真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「真昼の不倫妻 ~美女の快楽~」(2003/製作・配給:新東宝映画/監督:橋口卓明/企画・脚本:福俵満/撮影:中尾正人/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:笹木賢光・江連頼久/撮影助手:田宮健彦/録音:シネキャビン/メイク:YOU/現像:東映ラボ・テック/出演:岡崎美女・林由美香・酒井あずさ・新納敏正・江端英久・本多菊次朗・稲葉凌一・伊藤猛)。シネキャの次にスチール:元永斉
 ♪ジリリリーン(こんな受話音ぢやなかつたかな?)、「はい、信頼と実績の愛情調査、園部興信事務所です」。伊藤猛演ずる、腕は立つが現実世界とは上手くリンクしきれてゐない、浮気調査が専門の私立探偵・園部亜門を主人公とした連作の第四弾。園部亜門シリーズは第一作「人妻家政婦 情事のあへぎ」(2000)以来、「人妻浮気調査 主人では満足できない」(2001)、「探偵物語 甘く淫らな罪」(2002)とちやうど年に一本づつ製作されて来た。伊藤猛主演の“探偵物語”と来れば俄然期待させられずにをれないところが、その実は詰めの甘い脚本―第一作と今作は新東宝の社員プロデューサー・福俵満、第二作は武田浩介、第三作は五代暁子―と脇の甘い演出―監督は通して橋口卓明―とによつて、何時も何時も大きな魚を獲り逃がしてはピンクスを歯噛みさせて来たシリーズではある。
 相も変らず亜門には、まるで働かうとする気はない。付かず離れず、上から下まで何かと世話になつてゐるホステスの宮前晶子(工藤翔子、ではなく酒井あずさ)に、家賃を無心するのもそろそろ限界だ。かゝつて来た電話に亜門は全く出るつもりもないのに、晶子が勝手に受話器を取つてしまつたゆゑ、久々に仕事を引き受ける羽目になる。例によつての浮気調査の依頼主は、青龍興行会長の青柳隆一(新納)。強引な遣り口でここ数年のうちに俄かに頂点にまで上り詰めた、いはゆる闇金の帝王である。新婚旅行中の交通事故により、体の自由と男性機能とを喪つてゐた。妻の由紀子(岡崎)が浮気をしてゐるのでは、といふのである。
 脚本・演出、そして後述する名脇役の交代劇以前に、今作の敗因はビリング頭の岡崎美女(おかざきみお)。当時の人気AV女優らしいが、ルックスは兎も角まあお芝居の覚束ないこと覚束ないこと。黙つて歩かせただけで既にどうにもぎこちない、といへばどれほどの代物であるか凡そ御理解頂けようか。演技力の全く心許ない岡崎美女と、佇まひはパーフェクトでも滑舌はグダグダの伊藤猛との遣り取りともなると、最早映画は目も当てられないまでの惨状を呈する。そこから先も大きな破綻さへ見当たらない反面全く特筆すべき点にも欠く脚本、例によつて肝心要を一向に締められない作劇の致命的な緩み、そして残された唯一の頼みの綱、亜門と主演女優の絡み―濡れ場に限らず―の雰囲気すらもが些か機能不全とあつては、最早万事休す。結局一作も満足な結果を残せなかつた園部亜門シリーズは、今作以降新たに作られてはゐない。いつそのこと、監督を替へて新たに仕切り直してみるのもアリかと思ふのだが如何に。深町章ではまた違ふやうな気もするので、無難に池島ゆたか。何故かエクセスに行つてしまつた神野太を呼び戻すか、国映勢は纏めて論外とすると・・・あれ、さうなるともう佐藤吏くらゐしか残らないのか?新東宝も意外と人材難なのかも。的場ちせ(浜野佐知)に撮らせて完全に換骨奪胎してみる解体再構築するといふのも、個人的には上等といふのは、純然たる放言である。
 配役残り林由美香は由紀子の追跡中に亜門が知り合ふ、女タクシードライバー・寛子。一仕事終へて髪を解くカットなどは素晴らしいのだが、亜門・晶子に割り込んだ三角関係は取つてつけた薮蛇感が流石に否めなくはない。江端英久は隆一の異母弟・三島達朗。本来は、達朗が本妻との間の息子で隆一は妾の子である。隆一は隆一で妾の子といふ出自を発条に闇金の世界で遮二無二のし上がり、達朗は達朗で嫡子でありながら庶子の下に甘んじてゐる現状に、内心忸怩たる思ひを抱へてゐる。稲葉凌一は青龍興行の若い衆・大代辰巳、本多菊次朗は由紀子の浮気相手・武井忠司。
 一旦由紀子は姿を消す。別件で亜門がラブホの前で張り込んでゐたところ、由紀子が中から出て来る。慌てて亜門が遅れて出て来た男を押さへると、今はデリヘルをしてゐるといふ由紀子の客だつた。その由紀子の客役が多分城定秀夫で、違ふかも知れない   >なら書くな
 “名脇役の交代劇”とは、三作目までは晶子役は工藤翔子が通して演じてゐた。酒井あずさも十二分に達者で工藤翔子と比べても全く遜色はないが、シリーズもの的な定番感が矢張り損なはれるのは否み難い。

 後日付記< “何故かエクセスに行つてしまつた”と神野太について書いたが、よくよく調べてみると、元々デビューはエクセスであつた。「若奥様不倫 わいせつ名器」(1991/脚本:深沢正樹/当然?未見)。

 付記付記< デリヘル時由紀子の客役は城定秀夫ではなく、地味に結構瓜二つの佐藤吏。城定秀夫とは戦友の樫原辰郎も見紛ふくらゐなので、我々が混乱しても最早仕方がないとでもいふことに。


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