短編を読む その15

「警官と讃美歌」(O・ヘンリ)
「O・ヘンリ短編集3」(新潮社 1989)

O・ヘンリの数ある代表作のひとつ。刑務所で冬を越そうと、浮浪者が無銭飲食しようとしたり、女性に声をかけたり、店のガラスを割ったり、カサを盗んだりと、いろいろするがうまくいかない。

「よみがえった改心」(O・ヘンリ)
「O・ヘンリ短編集1」(新潮社 1988)

出所した金庫破りが靴屋として成功。銀行家の娘と恋をし、前歴を隠して婚約する。が、もうすぐ結婚というとき、子どもが金庫に閉じこめられる。折しも町には、金庫破りを追いかけて探偵がきていた。

「シャーロック伯父さん」(ヒュー・ペンティコースト)
「シャーロック伯父さん」(論創社 2020)

ローカル色が強く、またアウトドア色が強いミステリ・シリーズの一編。未亡人とその番犬が殺害された。犯人はカネに困っていた甥なのか。弁護に立ったジョージ伯父さんは、法廷でホームズ風のやりとりをしながら真犯人をあばく。

「クリスマスは悲しい季節」(ジョン・チーヴァー)
「橋の上の天使」(河出書房新社 1992)

高級マンションのエレベーター係としてはたらく男。住民みんなにクリスマスは悲しい季節だと告げていると、住民からたくさんの食べ物や贈り物をもらう。男はそれを下宿の女主人とその子どもたちにもっていき、女主人はそれを――。クリスマスの慈善を皮肉めかした作品。

「四つの自由」(エドワード・ニューハウス)
「ニューヨーカー短篇集3」(早川書房 1976)

戦時中のカイロでもよおされた慰問パーティ。将軍の部下の目を通してその欺瞞的な雰囲気がえがかれる。

「乗り換えを待つ短い時間」(ロバート・マクラクリン)
「ニューヨーカー短篇集3」(早川書房 1976)

乗り換えの列車を待つ4人の黒人兵士たち。たまたま駅で出会った20名のドイツ人捕虜のほうが、自分たちより待遇がいいことを目にする。

「別離」(モリー・パンター・ダウンズ)
「ニューヨーカー短篇集3」(早川書房 1976)

子どものいない夫婦の、夫が召集された前後のことを妻の視点から書いたもの。最後が意地が悪い。

「コレット」(ウラジミール・ナボコフ)
「ニューヨーカー短篇集3」(早川書房 1976)

10歳の頃、ペテルブルグからフランスのピアリッツに、列車に乗って、家族で2か月間海水浴にでかけた思い出を書いた作品。細部が豊かで生き生きとしている。

「晩餐後の物語」(ウィリアム・アイリッシュ)
「アイリッシュ短編集1」(東京創元社 1985)

エレベーター事故の復旧作業中、内部に閉じこめられた青年が亡くなる。自殺かと思われたが、青年の父は犯人をあぶりだすため、事故当時エレベーター内に一緒に閉じこめられていたひとたちを晩餐に招待し、罠にかける。

「ヨシハラ殺人事件」(ウィリアム・アイリッシュ)
「アイリッシュ短編集1」(東京創元社 1985)

ヨシハラにいた休暇中のアメリカ兵士のもとに、ブロンドの女性が助けをもとめにくる。女性は兵士に殺人の濡れ衣を着せられていると訴える。ゲイシャにジュージュツ、ハラキリまででてくる。


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短編を読む その14

「荻寺の女」(久生十蘭)
「平賀源内捕物帳」(朝日新聞出版 1996)

三人の娘がそろって脳天から切りつけられるという死に方をする。あたりには下手人の影すらない。この謎を、御用聞の出尻伝兵衛に口説かれた源内先生が解き明かす。

「預り姫」(久生十蘭)
(同上)

北町奉行所の御用聞、出尻伝兵衛の姪お才が大活躍。狙われた田沼意次を救う。

「書類第16号」(ジョルジュ・シムノン)
「13の秘密」(東京創元社 1980)

解決した事件の話を、ルボルシェ探偵が〈ぼく〉に聞かせるという、安楽椅子探偵もの。今回は、毒を盛ったのは夫人だといい残して死んだ、夫にまつわる事件。会話が多く、無駄がなく、読みやすい。

「マレトロワの扉」(スティーヴンスン)
「新アラビア夜話 第2部」(光文社 2022)

15世紀のフランス。夜回りを避けるため偶然入りこんだ屋敷には、若者を待っていたという老人と、花嫁衣装を着た老人の姪がいた。若者の一夜の冒険をえがいた作品。一夜の冒険というのもアンソロジーのテーマとなりそう。

「薔薇色のヌード」(A・S・バイアット)
「マティス・ストーリーズ」(集英社 1995)

マティスの「薔薇色のヌード」が飾られている美容院に通う女性。店主は妻子のある身で恋人をつくっており、髪をセットされながら女性はその話を聞かされる。若いころの情事を思いだし、また現在の年齢を確認させられた女性は大いにとり乱す。

「氷の部屋」(A・S・バイアット)
(同上)

女子大院生にセクハラで訴えられた老教授に話を聞くため、女子学生部長のガータは老教授と中華料理店でランチをとる。マティスと女子大学院生の訴えを仲立ちに、老教授と部長は思いがけず互いを認めあう。

「サンペナタス断崖の縁で」(R・A・ラファティ)
「とうもろこし倉の幽霊」(早川書房 2022)

カメが空を飛び、ヘビがしゃべりだし、カモが歌いだす跳躍進化が発生。進化をうながす薬剤を自ら飲んだ研究者の子どもたちは、カモのような姿になる。さらにその薬剤を貯水池に入れたため、町中みんながカモのようになる。同著者の長編「蛇の卵」を思いだす。

「臨海楼綺譚」(スティーヴンスン)
「新アラビア夜話 第2部」(光文社 2022)

これは中編。秘密結社のカネを使いこんだため命を狙われた銀行家が海辺の楼閣にかくまわれる。そこは〈私〉の学生時代の思い出の土地。たまたまその地を訪れていた〈私〉は旧友と再会し、また銀行家の令嬢と恋に落ち、あらそいに巻きこまれていく。

「切り口」(フランシスコ・アラーヤ)
「世界短編名作選スペイン編」(新日本出版社 1978)

内戦時、たまたま鉢あわせた同郷人を殺害した兵士が、戦後その家族を訪ねる。

「ホン・コンおばさん正義を行使す」(ジョイス・ポーター)
「ユーモアミステリ傑作選」(講談社 1980)

ホン・コンが危険だと訴えていたバイパスで死亡事故が発生。犠牲者はうつ病の薬を服用していたというが、これは警察による捏造にちがいない。かくして傍若無人なホン・コンおばさんは独自の捜査を開始する。


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