悪党どものお楽しみ

「悪党どものお楽しみ」(パーシヴァル・ワイルド 筑摩書房 2017)

訳者は、巴妙子。
ちくま文庫の一冊。

ギャンブルのいかさまを見破ることを題材とした、短篇連作ミステリ。
ユーモア小説の趣きがあり、ウッドハウスがギャンブルミステリを書いたらこうなるかという感じがする。
収録作は以下。

「シンボル」(ポーカー)
「カードの出方」(ポーカー)
「ポーカー・ドッグ」(ポーカー)
「赤と黒」(ルーレット)
「良心の問題」(カシーノ)
「ビギナーズ・ラック」(ポーカー)
「火の柱」(ポーカー)
「アカニレの皮」(チェス)
「エピローグ」
「堕天使の冒険」(ブリッジ)

カッコ内は作中で扱われているギャンブルの種類。

いかさまを見破る、普通のミステリでいうところの探偵役は、元賭博師のビル・バームリー。
ギャンブルから足を洗い、いまは父親の跡を継いで、農場を経営している。
この元賭博師にして農家というギャップもなにやら可笑しい。
「ポーカー・ドッグ」のなかで、グランドセントラル駅に着いたビルは、天井を見上げてこう思う。
――ここはとびきり素敵な牛小屋になるぞ。

このビルのもとに、ギャンブル好き友人のトニーが厄介ごとをもちかけてくるというのが、全編を通じてのパターン。
ウッドハウスのジーヴズ物でいうと、トニーはビンゴの役どころだ。

本書はもともと国書刊行会から出版されていた。
ちくま文庫から刊行されるにあたり、「堕天使の冒険」が新たに訳され追加された。
「堕天使の冒険」は、以前から創元推理文庫の「世界短篇傑作集3」(「世界推理短編傑作集」とタイトルを変えて2018年に再版された)に収録されており、この傑作集中1、2をあらそう面白さだった。

「悪党どものお楽しみ」は連作短篇集で、連作短篇集は、馴染みの登場人物がお決まりのストーリーを展開するのが楽しいところだ。
そのため、アンソロジーのなかの一篇よりも本書に収録されたほうが、より面白さが増すように思う。
ちくま文庫版に「堕天使の冒険」が収録されたのは、だから良かったといいたい。


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魔法使いの弟子

仔細あって、1年ほどお休みしておりました。
また、ぼちぼち再開してまいります。


「魔法使いの弟子」(ロード・ダンセイニ/著 荒俣宏/訳 筑摩書房 1994)

貧乏貴族の子息、ラモン・アロンソが、妹が嫁入りするための持参金を得るために、魔法使いに弟子入りし、錬金術を学ぶという話。
視点は3人称、ほぼアロンソ視点。

ストーリーはシンプル。
縮めれば短篇になりそう。
長編になっているのは、古い作品らしく描写がくだくだしいため。
でも、くだくだしさのなかにときおり素晴らしいイメージがひらめく。
この文章を楽しめるかどうかで、評価が分かれそうだ。

魔法使いに弟子入りしたラモンは、錬金術を教わる代わりに自分の影をさしだす。
魔法使いの家には、アネモネという名の掃除婦がいるのだが、この女性も魔法使いに影をとられてしまっていた。

魔法使いは、ときどきしまってある箱から影たちをだす。
そして、宇宙のどこかに使いにやる。
この影たちが宇宙を渡っていく場面は、読んでいてぞくぞくする。

ラモンは、自分と掃除婦の影を、魔法使いからとりもどそうとする。
影がしまってある箱には、漢字による呪文がかけられ、容易には開けられないようになっている。
漢字が魔法の文字となっているのが、なにやら面白い。

物語はラモンの妹ミランドラの大胆不敵な活躍もあり、大団円へ。
最後は、魔法使いと魔法の生きものたちの行進で終わる。
不思議と晴ればれとした終わりかただ。


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