真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



和風旅館 若女将の赤襦袢」(1998/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:夏季忍/企画:稲山悌二[エクセスフィルム]/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/ヘヤーメイク:川辺久美子/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学[株]/出演:柿沼ゆう子・林由美香・杉原みさお・樹かず・田嶋謙一・久須美欽一)。出演者中田嶋謙一が、ポスターには田島謙一。脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。
 赤襦袢の畳紙を解き、「母さん、私は今夜、母さんの形見のこの赤い襦袢を着てあの人に抱かれます」、ヒロインが亡き母に報告だか宣言してタイトル・イン。久須美欽一の入念な舌戯が延々と火を噴く、亡母から温泉旅館「梅田屋」を継いだ若女将の叶涼子(柿沼)と、建設会社社長・岩田時三(久須美)の一戦。は後背位手マンの途中で一旦切り上げて、そこかしこにダム建設反対のビラが貼り散らかされる群馬の何処かの山町。涼子が梅田屋の板前・桜井清次(樹)と、母の墓を参る。先代大女将が死んで三年、は兎も角。梅田屋が存する一帯は、五年後にはダムの底に沈む計画が予定だか決定。桜井には今のうちにな好条件の転職を勧めつつ、涼子は最後まで梅田屋を守り抜く負け戦の腹を固めてゐた。
 配役残り林由美香は、落ち合ふ約束を反故にしたどうせ不倫相手辺り・哲夫(名前しか登場せず)にスーサイドする旨を匂はせる書き置きを残し、梅田屋から姿を消す野瀬珠子。涼子に報され、旅館のライトバンで慌てて山に飛び込んだ桜井が、身を投げようとしてゐた珠子をすんでで保護してからの一幕。気を失つた珠子をバンに運び込んだ桜井は、派手に肌蹴た裾から覗く太股とパンティにポップな生唾。を呑むまではいいとして、脊髄反射で手を出してんぢやねえよ。しつかり指挿れてんぢやねえよ、それから―バンの―ドアもきちんと閉めてんぢやねえよ、挙句ハモニカ吹いてんぢやねえよと、大草原広がるツッコミ処連打の一幕は、エロいといふよりも寧ろ清々しく可笑しい。田嶋謙一と杉原みさおは、ダム建設の地元の下請業者・山辺と、山辺懇意のパニオン・マリリン。ところで下請が山辺なら元請はといふと、それが大学時代、山岳部の合宿で当時は涼子の母・菊江(柿沼ゆう子の二役)が女将の梅田屋に宿泊した思ひ出もある岩田。町に入つた岩田は、涼子に菊江の面影を見る。もう三人、男三人が浸かる露天風呂を引きで抜く繋ぎの画、新田栄と加藤義一までは辛うじて判るけれど、もう一人は素性自体が謎の北村隆?
 岩田が涼子に菊江の面影を見て、ダイレクトに突入する回想パート。岩田が菊江の赤襦袢の中に上手いこと完全に潜り込んで、男優の姿は消したまゝ正常位に喜悦する女の裸だけを見せる斬新な絡みには感心させられた、新田栄1998年第六作。回想パートに引き続き、怪我の功名でデキた珠子と桜井が布団部屋にて致すのと、岩田が山辺からマリリンを宛がはれる件とが並走。林由美香V.S.樹かず戦では凝つた構図が目を引き、杉原みさおV.S.久須りん戦に於いては、臍酒ワカメ酒と畳みかけ「さ、今度は私のも頼むよ」と王道の切り返しで尺八を軽く吹かせた上で、机越しの後背位へと連なる流麗な展開が光る。一方、お話的には哲夫との希望駆け落ちに際し全てを捨てて来たゆゑ、岩田屋に転がり込んだ珠子と桜井とが、岩田屋を見切る見切らないのドラマを取つてつけた程度に開陳し、岩田屋は存亡の危機を、一つでも大概な超展開を二つ―大体公共事業が、一土建屋風情のその場の一存で引つ繰り返るものか―重ねて回避する。地味に完成度の高い濡れ場の合間合間を、霞の如き物語で埋めた一作と思へば、新田温泉映画のそれはそれで案外水準の高い佳篇と、首を縦に振つて振れなくもない。ところでは、あつたのだけれど。周囲の反対を押し切り私生児として涼子を産んだ菊江が、生前父親は岩田だと娘に言ひ残したのと、岩田はその他大勢と一緒に憧れてゐただけであると全否定する間に横たはる、看過能はざる齟齬が最後まで整理されずに残る。兎にも角にも、確かに岩田は菊江を抱いてゐた回想パートが邪魔なのだ。あれはリコレクションではなく実は単なるイマジンに過ぎないとする一手間を設けて呉れないでは、開巻がクライマックスで復活する涼子と岩田の情事が、禁忌が余計な枝葉の近親相姦になつてしまふ。立ち退きに抵抗する梅田屋へのカウンターにと、山辺は料理に陰毛が入つてゐたと難癖をつけ涼子を手篭めにする。方便のへべれけさに関しては主演女優の裸に免じてさて措くにせよ、事後庇ひ立てして貰つた風に涼子を気遣ひ涙を落とす珠子の姿を見てゐると、恐らく切つたものかと推定される珠子が山辺に配膳したカットでもないでは、犯されたのは涼子なのに、珠子が泣く意味が判らない。締めの濡れ場を完遂したドンピシャのタイミングで、“終”が叩き込まれるラストが完璧なだけに、なほ一層そこかしこに開いた大穴小穴が目立ちもするのは勿体ない。


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