短編を読む その30

「紳士のみなさん、陛下に乾杯」(ラニアン)
「ブロードウェイの天使」(新潮社 1984)

ヨーロッパのどこかの国の王様を片づけるという仕事を引きうけた悪党たち。頼んできたのは、国の政党の親玉である伯爵。ヨーロッパに渡り、王宮に入った悪党たちは、そこで予想外のものを目にする。

「プリンセス・オハラ」(ラニアン)
同上

4輪馬車の御者をしていた父の跡を継いだプリンセス・オハラ。ところが、馬が倒れて商売ができなくなってしまう。同情した悪党たちは、競馬場の厩舎にいた馬を無断で借りだし、プリンセス・オハラに提供。おかげで商売は再開し、さらにプリンセス・オハラは乗せたお客と恋に落ちる。

「ブロードウェイの出来事」(ラニアン)
同上

みんなでそれぞれ自分の夫を殺し、保険金を積み立てて各自でつかえるようにしたら、さぞ便利だろうと、ブリッジ仲間の夫人にそそのかされた有閑夫人。良心がとがめて実行を控えたものの、皮肉なことに夫が頓死。ブリッジ仲間の夫人から、保険金を積み立てるように脅かされるのだが、その苦境を、ミステリ趣味のある劇評家アンブロース・ハマーが解決する。

「マダム・ラ・ギンプ」(ラニアン)
同上

昔、美女だったマダム・ラ・ギンプには、赤ん坊の頃、スペインの姪のところにやった娘がいた。その娘が、貴族の息子と結婚することになり、世界一周旅行の途中、マダムに会いにくることに。アメリカで最高に金持ちで家柄のいい夫と再婚したと、嘘の手紙を書いていたマダムは、悪党たちの手を借りて、マンションの部屋を都合し、金持ちそうにみえる亭主をこしらえ、スペインからの一行を出迎える。

「ブッチの子守歌」(ラニアン)
同上

金庫破りがいなくて困っていた悪党3人組は、腕の立つブッチのことを思いだす。会いにいってみると、ブッチは赤ん坊と一緒に外で涼んでいるところ。3度刑務所に入っているブッチは、4度目は終身刑になってしまうと、悪党たちの申し出を断る。それに、なにより子守りがある。なら、赤ん坊も一緒に連れていけばいいと、悪党たちに口説かれて、ブッチは赤ん坊を連れて金庫破りにでかけていく。

「死者の靴」(マイケル・イネス)
「アプルビイの事件簿」(東京創元社 1978)

これは中編。片方が茶色で、もう片方が黒の靴をはいた男が車内にいたと、乗り合わせた列車で若い女性から聞かされた青年。列車の出発地で、同じく茶色と黒の靴をはいた身元不明の死体が発見されたことから、青年は列車での出来事を警察に知らせにいく。

「足の裏」(夏樹静子)
「新世界傑作推理12選」(光文社 1982)

信用金庫に強盗が入り現金が奪われる。使用された1万円から、当地の輪光寺で庶務課長をしている男が容疑者として浮かび上がる。が、大人しい男で、事件を起こしたとは到底思えない。警察は根気よく内偵を続ける。

「証言」(松本清張)
同上

別宅に愛人を住まわせた男。帰りに、たまたま近所の住人と会い、うっかり会釈をしてしまう。その後、この近所の住人が殺人事件の容疑者になるのだが、男は住人と会ったことを、かたくなに否定する。

「ちいさなミーラとの会話」(ヤロスラフ・ハシェク)
「不埒な人たち」(平凡社 2020)

4才の甥と散歩にでかけたおじさん。甥はなにかにつけて「なぜ」と訊いてくる。たまりかねたおじさんは、とんでもない手段に訴える。――拘置所に入れられたおじさんの告白という形式。ユーモアスケッチ大全に入れられそうな話だ。

「古い菜種店の話」(ヤロスラフ・ハシェク)
同上

菜種店の見習いとなった〈わたし〉による、いくつかのエピソードをあつめた中編。ボーイ・ミーツ・職場小説とでもいおうか。作者の実体験をもとにしているらしく、ボスと、その恐るべき夫人と、舅と、先輩店員たちの行状について書かれている。


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短編を読む その29

「シュレミールがワルシャワへ行った話」(I・B・シンガー)
「まぬけなワルシャワ旅行」(岩波書店 2000)

ヘルムの村からワルシャワめざして歩きはじめた、まぬけのシュレミール。途中、ひと眠りして歩きだし、ヘルムの村にもどってしまう。けれど、ここは別の村だと思いこみ、もとの家族を別の家族と思いながら一緒に暮らす。

「衣装」(ルース・レンデル)
「夜汽車はバビロンへ」(扶桑社 2000)

服を買うのがやめられない女性。夫に露見するのを恐れながら、サイズも確かめず、女性は服を買ってしまう。

「名もなき墓」(ジョージ・C・チェスブロ)
同上

地下鉄の駅で中国人女性の出産を手伝った、元CIA諜報員の画家ヴェイル。女性を密入国させ、売春させている中国人結社に単身乗りこむ。スーパーヒーロー的探偵小説。

「無宿鳥」(ジョン・ハーヴェイ)
同上

訪問した家の夫に殴られている修道女を助けた、出所したばかりの泥棒。友人の警察官にこの件をつたえた泥棒は、ある絵を所蔵している屋敷に侵入する。絵が好きで、バードウォッチングが趣味という泥棒を主人公にした作品。短編だが多視点で、それが話をうまくふくらませている。

「完璧なアリバイ」(パトリシア・マガー)
「新世界傑作推理12選」(光文社 1982)

結婚生活が破綻している男。愛人がいるが、それとは別の若い女性に夢中になり、妻を殺そうとする。殺し屋を雇い、アリバイづくりのため愛人とレストランにいくのだが、すべてが裏目にでてしまう。

「朝飯前の仕事」(ビル・ブロンジーニ)
同上

お屋敷での結婚披露宴のあいだ、プレゼントを置いてある部屋の見張りに雇われた探偵。窓を割る音とともに、何者かが部屋から指輪を盗みだす。状況からみて、外部からの侵入とは思えず、疑いは探偵に向けられるのだが。名なしの探偵(オプ)シリーズの一編。

「ディナーは三人、それとも四人で」(L・P・ハートリー)
「ディナーで殺人を 上」(東京創元社 1998)

ヴェニスにいる2人組の英国人が、食事の約束をしているイタリア人と落ちあうためゴンドラででかけていくが、途中で水死体を拾ってしまう。2人の英国人の会話で話が進む、ユーモラスな怪談。

「三つの詠唱ミサ」(アルフォンス・ドーデー)
同上

17世紀のクリスマスイヴ。クリスマスのごちそうに心を奪われた城の礼拝堂付き司祭は、第1第2のミサを大急ぎですませ、第3のミサはついに省いてしまう。そのため神から罰を受ける。

「しっぺがえし」(パトリシア・ハイスミス)
同上

妻が愛人と共謀し、事故を装ってめでたく夫を殺害。が、その後、愛人との仲がこじれて…と、ひねりの効いた展開が続く。さすがパトリシア・ハイスミスだ。

「いともありふれた殺人」(P・D・ジェイムズ)
同上

人妻と青年の密会をたまたま目撃した男。ある日、人妻が殺害され、青年に容疑がかかる。容疑を晴らせるのは男だけなのだが――。


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