アニメクリエイター・インタビューズ

「アニメクリエイター・インタビューズ」(小黒祐一郎 講談社 2011)

副題は、「この人に話を聞きたい 2001-2002」

アニメ業界のさまざまなひとにしたインタビューをまとめた本。
2006年に徳間書店からでた本の続編にあたる。
前作についてはメモをとった。
タイトルも版元も変わったけれど、面白さはいささかも変わりない。

本書でインタビューを受けているひとたちの名前と肩書きを挙げておこう。

・佐藤竜雄(監督)
・河森正治(監督)
・平田秀一(美術)
・片渕須直(監督)
・名倉靖博(アニメーター)
・馬越嘉彦(アニメーター)
・本橋秀之(アニメーター)
・舛成孝二(監督)
・今敏(監督)
・庵野秀明(監督)

最後に、「「この人に話を聞きたい」を振り返る」という文章がついている。
各記事には、インタビューされているひとの仕事歴が掲載されているのだけれど、これが連載当時のまま更新されていない。
そこで、この巻末の文章で、その後の仕事をフォローしている。

面白かったのは、まず名倉靖博さん。
「楽しいムーミン一家」のデザインでは、原作者のトーベ・ヤンソンさんとさまざまなやりとりがあったそう。

「時々、ヤンソンさんから「少しキャラクターを直してもらえませんか」と指示がファックスで送られてきて。そのとおりに直しますと、大喜びしてくれて。ヤンソンさんに媚びていたわけじゃないですけど、やはり作者ですから、キャラクターを大事にしているんですよね。その気持ちはすごくよく分かるので、できるだけ応えたいと思って作業しました」

さらにこんな逸話も。

「スノークも旧作(のムーミン)では髪がありましたけど、原作ではあれはカツラで、裁判の時にしかかぶってないんです。原作ではスノークの頭ってツルンツルンなんですよ。でも、それではどちらがムーミンで、どちらがスノークか分からない。それで前髪が生えてるパターンのスノークを作ったんですよ。確か、ヤンソンさんも「Good!」って言ってくれたと思います」

名倉さんは、旧作のエッセンスを残したいと思って作業していたのだそう。
これなどは、本人に訊いてみないとわからないことだ。

あと面白かったのは、庵野秀明さん。
このインタビューは、雑誌「アニメスタイル」に掲載された記事の再録。
自身の制作法を、ロジカルに説明しているところが非常に興味深い。

「TVアニメは基本的には、スタッフに満足のいくだけのギャラが出ていないわけですよ。で、監督として、参加してくれたスタッフに対してできる事は「やって良かった」と思ってもらう事だけなんです」

という発言が泣かせる。
このあと話は、スタッフの配置をも含めた、「最低限の作業で最大限の効果を発揮する」というコストパフォーマンス論へ。

前作の「この人に話を聞きたい」は、3年分の雑誌連載を収録していたけれど、本書は1年分(プラス庵野監督)だけだ。
これがちょっと物足りない。
それに、職種も監督とアニメーターばかりだ。
小黒さんの仕事の素晴らしいところは、「いろんな人に話を聞く」ところだと思うので、そして連載はいろんなひとに話を訊いているはずなので、ぜひ続きを刊行してほしい。

ところで、これはまったく個人的な連想だけれど、「この人に話を聞きたい」を読んでいつも思い出すのは、斉藤隆介の「職人衆昔ばなし」だ。
斉藤隆介さんの仕事は、インタビューではなく聞き書きだけれど、ともに現場のひとだけがもっている言葉の力をよく引き出していると思う。
現場のひとというのは必死で考えているので、それに応じてつかわれている言葉も力強い。
できれば、そんな言葉をもっと読めればと思う。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

私がこどもの時好きだった本

「私がこどもの時好きだった本」(図書ボランティアの会/編 2003)

これは、タイトル通り「こどもの時好きだった本」のアンケートをまとめた冊子。
奥付をみると、福島市立図書館のボランティアの会の方がたが編集している。
巻頭の「ご挨拶」によれば、図書ボランティアは2003年に、発足20周年を迎えたのだそう(ということは、もうすぐ30周年だ。すごい)。
で、記念の行事として、アンケートをとり、まとめ、「私がこどもの時 好きだった本」展という展示会を開催しという。

面白いのは、このアンケートはボランティアだけでなく、著名なひとたちの回答も載せられていることだ。

「200人の方にお願いしたアンケートは、157人の方から回答を頂くことができたのです」

「見知らぬ私たちに貴重な回答をお寄せくださいました皆様、本当にありがとうございました」

と、代表の中西郁子さんがお礼を述べている。

アンケートの質問事項はおさめられていないけれど、回答から察するに、

・子どものとき本を読むのが好きでしたか
・好きだった本はなんですか
・好きだった理由や、読書の思い出をお書きください

くらいの内容だろうと思う。

アンケートの収録順番は、五十音順。
まず、秋山豊寛さんがいる。
それから、著名なひとだけ拾っていくと、梅田佳子さん、長田弘さん、こいでやすこさん、山脇百合子さん、などなど。

職業もいろいろあって、知事や市長から、アナウンサー、教員、図書館員、新聞記者などさまざま。
もちろん、年齢もいろいろ。

大勢のなかから、ここでは長新太さんをとりあげたい。
長新太さんは2005年に亡くなった。
ひょっとすると、この回答はどの本にもおさめられていないかもしれない。
奥付には、「禁転載」と書かれているけれど、できれば見逃してもらいたい。

長新太さんは、こんな回答を寄せている。

・子どものとき本を読むのが好きでしたか
「普通です」

・好きだった本はなんですか
「講談社から出ていた雑誌「少年倶楽部」です。これには冒険小説や探偵小説などがいっぱいで楽しめました。何よりマンガや挿絵が魅力でした。絵の好きな少年には宝物のような本でした」

・好きだった理由や、読書の思い出をお書きください
「私の少年時代は今から60年くらい前で、児童文学全集とかそういった本はわたしのところには無く、小川未明の「赤いろうそくと人魚」があったくらいです。それよりも「少年倶楽部」に載っていた南洋一郎の「吼える密林」とか、江戸川乱歩の「少年探偵団」などが私を夢中にさせたのでした。
わたしたちの年代はみんな「少年倶楽部」大好き少年だったのですよ」

さて。
こういうアンケートをみていると、かえりみて自分はどうだっただろうと考えてしまう。
子どものころはマンガばっかり読んでいたので、本はほとんど読んでいない。
ただ、唯一読んだのは「ドリトル先生」シリーズだ。
なぜ読んだかというと、うちにあったからだ。
シリーズ全部はなかったけれど、欠けていた巻は親に買ってもらい、ついに全巻読破した。

わからないことばは親に聞いて教えてもらった。
「細君」ということばをおぼえたのも、「ドリトル先生」のおかげ。
ドリトル先生のことはいまだに尊敬している。
今後とも尊敬し続けるだろう。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

まさかの結末

先日、体調をくずして寝こんだ。
こんなとき、いままでは、
――よし、この機会にあの本とあの本を読もう
などと思って、本をかかえていそいそと寝床にもぐりこんだものだけれど、今回はちがった。
とにかく、眠ってばっかりいた。
――やはり、トシか
という思いが脳裏を去来する。

しかし、それを認めるのはくやしい。
で、手元にある本のなかでも一番軽くて読みやすそうな本を引っ張りだして読んでみた。
それが、この本。

「まさかの結末」(E・W・ハイネ 扶桑社 2006)
訳者は松本みどり。
カバー・イラストは、杉田比呂美。
作者はドイツ人。
各短篇の扉絵は作者によるもの。

表紙にショート・ショート・ストーリーと銘打たれているように、本書はショートショート集。
収録作は全24編。

「死者の挨拶」
「判決」
「ほんと、男って……」
「正義の神」
「テロ防止策」
「ギプスの中身」
「正義の勝利」
「愛の手紙」
「すばらしい贈り物」
「復活」
「四旬節」
「愛の死」
「秘中の秘」
「万引き」
「強盗の襲撃」
「いばら姫効果」
「不気味な重要証人」
「コールボーイ」
「死んだ双子」
「目には目を」
「講演」
「キルケ」
「ただ乗り」
「世界一短いお化けの話」

こう書き出してみると、ほとんどの話を忘れている…。
一番面白かったのは、冒頭の「死者の挨拶」

選ばれた5人の人物が飛行機から飛び降りるというTV番組。
ひとりだけパラシュートがひらかず、残った4人が大金を得る。
この番組に出演することになったひとりの男。
飛び降りる前日から、出演者たちは五つ星ホテルのスイートに宿泊し、あらゆる挙動をカメラとマイクにより視聴される。
妙にリアルな設定もさることながら、ラスト、落下するさいのめくるめく感じが忘れがたい。

「ギプスの中身」は、税関職員をうまく出し抜く、女性密輸人の話。

「キルケ」は、シュリーマンにあこがる、レーマンという男の物語。
シュリーマンが「イリアス」をもとにトロイを発見したのなら、「オデュッセウス」の物語だってほんとうかもしれないと、レーマンは金を貯め、四十半ばで退職し、エンジンつきのヨットを購入して、「オデュッセウス」の足跡をたどる旅に出発。
ちっぽけな島にたどり着くが、ここはひょっとするとキルケの住んでいた島ではないかとレーマンは怪しむ。
オデュッセウスとその部下たちが、魔法を心得たこの女性に魅惑され、ついにはブタに変身させられるという話は、あまりにも有名。
この島にいたのは、盲目の老婆と、口のきけない美女の2人。
泊めてもらうことになったレーマンは、口のきけない美女にすっかり魅了されて…。

思い出せたのはこの3作。
この3作にかぎらず、話運びはすこぶる達者。
それに、語り口の幅が広い。
ミステリ、サスペンス、ホラー、ファンタジー、ヘリクツ小説が並び、どれも軽く、楽しめる。

ただ、ショートショートはどれも短いものだから、皮肉の効いた結末がくるなと思って身構えていると、案の定そういう結末がきて、なあんだと思って忘れてしまう。
身構えを解くためには、もう少し長さが必要なのかもしれない。

そんなことはともかく、読んでる最中はみんな楽しめる。
寝こんだ身には、ぴったりの一冊だった。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

古城物語

「古城物語」(ホフマン 奢灞都館 1978)
訳は、平井呈一。

これも、きれいな本なのでメモ。
はしがきによれば、英訳本からの重訳だそう。
凝りに凝った訳文のため、読み飛ばすことができない。
ゆっくりとしか読むことができないのだけれど、この古風な訳文が物語の雰囲気を高めている。

簡単にストーリーを。
本書は2部構成。
〈わたし〉は、代言人をしている70歳を越す大伯父のつきそいで、バルト海の近くにあるロデリッヒ男爵の城へ。
着いたとたん、城の一部が崩落したと城代のフランツに教えられる。
さらにその夜、〈わたし〉はひとりの男の幽霊をみる。

翌日、〈わたし〉が大伯父に昨夜のことを告げると、大伯父も同じ夢をみたという。
その夜、幽霊がでるのを待ちかまえ、大伯父が謎めいたことばをかけると幽霊は退散。

その後、音楽の素養があることから、〈わたし〉は男爵夫人ゼラフィネと急速に親しくなる。
が、奥方は病気になり、仕事上〈わたし〉と大叔父は城をはなれることに――。

ここまでが前半。
後半は、大伯父が倒れ、介護する〈わたし〉に、古城の因縁を語り聞かせる。

「思へばあの城へお前が初めて行つて、しかもああ云ふ忘れられぬ事情のために特別な役を演じ、またあの家の深い秘密の中へみづから入る意思もなく偶然巻き込まれたと云ふのも、あれは皆天帝のお諮ひだ」
……

前半は〈わたし〉の1人称。
後半は3人称に。
全体に、文章はどこに焦点があるのかよくわからず、因果関係はにわかに判然としない。
効果の集中はいちじるしくとぼしいけれど、雰囲気だけは十二分。
これぞ、ロマン派によるゴシック小説という作品。

ストーリーはコンパクトにまとまっており、この作品がこんな風な、薄い、瀟洒な本に仕上がっているのは、この作品にとっても幸いなことだ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )