巨匠とマルガリータ

「巨匠とマルガリータ 上下」(ミハイル・ブルガーコフ/著 法木綾子/訳 群像社 2000)

「黄金の仔牛」のDVDを買ったとき、となりに「巨匠とマルガリータ」のDVDが置いてあり、これも購入した。
「黄金の仔牛」が売られていたのには驚いたけれど、「巨匠とマルガリータ」が売られていたのも驚き。
でも、「黄金の仔牛」にくらべたら、「巨匠とマルガリータ」のほうが、知名度は上だろうか。

DVDを買ったとき、すでに原作はもっていた。
でも、まだ読んでいなかったので、この機会に読もうと考えた。
で、原作を読み、DVDをみた。
どうだったか。

ジャンルとしては、幻想小説。
悪魔や魔女があらわれて、縦横無尽に活躍する。
そのため、詩人や劇場支配人やモスクワ市民や当局が、右往左往させられる。
くわえて、巨匠が書いた小説──イエスを処刑したピラトの物語──が語られる。
作者のブルガーコフは、力強い語り口で、これらの題材をひとつにまとめあげている。
その腕力に、まず脱帽。

ストーリーを詳しくみていこう。
物語は、モスクワの公園にある池のほとりで、2人の男が話をするところから。
ひとりは、文芸雑誌の編集長にして、大文芸協会の理事長、ベルリオーズ。
もうひとりは、ベズドームヌイ(宿なし)のペンネームをもつ、イワン・エヴィチ・ポヌィリョーフ。

話の内容は、イエスが実在したか否かについて。
すると、その話にひとりの外国人が混ざってくる。
黒魔術の専門家だというその外国人は、イエスは実在したのだと、イエスとピラトの物語を語りはじめる。

1章費やして物語が語られたのち、外国人が予言したとおり、ベルリオーズは市電にひかれ、首を切断されて死んでしまう。
あの外国人は悪魔だと直感したイワンは、去っていく外国人を追いかける。
ところが、なぜか外国人に追いつけない。
外国人のほうには、2人の仲間があらわれる。

ひとりは、鼻眼鏡をかけた道化のような男。
もうひとりは──ひとりといっていいか──2本足で歩く巨大な黒猫。

一味は、ばらばらに分かれる。
イワンは黒猫を追う。
黒猫は市電に乗りこみ、お金まで払うが、女車掌に「猫はお断り」といわれて、すごすごと下車。
が、市電がうごきだすと、こっそり最高尾の連結器に飛び乗り、イワンの前から去ってしまう。

このあと、気がちがったようになってしまったイワンは、悪魔をさがしに文芸協会に顔をだし、騒動を起こしたすえ、精神病院に収容されてしまう──。

ここまで読んで、呆然とする。
これまで登場した人物のなかで、だれが重要人物なのか。
ひとりは死に、ひとりは精神病院に入ってしまった。
一体なにがなにやら。

群像社版で読んだあと、別の訳や解説もみてみたいと思い、河出書房新社から出版された世界文学全集(水野忠夫/訳 2008)を図書館から借りてきた。
すると、だれか借りたひとがつくったのだろう、登場人物紹介が書かれたポストイットが見返しに貼られていて、これには大いに共感をおぼえた。
最初、一読しただけでは、だれがだれだかわからなくなっってしまう。
というわけで、いつか再読する(かもしれない)ときのために、このあと登場する人物たちについても簡単にふれておこう。

イワンが精神病院に収容されたあと、章が変わって、スチョーパ・リホジェーエフという人物が登場。
このひとは、市電にひかれたベルリオーズの隣人で、ヴァリエテ劇場の支配人。
このスチョーパの前に、例の悪魔3人組、黒魔術師のヴォランド教授と、鼻眼鏡のコローヴィエフまたの名ファゴット、それから黒猫のベゲモートがあらわれる。
悪魔の力により、哀れなスチョーパは一瞬でヤルタに飛ばされてしまう。

それから、住宅組合議長、ニカノール・イワーノヴィッチ・ボソイ。
ボソイは、故ベルリオーズが住んでいた部屋の管理人。
ベルリオーズの部屋を訪れたボソイは、そこで悪魔3人組と遭遇する。

いつのまにか、ボソイの鞄のなかには、黒魔術師ヴォランド一行が故ベルリオーズの部屋を一週間使用するという、貸与契約書が入っていてる。
ボソイは大いに驚く。
さらに、ボソイはコローヴィエフから契約金まで受けとってしまう。

自宅に帰ったボソイは、その金をトイレの換気口にかくす。
が、闇で外貨を手に入れたという密告を受けた警官が来訪。
もらったときはルーブルだった札束は、なぜかドル紙幣になっている。
警察に連行され、釈明をしたあげく、ボソイは精神病院へ。

さらに、ヴァリエテ劇場の経理部長リムスキイと、マネージャーのヴァレヌーハ。
2人は、支配人のスチョーパが、ヤルタから電報で交通費をもとめてくるのを怪しからんと思っている。
とにかく、送金をしにヴァレヌーハが外出。
ところが、しばし寄ったトイレで、猫のような顔をした男と、裸の女に遭遇。

その後、悪魔の手下となったヴァレヌーハは、裸の女とともにリムスキイを襲う。
が、間一髪、オンドリが鳴いたおかげで悪魔たちは去り、リムスキイは助かる。
しかし、恐怖のあまりリムスキイはただちに列車に乗りこみモスクワを去る。

悪魔一行による黒魔術公演会の司会者、ジョルジュ・ベンガリスキイは、ちょっとでしゃばったために、黒猫ベゲモートに首をもがれてしまう。
劇場の観客から慈悲をもとめられ、首はまたくっつけられるのだけれど、気が変になって、このひとも精神病院送りに。

ヴァリエテ劇場には、まだまだ苦難が襲いかかる。
いまや3人の職員は消えた。
そこで登場するのが、帳簿係のワシーリイ・スチェパーノヴィッチ・ラーストチキン。

ワシーリイがやらなければならないことは2つ。
ひとつは、軽演劇演芸協会に、きのうの事件──とんでもない黒魔術の公演──の報告書をもっていくこと。
もうひとつは、きのうの売上げ、2万1千711ルーブルを演芸会計課にもっていくこと。

で、演芸協会の事務室にいくと、そこでもまたキテレツなことが起こっている。
議長のプロホル・ペトローヴィッチが、透明人間化してしまっている。
空の背広がイスにすわり、やたらと書きものをしている。
秘書のアンナ・リチャルドヴナによれば、ここにも黒猫があらわれた──。

真面目なワシーリイは、報告のため演芸支部へ。
ところが、ここでもおかしなことが。
従業員が全員、口を開くと歌をうたうようになってしまったのだ。
黒猫はこなかったですかと、ワシーリイが訊くと、黒猫はこなかったが、鼻眼鏡の男はきたという返事。
従業員たちは全員、3台のトラックの荷台に分乗して、歌をうたいながら精神病院へ──。
ストラヴィンスキイ教授の精神病院は大繁盛だ。

ワシーリイはようやく演芸会計課に到着。
売上げを渡すが、なぜかお札が外貨になっている。
ワシーリイはその場で逮捕。

かわいそうなヴァリエテ劇場従業員列伝はまだ続く。
こんどは、ビュッフェ主任、アンドレイ・フォーチキ・ソーコフ。

昨夜、ヴァリエテ劇場でおこなわれた黒魔術ショーでは、観客の頭上に多数のルーブル紙幣が降りそそぐということが起こった。
その紙幣をもってビュッフェにきた者も大勢いた。
ビュッフェ主任ソーコフは、お客にどんどんお釣りを渡したのだが、ひと晩たってみると、金庫のなかのお札はただの紙になっていた。
結果として、ビュッフェは109ルーブルの損害を受けることになった。

ソーコフはそのことをいいに、黒魔術一行が宿泊しているアパート──故ベルリオーズのアパート──を訪れる。
そこで、黒猫や裸の美女に応接されたあと、黒魔術師ヴォランドに余命を告げられる。
あなたは9ヶ月後に肝臓病で亡くなる。
でも、貯金は24万ほどあるから、慎ましく暮らせばたりるだろう…。

ソーコフは、魔術師のもとを去ったあと、あわてて肝臓の名医クジミン教授のもとへ。
おかげで、こんどはクジミン教授が気の毒な目にあうのだが、もうこれくらいでいいだろう。

これまで、長ながと紹介してきたのは全て脇役。
いずれも主人公ではない。
主人公の《巨匠》がその姿を本格的にあらわすのは、「第13章 主人公の登場」の章だ。
これは、最初に読んだ群像社版だと、上巻の半分を少しすぎたあたり。
主人公が登場するにしては、ずいぶん遅い。

しかも、上巻で巨匠が登場するのは、この章だけ。
じつに破格の構成だ。
ちなみに、下巻でも巨匠はそんなに活躍しない。

出番は少ないが、さすが主人公だけあって、巨匠は非常に印象的。
最初の登場は、精神病院に入院した詩人イワンのもとに、先輩の患者として深夜にあらわれるところ。
そこで、巨匠はイワンに身の上話をする。


――長くなってきたので、次回に続きます。

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