短編を読む その13

「チゼリック卿の遺産」
「ヴァルモンの功績」(ロバート・バー 東京創元社 2020)

ヴァルモン譚の一編。貧乏な青年貴族にほだされて、意地の悪い伯父さんが残したはずの遺産をさがすため、ヴァルモンはその屋敷の訪れる。

「不老長寿の霊薬」(バルザック)
「フランス幻想小説傑作集」(白水社 1985)

ドン・ジュアン伝説をもとにした短編。父から霊薬を手に入れたドン・ジュアンは自身のいまわのきわに霊薬をつかうよう息子にいい残す。最後は悪党のドン・ジュアンが聖遺物になってしまうという皮肉な結末。老人の妄執に迫力がある。訳注が助かる。

「時の網」(ミリアム・アレン・ディフォード)
「密室殺人傑作選」(早川書房 1971)

悪魔と契約した男の話。男はうまく悪魔をだし抜く。ずいぶん人間の法を尊重する悪魔だ。

「図書館の本を盗め」
「怪盗ニック対女怪盗サンドラ」(エドワード・D・ホック 東京創元社 2004)

怪盗ニック・シリーズの一編。図書館の本を盗む理由が面白い。古本屋でもいいような気がするけれど。

「ダム通りの家」
「最期の言葉」(ヘンリー・スレッサー 論創社 2007)

傲慢な映画プロデューサーが、自分が子どものころ暮らしていた、そしてよくいじめっ子にいじめられていたオンボロの家を、映画のセットとして再現する。オチがなくても充分ではないか。

「オルラ」(モーパッサン)
「フランス幻想小説傑作集」(白水社 1985)

精神病院に入れられた男が、透明で触れることができない謎の生き物があらわれたと主張する。幽霊でなく、謎の生き物であるところが新しい。オルラはどうも本に興味があるようだ。

「怪物」(ジェラール・クラン)
「フランス幻想小説傑作集」(白水社 1985)

別の星からきたモノが公園に着陸。公園のそばに住むマリオンは、夫の身を案じながら、ラジオが流すニュースに耳をすます。

「海児魂」(ジョゼフ・カミングス)
「密室殺人傑作選」(早川書房 1971)

沈んだヨットの確認のため海にもぐった潜水士が、胸に包丁を刺されて引き上げられる。容疑をかけられた探偵役のペッパー船長のキャラクターもよく、最後までサスペンスがあり読ませる。

「サマードレスの女たち」
「サマードレスの女たち」(アーウィン・ショー 小学館 2016)

町ゆく女性に目をやる夫が、妻から苦情を受ける。最後、夫は妻の魅力を再認識したのか。それとも性懲りもないだけか。あるいはその両方か。

「いやな話」
(同上)

女優と知りあいだったことから、夫が妻にからまれる。「サマードレスの女たち」の続編のようだ。


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短編を読む その12

「二十日鼠」
「サキ傑作集」(サキ 創土社 1969)

列車に乗った男が服のなかにハツカネズミがいるのに気がついたものの、合席のご婦人の前で服を脱ぐわけにもいかず苦境に立たされる。

「家庭」
(同上)

求婚をしにでかけた男が、予定の女性ではなく、時間つぶしに訪ねた帽子づくりをしている遠縁の女性に求婚してしまう。最後の一行がなければO・ヘンリ風の作品になっただろうに。

「ラプロシュカの霊魂」
(同上)

知人に金を貸した悲しみがもとで死んでしまった男。男の霊をなぐさめるため、知人は男の意にそった方法で借りた金を手放そうと苦心する。

「重要美術品」
(同上)

刺青が重要な美術品となってしまったため、男は行動の自由を失ってしまう。

「神護」
(同上)

大雪のため列車に閉じこめられた男。同乗の女性に食べ物を乞うが、ひどい高値で売りつけられる。ユーモア小説。

「幸福の黄色いハンカチ」
「ニューヨーク・スケッチブック」(ピート・ハミル 河出書房新社 2009)

出所した男は服役中、やり直す気があるなら黄色いハンカチを木につるしておいてほしいと妻に手紙をだしていた。はたしてハンカチはつるされているのか。

「島」(アステリア・マクラウド)
「記憶に残っていること」(新潮社 2008)

島で灯台守をしている女性の一代記。神話のような筆致が美しく、読み終わると長い時間がたったような感じがする。傑作。

「死者の悪口を言うな」(ジョン・コリア)
「ニューヨーカー短篇集 3」(早川書房 1976)

家の地下でセメント塗りをしていた医師のもとに、知人2人が顔をだす。医師の妻は不在。もしやと思った知人たちは、医師に口裏を合わせる約束をする。コリアはほのめかすのがじつに上手い。

「州民一同によって証言された不可解な事件」(サド)
「フランス幻想小説傑作集」(白水社 1976)

悪魔と契約した男の話。実話のような体裁が面白い。

「手掛かりは銀の匙」
「ヴァルモンの功績」(ロバート・バー 東京創元社 2020)

元フランス国家警察の刑事局長で、いまはロンドンで探偵をしているヴァルモン譚の、諧謔味あふれる一編。上流階級の窃盗事件を探偵ヴァルモンがあばく、というか、穏便に解決するため使い走りをさせられる。


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