プラヴィエクとそのほかの時代

「プラヴィエクとそのほかの時代」(オルガ・トカルチュク/著 小椋彩/訳 松籟社 2019)

作者はポーランドのひと。
2019年ノーベル文学賞を受賞。
本書は、断章形式で書かれた、ポーランドの架空の村の年代記。

断章形式で書かれた架空の土地という、似たスタイルをもつ作品として、丸山健二の「千日の瑠璃」(上下巻 文藝春秋 1992)を思い出した。
といっても、ちがう部分も多い。
「千日――」は、断章の分量がほぼ一定だけれど、「プラヴィエク」は長短さまざま。
「千日――」はタイトル通り千日ぶんの話だけれど、「プラヴィエク」は1914年夏から1980年代後半に渡る。

よく似たところとしては、人間以外のものが語り手に、またその章の視点になること。
「千日――」では、全ての断章は「私は――だ。」という一文からはじまる。
この〈私〉には、法律からニュートリノまで登場する。
(私は法律だ。という一文から章がはじまるのだ)

「プラヴィエク」では、神や天使やキノコについての章が登場する。
この点、両者ともおとぎ話的。
小説を少し地面から浮かすような、おとぎ話的な要素を盛りこむには、断章形式はやりやすいのかもしれない。

また、これもおとぎ話的というべきか、本書は登場人物にたいして過酷。
プラヴィエクは戦時中、前線となり、無残なことがたびたび起こる。

とはいえ、無残な印象ばかりが強いわけではない。
読み終わって残るのは、たくさんの時間が流れましたという感覚だ。
これもまた、おとぎ話的であり、断章形式の功徳といえるだろう。

全体に、本作のストーリーは菌糸がのびるように語られていく。
とてもよく書かれた解説によれば、トカルチュク作品にはキノコのモチーフが頻出するという。
作者はキノコが好きなのかも。

登場人物の各個人に、劇的な瞬間はたびたび起こる。
でも、ストーリー全体としてクライマックスといったものはない。
解説にはトカルチュク作品の女性性について書かれていたけれど、この全体の構成も女性性をあらわしているのかもしれない。

もっとも、本書で一番女性性が強く感じられるのは、鮮やかなピンクのしおりひも。
「千日――」にピンクのしおりひもがつかわれるのは、ちょっと考えられない。


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