真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「股間の純真 ポロリとつながる」(2017/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:吉行由実/撮影:藍河兼一/録音:光地拓郎/音楽:柿崎圭祐/編集:中野貴雄/助監督:江尻大/整音:西山秀明/効果:うみねこ音響/グラフィック:竹内雅乃/タイトル:佐藤京介/監督助手:八巻太郎/撮影助手:柳田純一・赤羽一真/スチール:本田あきら/ロゴ:小田歩/ポストプロダクション:スノビッシュプロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:あゆな虹恋、可児正光、相澤ゆりな、しじみ、柳東史、竹本泰志、倖田李梨、吉行由実、白石雅彦、小田歩、井尻鯛、シャルロット、エドアルド・フェラーダ、樹カズ)。出演者中、白石雅彦から井尻鯛までは本篇クレジットのみ。アルファベットが並ぶ協力を、手も足も出せずにロストする。
 何故かエンブレムに馬に跨る伊達政宗のシルエットをあつらへた、オフィス吉行三代目カンパニー・ロゴ御披露目。伊達政宗なのは吉行由実の東北出身人選にしても、そもそも何でまた戦国武将なんだろ?何処ぞの姫君ならばまだしも。
 ザラッとした処理を軽く加へられた開巻、幼少期空手大会少年の部で優勝した記念のスナップ(丸々とした男の子が誰なのかは不明)も飾られる玄関口で、完ッ全に女の子の姿で現れた中原ひかる(あゆな)に対し、父の武(竹本)は困惑でひとまづ立ち止まる一方、母・久美子(吉行)は脊髄で折り返した拒否反応を示し、ex.一人息子をヒステリックに追ひ返す。とぼ暮れた帰り道、ひかるはチンピラ二人組(小田歩と、もう一人は演出部?)にボコられてゐた桂木玲二(可児)を、初段の空手で撃退。のちにもう一幕なくもないアクションに関しては、お察しの方向で。忽ちいい雰囲気になつたひかると玲二は、そのまゝホテルに。順当に上から攻めた玲二が、ひかるのパンティの中、未だ落としてゐないひかるに立ち止まるシークエンスが秀逸。そこで超絶のタイミングでタイトルかと思ひきや、ここが劇中最大の飛躍なのだが、玲二は特段意にも介さず続行。事後改めてキスを交して、キラッキラのタイトル・イン。五年後、ゲイのジョージ(柳)が店主の飲食店で働くひかると、ホワイトカラーの玲二は結婚を決める。ひかるのbookもといFace noteでそのことを知つた、玲二の母親を名乗る藤野真紀(倖田)からのリプライが着弾。施設育ちの玲二が唯一持つてゐた母親の中学時代の写真と、真紀は同じ女であつた。
 配役残りシャルロットとかいふ割に多分東洋人のシャルロットとエドアルド・フェラーダは、ジョージの店の常連客でひかるとは友人のアキと、アキの新しい彼氏・エド。よくよく見てみると背景の店に似顔絵が飾つてあるゆゑ、エドアルド・フェラーダはロケ先のオーナーか何かなのかも。ハモニカとアコギで武装した樹カズは、店に出入りするジョージのパートナー・健吾。占師である真紀の、背中しか見せない客要員は流石に判らん。しじみは中原物産婿養子社長である武の秘書兼、久美子と別居後は家に転がり込む仲の愛子。ププッピドゥなウィッグは正直木に竹を接ぐ相澤ゆりなは、玲二の元カノ・恵。白石雅彦は、飲みには付き合つて呉れた恵に、ホテル行きを強要する中年男、その場に通りがかつたひかるにノサれる。そしてa.k.a.EJDの井尻鯛が、二人の結婚お祝ひ動画に顔を並べる、ひかるの幼馴染・大木淳一。
 白馬に乗つた王子様の出現を待ち望むお姫様気触れ、ではなく、本格的な性同一性障害の人物をヒロインに据ゑた、吉行由実2017年第一作。玲二が触れるひかるが特に隠しもしない持ち物に、性転換手術の資料も登場する。といつて、何だかんだ議論の種となるなり何やかや生臭い、アクチュアルな部分を今回吉行由実はある意味潔くスッポリ等閑視。ピンクの安普請上不可避の制約も含めてか、ひかるが男児、ないしは少年時代に体験した苦悩もしくは軋轢は綺麗に通り過ぎ、個々人の呑む呑み難いは兎も角、何時の間にか同性婚が認められた仮想日本を舞台に、全てのセクシャリティがある程度当たり前に共存する一種のファンタジーとして物語は進行する。その上で、一にも二にも特筆すべきは、普通にラッブラブでキュートなあゆな虹恋、即効性の肉感を爆裂させながら笑ひ処も撃ち込んで来る相澤ゆりな、しつとりとした情感を正攻法で撃ち抜くしじみと、三本柱三様の見事な濡れ場の描き分けが何はともあれ素晴らしい。とりわけ、相澤ゆりなを後背位で突く樹カズの、更に背後から柳東史がヤナーギーと大登場するショットは天才の仕事だと感動した。無論、連ケツする。体調不良を装ひ自宅に連れ込んだ玲二が、会社に一本電話を入れてゐる隙に恵は服を脱ぐ。振り返つた玲二がうは・・・・と項垂れるノリツッコミ風のカットを加速する、恵の「汗かいちやつた」なる底の抜けた方便には今上御大かよ!と草も生やしかけつつ、対照的に、社長から最終的には武さんへと呼称が変る、丁寧に台詞を積み重ねる愛子と武の絡みの導入は至芸。お話的にも、中原家に勝るとも劣らない複雑かナーバスな、畳み損ねた場合藪蛇の誹りも免れ得まい玲二と真紀の関係に序盤で思ひのほか綺麗に片を付けると、中盤は飛び込んで来た煽情的な小悪魔が王道の三角展開を堂々と牽引。甘美なる女子トークピンクの奇跡の再来は今回も不発であつたものの、命名の妙も冴えるのか、愛子が狂気とスレッスレのドロついた情感、即ち日本語本来の愛を果たせはせずも苛烈に放つ終盤は、二段構へで温かく爽やかなラストへと軟着陸する。杓子定規にテーマ性に拘泥するならば物足りなさを誤認しかけないのかも知れないが、穴は何で恵がひかるの戸籍上の性別を知つてゐるのかといふ疑問―真紀の場合は、手相を見るのに手を取つた際察したにさうゐない―が語られない点と、不仲につき仕方もないにせよ、中原家夫婦生活の不在くらゐしか見当たらない、何気に完璧な一作。二人して大体常時何かを食べてゐる様も微笑ましい、ひかると玲二が銘々抱へる家族の問題込みの、ウェルメイドな波乱万丈を乗り越えハッピーエンドに辿り着く様にホッコリするにせよ、柳東史のヤナーギーに腹を抱へるにせよ、結局一番脳裏に焼きついてゐるのは相澤ゆりなのオッパイにせよ。観終つたあと心豊かに家路に着かせる、良質の量産型娯楽映画。寧ろ初めからそのセンに狙ひを定めての、アクチュアリティ等閑視が戦略的放棄であつたとしたら吉行由実の画期的大勝利となるのではなからうか。


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