真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「性春リバーサイド ふたりでイかう」(2017/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影監督:清水正二/撮影:海津真也/録音:小林徹哉/編集:山内大輔/音楽:大場一魅/効果・整音:AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:松井理子・泉正太郎・八巻友也/撮影助手:島大和/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎・だいさく/協力:高円寺 馬力/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:佐山愛・佳苗るか・由紀恵・沢村麻耶・松井理子・川越ゆい《特別出演》・細川佳央・橘秀樹・山ノ手ぐり子・竹本泰志《トランペット演奏》・井尻鯛・太三)。出演者中、川越ゆいと竹本泰志の諸々特記と、山ノ手ぐり子・井尻鯛・太三は本篇クレジットのみ。
 千葉駅を皮切りに千葉ショットをつらつら連ね、松井理子と川越ゆいの間に橘秀樹・細川佳央の順で入り残りは端折る俳優部と、池島ゆたかのみ一旦クレジットしておいてタイトル・イン。契約社員プログラマーの遠藤マコト(橘)と、劇団員の佐々木レイジ(細川)は高校卒業後十年を経た今なほ、日曜日になるとマッ缶ことマックスコーヒーを飲みながら、互ひの近況なり昔話なりをダベる仲。ところで、あるいはとはいへ。それが週毎のならはしである旨が語られるのは結構終盤に差しかゝつてからにつき、各々のエピソードを通過する度に、気がつくと川辺の二人の扮装がコロコロ変つてゐる点には一旦躓かざるを得ない。全体何年、何本商業映画を撮つてゐるのか。
 兎も角、待ち合はせに遅れたレイジお詫びのマッ缶を二人で開けて、章立てする意義も特段感じられない第1話タイトル「こんな、ふたり」が改めてイン。ところで既視感も覚えた「こんな、ふたり」といふのは、池島ゆたか1998年第一作、ENK配給薔薇族の公開題。大絶賛フリーターでもあるレイジの、クソみたいな単発バイト天国と地獄トークを話の枕に、高校時代より実に十一年交際の続く彼女・有岡しおり(佐山)に対し飽きて来ただのと、腐れマコトの贅沢極まりない不満と、レイジが教へ子の童貞喰ひで名を馳せる、英語のミサキ先生(沢村)に筆卸して貰つてゐた告白が、脊髄で折り返してデパルマの名前が浮かんで来る分割画面を駆使した上で連結される。デジタルだとかういふ作業も簡便になつたのね、と付き合ひの悪い感想にも落ち着きかけつつ、一枚のスクリーンに幾らでも、如何様にも乳尻を載せられるのは新時代の確かなプログレス。ハモニカのクローズアップと、喘ぐ佐山愛のバストショットとを並べた画面には感動した。佐山愛が女子高生には到底見えねえ?橘秀樹のひとつ後輩にも見えないが、さういふ野暮は偉大なるオッパイに免じてさて措くべきだ。
 配役残り、厳密な登場順は佐山愛と沢村麻耶の間に入る太三は、二人の傍らに尋常ならざる面持ちで佇む待つてゐた男。山ノ手ぐり子は、何時までもプラプラする息子を生温かく見守るレイジ母。三つめの致命傷たる由紀恵は、マコト・レイジらの高校時代のマドンナ・奥沢ゆい、絡みの火蓋を切る尻の美しさは買へる。竹本泰志は、モノレールにゆいと乗るところをしおりに目撃され、マコトとレイジが邪推を膨らませる数学の井上先生。今作単体では画期的に木に竹を接ぐ、孤高のラッパー・EJDの役者名義である井尻鯛が待つてゐた男の下にやつて来た男。何もかも捨て駆け落ちする風情で、熱い抱擁を交す。元ネタを通つてゐれば腑に落ちるのか、似たやうなポジションが見当たるのか否かなんか知るか。井上がゆいに繰り出す四十九番目の体位「ヨシムラ」を通しての、藪から棒に飛び込んで来る吉村卓フィーチャーにも面喰はされる。但し、そこかしこのちぐはぐさにこそ、逆説的な作り手の体温が感じられなくもない。二番手にして要は体のいい裸要員に過ぎない佳苗るかは、しおりに厭いたマコトが武勇伝を見るに確かにオトした、会社の若い派遣社員・アイカ。川越ゆいは役者志望の美樹で、予告に見られる刃傷沙汰は、馬力を借りての「小鳥の沐浴」稽古の一幕。贅沢にも女優部ここまで脱ぐ松井理子が、演出家兼役者の佳恵、レイジとは男女の関係も持つ。佳苗るかに話を戻すと、以後田中康文自身も消息を絶つ2014年第二作、「盗撮ファミリー 母娘ナマ中継」以来三年ぶりとなるピンク第三戦。花の命が、案外長い。
 ピンク版「セトウツミ」として評判を呼んだ、池島ゆたか2017年第一作。アクションも特撮も女の裸も見当たらない、一般映画を僕様が観てゐる訳がない、そもそも割くリソースを持ち合はせないものぐさなんぞ、この期にいふまでもあるまい。さあて、開き直つておいて。徹頭徹尾自堕落なマコトと、安いウェイさがより甚だしいレイジ。感情移入に激しく難い主役二人と、所詮垢抜けない池島ゆたかの演出とでは、今時の青春映画が形にも画にもならず、何となくそれぞれの活路が拓ける怠惰な顛末も退屈なばかり。マコトとレイジの粗雑な造形に加へ、精々稲葉良子の若い頃程度にしか見えないガイコツ系の由紀恵が、挙句リケジョな高根の花といふのも根本的なミスキャスト。ビリング前二人とのパワーバランスが、崩壊する以前に成立すらしてゐない。ビリング前二人といふと、一応彼女一筋のマコトに対し、情事、もとい常時二三人の女を欠かさないレイジ。とかいふ図式に、展開上なつてはゐるものの。兎にも角にもしおり一人で既に絶対勝者たるマコトがアイカをも攻略してしまつては、より直截にはマコトが佐山愛と佳苗るかと絡んだとなると、せめて物語的にゆいでも誑かさないでは、直截過ぎて申し訳ないがレイジが劇中沢村麻耶と松井理子としか絡んでゐない以上、ヤリチン対照、ないしは優位がピンク映画的に尚一層欠片の説得力も持ち合はせない。千葉の半端さを自嘲する返す刀で、東京二十三区外や埼玉を斬つて捨てる掛け合ひも清々しいほどに陳腐で呆れるほかならず。短い松井理子はボーナス・トラック程度にせよ何れも極めて高水準な四本柱の濡れ場は見事なだけに、「セトウツミ」に触発され川辺と濡れ場を繋げて一本出来上がり、と妙案を思ひついたつもりなのかも知れないが、雑な一太刀で片付けると、斯くも映画が邪魔なピンクも珍しい。


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