2012年 ことしの一冊たち

例年通り、今年の記事をまとめたい。
今年は更新が少なかったので、上下に分けず、ひとまとめに――。

1月

「魂の文章術」(ナタリー・ゴールドバーグ 春秋社 2006)
求道的文章読本。「黙って書け」という教えはじつに正しいと思う。

「不変の神の事件」(ルーファス・キング 東京創元社 1999)
これを書いたあと、ルーファス・キングの短編集「不思議の国の殺意」も読んだ。そのなかの一篇、「マイアミ・プレスの特ダネ」が、バカバカしい雰囲気に満ちていて、とても好きだ。読んでいる最中だけ面白いというのは、長所だと思うがどうか。

「光ほのか」(マルグリット・オード 新潮社 1994)
傑作。

「笑いの新大陸 アメリカ・ユーモア文学傑作選」(沼澤洽治・佐伯泰樹/編訳 白水社 1991)
白水社の傑作選シリーズには、大変お世話になっている。


2月

「詩礼伝家」(清岡卓行 文藝春秋 1975)
読んだのは単行本。のちに講談社文芸文庫から出版されたが、現在品切れのよう。いまこの本を読むひとはいないよなあ。

「ポップコーン」(ベン・エルトン 早川書房 1999)
これも傑作。解説が、筑紫哲也と富野由悠季の対談というのが妙だ。

「ヘンリー・シュガーのわくわくする話」(ロアルド・ダール 評論社 1980)
なんとなく、ダールとグレアム・グリーンの作風は、似ている気がする。2人とも、意地の悪い子どもを書かせると天下一品。

「親子で楽しむこどもの本」(谷川澄雄/編著 にっけん教育出版社 1996)
ガイド本で紹介されている本の、書名だけメモしたら面白いぞと思って、ことしからはじめてみた。あんまり大量に紹介しているガイド本は、メモをとるのが大変なので、取り上げたくない。適度なのがいい。でも、そんな本をみつけるのがなかなかむつかしいと、はじめてからわかった。

「ニンジャ・ピラニア・ガリレオ」(グレッグ・ライティック・スミス ポプラ社 2007)
傑作というわけではないのだけれど、素通りするには惜しい作品。これくらい面白ければ充分だ。


3月

「怪奇製造人」(城昌幸 国書刊行会 1993)
「探偵クラブ」シリーズは、もう何冊か手元にある。「若さま侍捕物手帖」も部屋のどこかにあるはずだ。

「えほんのせかいこどものせかい」(松岡享子 日本エディタースクール出版部 1987)
ガイド本が紹介している本の書名をメモした第2弾。


4月

「小松左京自伝」(小松左京 日本経済新聞出版社 2008)
小松左京は1982年頃から、中・短篇を書かなくなる。このことについて、インタビューで、「載せてくれる媒体がないんだ。編集者も代わったし」とこたえ、さらにこう続けている。
「やっぱり「話の特集」が元気だったころは、僕もある意味で自由度が高かったんだね。宇宙と宇宙がセックスするなんていうのはもう書けないだろう」
これに応じて、聞き手は、「要するに小松先生もSFもエスタブリッシュされちゃったんですね」と、こたえている。エスタブリッシュされるというのは、なんだかさみしいことだ。


Made by hand、タブッキ、メビウス、ドライヴ
「Made by hand」(マーク・フラウエンフェルダー オライリー・ジャパン 2011)
「逆さまゲーム」(アントニオ・タブッキ 白水社 1998)
「黒い天使」(アントニオ・タブッキ 青土社 1998)
「エデナの世界」(メビウス TOブックス 2011)
「ドライブ」(ジェイムズ・サリス 早川書房 2006)
このあと、タブッキの「レクイエム」(白水社 1996)を読んだ。ひと段落ついたという気分になった。


5月

「ひとりでいいんです」「脱線特急」「嵐の眼」「倍額保険」
「ひとりでいいんです」(凡人会・加藤周一 講談社 2011)
「脱線特急」(カール・ホフマン 日経ナショナルジオグラフィック社 2011)
「嵐の眼」(ジャック・ヒギンズ早川書房 1994)
「倍額保険」(A・A・フェア 早川書房 1978)
「倍額保険」は本当になにも思い出せないなあ。

ジャック・ヒギンズ3冊とフォーサイス1冊
「地獄の季節」(ジャック・ヒギンズ 早川書房 1994)
「地獄の群集」(ジャック・ヒギンズ 河出書房新社 1987)
「狐たちの夜」(ジャック・ヒギンズ 早川書房 1993)
「シェパード」(フレデリック・フォーサイス 角川書店 1982)
ヒギンズは未読のものが手元にひと山ある。時間が許せばもっと読みたい。フォーサイスも、ダールも、グレアム・グリーンも、イギリスの作家はやっぱり味わいが似ている気がする。ヒギンズもイギリスの作家だけれど、前の3人にくらべれば、語り口は簡潔。


6月

「第九軍団のワシ」(ローズマリ・サトクリフ 岩波書店 2007)
「児童書の古典にはずれはない」の法則を再認識。

「日本の小説」(生島遼一 朝日新聞社 1974)
「日本の小説」(承前)
あと、「日本文学史」(小西甚一 講談社 1993)も読んだ。それはそれは面白かったけれど、内容は忘れてしまった。やはりメモをとらなくてはダメか。「十二夜」(高橋睦郎 集英社 2003)という、古事記から能に至るまでの文学エセーも読んだ。この本も面白かった。竹取の翁について、高橋さんはクリステワさんよりも冷ややかにみている。


7月

「鳴るは風鈴」「耳学問・尋三の春」
・「鳴るは風鈴」(木山捷平 講談社 2001)
・「耳学問・尋三の春」(木山捷平 旺文社 1979)
木山捷平の本を2冊。なんでこんなに面白いのか。

「松居直のすすめる50の絵本」(松居直 教文館 2008)
絵本入門書として非常に手堅い1冊。

「ブルックリン・フォリーズ」(ポール・オースター 新潮社 2012)
本書に書かれたカフカの逸話が忘れがたい。人形を失くしてしまった女の子に、人形からの手紙だといって、カフカがせっせと手紙を書いたという逸話。これは本当の話なのだろうか。


8月

「浪人八景」(山手樹一郎 春陽堂 1977)
山本周五郎や山手樹一郎といった、読まれ続けている作家が気になる。山手樹一郎も、もう何作か読んでみたい。

「皺」「ひとりぼっち」そして灯台
・「皺」(パコ・ロカ/著 小野耕世/訳 高木菜々/訳 小学館集英社プロダクション 2011)
・「ひとりぼっち」(クリストフ・シャブテ/著 中里修作/訳 国書刊行会 2010)
最近、海外のマンガがずいぶん訳されるようになった。喜ばしいことだ。


9月

電脳巡警 その1
電脳巡警 その2
「電脳巡警」(小松直之 マガジンハウス)についての、1回目と2回目の記事。だれも知らないマンガだけれど、個人的に好きで、このブログをはじめたとき、このマンガのことだけは紹介したいと思っていた。今回ようやく記事にすることができ、とても嬉しい。


10月

「父と息子のフィルム・クラブ」(デヴィッド・ギルモア 新潮社 2012)
そうだ、「ショーガール」をみなくてはと思っていたのだった。

「絵本が目をさますとき」(長谷川摂子 福音館書店 2010)


11月

絵本が目をさますとき(承前)
「ノンタン」や「アンパンマン」といった絵本を、どう評価するか。あるいはしないか。この難問に、著者は正面から立ち向かっている。答えがでたとは思えないけれど、この姿勢には敬意を表せずにはいられない。

電脳巡警 その3
「電脳巡警」2巻目のストーリー紹介。


12月

電脳巡警 その4
電脳巡警 その5
このくらい詳細にストーリーを追うと、「本を読んだなあ」という気分になる。どの本にもこんなことはしていられないけれど。ひさしぶり読み返した「電脳巡警」は素晴らしく面白かった。

――というわけで。
ことし読んだ本は以上。
後半は、「電脳巡警」の記事ばっかりになってしまった。
そのあいだ、なにも読んでいなかったのかというと、そんなことはない。

まず、9月からずっと、ディケンズの「荒涼館」(「世界文学全集22・23」 筑摩書房 1970)を読んでいた。
3人称現在形の語りと、エスタという少女の1人称の語りが交互に入れ替わるという構成。
ディケンズの人物描写は大変楽しい。
また、後半、エスタの母をめぐるサスペンスは大いに盛り上げる。

でも、物語の背景に、「ジャーンディス対ジャーンディス事件」という訴訟があるのだけれど、これがいまひとつ判然としない。
こちらに19世紀英国の知識がとぼしいためだろう。
適当な解説書があれば、読んでみたいものだ。

あとは、「浄瑠璃を読もう」(橋本治 新潮社 2012)が面白かった。
「仮名手本忠臣蔵」
「義経千本桜」
「菅原伝授手習鑑」
「本朝廿四孝」
「ひらかな盛衰記」
「国性爺合戦」
「冥途の飛脚」
「妹背山婦女庭訓」

――といった浄瑠璃のストーリーを、懇切丁寧に解説してくれる。
あらすじ好きにはたまらない一冊だ。

ノンフィクションでは、「商店街はなぜ滅びるのか」(新雅史 光文社 2012)を思いだす。
商店街の歴史について語れといわれても途方にくれてしまうけれど、著者は商店街の発祥から、栄枯盛衰、その歴史的意義まで明快に語って目をみはる。
専門家というのは大したものだ。

ずっとやってる絵本紹介ブログ「一冊たち絵本」は、紹介冊数が800冊を超えた。
1000冊でやめるつもりだから、来年には終わるだろう。
そうしたら、もう少し時間ができるだろうか。

ことしの更新はこれが最後。
では、皆様、よいお年を――。


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電脳巡警 その5

――続きです。

カンとバルは3人目の監査官のもとへ。
3人目の監査官は中年の女性で、なにかの宗教団体の代表者らしき人物。
いつも手袋をしているので、指紋をとられることはない。
手袋をはずすのは、食事とお風呂と眠るときだけ。
ただ、お祈りのときはスキャナーの上に手を置く――。

すると、監査官の目の前で、電子証券が勝手に市場に放出される。
証券はチャンネル使用権。
いまのところ現金化されていない。
が、細分化されている上に、何度も買い換えられている。

それにしても、街が買えるような大金を、どうやって運ぶ気なのか。
ともかく、バルがネットワークに接続し、直接資金の流れを追うことに。

一方、カンの同僚バートから連絡。
コンビニ強盗の現場から、逃走中の車がみつかったとのこと。
現場の弾丸は、倉庫のものと一致。
店のセキュリティ・システムは一撃で破壊されていたが、センターにはノイズの記録が残っていた。
「ノイズ?」と、バルは不審がる。

カネの流れを追うためにネットワークにいるバルは、カンと連絡に、対話型のキャッシュディスペンサーを指定。
カンはバルから、バルを呼びだすための口座番号を教わる。

で、カンはキャッシュディスペンサーにいき、後ろに並んでいるおばさんの、「早くしなさいよ」という催促を尻目に、バルと状況を確認。

セキュリティセンターに残っていたノイズは、バルが解析した結果、ガースンのリングから発せられたものだったと判明。
センサーとの距離など、条件によってリングは信号を発信していたのだが、シールドを通った信号はノイズとして、セキュリティセンターのフィルターではねられていた。

バルは、信号の記録と交通監視カメラの記録を参照し、現在ガースン一味が乗っている車を確定する。
さらに、向かっている場所を突き止める。
さっそく、追いかけようというカンに、バルは電気屋に寄るようカンに指示。
「さっき、特注でつくらせたものがあるのです」

バルが特注したのは、ガースンのリングを発動させる信号をだすためのリモコン。
大きく重い。
大部分がバッテリーで、背中に背負ってつかう。
しかも、有効射程は恐ろしく短い。
どのくらい近づけば有効なんだと問うカンに、バルはこたえる。
「数センチ、あるいは密着なら絶対…!」

車でガースンたちを追っていたカンだったが、道が通行止めされている。
街が買収されたため。
連中は、本当に街を買ったのだ。
「厳密にいえば、企業管轄区域においてはその企業を買収し、自治エリアにおいては住民株式を買い占めているのです」
と、バルが解説。

街を購入し、支配することがガースン一味の目的だったのか。
いや、そうではない。
購入している区域は、第17空港へと向かっている。
街を購入しているのは、空港にいくためのルート確保。
すでに、エアルートも購入済み。
空港上空では、飛行機が旋回している。
空港の買収後に着陸する予定。
飛行機は、ビジネスジェット1機に、ラモン共和国革命軍機が1個小隊。
ここが、ガースンたちのスポンサー。
リングを処置できる医者も、共和国で準備させているはず。
(そして、もう語られないけれど、おそらくカネはラモン共和国で現金化するつもりだったのだろう)

ガースンたちの街の購入をふせぐため、バルもマネーゲームに参入。
署長の家を勝手に担保に入れ、ネットバンクから借り入れ。
あとは、市警の退職基金を運用するというムチャクチャぶり。

さらに、連中の資金源を押さえる。
ガースンたちの錬金プログラムは、メジャーからマイナーネットに強制介入することで、一瞬取引を固定し、そのあいだに差額を手に入れるという仕組み。
バルが、その全てのうごきに先回りし、利益が上がることをふせぐ。

ガースンたちも、何者かが自分たちの行動のジャマをしようとしていることに気づき、すでに不要となった後方の土地を処分することで対抗。
空港までの区域が、一部買収されて通れなくなってしまったが、ルート92が通れるようになったので、そちらに。

じつは、それはカンとバルによる作戦。
買収したルート92にガースンたちを誘いこみ、信号を照射しようというのだ。
リングが作動すれば、激痛、目まい、発熱、嘔吐をともなうショック症状が起こる。
そうなれば、まずこちらの勝ち。
カンはリモコンをかまえて待ちかまえる。

しかし、カンとバルのもくろみを察したガースンたちは、ルート92の反対車線を逆走してくる。
裏をかかれたカンは、信号を照射するどころか、逆に銃撃を受けることに。
無事だったものの、車がつかえなくなり、リモコンを背負って空港までガースンたちを追う。

ガースンたちは空港に到着。
が、空港にはだれもいない。
バルが空港の派遣会社を買収し、違約金を払ってスタッフを引き上げさせたため。

「だれだか知らねえが、最後までジャマしてくれるぜ」

そこに、汗まみれのカンが登場。
リモコンを向けて、ガースン一味と対峙。
勝負あったというところ。
だが、ガースンが居直る。

「リングが作動したからって、すぐ死ぬわけじゃねえんだ。どうせ捕まるんだったら、こいつをぶちのめす」

仲間たちは飛行機を着陸させに去り(なにしろスタッフがいないので)、ガースンとカンは一騎打ち。
リモコンから信号を照射するが、数メートルの距離でもガースンのシールドは貫けない。
カンは、ガースンにぼこぼこにされてしまう。
ガースンも仲間たちに合流し、一味はジェットに搭乗。

一方、殴り倒されたカン。
ポケコン(スマートフォンみたいな携帯端末)もこわれてしまったので、空港のキャッシュディスペンサーから、バルの口座にひとこと通信を送る。

「シールド1枚はずした。なんでもいい、電波だせ」

殴りあいのとき、カンはガースンのシールドを1枚はいでいたのだった。

ガースンたちの乗った飛行機は離陸。
同時に、空港のあらゆる電波発信機器が向きを変え、飛行機にむかって信号を照射。
離陸中の飛行機のなか、あまりの激痛にガースンが絶叫し、拳銃を発砲。
脱出装置が作動し、パラシュートが開く。
バートたち市警が落下地点にむかう──。

あとはエピローグ。
署長の家は元通り。
バルがつくった会社は、少額ながら利益を生みだしていて、オシマイ。

脱獄の発端から、監査官の指紋の入手。
最後は、街の買収合戦。
追う者と追われる者の攻防をよく読ませる。

いくら派遣会社を買収しても、すぐスタッフがいなくなるというのは無茶ではないかと思うけれど、そんなことは気にならない。
伏線の張りかたがていねいなので、なかなか場面をカットできず、要約もずいぶん長くなってしまった。

「電脳巡警」の第4話(最終話)は「クリス・クリスティーズ・クライシス」。
ゼネティック本部総合広報職に勤めるカンの女友達クリスが、ある頭のおかしな軍人が開発したプログラムにストーキングされるという話。
この話も面白い。
でも、最終話の詳しい要約はやめておこう。

4話までいたると、最初の巻より絵がうまくなっているのがわかる。
いや、うまくなったというより、こなれてきたといったほうがいいか。
表現の仕方が安定してきた。
マンガの連載につきあってみればわかることだけれど、絵は描いていればうまくなるのだ。

というわけで。
「電脳巡警」は、ネットワークが発達した未来世界を舞台に、観念的にならず、地に足のついた展開をみせてくれる作品だった。
特に、ストーリーのさばきぶりが素晴らしい。
こういう作品は、ありそうでなかなかない。

また、「攻殻」とくらべると、「電脳巡警」世界では、サイボーグ化が進んでいない。
ネットに直接アクセスするのは、アンドロイドのバルだけだ。
人間たちは、端末を介してのみネットにつながる。
観念的な話に陥らずにすんだのは、この設定にあるのかもしれない。

このジャンルの代表作は、まず「攻殻機動隊」だろう。
でも、異色作としてこの作品も押しておきたい。
それだけがいいたくて、長ながと要約した。


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電脳巡警 その4

――続きです。

盗聴おじさんの協力により、ウィリーの自宅が判明。
カンが張っていると、朝帰りのウィリーがあらわれる。
カンの指示で、バルがウィリーに接触。

「先日、うちの刑事が撃たれまして。そのとき使われた銃の一丁が、かつてのガースン一味とかかわりのあることがわかりまして…」

揺さぶりをかけると、部屋に入ったウィリーはすぐ仲間に電話。
カンたちはそれを盗聴および探知。
が、ウィリーが市警がきた旨をつたえると、電話はすぐ切られてしまう。
それでも、ウィリーが電話をかけた相手は判明。
JSトレーディングという会社。
代表者は、ジェームズ・ショウ。
ガースン一味のひとり、ジェイの変名。

ウィリーは部屋をでてメトロに乗りどこかへむかう。
ウィリーの性格上、いき先はアジトかもしれない。
バルがメトロのゲート管理システムに侵入し、改札を通った時刻からウィリーのチケットIDを判別。
料金といき先から、降りる駅をしぼる。

さて、湾岸のとある倉庫にいるガースン一味。
ここが、ジェイの会社でもある。
さすが悪党たちは用心深い。
ウィリーのあとを市警がつけてくるのではないかと察する。
案の定、のこのこあらわれたウィリーのあとを、カンとバルが追ってくる。
で、ガースン一味とカンとバルが出会って、アクションシーン。
乱闘のあと、銃撃戦。

カンたちを始末しようとしたガースン一味は、作戦を変更。
倉庫の温度を零下に下げて、ウィリーもろとも閉じこめる。

カンたちは懸命に脱出をはかるが、シャッターもドアも開かない。
屋外配線が切られ、電話は不通。
携帯では、倉庫の壁を通らない。
が、内線は生きていて、バルがそれを通じ、温度をコントロール。
冷気の吹きだしはやむ。

しかし、乱闘のとき投げられたバルは、温度調節がうまくいかなくなってしまった。
このままでは、5分ほどで脳が過熱。
最悪の場合、有害物質が生成される恐れが。

バルを冷やすため、カンは水をさがすが、倉庫のなかは蛇口も消火栓もみつからない。
天井にスプリンクラーをみつけたものの、暗闇のなかで銃で狙うには高すぎる。
しかし、ポケコン(スマートフォンみたいな携帯用コンピュータ)から指示をだし、スプリンクラーを誤作動させ、ぶじバルの冷却に成功。
2巻中一番の盛り上がりをみせる場面だ。

逃走したガースン一味は、昼食のため、のんきにコンビニ強盗。
車でコンビニに突っこみ、サンドイッチをとって、別の車に乗りかえる。

ところで、この時点では、カンたちはガースン一味の目的──監査官たちの指紋あつめ──をまだ知らない。
ウィリーが知っていたのは、どこかの飲み屋で、ある老人(監査官のひとりワルター・ロスマン)と会っていたということだけ。
記憶力の悪いウィリーは、老人のモンタージュもろくにつくれない。
手がかりは飲み屋ということのみ。

そこで、カンたちは再びサラの店へ。
なにも知らないとサラはいう。
ガースンが仮出所したのも知らなかった。

「やつが刑務所をでたと俺はいったけど、仮出所したとはいっていない。やつは脱獄したんだ」

と、カン。
サラが口を割り、店にきたのは元経済庁第65長官、ワルター・ロスマンと判明。
しかし、ガースンたちがなにをしたのかは、サラも知らない。

カンとバルは、獄中でガースンがみていた番組をチェックして当たりをつける。
ガースンが最後にみていたのは、「有価電子証券取引に関する当局取り決めの見通し」。
ロスマンの、山ほどある肩書きを検索すると、W&Gネットバンク特別監査官がヒット。
押収をまぬがれたカネ、隠し口座、指紋キーがひとつにつながる。

ガースンがみていたニュースは、みな来期における有価情報取引規制の改正に関するものだった。
ガースン一味は、改正前にカネを引き出して逃げるために、行動を起こしたにちがいない。
ガースンたちの目論見が唯一はずれたのは、現在、一定額以上がうごくときは、新たにキーが必要になったこと。
隠し財産の規模から考えて、必要なキーは最大級。
3人の監査官全員のキーのはず。

一方、ガースン一味は、投資コンサルタントの肩書きで、第2の監査官イルフォード卿と接触。
(おそらく架空の)実績を上げ、イルフォード卿の信用もすでに得ている。

「お客様の運用実績を考慮いたしまして、当社の独自データをリアルタイムで御覧いただけるようにします」

と、モニターの案内嬢がイルフォード卿に告げる。
背後にいるのは、もちろんジェイ。

「他社にはない重要機密ですから、特別にお客様のボックスをおつくりいたしますので、登録をお願いいたします。発信音のあと、3Dスキャナーに手をお乗せください──」

カンとバルは、イルフォード卿に連絡。
電話にでた執事に事情を説明。
なにか変わったことはないかと尋ねると、最近、主人が重用しているデリバティブ・コンサルタントを調べてほしいと執事。

「名前を、Jコンサルタントといいまして──」

会社名を聞いたカンは、思わず天を仰ぐ。

というわけで、物語は3巻へ――。
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