短編を読む その11

「刺絡」(カルル・ハンス・ストロオブル)
「諸国物語」

ホラー小説。「諸国物語」にこんな作品が入っているとは知らなかった。「諸国物語」の、収録作品の幅の広さには恐れ入る。

「最後のユニコーン」(エドワード・D・ホック)
「ユーモア・スケッチ大全 4」(浅倉久志/編・訳 国書刊行会 2022)

一角獣がこの世に残っていないのはなぜか。そのいきさつを書いたショートショート。

「九本の針」(ジェイムズ・サーバー)
「ユーモア・スケッチ大全 4」(浅倉久志/編・訳 国書刊行会 2022)

友人宅に泊まったさい、薬戸棚から落ちてきた9本の針を拾うのに苦心惨憺する話。状況がどんどん悪化していくさまが痛ましくも可笑しい。

「住むならクジラの腹のなか」(リチャード・ヒューズ)
「ユーモア・スケッチ大全 4」(浅倉久志/編・訳 国書刊行会 2022)

ナンセンスな童話といった趣きの一編。クジラの腹のなかに住むことになった女の子。ベッドがほしいという女の子のために、クジラはハロッズに買い物にでかけたりする。

「鈴と道化服亭」
「クィン氏の事件簿」(アガサ・クリスティ 東京創元社 1982)

嵐のなか、車のパンク修理のために「鈴と道化服亭」(ベル・アンド・モトリイ)で食事をするはめになったサターウェスト氏は、そこで旧知のハーリークィン氏に出会う。2人はこの村の屋敷に住む娘と結婚した男が、突如いなくなってしまったという、3か月前の事件について語りあい、その謎を解く。

「前科(まえ)」(マイルズ・トリップ)
「探偵をやってみたら」(早川書房 1986)

脱獄した男が、少女が連れ去られるところを目撃し、通報するかどうか悩む。人情味に富んだミステリ。

「塵に還る」(エリス・ピーターズ)
「探偵をやってみたら」(早川書房 1986)

お金持ちの伯母さんから送られてきた趣味の悪い机をめぐる騒動。文章が愉快。

「ころころ」
「カフカの父親」(トンマーゾ・ランドルフ 国書刊行会 1996)

犯人が、死体を自殺にみせかけるため、ピストルを右手にもたせるか左手にもたせるかで煩悶し、貴重な時間を失っていく。屁理屈悲喜劇小説というべきか。

「開いた窓」
「サキ傑作集」(サキ 創土社 1969)

神経衰弱の男が、姪のヴェラから開いた窓についての怖い話を聞かされる。サキの代表作というと、この作品になるだろうか。

「話上手」
(同上)

列車に乗りあわせた子どもをおとなしくさせるために、男は教育的でない話をして子どもたちの喝采を得る。「列車に乗りあわせた子ども」というのもアンソロジーのテーマになるかもしれない。


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短編を読む その10

「みょうが斎の武術」
「侍はこわい」(司馬遼太郎 光文社 2005)

幕末の大阪。犬猫を師とする剣術の流派をたてた、けったいな浪人の恋と活躍をえがく。大阪弁の会話が愉しい。

「床兵衛稲荷」
(同上)

好色の道に生きる気儘人(きままじん)、猿霞堂庄兵衛(えんかどうしょうべえ)が天誅組とのいくさのどさくさにまぎれ、先年夫を亡くした大和高取藩の国家老の妻お婦以(ふい)と情を通じようと奮闘する。

「不信」
「予期せぬ結末 1」(ジョン・コリア 扶桑社 2013)

妻とその愛人による夫殺し。だが夫は生きており、思いがけない結末を迎える。語り口がユーモラス。

「豚吉とヒョロ子」
「夢野久作全集 1」(夢野久作 1992)

これは中編。むやみに太った豚吉と、たいそうヒョロ長いヒョロ子の夫婦が、並みの体形になろうと旅にでる。ナンセンスな珍道中。豚吉が意気地がないのが愉快。

「あのジョークを憶えているか、ハリー」(ジェイムズ・マクルーア)
「探偵をやってみたら」(早川書房 1986)

下町担当の警官が奇妙な殺人事件にでくわす。女性の部長刑事を筆頭に登場人がみな際立っており、シリーズ化できそうだ。

「パアテル・セルギウス」(レオ・トルストイ)
「諸国物語」

中編。武官のステパンはある令嬢と結婚の約束をしたが、その令嬢が陛下のお手付きだったことを知り僧院に入る。セルギウスという名前になり、山にこもり、世間からはなれて暮らすように。セルギウスには他から抜きんでたいという高慢さがあり、自身もそのこころに振りまわされる。映画「太陽は夜も輝く」の原作とのことだが、映画は未見。

「完全犯罪」
「予期せぬ結末 1」(ジョン・コリア 扶桑社 2013)

会員制のクラブで語られる、夫が妻に贈ったチョコレートによる完全犯罪の物語。ミステリのパロディ。絵本「こねこのチョコレート」を思い出した。

「階下(した)で待ってて!」
「アイリッシュ短編集 1」(ウィリアム・アイリッシュ 東京創元社 1986)

仕事帰りに、婚約者のアパートに荷物を届けにいった〈ぼく〉。階下で待っていたものの婚約者は降りてこない。部屋を訪ねてみると、そこは空き家になっていた。サスペンス小説。アイリッシュは冒頭の状況づくりが達者だ。

「どこかで聞いた名前」(マイクル・ギルバート)
「探偵をやってみたら」(早川書房 1986)

銀行強盗と警察の攻防をえがいた作品。前半は銀行の襲撃。後半はひと月ほど後、強盗たちが銀行の重役宅に押し入り、再度銀行からの強奪をこころみるという展開に。が、その計画は警察が察知していた。オチが秀逸。

「無月物語」
「無月物語」(久夫十蘭 社会思想社 1986)

院政期を舞台に、無法者の夫を、その妻と娘が殺すいきさつが書かれる。文体が緊密で、読むとくたびれる。スタンダールの「チェンチ一族」が種本だと解説で都築道夫が指摘している。


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