真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「情炎の島 濡れた熱帯夜」(2015/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:田宮健彦/録音:大塚学/編集:山内大輔/音楽:T&K Project・AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:菊嶌稔章/制作:ワダミサ/制作応援:リチャードTH/スチール:本田あきら/協力:Bebe・島のみなさん/エキストラ:鎌田軍団・井尻鯛/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:朝倉ことみ・川瀬陽太・真木今日子・和田光沙・小鷹裕・森羅万象)。撮影部助手は落としたのではなく、クレジットなし。
 紫の螢が舞ふやうな、VOID FILMSのカンパニー・ロゴ。背景に灯台を望む海岸に、赤い帽子とデカいサングラスの朝倉ことみが佇む。川瀬陽太のモノローグ起動、「四年前、妻のミチルと新婚旅行で来たのが、この島だつた」、ミチル(朝倉)がグラサンを外しタイトル・イン。ミチル念願の、石垣島でのゲストハウスの開店を控へ、煙草を吸ふかとした夫で作家の吉岡由人(川瀬)は、テラスに追ひやられる。五年前、吉岡が憂き身をやつすカルセンの講師と生徒といふ関係で、吉岡と旧姓黒木のミチルは出会ふ。ペンネーム・ジャック霧崎での吉岡のポルノ小説の愛読者―代表作だか最新刊は『悶絶!裏夢いぢり』らしい―だといふミチルは「先生の才能は本物」、「私が支へる」と全方位的に膳を据ゑる。やがて二人は結婚、ミチルが保険外交員として実際に吉岡の創作活動から暮らし全般をサポートする生活が始まつたものの、当の吉岡はといふと筆はさして進まず、酔ひちくれるばかり。そんなある日、セクハラどころでは済まない豪快顧客・矢木澤(森羅)からからがら逃げ帰つて来たミチルは、日々の鬱屈がてら家事を全くしようとしない吉岡に不満を漏らす。飛び出した吉岡は行きつけのスナックのママ・マキ(真木)と関係を持ち、そのまゝ家には戻らなくなる。この真木今日子がどエロくイイ女で、ピンクにバリバリ出て呉れたら愚息大狂喜。
 配役残りここで顔を覚えた普通にイケメンの小鷹裕は、吉岡改めジャック霧崎のロマンス書院担当編集者・岡本裕、この人ももつと普通に俳優部活動も展開すればいいのに。ポスターに名前が載るにも関らず本篇クレジットではオミットされるリチャードTHは、ゲストハウスの物件を吉岡に紹介する不動産屋。何処の何物なのか一欠片も判らないが、モジャモジャで馬面の白人。適当な沖縄弁で当初は単なるコミック・リリーフかと思はせた和田光沙は、吉岡が一人で入る石垣島のスナックのママ・明恵。奥の布団を敷いた間に、吉岡をザクザク連行する件が笑かせる。登場順を前後してエキストラの鎌田軍団は、マキの店で文学新人賞受賞の報を受けた吉岡に、カメラを向ける報道部か。例によつて店の中が暗くて見えはしなかつたともいへ、井尻鯛(=江尻大/a.k.a.AJD)は声で気付いてゐないといけないところだ、不覚を取つた。
 昨今、何でだか山内大輔推しの強いPGピンク大賞で、終に大蔵初上陸を果たした城定秀夫をも押さへ事実上二位の優秀作品賞を受賞した、山内大輔2015年第二作。因みに一等賞の最優秀作品賞は、今やすつかり沙汰を聞かないOP PICTURES+としても公開された前作「痴漢電車 悶絶!裏夢いぢり」(主演:朝倉ことみ・川瀬陽太)。十八番の残虐描写とバッド・テイストの封印、塩山温泉なり伊豆どころかまさかよもやの大敢行石垣島ロケ。二つのサプライズが騒がしい外堀に囲まれた本丸は、静かで美しい夫婦愛の物語。といつて、鬼畜変態で鳴らしたエロ作家が、若くて美人でおまけに絵に描いたやうに甲斐甲斐しい妻に支へられ、文芸一般作で功を成す。といふと主体をハーレクイン好きのオールドミスからオタク男に置き換へただけで、いはゆる白馬に乗つた王子様が迎へに来て呉れる類と与太レベルの変らない、所詮は惰弱な夢想じみてどうにもマッタリとした居心地の悪さにモジモジしてしまふのを禁じ得ないのは、下衆を拗らせた小生の心性が、変形性腰椎症を患ふ背骨よりも歪み抜いてゐるゆゑにさうゐないさうゐない。
 邪気はあれども他愛ない憎まれ口はさて措き、吉岡のモノローグにヒントが隠されてあるらしいが、ラストの二転目は突いた藪から出て来た蛇の足程度にしか思へず、卑しいばかりか愚生にはピンとは来なかつた。但し、奇矯な飛び道具と思はせた三番手投入から、九十度舵を切つてみせる最初の大転換は、いはずもがなをいふやうだが、今作が三人目の女優の処遇が地味に雌雄に影響を及ぼさなくもない、ピンク映画であることを踏まへるならばなほさら素晴らしい。戦ぐ風にも恵まれた鮮烈なロケーションの中、川瀬陽太が喪はれた者への想ひを叫ぶロングのエモーションも、確かにピンク離れした決定力を轟かせてゐる。尤も、元々の出発点が都合のいい浪花節で着地点も些か釈然としないとなると、未だ九州には着弾してゐない城定秀夫のオーピー初陣が仮にセカンドバージン級の一作であつた場合、「悶絶!裏夢いぢり」にせよ「情炎の島」にせよ、別に城定秀夫の敵ではないやうな気しかしないといふのが、最も直截な感想である。

 改めて話を戻すと真木今日子・和田光沙・森羅万象の真の配役、島に“戻る”点を窺ふに果たして実際に事故が起きたのは内地なのか石垣なのか。そもそも、新人賞を受賞した、だからこそその金でリチャードTHから物件を買へた筈の『情炎の島』稿が、書きかけの如くPCの脇に。等々とレス・ザン・ゼロな知恵を如何に巡らせたところで、どうにも―劇中―ノンフィクションとフィクションの境目が何処にあるのかが判らない。

 以下は小倉で再見しての付記< 鎌田軍団は鎌田一利や周磨要ら、御馴染の面々。井尻鯛の顔も、全体的なクリアさ―とスクリーン自体の大きさ―は前田有楽に劣るものの、暗い場面は全然よく見える小倉名画座のプロジェクターでは見えた。それと、どんでん二転目の切り口は、再見しても判らなんだ
 備忘録< 受賞祝の御頭つきを魚屋に取りに行く帰りに、ミチルは交通事故死。ユタであつた明恵の手引きで、吉岡はミチルと再会する   >実際に死んでゐたのは吉岡>>真木今日子・和田光沙・森羅万象は医療部


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