短編を読む その7

「生命保険と火災保険」
「不吉なことは何も」(フレドリック・ブラウン 東京創元社 2021)

誘拐実行中の現場にうっかり勧誘に入ってしまった保険外交員の大冒険。誘拐犯を相手に接客口調をくずさない主人公が愉快。

「よい勲爵士によい夜を」
(同上)

脚本家をゆすって暮らしていた三文役者が起死回生をもとめて役を得ようとする。最後が泣かせる。

「踊るサンドイッチ」
(同上)

これは中編。殺人の濡れ衣を着せられた男ははたして助かるのか。倒叙形式のサスペンスが他視点で書かれ、無類に面白い。フレドリック・ブラウンは中編がもっとも冴えるようだ。

「タレント」
「切り裂きジャックはあなたの友」(ロバート・ブロック 早川書房 1979)

物真似の才能に富んだ不気味な少年についての怪談。最後、少年はついに自分がなりたいものをみつける。

「若き日の悲しみ」(トーマス・マン)
「世界100物語 5」(サマセット・モーム/編 河出書房新社 1997)

家族パーティで出会った若者に、家の幼い娘が恋焦がれてしまい、父親は困惑する。父親の心理や、パーティの様子が微細にえがかれる。

「最後の瞬間」(レーオンハルト・プランク)
(同上)

暴走する列車とその列車に乗りあわせた乗客たちをえがいた作品。すさまじい迫力。このアンソロジーは粒ぞろいだ。

「ワトスン博士の友人」(E・C・ベントリー)
「シャーロック・ホームズの栄冠」(北原尚彦/編訳 論創社 2007)

贋作ホームズもの。密室なのに荒らされてしまった食料貯蔵庫の謎をワトスン博士の友人が解く。ホームズのことをワトスン博士の友人としか書かないところがミソ。

「鈍行列車」(フランク・サラヴァン)
「ユーモア・スケッチ大全2」(浅倉久志/編・訳 国書刊行会 2022)

列車に乗った腕白小僧とその祖母の、タマゴをめぐる攻防。乗りあわせた乗客たちがその攻防のゆくえを面白おかしく見守る。

「Qーある怪奇心霊実話」(スティーブン・リーコック)
(同上)

お金を心霊世界に送るという実験に参加した〈私〉。だまされていることに気づかない〈私〉と、怪奇小説風のくだくだしい文章がじわじわと笑いを誘う。

「サセックスの白昼夢」(ベイジル・ラスボーン)
「シャーロック・ホームズの栄冠」(北原尚彦/編訳 論創社 2007)

ホームズ役者として名高いベイジル・ラスボーンによるホームズ物。サセックスを訪れた〈わたし〉は、隠遁生活を送る人物と会話をかわす。事件を解決したりはせず、しみじみとした味わい。


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短編を読む その6

「ナツメグの味」(ジョン・コリア)
「美酒ミステリー傑作選」(小鷹信光/編 河出書房新社 1990)

地元のカクテルを愛する男の物語。《彼が飲物を二杯つくり、つぎにわたしが二杯つくりました。》の一文が怖い。

「医者の指示」(ジョン・F・スーター)
「ミニ・ミステリ100 下」(早川書房 1983)

赤ん坊を流産してしまった女性と、医者と話をする夫。うすら寒くなる結末。

「人生の月曜日」(E・B・ホワイト)
「ユーモア・スケッチ大全1」(国書刊行会 2021)

毎週月曜日に歯医者でくり返される、判で押したようななめらかなやりとりに、〈わたし〉は人生の意義をみいだす。透明な水のようなユーモア。

「名人気質」(ロン・スティーヴンス)
「世界ショートショート傑作選1」(各務三郎/編 講談社 1979)

嫉妬深いナイフ投げ師の話。志賀直哉の「范の犯罪」を思い出す。

「夢の家」(アンドレ・モロア)
「世界ショートショート傑作選1」(各務三郎/編 講談社 1979)

尻尾をくわえた蛇のような幽霊譚。

「昨日は美しかった」(ロアルド・ダール)
「世界ショートショート傑作選1」(各務三郎/編 講談社 1979)

ギリシアで撃墜されたイギリス人パイロットが、帰還するため現地人に話しかける。戦争の痛ましさを書いた小品。

「千慮の一矢」(マリア・デ・サヤス)
「笑いの騎士団」(東谷穎人/編 白水社 1996)

女性に裏切られてばかりいる男の艶笑譚。

「探偵をやってみたら」(マイケル・Z・リューイン)
「探偵をやってみたら」(早川書房 1986)

税金対策のために探偵をはじめた若者。依頼人なんてこなくていいと思っていたのにきてしまい、探偵をするはめに。シリーズ化できそうだ。

「鋏」(パルド・パサン)
「世界短編名作選スペイン編」(新日本出版社 1978)

夫婦がたがいを思って嘘をつく。O・ヘンリの作品のよう。

「とうもろこし倉の幽霊」
「とうもろこし倉の幽霊」(R・A・ラファティ/著 井上央/編・訳 早川書房 2022)

夏の夜2人の少年が、幽霊がでると評判のとうもろこし倉に確かめにいく。幽霊についての話が、登場人物ごとに食いちがっていてにぎやか。ラファティはときどき読みたくなる。読んだことがあるひとには会ったことがないけれど、ときどき新刊がでるのだから、だれかが読んでいるのだろう。


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