リリー・モラハンのうそ

「リリー・モラハンのうそ」(パトリシア・ライリー・ギフ/作 もりうちすみこ/訳 吉川聡子/画 さ・え・ら書房 2008)

原題は、“Lily‘s Crossing”
ニューベリー賞オナー賞受賞。

3人称リリー視点。
ほとんどリリーの1人称といえる。
舞台は、1944年夏。
数週間前に、連合軍がフランスに上陸した頃。

リリーは5年生。
お母さんは小さい頃に亡くなり、お父さんと祖母と3人暮らし。
ことしの夏も、別荘のあるニューヨーク郊外の避暑地ロッカウェイで過ごす予定。

リリーはピアノが嫌いだけれど、お父さんは習わせたい。
そのため、ことしは別荘にまでピアノをもっていくはめに。

ロッカウェイには、友だちのマーガレット・ディロンがいる。
2人ともニューヨーク州のクイーンズ区に住んでいるけれど、会うのは夏のロッカウェイだけ。
ことしも2人は再会するが、すぐマーガレットはデトロイトに引っ越してしまう。
お父さんがB24をつくる工場につとめるため。
リリーはマーガレットから、ディロン家の裏口の鍵をもらう。

マーガレットはいなくなってしまったけれど、近所のオーバン家にアルバートという少年がやってくる。
やせっぽちで、もじゃもじゃ頭、真っ青な目をした少年。

リリーの大好きなお父さんも、軍の仕事ででかけることに。
どこにでかけるのかは教えられない。
手紙をだしても検閲される。
《「おれは、ぜったい、なんとかして、おまえに居場所を知らせるよ」》
と、お父さん。

お父さんはでかけることを、リリーよりも先に祖母に話した。
それでリリーは腹を立て、お父さんの出発にも立ち会わなかった。
リリーはそのことをとても後悔する。

ところで、リリーは想像力がたくましい。
すぐに嘘をついてしまう。
そのことに、自分でも困っている。

リリーは、アルバートのことをスパイだと確信する。
ことばにはなまりがあるし、真夜中にオーバン家にやってきたし、すぐに姿をくらます。
でも、オーバンさんの夕食に招待されたときに、アルバートの素性が判明。

アルバートは、2年前にハンガリーのブダペストから逃げてきた少年だった。
両親はナチスを批判したために逮捕されてしまった。
アルバートと妹のルースは、オーストリア、スイスを抜けてフランスへ。
ところが、ルースは旅の途中ではしかにかかってしまった。
そのため、船に乗ることができなかった。
アルバートがひとり船に乗り、カナダに住むオーバンさんのお兄さんの家に身をよせることになった。

ちなみに、アルバートのお父さんは、オーバンさんの弟。
そしてアルバートは、夏のあいだオーバンさんのところに遊びにきたのだった。

リリーとアルバートは、捨てネコを拾い、マーガレットの家でこっそり飼いはじめたことから、仲良くなっていく。
ルースはまだフランスの修道院にいるはずだと、アルバート。

《「ナジママ(お祖母さん)はぼくたちにいった。はなれちゃだめだ。どんなことがあっても。いっしょにいるかぎり、ひとりぼっちにならずにすむって」》

そんなアルバートに、リリーは嘘をついてしまう。
夜、ボートをこいで沖にでる。
軍艦に近づいたら、あとは泳ぐ。
その軍艦に乗って、お父さんのところまでいく。

リリーのことばを、アルバートは本気にしてしまう。
ぼくも連れていってくれる?
ぼく、泳ぎを練習する。
そして、ヨーロッパに帰ってルースをさがす――。

戦時中が舞台のため、戦争の色が濃い。
オーバンさんのA型フォードのヘッドライトは、爆撃機に狙われないようにと上半分を黒く塗ってある。
黒く塗るのは、リリーも手伝った。
夜は灯火管制が敷かれ、サーチライトが夜空を照らしている。

マーガレットのお兄さんのエディーは兵隊となり、戦場で行方不明に。
リリーと祖母は、教会にお祈りにいく。

ストーリーはこびは、少々ぎくしゃくとしている。
ひとつのエピソードの途中で、別のエピソードが割りこんでくる感じ。
でも、最後には、ストーリーは落ち着くべきところに落ち着く。

リリーは、あんまり素行がよろしくない。
すぐ嘘をつくし、ピアノの練習はさぼるし、映画はただ見するし、鍵をもらったとはいえ、ひとの家にあがりこむ。
そんなリリーも、アルバートとの交流をきっかけに変わっていく。

リリーは、泳げないアルバートに泳ぎを教える。
まず浮けるようにならなくちゃとリリーがいうと、「浮く練習なんかするひま、ぼくにはない」と、アルバートは口答えする。
それを聞いて、自分がピアノの練習に文句をいうのとまるで同じだとリリーは思う。

また、マーガレットとの手紙のやりとりから、お父さんがいなくなって祖母もさみしがっていたことをリリーは知る。
口うるさい祖母がさみしがっていたなんてと、リリーは驚く。
そんなことは、一度も考えたことはなかった。
こうして、周囲とのかかわりのなかで、リリーはひとの気持ちに気づくようになっていく。

巻末には、作者による「読者のみなさんへ」という文章が載せられている。
《わたしは、1944年の夏をおぼえています。》
と、作者。

《こわがっているのは自分だけとおもっていたのに、ほかの子どもたち、ときにはおとなさえ、おなじような思いをいだき心配していると知ったときには、おどろきました。》

吉川聡子さんのさし絵が、物語を理解する手助けをしてくれる。
また、桂川潤さんによる装丁は、ピンクのしおりひもが鮮やかだ。


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