短編を読む その35

「陪審員」(ジョン・ゴールズワージー)
「犯罪文学傑作選」(東京創元社 1978)

地方巡回裁判の陪審員となったボースンゲイト氏。その裁判の被告は、妻とはなれているのを悲しむあまり、自殺を企てた兵士だった。妻や子と幸福に暮らすボースンゲイト氏の心は大いにかき乱される。

「男ざかり」(ルイス・プロムフィールド)
(同上)

刑務所に入っている旧友のホーマーから手紙をもらった〈わたし〉。小さな町の一人息子として育ったホーマーは、金物屋の主人となり、5人の子どもをもうけた。だが結婚生活は不幸で、旅行先で知りあったウェイトレスと出奔したのだった。ひさしぶりに出会ったホーマーは若返ったよう。〈わたし〉はこの旧友の来歴を哀惜をこめて語る。

「ポールのばあい」(ウィラ・キャザー)
(同上)

放校になり、職場の金をくすね、ニューヨークで豪遊したあげく、いき場を失う少年ポールの物語。石が落ちるように真っすぐ転落していくポールの行状がえがかれる。

「盗まれた白象」(マーク・トウェイン)
(同上)

イギリスの女王に贈るため、はこばれてきた白象が、ニューヨーク港で盗まれる。責任者の〈わたし〉は、有名なブラント警部を頼ると、警部は聴取し、対策を練り、たくさんの指令を発し、また〈わたし〉から多額の費用をせしめる。「間抜けな語り手」というべき作品のひとつ。

「モナリザの微笑」(オールダス・ハックスリー)
(同上)

肝臓病をわずらう妻をもつハトン氏。若い娘と逢引きしていたところ、妻が亡くなる。妻を毒殺したのではないかと、知人のミス・スペンスに噂をたてられたハトン氏は、実際に妻の死因が砒素による毒殺だったことから窮地に立たされる。人間関係の書き方が細やかな、風俗小説的犯罪小説。

「散髪」(リング・ラードナー)
(同上)

床屋が、いたずら好きでぐうたらなジムの話をする。ジムはジュリーに惚れているのだが、ジュリーは町にきた医者の青年、ステア先生にすっかり夢中になっている。そのことが町の噂になると、ジムはステア先生の声色をつかってジュリーをおびきだし、さんざんにからかう。ところで町には、木から落ちて頭を打ってから、少々足りなくなってしまったポールという少年がいた。ステア先生になついているポール少年は、鴨撃ちにいくというジムに、一緒についていきたいという。

「すばらしい技巧家」(ウォルター・デ・ラ・メア)
(同上)

夜、使用人のジェイコブがいる台所まででかけていった少年。が、そこにいたのは酔っ払って泣いている太った女だった。食器棚に入れられたジェイコブの姿をみつけた少年は、「このままにしといたら、おばさんはとても助かりっこないでしょ」と女を叱咤し、現場を偽装する。バークリーの「ジャンピング・ジェニィ」を思いだす。

「安楽椅子の男」(ジェイムズ・サーバー)
(同上)

神経質な書類整理課長マーティン氏は、職場をかきまわす、がさつな特別顧問バロウズ夫人を消すことを決意。計画を練り、ある日ついにバロウズ夫人を訪問。普段は飲むことのないマーティン氏だが、夫人がだしてくれたウィスキーを口にしたところ、大きな口を叩き、夫人を怒らせてしまう。が、けっきょくそれが功を奏する。

「マークハイム」(ロバート・ルイス・スティーヴンスン)
(同上)

クリスマス、店の主人を殺したマークハイムは、金を得るためその住まいに侵入。すると、クリスマスの贈り物として、あなたを手伝おうという、謎の男があらわれる。マークハイムは、この不気味な男と問答を交わす。それにしても、「犯罪文学傑作選」は本当に傑作ばかり収められている。

「ブリジャー氏の宝」(H・G・ウェルズ)
(同上)

〈わたし〉が酒場でブリジャー氏から、氏が昔、一度婚約したという話を聞く。婚約者はすてきな家に住む淑女で、その父親は教会の指導的人物だった。庭に岩山をつくる約束をしたブリジャー氏は、その作業中、銀貨がごっそり入った箱を掘りあてる。が、当局に知られるととりあげられるし、婚約者の父は堅物で話にならない。そこで馬車を用意し、真夜中、雨に降られながら銀貨をはこびだそうとしするのだが。皮肉の効いた落ちが見事。


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