人生はシネマティック!

DVD「人生はシネマティック!」(2016 イギリス)

これは映画づくりの映画。
舞台は、第2次大戦中、ドイツ軍による空襲が激しさを増すロンドン。

コピーライター部の秘書だった主人公のカトリンは、情報省映画局にスカウトされる。
スカウトしたのは、映画局の特別顧問をしているバックリー。
コピーライター部は全員が徴兵されてしまったので、新聞に掲載するコミックのセリフをカトリンが描いた。
それが、ちょうど説得力のある女性の視点をもとめいたバックリーの目にとまったのだった。

週給は3ポンド10だが、きみは女性なので2ポンドでどうか。
カトリンはそれで了承。

このオープニングで、この作品の要素はほとんどそろっている。
戦時であること。
主人公が女性であることが強調されていること。
映画づくりの映画であること。

カトリンには夫がいる。
スペイン戦争で足を負傷し、徴兵には不適合、空襲監視員をしている。
また、芽のでない絵描きでもある。
おかげでカトリンが家計を支えなければいけない。

カトリンが最初にてがけた仕事は政府広報。
主演のベテラン俳優が現場でアイデアをだすのだが、カトリンはおずおずとしながらもそれを却下。

バックリーは映画局の特別顧問のほかに、プロデューサーであるベイカーのもとで脚本を書いている。
あるとき、バックリーはカトリンに、ひとつの新聞記事をみせる。
ダンケルクの撤退作戦で、双子の姉妹が父親の船で出発し、兵士を救出したという記事。
情報局は戦意高揚のために、信憑性がありながらも楽観的な作品をもとめている。
この記事はそれにぴったりだと、バックリー。

カトリンは、双子の姉妹を取材しに港町へ。
よくよく聞くと、双子の姉妹は船のエンストのためダンケルクには着けなかったという。
牽引してくれた船からあふれた兵士を乗せただけ。
また、フランスには、顔見知りの一等航海士がいたと姉妹。
その一等航海士に会いにいくつもりだった。
父親は飲んだくれのため、船をだしても気づかないと思った。
ナップザックに犬を入れていた兵士がいた。
フランス人兵士がキスしてきて怖かった。

以上のように、姉妹がおぼえているのは細かいことばかり。
このシーンで、姉妹がカトリンに、ロバート・ドーナットに会ったかと訊くのが面白い。
ロバート・ドーナットは、ヒッチコックの「三十九夜」で主演を演じた俳優だ。

しかしまあ、姉妹の話では映画化は無理そう。
ところが、カトリンは自身の生活費のため、双子の姉妹の船がダンケルクに着けなかったことは伏せて会議の席で報告。
そのため、ぶじ製作がスタート。

カトリンは、ベイカー・プロに出向する。
バックリーと、パーフィットというもうひとりの脚本家とともに、3人で脚本を練ることに。
カトリンは女性の会話――この映画では女性の会話を「スロップ」と呼んでいた――を主に担当する。

映画は現実から退屈な部分をはぶいたものだ。
そういいながら、バックリーは壁にプロットを書いた紙を貼っていく。
発端はジョニー(一等航海士の映画上の名前)がフランスにいるところ。
結末は、帰還。
あいだに入るのは、犬、ダンケルク、船のエンスト、叔父の死(父親は叔父に変更)。
あとはこの隙間を埋めるだけ――。

こうして映画の製作がスタート。
もちろん、そこにはさまざまな障害が押しよせる。

戦時運輸省より横やりが入る。
船のエンストは、英国のエンジン技術に不信感をあたえ士気低下を招く。
では、スクリューになにかからまったことにしよう。
それをはずすのは双子だと、双子を活躍させたいカトリンは主張する。

また、双子が実際にはダンケルクに到着しなかったことがばれてしまう。
でも、製作は続行。

カトリンは私生活でも忙しい。
夫には、地方で戦況を記録するという仕事が舞いこむ。
そのあとは、ロンドンのナショナルギャラリーで個展を開くことに。

ロケ地にも同行して脚本づくり。
そこで、政府広報映画でアイデアを却下したベテラン俳優とカトリンは再会。
ベテラン俳優は、双子の叔父役で映画に参加し、カトリンは気まずい思いをする。

さらに、まだ参戦しないアメリカに、イギリスの現状を知らせたいと、これは陸軍省からの横やり。
ノルウェー系アメリカ人で、英国空軍に入隊したカールという若者を配役に加えるようにと指示される。
アメリカ人がダンケルクでなにをしているんだ。
バックリーとカトリンは頭をかかえる。
それに、カールは恐るべき大根役者だった――。

戦時中の職業婦人をえがいているためか、なんとなく朝の連続テレビ小説のよう。
たびたび空襲の場面が挿入され、地下鉄の駅に避難する様子がえがかれる。

この映画は脇役の扱いがていねい。
どの脇役も、必ず2回以上言及され、そのたびにちがう面をみせてくれる。

のちに、カトリンとバックリーはたがいに魅かれあうようになる。
バックリーは登場当初、辛辣さと横柄さが強調されているのだが、それがカトリンと徐々に打ちとけていくさまは、王道の展開といえるだろう。

バックリーの父は第1次大戦に参戦。
帰ってきて、酔って威張り散らすようになり、バックリーは父を避けてパブや映画館に入りびたった。
パブでは、当時コメディ作家をしていたパーフィットにギャグを1ペニーで売っていた。
映画は最高だと、バックリーはいう。
そして、陸軍が連れてきたカールがとんだ大根役者だとわかったとき、バックリーはカトリンにこう漏らす。

《たまには価値ある映画をつくりたい。人生の1時間半を捧げたくなる映画を》


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ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール

DVD「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」(イギリス 2014)

青春ミュージカル映画。
舞台は、スコットランドのグラスコー。

主人公はイヴ。
心身を病み入院中なのだが、病院を抜けだしライブハウスへ。
そこで、メガネをかけたやせっぽちの若者ジェームズと出会う。
ジェームズは、大学の室内プールの監視員をしたり、音楽の家庭教師をしたりして暮らしている。
この日も、ステージで歌おうとしていたのだったが、粗暴なバンドマンとけんかして乱闘ざたになった。

さて、病院にもどったイヴは退院後、ジェームズが世話してくれたアパートに落ち着き、喫茶店ではたらきはじめる。
イヴは音楽の才能に富んでおり、とにかく曲をつくりたい。
つくったテープをライブハウスで演奏していたバンドに渡したりする。
ジェームズが音楽を教えている女の子、キャシーとも知りあい、3人はバンドを組むことに――。

この映画はミュージカル。
といっても、大人数がステージで踊るような、大がかりなものではない。
部屋のなかで3人が踊るていどのものが大部分。
その点、親しさが感じられ、可愛らしい。

舞台となる場所も青春映画らしいもの。
病院やライブハウスは当然として、室内プール、3人がボート遊びをする川、児童公園。
3人は児童公園の遊具をつかいながら、バンドをつくる話をする。
3人の居心地のよさそうな部屋の様子もいい。
だらしない格好で話をするのも、青春映画らしいところ。

バンドをつくるとなると、3人では足りない。
メンバーを募集しなければいけない。
それに練習もしなくては。

こういう場面は、歌と踊りですませる。
段取りをはしょることができるのが、ミュージカルの便利なところだ。

また、この映画はもてない男の子にやさしい。
イヴがデモテープを、ライブハウスでみたバンドに渡す場面。
イヴは、ヴォーカルをしていたスイス人をみつけテープを渡す。
ほかのメンバー2人は、イヴが去っていくのを見送りながら、こんな会話をする。

「あのスイス人がいる限り、俺たちはモテない」
「人生はむごい」
「だが麗しい」

それから。
ジェームズは一生に一度レコードでもだせればいいなと、ぼんやり思っているタイプ。
しかし、イヴはちがう。
エネルギーがあり、行動力がある。
ときどき、それが空回りして心身を痛めことがあるけれど、病気を治し、この街をでて、音楽学校にいきたいと思っている。

きみは音楽学校の先生たちの何倍も才能があるのだから、そんなところにいく必要はないだろう。
そうジェームズはいうけれど、イヴは同意しない。
道を開くためには、第三者の評価に身をさらさなければならない。
その意欲がイヴにはあるが、ジェームズにはない。

けれど、つらい時期のイヴを、ジェームズは親身になって支えたのだ。
意欲にはとぼしいけれど、ジェームズはいいやつだ。
最後、ジェームズのナレーションでこの映画は終わる。


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