幕だ。

第二幕目は、「ハリウッドの客」
今度の、スイート719号室には、40歳で自信たっぷりな男、ジェス・キプリンガーが登場。
この部屋に、30代後半の魅力的な女性ミュリエル・テートがやってくる。

2人は同じ高校の卒業生。
いまでは、ミュリエルは結婚して3人の子持ちに。
ジェスは、ハリウッドのプロデューサー。
ミュリエルはハリウッドのゴシップに精通し、ジェスと会って舞い上がる。
いっぽう、17年前のミュリエルが忘れられないジェスは、ミュリエルのゴシップ好きに辟易しながらも、ミュリエルがほしがっているゴシップをたっぷりと提供してやる――。

これも、ハッピーエンドかどうかわからない。
複雑な味わい。

最後は、「フォレスト・ヒルズの客」
階下で娘が結婚式を挙げる予定の、ノーマとロイの夫婦。
だが、肝心の花嫁がバスルームに閉じこもりでてこなくなる。
「階下(した)じゃ68人もの人間がおれの酒を呑んでるんだぞ」
と、ロイは立腹。

すっかり恐慌をきたした2人は、鍵穴をのぞいたり――ノーマのストッキングが破れる、ドアに体当たりしたり――ロイが腕を痛める、窓からバスルームへの侵入をこころみたり――ロイのモーニングが破ける――。
いっそ夫婦2人で裏口から逃げだそうと相談したり、移住を考えたり――。

前2作の味わいを払拭するようなドタバタ劇。
軽く、ばかばかしく、オチも決まり、申し分ない。
たいそう愉快なお芝居だ。


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