短編を読む その25

「クリスマスツリーの殺人」(ピーター・ラヴゼイ)
「服用量に注意とのこと」(早川書房 2000)

ダイヤモンド警部もののクリスマス・ストーリー。シアン化水素により殺された老人には、2人の息子と1人の娘がいた。それぞれ父親の遺産を狙う動機があり、機会がある。はたして犯人は。犯人当てのクイズつき。しかしこの犯行は実行可能なのだろうか。

「大売出しの殺人」(ピーター・ラヴゼイ)
同上

これもクリスマス・ストーリー。玩具売場の女性店員が、馴染みの女の子からクリスマス用につくられた洞窟部屋でサンタが固くなっていると聞かされる。いってみると、サンタの恰好をした店員がクロスボウの矢に射られて死んでいた。あわてて支配人を呼びにいき、もどってみると、死体は消えてしまっている。

「スペードの女王」(プーシキン)
「スペードの女王・ベールキン物語」(岩波文庫 1967)

賭けごとを愛するものの、倹約せざるえない身分にある青年。かつてサン・ジェルマン伯よりカードの必勝法を教わったという伯爵夫人から、その秘密を聞きだそうと、青年は夫人の養女リザヴェータに近づく。見事な完成度。

「その一発」(プーシキン)
同上

騎兵連隊に属していた男から、その昔、決闘沙汰になったものの相手があまりに平素と変わらぬ風だったので、撃つのをやめたと聞かされた〈わたし〉。しかし、決闘相手が近ぢか結婚すると聞いた男は、今度は平然としていられないだろうと、再び決闘におもむく。数年後、この話の顛末を〈わたし〉は聞く。

「葬儀屋」(プーシキン)
同上

向かいの靴屋から銀婚式のお祝いに招かれた葬儀屋。皆が口ぐちに乾杯の音頭をとるなか、あんたも亡者の健康を祝してはどうかとからかわれる。腹を立てた葬儀屋は、自分の新築祝いにやつらは呼ばない、代わりに亡者を呼んでやると息巻く。ちょっとディケンズのようだ。

「贋百姓娘」(プーシキン)
同上

いがみあっている2人の地主。それぞれ息子と娘がいるのだが、大学を出た息子が帰省して近所の評判になると、娘のほうは会ってみたくてたまらない。そこで娘は、腹心の小間使いの助けをかり、百姓娘に化けて、猟にいく青年を林のなかで待ちかまえる。まったく、どちらが狩りをしているのかわからない。

「マッカーガー峡谷の秘密」(アンブローズ・ビアス)
「ビアス選集 3」(東京美術 1971)

ウズラ撃ちにでかけた〈わたし〉が、廃屋で野宿をしていると、訪れたこともないスコットランドのエジンバラの夢をみる。それから女の悲鳴を聞きとび起きる。数年後、その峡谷で白骨死体をみつけたという男から、〈わたし〉はそこで起こった事件の話を聞く。後半笑話調になるのが面白い。

「糖蜜(メイプルシロップ)の壺」(アンブローズ・ビアス)
同上

ひたすら自分の店ではたらいていた男。亡くなってからも店にあらわれる。生前のときのように、男から糖蜜を買ってしまった銀行家は、自分は気が変になってしまったのかと怪しむ。村人たちは幽霊をひと目みようと店に押しかける。ユーモラスな怪談。

「自動チェス人形」(アンブローズ・ビアス)
同上

何者かとチェスをしている友人。〈わたし〉は、チェスの相手が、友人が発明した自動チェス人形なのではないかと思いいたる。友人は相手とのチェスに勝つのだが、その後悲劇が起きる。

「死者谷(デッドマン・ガルチ)の夜」(アンブローズ・ビアス)

冬の死者谷で暮らす男のもとに、ひとりの老人がやってくる。男は老人をもてなすが、早く帰ったほうがいいと告げる。ここにいた中国人が亡くなったとき、弁髪を切って、墓の上の梁に引っかけておいた。すると中国人が弁髪をとりもどしにあらわれるようになった。この2年間、中国人から弁髪を守るのが義務のような気がしていたが、それは間違いだったような気がすると男。そして夜、男と老人が床につくと、2つのベッドのあいだにある床のはねぶたがゆっくりと開きはじめる。なんだがすごい怪談だ。


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短編を読む その24

新年明けましておめでとうございます。
短篇のメモは1年で終わりにするつもりでしたが、まだストックが残っているので、いましばらく続けていきます。

「ハンプルビー」(ギッシング)
「ギッシング短篇集」(岩波書店 1997)

溺れている金持ちの息子を助けた、大人しい少年ハンプルビーは、その父親の斡旋と、浅はかな両親の要望のため、本人の希望とは別に金持ちの会社の事務員になるはめに。その後もハンプルビーは、この金持ち親子に振りまわされる。

「キルジャーリ」(プーシキン)
「スペードの女王」(新潮社 1981)

ブルガリア人で、モルダヴィアを荒らしまわった盗賊キルジャーリの物語。ギリシア神聖隊に入り、トルコ軍に掃討され、ロシアに逃げこんだものの官憲の手でトルコに引き渡される。死刑判決を受けるが、見張りをだまし、まんまと逃げおおせる。

「魔法の書」(エンリケ・アンデルソン=インベル)
「魔法の書」(国書刊行会 1994)

古本屋でみつけた、さまよえるオランダ人が書いた本。一見ただのアルファベットの羅列なのだが、目をこらすと文章になる。しかし一度目をはなすと、アルファベットに羅列にもどってしまうため、また最初から読まなくてはならなくなる。かくして主人公の古代史教師は、ひたすら本を読み続ける。まるでセーブポイントのないゲームのよう。

「将軍、見事な死体となる」(エンリケ・アンデルソン=インベル)
同上

推理小説を読みすぎて完全犯罪を志すようになった外科医。まず殺す相手の名前を決定するのが肝要と思うのだが、その名前をもつ相手がみつからない。少しほっとしたものの、その名前をもつ指導者があらわれる。外科医は覚悟を決める。

「屋根裏の犯罪」(エンリケ・アンデルソン=インベル)
同上

刑事が屋根裏部屋につくられた暗室に入ると、そこには背中にナイフを突き立てられた男が倒れていて――と、典型的なミステリの場面がファンタージーに一変する。

「解放者パトリス・オハラ」(エンリケ・アンデルソン=インベル)
同上

サン・マルティンの軍隊に参加したアイルランド人のパトリス・オハラは、インディオとともに、〈眠りの村〉の人々を解放しに向かう。そのアラウコ族の神々は、村人たちの夢を食って生きているのだという。

「友達同士で」(フィリップ)
「朝のコント」(岩波書店 1979)

友達同士なのに関係をもってしまった男女。女の夫もまた友達であり、2人は夫のもとへ謝りににいく。

「めぐりあい」(フィリップ)
同上

8年前に離婚した2人。たまたま再会し、コーヒー店に入り、近況を語りあう。なんとも味わい深い。

「マッチ」(フィリップ)
同上

チューリッヒ見物にきた男が、ベッドで煙草を吸っていると、火をつけたマッチをどうしただろうと不安に思う。ベッド脇の絨毯をみると、ベッドの下から手がでて、マッチの火を消すのがみえる。ベッドの下にだれかいるのだ。

「最高傑作」(ポール・ギャリコ)
「ディナーで殺人を 上」(東京創元社 1998)

天候不順で客足がとだえ、借金に苦しむレストランの店主。賞金付きの手配書をみていたところ、当の手配者が客としてあらわれる。警察がくるまで引きとめておこうと、店主は腕によりをかけた料理をふるまう。


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