真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「菊池エリ 熟女の時間で・・・イッて!」(1993『巨乳熟女 本番仕込み』の2010年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:橋口卓明/脚本:切通理作/撮影:下元哲/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/撮影助手:小山田勝治・釣崎清隆/照明助手:広瀬寛巳/監督助手:北本剛/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/タイトルハセガワ・プロ/出演:菊池エリ・伊藤清美・井上あんり・伊藤猛・山口健三・中川あきら)。
 朝つぱらにしては随分とフルスロットルな夫婦生活を経て、山本エリ(菊池)は一週間後ルクセンブルグ空港での再会を約し、夫・大介(中川)を海外出張へと送り出す。かと思ふと、それまで長閑であつた劇伴がラウドに転調、スケ番感覚のどぎついメイクに、ゴッテゴテした無闇な装飾品。そして破廉恥なボディコンと、今世紀にあつては最早ギャグとしてしか成立し得ないやうな武装を纏ひ、エリは俄に出撃する。杉村慎吾(山口)が部下達(男三人女一人、全員不明)にハッパをかける営業会議の席上に乱入したエリは、火遊びの対価を正当に支払はないとかいふ根も葉もない難癖を投げつけ、杉村の顔に泥を塗る。実はそれは、エリにとつては親友であり、杉村にセクハラされた池田京子(井上)から依頼された一種の復讐劇であつた。渡欧する前にもう一仕事をと、京子はエリに持ちかける。広告会社「《有》水島コーポレーション」を経営する夫・水島敏夫(伊藤猛)の女癖の悪さに、エリ高校時代のテニス部先輩・かおり(伊藤清美)は悩んでゐた。一晩の過ちを偽装して、水島を懲らしめて欲しいといふのである。ところで、純然たる枝葉ながら今作のさりげなく殺傷力の高い飛び道具として伊藤清美の、髪型としてはキュートな筈のボブカットに戦慄する。話を戻して、広告用のカレンダーモデルを探す水島に、エリは接近することに成功する。夜の街を二人並んで歩きながら、「君のヌード写真が欲しい」、「昔に撮つたのならあるはよ」、「野暮をいはせんなよ・・・」だなどと、観てゐるこつちが小恥づかしいむず痒くなるやうな遣り取りを交しつつ、エリは水島とホテルへ。ところが事前に京子から渡された即効性があるとの睡眠薬が全く効かず、結局エリは水島と丸々一戦交へる羽目に。
 橋口卓明も切通理作もともに、未だ“新進”と称されるのが適当であらう時期の作品にしては、限りなくルーチンに近い、まあ才気の感じられない物語ではある。起承転結の後半部分を支配する、エリもかおりも関知しないところで独走する京子の策略も、説明原理が正体不明であるのに加へ初めから仔細を明かしてしまつてゐるので、たとへばサスペンスとしても全く成立し得ない。グダグダした―とでもしかいひやうのない―展開の末のクライマックス、再び水島と事に及ぶに際してエリは、「アタシ、自分の気持ちに正直にならうと思ふの」、「恋になる前に、浮気がしてみたかつた」。凝つた―つもりの―決め台詞が活きて来るだけの積み重ねがまるで見当たらない中では、決まらない単なる頓珍漢に過ぎまい。開巻早々に退場したきりの、大介の案山子ぶりを改めて想起するに至つては、止め処なく流れよ、我が涙といふ次第である。尤も、公開当時三十路前の菊池エリを2010年視点から振り返る、ルネッサンスは十二分に木戸銭の元を取れるだけの威力を有してゐる。八十年代の残滓を引き摺る時代風俗的には少々苦しいが、エモーションの焦点を意図的に菊池エリに絞れば、意外と乗り切れぬでもない。顎の形に特徴があるものの、井上あんりもなかなか綺麗なボディ・ラインをしてゐる。としたところ、この方既に泉下にをられるやうだ、合掌。

 以下は再見に際しての付記< 杉村部下の内、名指しされる榎本は榎本敏郎で、国分は恐らく国分章弘


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