ミサゴのくる谷

「ミサゴのくる谷」(ジル・ルイス/作 さくまゆみこ/訳 評論社 2013)

原題は、“Sky Hawk”
原書の刊行は2011年。

児童書。
〈ぼく〉の1人称。
舞台はスコットランドの村。
主人公はカラムという、11歳の男の子。

3月遅く。
カラムと、友だちのロブとユーアンは、川でやせっぽっちの赤毛の女の子と出会う。
女の子の名前は、アイオナ。
アイオナは川に手を入れ、ブラウントラウトを手づかみで捕まえる。
が、そんなアイオナに、ロブが突っかかっていく。

ここはカラムの川だ。
おまえは泥棒だ。
おまえのおふくろも泥棒だった。
おれのおやじの金を盗んで逃げたんだ。

カラムとユーアンがとめるのも聞かず、ロブはアイオナから魚をとりあげる。
アイオナは、コートと運動靴を残したまま、向う岸へ。
でも、途中、川に落ちてしまい、向う岸にはい上がる。

ロブとユーアンが去ったあと、カラムはアイオナのことを心配する。
アイオナはコートも着ていないし、靴もはいていないし、服はびしょぬれ。
うろうろしてたら凍えてしまう。

森でアイオナに会ったカラムは、コートと靴を返す。
すると、アイオナは、またこの農場にきていいのなら秘密を教えてあげるという。
条件は2つ。
だれにもいわないこと。
あたしをこの農場からしめださないこと。

カラムは了承。
あしたの朝、2人は湖で会うことに。

家に帰ったカラムは、父さんに農場の秘密について訊いてみる。
「なんの秘密も思いつかないな」と、父さん。

翌朝、カラムは農場の手伝いもそこそこに湖へ。
アイオナは、オークの木の上に居心地のいい場所をつくっていた。
古い木箱で椅子をつくり、古いハリケーンランプを枝にかけ、毛布やビスケットもおいてある。
でも、アイオナの秘密はこの場所のことではなかった。
アイオナにうながされ、湖の島にあるアカマツの木立に目をやると、ミサゴが巣をつくっている。
「ミサゴがこの農場にいるなんて!」

カラムは、近くの自然保護区で2羽のミサゴが巣をつくっているのをみたことがある。
ミサゴが巣をつくった木は、人間に卵を盗まれないように、鉄条網でかこわれ、監視カメラが設置されていた。

アイオナは、オス鳥が巣をつくるところを最初からみていたという。
あしたの午後、メスのミサゴがくるよと、アイオナ。
次の日、また2人でミサゴをみていると、アイオナがいったとおりメスのミサゴがあらわれる――。

ミサゴのことは2人の秘密。
だから、だれにも話せない。
カラムは、父さんや母さんや、兄のグレアムや、ロブやユーアンをごまかさなければならない。

また、カラムはアイオナの家庭のことも徐々に知るように。
アイオナは、イカレタじいさんとあだ名をつけられた、おじいさんの小屋で暮らしている。
お母さんはダンサー。
ロンドンの舞台にでていると、アイオナはカラムに説明する。

アイオナは、カラムのクラスに通うようになる。
でも、みすぼらしい格好をして、お弁当ももってこないアイオナは、クラスのみんなにバカにされるばかり。
カラムも、ロブやユーアンの目を気にして、アイオナを邪険に扱ったりしてしまう。

2人はしばらく疎遠になってしまうのだけれど、そこに大変なできごとが。
アイオナに呼ばれ、カラムが駆けつけてみると、ミサゴのメス鳥が釣り糸にからまり木の枝からぶら下がっている。

こうなると、もう秘密などとはいってられない。
カラムは父さんを頼り、父さんは自然保護区のヘイミッシュに連絡。
ヘイミッシュはすぐきてくれ、ぶじミサゴをすくいだしてくれる。
さらに、発信器もとりつけた。
これでアイリス――アイオナがつけたミサゴの名前――がどこにいても、グーグルアースでわかるように。

父さんたちは、オークの木の上にツリーハウスをつくってくれる。
夏休みになると、カラムとアイオナはそこでほとんど毎日アイリスを観察。
卵からひなもかえり、すっかり大きくなった。
ミサゴは渡りをする。
もうすぐアフリカに向かうはず。

このあたりまで読んで、アイオナの家族の過去の話が、いろいろと物語にからんでくるのだと思ったのだけれど、この予想ははずれた。
このあと、物語は急転直下。
ミサゴの渡りと歩調をあわせ、物語は外へ外へと向かっていく。

アイリスはフランスに渡り、ピレネー山脈を越え、地中海を通って、アフリカのガンビアへ。
しかし、そこで3日もうごかない。
アイリスになにかあったのだろうか。
救うためにはどうしたらいいか。
カラムは懸命に考える。

自然や環境といった題材と、小道具としてのテクノロジーが、児童書という枠のなかでうまくひとつになっている。
ストーリーが思いがけず国際的になるのも楽しい。

この本はカバーをとると、木の上にいるカラムとアイオナの絵があらわれる。
これもまた、思いがけない楽しさだ。


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