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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

冬の悲劇 骨盤骨折

2024-02-09 | その他外科

2歳馬が後肢のひどい跛行。

飛節以下はX線検査し、Low4でブロックしたが無反応、とのこと。

来院したが右後はほとんど負重不能。

「どこか押して痛いとこありました?」「ない」

とのことだが、右の股関節あたりは押すまでもなく、馬が触られるのを嫌がる。

その付近はなんとなく腫れぼったいように私には見えた。

          ー

立位で股関節のX線撮影。

まだ臀筋も萎縮していないのでX線量的にきびしいが、恥骨が割れているであろう画像が撮れた。

飼主さんは、経過を観るより、確定診断をつけて早く判断したい意向。

全身麻酔して大型X線撮影し、ひどい骨盤骨折を確認したらそのままあきらめましょう、ということにする。

もう2歳になるとひどい骨盤骨折をしたら飼養価値喪失の判断もやむをえない。

鮮明な画像が撮れた。

股関節臼が骨折し、骨折線もかなり開いてしまっている。

他の馬と放牧されている2歳馬。

放牧地の凍ったところで滑って転んだのだろう。

骨盤は構造的に股関節臼に力が集中するようになっている。

腸骨、恥骨、坐骨が結合するところだからだ。

そして、後肢を支える関節なので、ひどい変形をすると機能障害が残る。

冬に多い事故なのだが、仕方がないことでもある。

 

 


高齢馬の飛節浅屈腱脱位

2023-12-30 | その他外科

18歳の繁殖牝馬が、5日前から右後跛行。

左右とも直飛(飛節の屈曲が少ない)で球節が沈下している、

浅屈腱脱位を疑っている、とのこと。

右飛節は形がおかしい。

浅屈腱が外へ脱位しているし、

飛端の滑液嚢や固定装置が崩れている。

左飛節も同じ。

左飛節は球節も大きくなっているので、もう慢性化しているのだろう。

右は5日前に悪化したのかもしれない。

Lameness in Horse を古い版から渉猟してみると、それぞれ写真が載っているが、

あまり良い写真ではない。

若い獣医さんの参考になればと思って、外貌写真を載せておく。

外科治療はいくつかの方法が報告されているが、成果はかんばしくない。

最新の情報では、中途半端な脱位は痛みの要因になるので、腱鞘鏡手術で完全に脱位させることで痛みがなくなる、というIan Wright 先生たちの症例報告が紹介されている。

ただ、今回の馬は18歳の妊娠馬なので、吸入麻酔をかけての手術にリスクがあるだろうし、

右の痛みも徐々に左のようには治まるだろうと判断した。

           ー

DSLD(ESPA)の所見のひとつとして皮膚の過伸長がないか引っ張ってみたが、この馬は正常だった。

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前夜に引き続き結腸左背側変位の1歳馬の開腹手術。

もう発症3日目で、結腸は膠様浸潤を起こしていた。

右背側結腸に便秘塊もあり、結腸骨盤曲を切開した。

結腸を空にしてやることは、その後の結腸の回復の助けになるだろうと思う。

再発しないように注意が必要だが、すでに十分注意した給餌管理がされているとそれ以上は難しい。

          ー

私はこれで仕事納め。

夜間当番も休日当番もないので、”正常な”、”世間並みの”、”当たり前の”、”かたぎの”、年末年始をすごす。

みなさん、1年お疲れ様でした。

どうぞ良い年をお迎え下さい。

 

 


舌の珍しい裂創  舌小帯裂

2023-12-11 | その他外科

午前中、飛節OCDの関節鏡手術。

当歳馬の”寛”跛行の診断。

1歳馬の舌の外傷の飛び入り。

              ー

舌を途中から口腔腹側へ留めている舌小帯が剥がされたように裂けた。

傷は深いようで、汚染しているなら縫わない方が良いかとも考えたが、傷の奥を確認でき、汚染も洗い流せそう。

枠場に入れて、下顎神経ブロックして、

長めの把針器を使って縫合した。

どうしてこんな外傷をしたのかは謎。

舌が口腔の奥方向へ強く引っ張られたように思われる。

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午後も飛節OCDの関節鏡手術

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日高山脈最高峰ポロシリはもう真っ白。

スノボに行きたいのだが、日高国際は月末のオープン予定。

夕張は積雪1cm。

富良野、ルスツ、札幌国際も全面オープンではない。

北海道でさえ1月からじゃないとスキー・スノボはできなくなっている。

地球温暖化恐るべし。

 

 

 


捻転式去勢のコツ

2023-12-08 | その他外科

うちでは珍しく反横臥で去勢。

患者さんは2歳のポニー。競走馬になるのだ;笑

陰嚢だけでなく内股を広く消毒する。

皮膚縫合しないので、術後も清潔が保たれるように。

私は、正中1箇所を切開するのが良いと思っている。

傷はできるだけ小さく。

それで出血も少なく、痛みも少なく済むはず。

皮下織は1箇所を掘るように開くと良い。

術後に皮下織がぶら下がるとか、索状物が下がることがあるので、紐状の皮下織を作りたくない。

捻転式去勢では、周囲の組織が精索に巻付くことも止血される機序のひとつだと考えている。

だから、精索だけを長くむき出しにするのが良いとは思わない。

捻転棒は精巣の近くにかける。

止血されるためには「捻れしろ」が必要なので、捻るのは精巣の近くが良い。

陰嚢内に抗生物質を注入と皮下注。

開放にするので、局所の抗生物質濃度を上げておきたい。

左右の陰嚢内にガーゼの先1/2未満だけ入れておく。

出血はわずかなはずだが、できれば1滴も垂らしたくないので;笑

ガーゼの1/2しか入れず、残りは垂らしておくので、絶対に入り込んだりしない。

          ー

くらいが、私が注意していることかな。

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大掃除のコツは

・高いところからやること

ホコリや汚れは下へ落ちるから。

・ふだん掃除しないところを掃除すること。

1度使ったら汚れてしまうところは日常の掃除。それは年末最後にすれば良い。

大掃除のときしか掃除しないところを掃除したい。

 

 


救急外傷の診察の進め方「整形外科基本手技」から part2

2023-12-01 | その他外科

つづき

「患者到着までの準備」の最後の方に、

自分が深呼吸、ABCの手順で患者を死なせることはないはずと気を取り直す。

とある;笑

まだ患者は来てもいないのに、なぜ「気を取り直す」のだろう?

          ー

Primary survey とは、生理学的異常をきたす致死的損傷部位の検索を行うためのアプローチ、とある。

その手順は、

A・・airway

B・・breathing

C・・circulation

D・・disfunction of CNS  中枢神経系の機能障害

E・・exposure & enviroment

蘇生を進めていく。

          ー

secondary survey は、解剖学的な外傷の発見と応急処置

AMPLE を聴取。

AMPLE とは、

Allergy  アレルギー歴

Medication  服用薬

past history & pregnancy  既往歴・妊娠

last meal  最終の食事

events & enviroment  受傷機転や受傷現場の状況

だそうだ。

これは私たちも訊きたいことが多い。

疝痛(急性腹症)では、他に駆虫状況、そして放牧と飼い付け歴だ。

しかし、うちでは聞き取れないことないことも多い。

「ボク、現場にいなかったんで」

「ボク、担当の厩舎じゃないんで」

という人が馬を運んで来るからだ。

           ー

secondary survey として何かやり残していないか、FIXES でチェック。

FIXES とは、

F finger & tube  すべての穴に入れたか(直腸診、フォーレーなど)

I iv, im 静注・筋注、輸液、抗生剤、破傷風トキソイドは入っているか?

X Xray X線撮影取り残しはないか?

E ECG 12誘導心電図は確認したか?

S splint 副子固定はあたっているか? 

          ー

PTDの70%は初療室の初期診療時に発生しているのだそうだ。

PTDとは、preventable trauma death ; 防ぎうる外傷死。

瀕死の状態で運ばれてきて、迅速に救命処置をしていれば助かった、と言われたら救命救急医も辛いかな。

救命処置と言っても、何が起きたのかわからないままでは手を施しようがないことも多いだろう。

かと言って、何でもCTへ送るとC(死)のT(トンネル)になりかねないことがQ&Aに書かれている。

          ー

dysfunction of CNS は、

外傷医はGlasgow Coma Scale で評価する。

救急隊はJCS ; Japan Coma Scale を用いているので、医師はこちらも覚えておく必要がある。

う~ん、どちらもそのままでは大動物には使えないかな。

しかし、経験がある獣医師は、重症畜の意識レベルを顔つきや反応でよく診ているものだ。

それと、大動物は立てるか、歩けるか、が重要になってしまう。

立てない、歩けない、だと二次診療施設へ運ぶことができない(新生子馬・子牛を除いて)し、診察・治療することもたいへん難しくなる。

         ー

さて、ヒトの救急外傷の診察でどのような手順が勧められているか、参考になっただろうか?

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私の、意識障害がある患者さんで一番多いのは・・・

スズメの集団に阻まれてエサをついばめないゴジュウカラ

うちの家の窓にぶつかることが多いのもゴジュウカラだ。

警戒心も強い。

ただ、人なつっこさもあって、私が外で薪作業をしていると、エサがもらえると思うのか近くへやってくる。

なかなか姿も好いよね。

            ー

ガラス衝突の小鳥はできるだけ救護してやりたいと思っている。

意識レベルは、GradeⅢ;刺激しても覚醒しない、が多いが、2-30分で回復して飛んでいくのもいる。

その間、カラスに襲われたりしないように保護してやりたい。

蘇生率は・・・落ちてしまうやつだと50:50くらいかな。

今度、記録を付けてみるか。