お産のとき陰部からいつもの白いツルツルした膜ではなく、赤いザラザラした膜が出てくることがある(左;写真はEquine Vet Educationから)。これを「前置胎盤」と呼ぶ人がいるが、これは間違っている。
人の胎盤は盤状胎盤と呼ばれ、塊状の胎盤は子宮の一部にしか接していない(右図の右下;図は獣医繁殖学 より)。とこ ろがこの胎盤が子宮頚管部分に作られていると、お産のときに頚管が開くときに裂けて出血し、母子ともに危険がある。
これが前置胎盤で、今は超音波で診断ができるので帝王切開の適応となる。昔は、頚管が開いてまず胎盤が見えると、「これはいかん!前置胎盤だ!」ということになったのだろうと思う。
馬でもザラザラした赤い膜、実はこれは絨毛膜と呼ばれる子宮に接している胎児胎盤なのだが、これが先に出てくることを「前置胎盤」と呼ぶ人がいる。おそらく、熱心な獣医さんか馬関係者が人の産科の先生に聞いて、「頚管が開くと胎盤が見えるのは前置胎盤だよ」と教わったのが間違いの始まりではないだろうか。
しかし、馬の胎盤は人の胎盤と構造が違っている。馬の胎盤は散在性胎盤と呼ばれ、子宮の中全体に胎盤が形成される(右上図の左上)。頚管部分にも胎盤があること自体は正常である。
と言っても、赤いザラザラした膜(絨毛膜)が分娩初期に出てくるのは、子宮から絨毛膜が剥がれるのが早いためで、これは子馬にとって安全ではない。子馬に酸素が行かなくなっている可能性があり、素早い助産とその後の子馬のチェックが必要だ。
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このように馬には前置胎盤はありえません。前置胎盤と呼ぶのはやめましょう。ではなんと呼ぶか。「早期胎盤剥離」。あるいは英語にならって「Red Bag Delivery」かな~?
と言ってました。あの赤い幕が出てくると、いつも自分が一番初めに手がけた馬のお産を思い出します。
もう18年程前になりますが、その時は三石の牧場にいました。初めてのお産でいきなりあの赤いものが出てきたものですから、もうパニックですよ!すぐ獣医さんを呼びました。共済の山田先生でした。
先生は見るなり「何だダルマか!」と言ってすぐに膜を破って足を出しました。
お産が無事に済むと先生は牧場の休憩室
で『自分の』ウイスキーを取り出し、いい気分になるまで飲まれていました。
牧場には先生のボトルがいつでもキープ
されていたんですね~
懐かしいな~
いや~書いたかいがありました。
「ダルマ」も面白い表現ですね。自分のウィスキーもダルマだったりして・・・・
Y田先生は私の恩師です。実はあの話もY田先生のことを書きたかったのですが、まだまだ馬の獣医師として活躍されているので書けませんでした。
古きよき時代の、古きよき思い出いっぱいの先生です。
キープボトルは角瓶でした。あの時代は携帯なんてありませんでしたから、休憩室の電話に奥さんから「うちの主人行ってますかー?」ってかかってきて、そうすると先生が「シー!シー!」って居ないって言えってやるんですよ!
でもバレバレでしたねーどうして居場所が分かったんだろー?
そういう勘違いみたいなのは、けっこう多いです。
病気の種類や、いろんな処置のHow toなどが一人歩きで広く認識されている一方、
「病気じゃない状態」がきちんと理解されてないことが原因のような気がします。
生理学は大事だなあ。と最近よく思います。
そういった間違いがおこるひとつのパターンとして、人医療で言われていることをそのまま動物にあてはめようとすることがあります。
「人は直立歩行するので脊椎に無理がかかって腰が痛くなったり、椎間板ヘルニアになる」と説明する人がいますが、馬にも腰痛は多いし、犬にも椎間板ヘルニアがあります。
「産道から分娩することは産道の常在菌に触れることだ」と聞いたことがありますが、馬や牛の正常なお産では羊膜の中を出てきて産道に触れないようになっています。
いろいろな動物でどういう仕組みになっているのか、知らなければいけないのは獣医師だと思うのです。