真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「デコトラ☆ギャル奈美」(2008/製作:GPミュージアムソフト/監督・脚本:城定秀夫/製作:山田浩貴/プロデューサー:西健二郎・久保和明/撮影・照明:田宮健彦/音楽:タルイタカヨシ《マサイスタジオ》/編集:城定秀夫/録音:小林徹哉/制作担当:佐伯寛之/車輌コーディネイト:エイティ企画/ロケーションコーディネイト:稲葉凌一/演出助手:安達守・冨田大策/出演:吉沢明歩・今野梨乃・吉岡睦雄・松浦祐也・中村英児・なかみつせいじ・坂本裕一郎・森羅万象・福天・綱島渉・野上正義・ホリケン。・古崎菜名加《子役》・稲葉凌一、他多数)。あ痛たたた・・・・助監督を落とした。
 伝説のトラック乗りと謳はれた父・斉藤寅一郎(稲葉)からデコトラ「勇生丸」を受け継いだ女トラック・ドライバーの奈美(吉沢)は、ついでに亡父が遺した借金の為に、遮二無二働いてゐた。奈美には総じて余裕がなく、仁義を欠いた仕事の取り方をすることもあつたが、父親譲りの運転技術は確かだつた。けふも野上正義が大将の不味い食堂―これが実際に、料理が旨さうに見えない―で食事中、納期をコロッと忘れてゐた間抜けな同業者(中村)の荷を請け負はうとした奈美は、横暴なデコトラ・チーム「ベアーズ」のキャプテン(森羅)から挑戦を受ける。ベアーズ構成員(福天と綱島渉)の姑息な妨害工作もデコトラ「爆心丸」を駆る仲間の菊雄(吉岡)のアシストで振り切りつつ、奈美はキャプテンに勝利する。ベアーズのユニフォームでもある黄色いTシャツに革ベスト、頭にはテンガロンなどといふカッチョいいファッションに加へ、まるでトラック野郎当時の空気をそのままこの時代に持ち込むかのやうな、森羅万象のいはゆる“イイ顔”が圧倒的に素晴らしい。ここまでで松浦祐也は、事実上中村英児とコンビを組む格好の矢張りお調子者担当。寅一郎(虎一郎かも?)から生前娘のことを託されたとかいふ菊雄は何かと奈美に付き纏ふが、勿論それ以上の思惑もあらうことに、男勝りの奈美は全く気付かずに煙たがるばかりであつた。ある夜、トラッカー専門のパン女・桃香(今野)が、松浦祐也から金を稼ぎ損ねたことに続き、女が運転するトラックとは知らず勇生丸に忍び込んで来る。何やら病気持ちらしい桃香が倒れてしまふ一騒動も経た翌日、勇生丸に助手として同乗し働きたいだとか言ひ出した桃香を、当然奈美は摘み出す。ところが走つて車を追ひ駆けて来た桃香は、決死の状況下で必死に訴へる。実はミチ(古崎)といふ娘が居るが、自分がいい加減な為親権を奪はれてしまつた。真面目に働いて生活を立て直し、娘を取り戻したいのだと。激情にも似た気迫に打たれ、奈美は桃香を勇生丸に乗せることにする。
 ホリケン。は、矢鱈と奈美らを目の敵にする戯画的な警察官。個人的に、この人のことを初めて観たのは杉浦昭嘉の「人妻催眠 濡れつぼみ」(2001/ホリケン名義)に於いてであつたが、昨今ホリケン。は十年の内に二、三十年分は逆ウラシマ効果したかのやうな、加速の効いた味はひ深い年の取り方をしてゐるやうに見受ける。それはそれとして、どうでもよかないのがポップな語弊につき後に句点を付け足したとのことだが、事情の如何を問はず、かういふ徒に文章を乱す悪弊は早く消えて無くなつて欲しい。なかみつせいじと坂本裕一郎は、ガミさんの店で食はされた腐つた〆鯖がアタり二人揃つて悶絶してゐる―糞尿ネタかよ(*´∀`*)―隙に、取引したばかりのヤクを間違つて桃香に奈美のトラックに積め込まれてしまひ、慌てて二人を追ふブルース・ブラザーズのやうなヤクザ二人組。
 全体的な構成は、決して堅牢といへる訳ではない。各々のエピソードは断片的で、それらが重層的に絡み合ふことはほぼない。強大にして凶悪なラスボスとの最終決戦、窮地に立たされた奈美を救ふべく、ベアーズの面々や松浦祐也・中村英児らが、己が身も顧ず駆けつけるといつたやうな、トラック集団大爆走を最大の山場に持つて来る王道構成も、バジェット上いつても詮ないことではあるが、取れよう筈もない。代つて今作城定秀夫がロック・オンするのは、桃香の、儚い生涯。詰まるところは馬鹿な女が自分の体を大切にしない馬鹿な生き方をした挙句、虫ケラのやうに死んで行つた。たつたそれだけの、“よくある話”でしかないといつてしまへば実も蓋もなくそれまででもあらう。とはいへ桃香が奈美のデコトラに追ひ縋り、自身の窮状と、今度こそといふラスト・チャンスに賭ける決意とを叫ぶ場面。実は最終的には何処までも頼りない発声が最大の弱点である吉沢明歩よりも、余程強い芝居を見せる今野梨乃の姿には、奈美が考へを変へさせられるのと全く同時に、観る者も心を打たれよう。そして今野梨乃も素晴らしいが、本職ではなくAV女優(兼ストリッパーらしい)からこれだけのものを引き出し得た、城定秀夫の吸引力にも痺れさせられる。そして即物的には粒の小さなクライマックスにあつては、デコトラといふ器自体をも効果的に活かした、たとへそれが安普請に過ぎないとしてもなほかつ超絶に美しい奇跡が、観客を滂沱の涙で出来上がつた大海原に叩き込む。一直線に「トラック野郎」を求めるならばメロウに過ぎるのかも知れないが、一撃必殺のエモーションが火を噴く、正しく心洗はれる一作である。

 ミチの所在を求め奈美や菊雄が奔走する中、一人真実を知るのが野上正義であるといふ配役上の力学も、渋く唸る。


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